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原作・ドラマ問わず、スワンを溺愛。
桜宮サーガは単行本は基本読了済。
連載・短編はかなり怪しい。
眼鏡・白衣・変人は萌えの3種の神器。
雪国在住。大型犬と炭水化物が好き。
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「天城先生!天城先生……!!」
夢の中で僕は叫んでいた。苦しくて切なくておかしくなりそうで、ぼんやりと目を開けても、暫く自分がどこに居るのか分からなかった。
「世良先生、大丈夫ですか?」
心配そうな今中先生の声にはっとする。病院長室のソファの上。何時の間にか、うつらうつらと眠っていたらしい。作業途中の書類が散らばっていた。
極北市民病院に来て半年。膨大な赤字の中、嵐のような改革に着手し、その再建方法を巡ってマスコミと衝突し、今や、四面楚歌、本人の希望も考慮しつつ、渦中から逃れさせたはずの今中先生が帰ってきて半月ほどのことだった。
正直、戸惑いはある。彼はこの状態も、今の待遇も不満に思っていたはずだったし、帰ってきてからも、相変わらずの状態にやはり腑に落ちないものを抱えているようだ。なのに――
「本当に、私は必要ないんですか?」
嫌われても構わないと思っていた。あの人を失ったとき、自分は一度死んだのだ。もう二度と、あんな風に誰かと居ることなど出来ないと――
そんなことを取り留めなく考えていたら、何故か突然、涙が零れた。
夢の余韻がまだ頭の片隅に残っている。何も思い出せないのに、心が震える。――嫌だ、嫌だ……っ。
まるで子供が駄々をこねるみたいに、心が悲鳴を上げる。
「世良先生?」
どうしてだろう。こちらを見ていた今中先生と目が合う。不意に、もうあの人は居ないのだという実感が湧いて震えた。疾うの昔に捨てたはずの感情が、夢の余韻に引きずられて揺さぶられる。
――行かないで……っ!
気が付いたら、今中先生に抱きついていた。
そうしないと自分すら見失ってしまいそうで。
「先……生……?」
戸惑ったような今中先生の声。
分かってる。困らせている。何でもない顔をしなくては。今中先生には関係のないこと。関わってはいけない。自分はまた何時居なくなるか、分からない人間なのだから――
「先生、どうかしたんですか?具合でも悪いんですか?それとも、また何かあったんですか?しっかりしてください、世良先生」
呼びかけてくれる言葉に、次第に落ち着きが戻ってくる。真面目で誠実。手放してもまた戻ってきてしまうような、愚直で要領の悪い外科医。大学病院を厄介払いされ、財政破綻後もこの病院にただ一人残り、そして、すっかり敵だらけになったこの病院に今も居る。
――馬鹿だなぁ、君は。
そうまでして必死になったって、僕がしてやれることなんてないのに。僕自身、明日の自分がどうなるかすら分からないのに。そんなに一生懸命声をかけたって、根こそぎ抜き取られた桜はもう戻らないのに――
「悪かった、寝ぼけてたようだ。失礼したね」
おどけた顔を作り、離れると、今中先生の困り果てたような顔が目に入った。
「あの、世良先生……」
「はい」
「もし、私が必要なら……」
僕は彼から目を背けた。きっと、心の底から、誠実に訴えているのだろう。その姿を見たいとは思わなかった。
「ありがとう」
その言葉で全てを遮る。同時に、ほんの少しだけ心の奥の柔らかい部分が疼いたのに、はっとする。かつて、天城先生を思う度に、呆れながら、口答えしながら、それでも、温かくなった部分もそこだったろうかと思い、次の瞬間、強くその気持ちに蓋をした。
――これは、既に桜の木が失われてしまった後の話。
前回の話と対の話。前回が予知夢で、今回が過去の夢。
一応、今中×世良ですが、実際にどうこうはなさそうな気がします。っていうか、推奨してる人、誰か他に居るのでしょうか?
でも、天ジュノ至上なりに、今中先生の存在が世良ちゃんを癒してくれたらいいなぁ、と思う訳ですよ。