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原作・ドラマ問わず、スワンを溺愛。
桜宮サーガは単行本は基本読了済。
連載・短編はかなり怪しい。
眼鏡・白衣・変人は萌えの3種の神器。
雪国在住。大型犬と炭水化物が好き。
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kido先生になれたら書きたいもの、なんて言ってましたが、田口&白鳥の続編は無理でも、「ハッピーエンドなスリジエ」なら書けるじゃん、って思って書いてみた。92年にスリジエ創設で、5年後の97年くらいのつもり。
『えっと……、こちらは日本で、あのぅ……、世良といいますが……』
『はい、ムッシュ・セラ。いつもありがとうございます。ただいま、ドクトル・アマギをお呼びいたします。少々お待ちくださいませ』
さすがは、一流ホテル。
オテル・エルミタージュのフロントは、しどろもどろの世良のフランス語に呆れた素振りも見せず、素早く相手に繋いでくれる。基本、起き出す直前のこの時間でないと、捕まらない人なのは相変わらずだ。
「ジュノか」
そんな風に呼ばれただけで胸が高鳴るのは、最早、惚れた弱みというヤツだろう。公用とはいえ、この電話を、実はずっと心待ちにしていたというのに――
「随分と久し振りだな」
聞こえたのは、非常に不満気な口調。思わず、むっとして言い返してしまう。
「仕方ないじゃないですか。国際電話なんですよ!」
金銭の問題だけなら、文句なしに大金持ちの電話相手に押し付ければ済むが、時差の問題は如何ともしがたい。
そもそも、天城がなかなか捕まらないことも、なかなか電話できない一因なのだ。
「ジュノらしい、平凡かつ矮小な理由だな」
薄っすらと、会話の始め方を間違えた気がしたが仕方ない。
「天城先生、今日はお願いがあって電話しました」
「お願い?」
更に、一段階、声が沈む。
非常に不味い雰囲気だ。
「仕事の話という訳か。内容は?」
「ええと、実は、最近、ウエスギ・モーターズの上杉会長がハートセンターにコンタクトを取ってこられて、天城先生にダイレクト・アナストモーシスをお願いしたい方がいらっしゃる、と……」
「断れ」
「え?!だ、駄目ですよ!断れる訳ないでしょう!大体、天城先生は、臨時とはいえ、ハートセンターのスタッフも兼任されてるんですから、こちらの要請には応えていただかないと……」
青ざめて、受話器に向かって訴える世良に、天城の声が無情に響いた。
「断れ、と言ったんだ。聞こえなかったか、ジュノ」
取り付く島もない天城に、世良は言葉を失う。
「どうしても、と言うなら、ジュノがここへ来て、私の気持ちを動かすしかない。かつてのように」
そんな世良に、天城は悠々と宣言した。
「なっ……?!俺にも、オペの予定が……」
スリジエ・ハートセンターの正規スタッフになって5年、それは、世良が心臓外科医に転向してからの年月と一致する。
「オペには代わりが居るが、私の説得はジュノ以外不可能だ」
「何処まで横暴なんですか?!」
「よく考えろ」
「ちょっと、天城先生?!……って、切れた……。信じられない」
世良は無情に、ツーツーという音を流す受話器を持ったまま、茫然と立ち尽くした。
「事務長、お願いがあります」
受話器を置くなり、世良は事務長室へと走り、先程の天城との遣り取りを斯く斯く然々と説明した。
「何と言うか、あの人も相変わらずですね」
緒方事務長は呆れたような声を出したが、それも、東城大の運営会議で、初めて天城雪彦と会ったときに比べれば、随分と軟化している。
「それでお願いなんですが……」
「旅費ですね」
察しもいい。まあ、この流れで事務長に頼みごとに来るなんて、他の理由は考えられないが……。
「そんなもの、自腹で、と言いたいところですが、天城先生が手術をされるんでしたら、セレモニーでしたっけ?財産の半分を寄付させるとかいう……」
天城の1回の手術で、膨大な運営費が流れ込んでくるのだ。事務長としては、嫌でもそのシステムを覚えない訳にはいかないだろう。
「はい。まだ、身元は明かせませんが、ウエスギ・モーターズの会長クラスの人物ですし、上杉会長がその旨はお話されているそうなので……」
「だったら、反対する理由はありません。世良先生が天城先生をちゃんと連れて来るのであれば、ファーストクラスの席でも何でもご自由に」
非常に魅力的な言葉だったが、世良の耳は条件を敏感に捉える。
「天城先生をちゃんと連れて来るなら……?」
緒方事務長は大きく頷いた。
「勿論です。失敗したら、経費なんて認められません」
「緒方事務長、それは厳し過ぎ……」
「大丈夫ですよ」
事務長は満面の笑顔を浮かべた。
「世良先生なら、必ず天城先生を連れて帰って来られます」
「はあ……」
全く、根拠がないじゃないか、と内心でツッコミ。大体、電話での説得に失敗したから、こんなことになってるんじゃないか……。
最近、余り上手くいっていない。そもそも、距離が長い。会えない時間が長い。忙しさにかまけて、電話の間はどんどん広がり、ここ暫く、素っ気無い会話しかした記憶がない。
――俺だって、どうしたらいいか、分からないんだよ……。
自分やハートセンターより、モンテカルロの諸々が大切になっているのかも知れない。そんな考えが頭の隅で静かに主張している。
何時になく、落ち込んだ気分で、事務長室を後にした。
一応、後編も出来ているのですが、用語をチェックして、早ければ明日にでも上げます。