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テレビ先生の隠れ家
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プロフィール
HN:
藍河 縹
性別:
女性
自己紹介:
極北市民病院の院長がとにかく好き。
原作・ドラマ問わず、スワンを溺愛。
桜宮サーガは単行本は基本読了済。
連載・短編はかなり怪しい。
眼鏡・白衣・変人は萌えの3種の神器。
雪国在住。大型犬と炭水化物が好き。
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実は、まだスリジエ手元に届いてないのですが、発売記念ということで、ご都合主義展開で今中先生が天ジュノに会う話。ネタバレというほどのネタバレはなし。カテゴリー迷ったけど、今世良は天ジュノを内包しているので、今世良にしました。一応、今世良はデキてる設定で。

拍手[4回]


「だからね、あの人は本当に魔法使いみたいな人で……」
「はあ……」
「もう!ちゃんと聞いてる、今中先生?」
 聞いている。ループする話は既に3回目だ。世良が昔慕っていた人は、世界で一人しか出来ない手術をする天才外科医で、当時日本では全く前例のない公開手術を行い、その手技で多くの人を魅了した――今中の部屋に上がり込み、軽く酔った世良は、講演会のときのような滑らかな口調で、その天才外科医の軌跡について語ってくれるのだが、如何せん、聞き飽きた。そして、まあ、色々と複雑な気持ちもあったりするのだ、今中としては。
「何なの、今中先生はー」
 世良は、詰まらなそうに不貞腐れる。
「あ、もう、お酒がない。今中先生、買ってきてよ」
「何で、私が……」
「だって、外は寒いし」
 呆れて、言葉も出ない。
「それなら、私だって……」
「……それに……、外は、桜が咲いているから……」
 独り言のように呟かれた、その声を聞いた今中は硬直した。
 世良は、今にも泣きそうな顔をしていた。
 思わず、抱き締めてしまいそうになった今中は、慌てて財布とコートを持って立ち上がった。
 
 
 極北市民病院の近くの河川敷は桜並木になっており、此処数日の温度の上昇で一斉に綻び始めていた。さすがに、深夜を回るこの時間になると殆んど人も居ないが、マナーの悪い客の残したビニール袋が冷たい風に吹かれているのが、酒宴の名残を見せていた。
 今中は、何となくベンチに腰掛けた。ライトアップなどという洒落たものはないが、ちょうど頭上の街灯が、闇夜に花を浮かび上がらせている。
 ――綺麗だな……。
 取り立てて桜が好きという訳ではないが、やはり、桜が咲いたと聞けば、見に行かなくてはならないような気がする。日本人にとって、特別な花なのだろう。
 ――外は、桜が咲いているから……
 酔いが吐かせた弱音。
 敵作りな再建請負人が、誰の前でも言わなかった言葉を、自分は今聞いている。聞ける仲になっている。
 あの人はこれから先も、こんなに美しいものから目を逸らしながら生きていくのだろうか?
 それは、何だか凄く哀しいことのような気がした。
「何が貴方をそんなにさせるんですか……?」
 問いかける言葉は、闇に吸い込まれた。
 
