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テレビ先生の隠れ家
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プロフィール
HN:
藍河 縹
性別:
女性
自己紹介:
極北市民病院の院長がとにかく好き。
原作・ドラマ問わず、スワンを溺愛。
桜宮サーガは単行本は基本読了済。
連載・短編はかなり怪しい。
眼鏡・白衣・変人は萌えの3種の神器。
雪国在住。大型犬と炭水化物が好き。
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今世良くっつくまでシリーズ。救命行き直前会話に、+αで彦根との電話。
心配する今中先生を笑い飛ばして、「こんな病院潰せば良い」とか言う、あの世良ちゃんは確実に病んでると思うんですよ。何だかんだと好きな場面ですが、読むと大分鬱になること請け合いです…(汗)

拍手[2回]


その日、院長室に入るなり鳴った電話を、世良は自ら取った――
『どーもぉ、世良先輩』
 開口一番、聞こえた声に、世良は思わず受話器を耳から離す。
「……おかしいなぁ、僕の嗅覚も鈍ったかなぁ?不幸の電話は取る前に分かるはずなんだけど」
 世良は、直観力にはかなりの自信を持っている。
 自分のように敵作りな人間にとって、厄介ごとに関わらないというのは生き残るための最重要スキルだ。
『世良先輩にとっての、ラッキーコールだからでしょう。諦めて話してくださいよ』
 世良は溜め息と共に、改めて後輩との会話を開始する。
「珍しいね、彦根が電話してくるなんて」
『久し振りに、世良先輩の声が聞きたくなりまして』
 やっぱり、切ろうかな、と受話器を見た世良の動向を察したらしい彦根が、電話の向こうで笑う。喉を鳴らす音が、何だか耳障りだ。
『随分と絶好調ですね、今回は特に。見ましたよ、先日のワイドショー』
 本土からのワイドショーに、派手に持論をぶつけたのは事実だが、少なくとも、この電話の相手には言われたくはない。
「頭の中、爆弾魔並みに物騒なスカラムーシュほどじゃないよ。で、何?用がないなら、切るけど」
 笑みを滲ませた口調で話しながらも、何処までも容赦ない世良に、彦根は苦笑する。
『用がなければ、電話したらいけませんか?』
「切って良いってことかな?」
『どうしてるのかなって思ったんですよ。まあ、テレビに映ってるのを見る限りでは元気そうでしたけど。そちらの水は合うみたいですね』
 思いがけない彦根の言葉に、世良は小さく息を吐く。
「僕に合う場所なんて、何処にもないよ。此処だって、別に、潰れようが、立ち行かなくなろうが、知ったことじゃないからね」
『極北の人達が聞いたら、泣きますよ。何たって、先輩は、極北市民病院の救世主、なんですから』
 世良が赴任して、3ヶ月――未だに、そんなことを言っている人間がまだ一部には居るらしい。
「そんなんじゃないって何度言ったら、分かるんだろうねぇ。どいつもこいつも……」
 そんな熱意も愛着も、全くないのは自分が一番良く知っている。
『今中先生もそう思ってるんですか?』
 唐突に、彦根が出した名前は完全に予想外で、世良は首を捻った。
「何で、今中先生?今中先生ねぇ……、良く分かんないなぁ。いや、あんまり僕のことは好きじゃないんじゃないかなぁ。単純に、人を救いたいタイプの医者っぽいし」
 しかし、彦根は意味ありげな笑いを漏らした。
『その割に、色々教えて連れ歩いてるみたいじゃないですか』
「何で、そんなこと知ってるんだよ?仕方ないだろう。たった一人の部下なんだし、邪魔になってもらっちゃ困るんだから」
 少なくとも、世良の考え方の基本くらいは分かっていてもらわなくては困る。
『僕はてっきり、自分の思いを受け継ぐ人を育ててるのかと思っていましたよ』
 彦根の指摘は、完全に世良の予想を超えていた。
「はあ?!何で、僕がそんなことを?」
 世良は半ば呆れて返す。
『結構、気に入っているでしょう、そのたった一人の部下を?』
「意味が分からないよ。何で、僕が今中先生を気に入ってることになる訳?」
『世良先輩の好みのタイプだから、としか、言い様がないです』
 彦根は真面目な口調で言った。
「もしかして、凄く悪趣味な冗談?」
 正直、それくらいしか思いつかない。
『まさか。それなら、僕を好きなはずとか言いますよ』
 彦根はしゃあしゃあと言う。
「……本当に、何が言いたいんだか……」
 世良が溜め息混じりに言うと、彦根は微かに喉を鳴らした。
『良く分かりましたよ、世良先輩の今の気持ちはね』
 
