忍者ブログ
テレビ先生の隠れ家
カレンダー
08 2025/09 10
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30
プロフィール
HN:
藍河 縹
性別:
女性
自己紹介:
極北市民病院の院長がとにかく好き。
原作・ドラマ問わず、スワンを溺愛。
桜宮サーガは単行本は基本読了済。
連載・短編はかなり怪しい。
眼鏡・白衣・変人は萌えの3種の神器。
雪国在住。大型犬と炭水化物が好き。
カウンター
バーコード
ブログ内検索
P R
忍者アナライズ
[175]  [174]  [173]  [172]  [171]  [170]  [169]  [168]  [167]  [166]  [165
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

今世良くっつくまでシリーズで、今中先生が救命に行ってるときの世良ちゃん妄想。こんなんだったら、今世良的には最高です(笑)スリジエネタバレ注意。

拍手[5回]


「あれ?新着メールが結構溜まってるじゃない。今中先生ってば、何サボってるんだろ」
 医局のパソコンを見ながら呟いたら、背後で何やかやと楽しそうに話していた角田師長の声がぴたりと止まった。――あれ?僕、何か、変なこと言ったっけ?
「世良院長先生、今中先生は……」
「あ、そうか」
 今頃は、雪見市、極北救命救急センターで、こき使われていることだろう。
 いや、超絶問題児・速水副センター長の洗礼を受けて、目を白黒させているだろうか?世良の無茶苦茶な発言を聞いたときの分かり易い反応を思い出すと、自然に頬が緩む。
「どうしてらっしゃるでしょうね」
「角田師長ってば、まだ半日しか経ってないよ」
 世良はそんな角田の言葉を笑い飛ばしたが、彼女は酷く神妙な顔をしていた。
「けれど、何だか……」
 角田の言いたいことは分かる。決して騒がしい人間ではなかったが、あの巨体が視界に入らないというだけで、意外とがらんとした印象になるものだ。
「まあまあ。今中先生が救命で頑張ってくれれば、多少は、うちの評価も上がるんだから。今は大変だけど、角田師長にも一踏ん張りしてもらわないと」
 世良が明るい声を出すと、角田も「勿論ですとも!」と甲高い声で応じた。
「でも……」
 余り、世良の意見には反論しない角田が、控えめだが、少しだけ暗い表情になって言う。
「今中先生が本当に行かれるとは思いませんでしたわ。あのときでさえ、この病院を見捨てなかった今中先生がこんなときに……」
 極北市が破綻し、医師たちがこぞって逃げ出したときに此処に残った今中は、角田達にとって、本当に頼もしく映ったのだろう。
 さすがに、そのときの気持ちは、世良には想像するしかない。しかし、だからこそ、今、角田が見捨てられたように感じているのも分からなくはない。増してや、今、この病院は、診療拒否で亡くなった患者の対処の是非で、マスコミの集中砲火の只中にあるのだ。
「直ぐに、戻って来られますよね?」
「……」
 世良は、その言葉に答えることが出来なかった。
 ――今、私がこの病院を離れたら、世良先生は逆風に潰されてしまうかも知れません。
 そう言って、出て行くことを渋った今中を追い出したのは、確かに世良で。レンタル移籍と言いながら、期限すら定めず。必要ない、どころか、合わないとまで言い切った。
「さあ、どうだろうね……」
 救命が天国だとは思わないが、此処に居るよりは遥かに、今中がやりがいを感じて働ける場所であるのは確かだ。戻ってくる必要などないと世良は思っている。角田はそんな世良を何か言いたげに見てから、黙って目を逸らした。


 バラバラと聞こえた音に、世良は院長室の窓を開けた。ドクターヘリの機体が近づき、見る見るうちに通り過ぎていくのが見えた。行き先は雪見市、救急救命センターだろう。そこでは、此処とは違う意味での戦場が繰り広げられているに違いない。
「……うっ……」
 突然、強烈な吐き気を感じて、世良は口元を押さえた。脂汗が玉になって、頬や首筋にへばりついたのが分かる。窓枠に寄りかかるようにして、身体を支える。視界がぼやけ、煙を上げて落下するヘリコプターのイメージが過ぎる。激しい揺れ。逆巻く水面がそれを迎える――
「うわあああぁぁぁ……!!!」
 世良は腹の底から絶叫した。
 そのとき、何が起こったか知らない。けれど、想像は尽きない。世良の中でその瞬間は繰り返される。そして、世良は幾度もそれを追体験する。
 ――駄目だ……、落ちないで!お願い……ですから……!
 願っても、望んでも詮無い。泣いても、喚いても過去は変わらない。呪っても、恨んでも失ったものは戻らない。ぼたぼたと窓枠に落ちたものは汗か、涙か分からない。ただ必死に窓の桟を握り締め、残酷な現実に耐える。肉体が悲鳴をあげるほどに、溢れる感情を抑える。
 不意に、落下するヘリの窓に人影が映る。
 そこに見えたのは、かつて、心から慕い、同じ未来を夢見た人ではなかった。
 極北市民病院の唯一の部下。方針に合わないと追い出した、愚直な医師。なのに、出て行く直前まで世良の身を案じていたお人好し――
「違う、僕は……」
 合わないのではない。そんなところも含めて必要だった。世良のとんでもない持論を聞く度に、いちいち目を丸くする姿を見ていると安心した。決して利口ではないが、軽蔑するほど愚かでもない。そんな性格を抱えていたら、決して要領よく立ち回れないだろうに、それでも別に良いと思っていたに違いない。彦根の言う通りだ。自分は、彼を気に入っていたから、連れ回し、持論をレクチャーしてきた。
「今中先生なんか、居なくなっても……」
 何処までも続く満開の桜並木。必ず、あの人はそこに居る。辿り着くことだけ考えて生きてきた。
 何も、要らない。
 他には、何も。救いなんて。助けなんて――
『今、私がこの病院を離れたら、世良先生は逆風に潰されてしまうかも知れません』
「天城先生、僕は、どうしたら……っ!」
 世良は窓枠に額を押し付けて泣いた。
 遠い空で、黒い点のようなドクターヘリの機体が一瞬煌いて消えた。


世良ちゃんが精神的に不安定なときにヘリを見ると、身体に変調をきたすとかいう勝手設定。でも、こんな状態の世良ちゃん見たら、今中先生、2週間どころか、1日で帰って来たかも知れないなぁ、とか。こういう辺りで、世良ちゃんがじわじわっと自覚し始めてたら良い。

PR
忍者ブログ [PR]