 
「大丈夫ですか?」
 声をかけられ、今中は目を覚ました。世良だった。
「こんなところで寝てたら、凍死しちゃいますよ。立てますか?」
 ゴールデンウィークも終わったとはいえ、真夜中は冷え込む。
 世良の言葉にぞっとした。
 思ったより、酔っているのだろうか?
「家は分かりますか?タクシーを呼んだ方が良いですか?」
「何言ってるんですか、家は直ぐそこ……」
 言いかけたところで、今中は動きを止めた。心配そうに自分を覗き込んでいるのは、確かに世良だ。声も、顔も、公私共によく知る上司のもの。
 なのに、胸がざわつくような違和感を感じる。
「気持ち悪いんですか?大丈夫ですか?」
 そうだ、この敬語だ。
 それから、眼鏡がない。気の所為か、何だか……、若い、ような……。
 ――何てことだ、俺は、確実に酔ってる……。
「世良……先生、ですよね?」
 問いかけると、彼は心底驚いた表情になった。
「え?俺を知ってるんですか?何処かで会いましたっけ?」
 その瞬間、今中は理解した。
 彼は世良だが、今中のよく知る世良ではない。理由は分からない。しかし、この無邪気な顔は、演技などでは絶対にない。
 こんなに、素直で自然に感情を浮かべる世良なんて、酔い潰れる寸前にしか見たことがない。
「ええ、病院で見たことが」
 そう答えると、彼は、「ああ、患者さんでしたか?」と、ほっとしたような笑みを見せた。
 特に、不審には思われなかったようだ。
「ジュノ、クランケは生還したのか?」
 背後で響いた声を聞いたときの世良の顔は、今中には表現しきれない。ふわっと幸せそうに笑い、そして――
「もう戻りましょうよ。このままじゃ、本当に遺体を見つけそうなんですけど」
 口を尖らせ、不満そうに言う。
「此処の桜はお気に入りなんだ」
 答える声に、悪びれた様子はない。歩み寄って来た背は随分高い。今中と同じくらいあるかも知れない。
 だが、それ以外は、比べるのもおこがましくて申し訳なくなるような結果だった。
 気品さえ漂うすらりとした立ち姿。女性と言っても通るほどにも整った顔。
 全身を包む私服は、どちらかといえば派手だが、色も形もセンスがよく、その顔とスタイルで完全に着こなしている。
 桜の下で見た幻想かと思うほどに現実離れした男だった。
「だからって、何でこの時間なんですか?俺、もう眠いんですけど」
「ジュノは、眠くなれば、知らない男の部屋でも寝てしまう不実な身体の持ち主だからな」
「何時までそれを言うんですか?!そんなの、あのときだけです!」
 きゃんきゃん。
 口調はツンケンしているが、世良の目は輝いていて、隠し切れない彼への思いを溢れさせていた。意識してみると、確かに若い。顔も身体も青年のものだが、表情には何処かしらあどけなさが残る。間違いなく、今中より年下だ。
 ふと、男の目が此方を向いた。
「ほう」
 彼は今中を見て微笑んだ。そして、おもむろに世良に言った。
「ジュノ。酔いを醒まさせるために、何か飲み物でも買って来るといい」
「はい!」
 ぱたぱた。
 一心不乱に走っていくその後ろ姿に、千切れそうに振られる尻尾が見えた気がして、今中は目を擦った。
「名前は?」
「今中、です」
 答えて良いものかと迷いながら、結局答える。
 突然、手を掴まれ、今中はぎょっとした。
「同業者か」
 指に残るメスのタコ、糸の跡――彼は、それを興味深そうに見ている。ということは、彼も医者であるらしい。
「はい……。最近、余りオペはしていませんが」
「ジュノはよくよく外科医と縁があるらしい」
 男は、今中の手を離すと目を細めて笑った。
「あの……、貴方は……?」
 今中は恐る恐る尋ねた。
「天城雪彦、という」
「貴方が……」
『天城先生』
 ――世良が酔い潰れたとき、眠りに落ちる直前、愛しそうに、哀しそうに呼ぶ名前の持ち主。
 いや、一目見たときから分かっていた。先程の若い世良が彼を見る表情は、今中の良く知る世良が酔って惚気て大好きな人の話をするときの顔と全く同じだったのだ。
「良い桜だな」
 天城はゆるりと首を巡らす。見渡す限りの桜は、先程、今中が一人で見たときのままなのに――
「私は桜の花が好きなんだ。だから、日本に来て、桜の木を植えるのが夢だった。そして、ジュノが来て、私を日本へと誘った。あの真っ直ぐな意志で、私の夢へと繋がる道を指し示したんだ」