 
 数ヶ月後、世良は、院長室に今中を呼んだ。
 今中は、何時になく、反抗的な目で世良を見ていた。どうやら、何かを警戒しているらしい。恐らく、世良の受け入れ拒否が原因で亡くなった田所さんの件について思うところがあるのだろう。
 しかし、世良にとっては、そんなことはどうでも良いことだった。世良の心の中で、既に今中の処遇は決まっていたからだ。
「以前伝えたけど、外部出向にいよいよ明日から行ってもらう」
 今中が本気で驚いて、こちらを見たのが分かった。
 世良は、今中に向けて笑みを作る。
 それが今中先生の希望だろうと言い切る世良に、今中は戸惑いの表情を浮かべた。そして、言う。
「今、私がこの病院を離れたら、世良先生は逆風に潰されてしまうかも知れません」
 ――本当に、馬鹿な医者だよ、君は……。
 やりたいことがあるなら、やれば良い。医者らしくしていたいなら、こんなところ、さっさと見限れば良い。嫌いなら、離れれば良い――何で、僕なんかを気にするんだ……!
 苛立ちも、呆れも、そして、胸の中で疼く不確かな気持ちも……、その全てを吐き出すように世良は大声で笑う。今中は、そんな世良を怯えたように見ていた。
 ――そうだ。そうして、僕のことなんか……。
「今さら、今中先生に心配してもらわなくても大丈夫さ。僕はこれまで幾度となく、こんな修羅場をくぐり抜けてきた。大切なことは、もしこれで市民病院が危機になったら……」
「……なったら?」
 釣り込まれるように、今中が世良を見つめる。
 ――これで、終わりだ……。
 世良は笑みを作る。いやらしい笑みの方が良い。禍々しく、誰もが嫌うような。そして、冷たく、突き放す――
「その時は潰せばいいんだ、こんな病院」
 もう、傷ついた今中の顔など見る気にもなれなかった。
 世良は淡々と手続きを済ませる。
 他者を巻き込んでしまえば、極めて常識的な人間である今中は、迷惑をかけずに流される方を選ぶ。その依頼の電話の中にも、事ある毎に、今中への悪意あるメッセージを混ぜ込み、止めに、一つ指令まで出して、彼の口を塞いだ世良は、今中の背を見送る。
 ――つもり、だった。
 今中の足が扉を前にして、ふと止まった。
 そして、振り返らずに言う。
「世良先生、一つだけ教えてください」
「どうぞ」
 予想外のことに僅かに怯みながらも、世良の口調はいつものままだった。
「世良先生は――本気でそんな風に、思っているんですか……?」
「え?」
 逆に、今中の声は微かに震えていた。
「潰せばいい、なんて……、あんなに必死に、此処を守ってきた先生が……!」
 縋るような声を聞いていると、自然に胸が冷えてくる。
 ――全部!全部、壊れてしまえ……!!
 呪いの言葉が弾ける。行き場のない無念が渦巻いて、彷徨う――
 ――あの人の居ない世界、なんて……。
「今中先生」
 世良は、今中に背を向けた。これ以上、見たくないものを見ずに済むように。
「僕はね、本当は、病院なんてどうでも良いんだ。それどころか、医者も、看護師も、患者も――市民すらね。僕はただ、『医療』を守ろうとしているだけだ」
「医療?医療っていうのは、病院があって、医者と看護師と患者が居て……」
「違う。『医療』は、あの人が守ろうとしたものだ。だから、僕も『医療』は守る。それ以外は知ったことじゃない」
「そんな……」
「だからさ、今中先生」
 言葉を失った今中に、間髪入れずに世良は刃を突き付ける。
「今中先生は、救命で同じような志を持った人達と居た方が良い。こんなところに居たら、病院と一緒に、僕に潰されちゃうよ」
 やがて、カタリとドアが閉まった音を聞いた世良は、そのまま背凭れに体重を預け、片腕で目を覆った。
 
 
40代世良ちゃんの言葉や態度を見ていると、彼って、医者も患者も病院も、どうでも良いんじゃないかって思うことがあるんですよ。全てを恨んでいてもおかしくない過去もある訳だし。なのに、あんなに必死に、病院を再建させようとするのは、結局、天城先生への気持ちだけなんじゃないか、と。まあ、その辺も、対今中先生への態度みたいなもので、多少は、助けようって気持ちもあるのだろうけど。
彦根に関しては、こんな感じで定着しちゃった模様。

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