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原作・ドラマ問わず、スワンを溺愛。
桜宮サーガは単行本は基本読了済。
連載・短編はかなり怪しい。
眼鏡・白衣・変人は萌えの3種の神器。
雪国在住。大型犬と炭水化物が好き。
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「高階です」
薄暗い部屋で、受話器の向こうから聞こえた声に、世良は微かな笑みを浮かべる。
聞き間違いようもない声は、けれど、確かに年月による老いを感じさせるものに変わっていた。
「お久し振りです。高階、病院長」
一拍の間は、意識した訳ではない。
けれど、するりと言葉が出ないのは、やはり、自分の中に認められないという思いがあるのだろう。
「今は、極北にいらっしゃると聞きました。そちらも色々大変でしょう」
「用件だけ、おっしゃっていただけますか?」
貴方と世間話をする気はない、と拒絶する。そう、聞きたいのはたった一つ――
「そうですね……」
取り付く島もない世良に、高階は小さく嘆息した。
「では、単刀直入に申し上げます。先日、東城大のAiセンターがある事件をきっかけに業務停止に追い込まれたことはご存知でしょうか?」
「ええ。大切な母校の話ですからね」
高階は世良の嫌味には反応しなかった。
そのまま話を続ける。
「その結果、我々は追い込まれました。万策を期しましたが、一歩及ばす、このままでは……、大学病院を破産、させるしかありません」
改めて聞くまでもなく、既に、この情報は彦根経由で世良の耳に入っていた。
だが、世良は、どうしても、高階の口から説明させたかった。
「そうですか。それは残念ですね」
感情の籠もらない相槌を聞き流し、高階は更に続けた。
「世良先生、病院再建請負人としての貴方にお願いしたい。東城大を助けてください」
世良はその言葉を淡々と繰り返す。
「病院再建請負人として、東城大を助けて欲しい、ですか?」
「その通りです」
――ああ、これで、漸く……。
「……」
「世良先生?」
世良はけたたましく笑い出した。
腹の底から。
この何十年分もの笑いを吐き出すように。
「……その言葉を待ってましたよ、高階先生。貴方が、僕とあの人が正しかったとひれ伏すこの瞬間を」
「……後悔ならば、ずっとし続けています。けれど、世良先生。もう、20年もの年月が経っています。貴方がそうして留まったままで居ることを、あの人は喜ばないでしょう」
穏やかな高階の言葉に、世良は激昂する。
「貴方があの人を語るんですか?!あの人の思いを根こそぎ抜き去った貴方が!今、そこにあの桜の木があれば、こんなことにだってなっていなかったはずだ!」
自分の間違いに打ちのめされ、こんなはずではなかったと苦しんでもらわなくては――
「その通りです。しかし……」
高階の言葉は、聞き分けのない教え子に困っているような響きで。
これでは、まるで、あの人に背いているのが自分のようで――
「東城大に力は貸します。けれど、僕の生き方に口を出すのは許さない!」
世良は受話器を叩き付けた。
――日本に溢れる巨額の富のほんの一部を医療に還元すれば、いずれ日本が凋落した時、日本を支える柱になるだろう。
全てを捨てた後、耳に残っていたのは、あの人の言葉だけだった。
当時の医者が誰一人として考えもしなかった、半信半疑で聞くばかりだった理論――
神威島で廃人寸前になりながら、それでも、そこに自分の生きる意味があるとでもいうように、その言葉の是非を調べ続けた。
そして、思いついた『病院再建請負人』などという、ふざけた肩書き。
あの人の作ろうとしたものを潰したとき、東城大は破滅に向けてスタートを切った。
そんなことにも気づかず、権力闘争や自らの保身にばかり躍起になっている日本の医療界が憎かった。
誰よりも、この国の医療を、そして、患者を思っていたあの人の残した思想こそが、必要なのに――
それを思い知らせられるのは、彼の言葉を受け継いだ自分だけ。
そして、やっと、そのときが来たというのに……。
――貴方がそうして留まったままで居ることを、あの人は喜ばないでしょう。
「そんなこと……ない……。天城先生は……」
――ジュノ、よく頑張った。
そう言って、笑ってくれる……。
目を閉じ、あの人の笑顔を思い出す。
――そうだ。惑わされるな。
僕は復讐する……。
世良雅志は一度死んだ。今の自分はその無念を晴らすだけの存在。
だから――
あいつの言葉なんか聞くな!
キーボードを叩くと、ディスプレイの淡い光が、世良の僅かに笑んだ口元を照らし出した。
極ラプの爽やかなラストからは繋がらないんだけど、世良ちゃんは不安定なとこも魅力なので、こんなだったら、凄い萌えるなぁ、って話。
そして、田口&白鳥しか読まない人に、彦根程度には認識していただきたい(笑)
どうして世良ちゃんが「病院再建請負人」なんてものになったかを考察すると、まあ、前向きに考えれば、天城先生の意思(遺志なのかもですが…)を継いで、でも、彼は外科医としては天城先生のような才能はないから、違う道を選んだのかな、と思うんですが、こういう後ろ向きな理由だったら、それはそれで堪らない。
対高階病院長は、基本、もう何もわだかまりはありません、みたいな顔して、突然、キレたりとか。どこまでも、天城先生が弱点。
ラスト、今中先生か美和ちゃんを出そうかとも思ったんですが、敢えて、ダークなままにしてみました。まあ、「暗いと目に悪いですよ。電気つけますね」とか、「顔色悪いですけど、大丈夫ですか?」なんて、色々世話焼かれてるんでしょうけど。