『昔、僕の故郷に、さくらの樹を植えようとした人がいた。そのさくらの樹は、花開くことはなかった』
 ――世良のかたった物語。
 その夢がどうなるか、今中は知っている。
「どうやら、君は、この夢の行く末を分かっているようだな」
 天城は、今中の表情を読み取るように覗き込み、静かに言った。
 ――あの人は本当に魔法使いみたいな人で……。
 世良が目を輝かせて言っていたワンフレーズが、ふと呼び起こされる。
「信じられますか?私は、50歳近くなった世良先生の部下なんです」
 普通の人にはとてもこんなことは言えないが、天城なら、そんな妄言も受け入れてくれるような気がして、思わず本当のことを言ってしまった。
「ほう。こんなしっかりした部下を持つことになるのか。ジュノもなかなかやるじゃないか」
 案の定、天城は、今中の正気を疑ったりはしなかった。しかし、その唇から零れた能天気な感想には反感を抱かざるを得なかった。
 ――『不良債権病院再建請負人』なんてものになって、何時だって周り中敵だらけで、たった一人でぼろぼろに傷つきながら戦って……。
 今、世良がどうなっているか、ぶつけたい気持ちを必死に今中は抑える。
 しかし、その意志は、次の言葉で粉々に砕け散った。
「ジュノを頼む」
 何処か遠くを見ながら言う天城に、今中は思わずむきになっていた。
「貴方が傍に居れば良いでしょう!」
 この外科医が隣りに居れば、少なくとも世良は一人で戦う必要などない。何より、世良は彼が大好きで、今も傍らに居たいと心から望んでいる――
 過去に何があったのかは知らない。
 今中に口を出せることではないと知りながらも、今も、世良の身体にも心にも深い影響を与え続けている男の無責任な言葉に、今中は腹を立てていた。
「そうだな」
 天城は儚く笑った。
 まるで桜の花弁ほどにも薄く淡い笑み。
「しかし、私と君は出会った。この世界に意味のない出会いなど存在しない。私と君を繋ぐ糸がジュノならば、きっと君はジュノにとって掛け替えのない人間なんだ」
 預言者が天意を告げるように、天城ははっきりと言い、今中を見据えた。
「天城先生、買って来ました」
 そのとき、息を切らせた世良が戻って来た。
「はい、どうぞ」
 渡されたのは、熱い缶コーヒーだった。
「さっき、凄く手が冷たかったので。これを飲んで暖まったら、早く帰ってゆっくり休んでくださいね」
 自然に向けられる、絶望など知らない無垢な笑顔。
 この表情は、そう遠くない未来に失われる……。
 不意に込み上げた感情が抑えられず、今中は慌ててプルタブを起こした。
「ありがとうございます、世良先生。あの……!」
「はい?」
 何かを伝えたかった。
 しかし、今の世良に今中が伝えられることなど何もないと気づく。
「いえ、あの……、頑張ってください……」
 そのまるで趣旨の掴めない言葉の何を勘違いしたのか、世良はそれを聞くなり、ぱっと笑顔になった。
「あれ、もしかして、スリジエセンターのこと知ってるんですか?ワイドショーって凄いですね、天城先生」
 傍らの人を見上げて言った世良は、再び今中に向き直った。
「この人は、こう見えても凄い外科医なんです。心臓手術専門病院だって直ぐに出来ますよ」
「こう見えても、とは何だ?」
「だって、天城先生って、ぱっと見じゃ外科医にすら見えないじゃないですか。せいぜい、遊び人かペテン師です」
 軽口を叩く世良を、天城が小突く。世良は声を立てて笑った。
「すみません、貴方のこと覚えてなくて。お名前、教えていただけますか?」
「今中、です」
「今中さん、ですね。今度はちゃんと覚えました」
「では、今中先生。後はよろしく」
 微かに含みを持たせた言葉を残して天城が背を向け、世良もそれに続く。それを哀しいと思う気持ちと、何処までも大好きな人と一緒に居て欲しい気持ちが綯い交ぜになり、今中は必死に、火傷しそうな缶コーヒーを啜った。


そして、今中先生と40代世良ちゃんの後編に続きます。明日にでもアップできれば、と。
天ジュノの第三者視点を書きたかったのと、今中先生が20代の世良ちゃんに会って「世良先生、可愛過ぎる…!」となる話が書きたかったので、合わせてみました。

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