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原作・ドラマ問わず、スワンを溺愛。
桜宮サーガは単行本は基本読了済。
連載・短編はかなり怪しい。
眼鏡・白衣・変人は萌えの3種の神器。
雪国在住。大型犬と炭水化物が好き。
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「おかしいなぁ、こっちのはずなんだけど……」
角田師長から、訪問看護先の患者の様子がおかしいと報告を受けてタクシーで病院を出、その近辺で下ろしてもらったはずなのだが、肝心の民家が見当たらない。
道を聞こうと取り出した携帯には、あっさり『圏外』の文字。
「全く、何で今中先生が居ないときに限って……」
医師のキャリアという意味では、自分より遥かに適任なはずの極北市民病院、ただ一人の部下は、現在、古巣である極北大付属病院にセミナーの為、出張中だ。普段は、二人で待機していても、殆んど患者を診察することなどないというのに、本当に間が悪いというか、何というか……。
世良は、何とか電波の入りそうなポイントを求めて歩いてみる。道は急斜面に差し掛かり、芽吹き始めたばかりの枝が控えめに世良の頭上を覆う。足元の舗装は直ぐに途切れ、砂利の感触が靴底を通して伝わってきた。
――これは……不味い、かも……。
明らかに山道に入りかけている。引き返して、先程の交差点を逆に行った方が良かったかと、ぐるりと辺りを見渡したとき――
鼻先を一片の花びらが掠めた。柔らかく薄く、そして、儚く淡いピンク色。思わず、その行方を追い、常緑樹の合間から顔を出す一房を見つけた。引き寄せられるように近づく。そして――
「これは……」
巨大な古木だった。微かなそよ風にすら、はらはらはらはらと花びらが散り続ける、今正に、満開の桜。それは、荘厳で幻想的で――桜に対しては、いまいち複雑な思いを抱いている世良が見ても、目を奪われるような景色だった。
不意に、突風が吹いた。
桜が舞い散る。世良に向かい、吹き付ける花びらの嵐。
『ジュノ……』
聞こえた懐かしい声。
揺さぶられる感情――
「天城先生……」
「『sera』はフランス語で『未来』を意味する」
ベッドの中で突然始まったフランス語講座に、世良は疲労した身体を転がしながら応じる。
「そうなんですか?」
「『~である』を意味する『etre』(エトール)の未来形が『sera』だ」
ふと、有名な慣用句を思い出した。
「『ケセラセラ』とかってヤツですか?」
天城は我が意を得たりと頷く。
「ウィ。『Que sera sera』――なるようになる、ということだ」
綺麗な発音が耳を打った。
「実際に、ジュノは私に未来を運んできただろう」
そう言って、大きな手で頭を撫でる。
たったそれだけで、この人に命を差し出す患者のように、心臓を鷲掴まれた気分になる。
「私のセラ」
「……???!」
ずかん、と血圧が上がった。何て殺し文句を、何て声で、何て顔で、この人は……!
「名前を呼んだだけだろう」
素っ気無い顔で、頬にキスするこの人が憎たらしい。
「からかわないで下さい!」
胸に手を当てて押し遣ったら、あっさりその手首を受け止められ、手の甲に口付けられる。
「からかっているものか。私の運命を握っているのは、ジュノだ。そして、私は、それを望んで受け入れた」
「天城先生……」
細く開いた視線が世良を捕らえる。
「受け入れたんだ、ジュノ」
繰り返す言葉が、深く刻み付けられる。
「どういう……ことですか……?」
――尋ねたとき、あの人は何て答えただろう?唇の端が微かに持ち上がって、曖昧な笑顔を形作る。次の瞬間、指の間に舌が触れ、思わず、悲鳴を上げて身を捩ったら、既に、天城先生に組み敷かれていて……。
「忘れてた……」
――ジュノは私に未来を運んできた。
――受け入れたんだ、ジュノ。
「天城……先生……」
まるで、この結末を知っていたように。
涙が溢れる。思いが籍を切る。
止まらない……。
気づくと、風は止んでいた。
肩についた花びらをそっと指先で摘む。
「居るんですね、今も……」
馬鹿みたいなことを言っているのは分かっている。失ったものは戻らないし、後悔は返らない。けれど、確かに感じる思いがあるのも事実――
「……僕は、前へ進みます」
そう呟き、指先の花びらをそっと虚空へと放った。
何度も言いますが、スリジエは未読です。
桜にはインスピレーションを刺激する何かがある気がする。私は、ソメイヨシノより八重桜の方が好きなんだけど、それでも綺麗な桜見てると、何かこう、堪らなくなってきてしまうよ~。やっぱり、日本人にとって、凄く影響力のある花だよなぁ。
因みに、「患者さんはどうなったんですか?」というご尤もな質問には、「この後、引き換えしたら、あっさりと迷わず着けて、角田師長の早とちりだった」というご都合主義な結末で回答いたします。