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原作・ドラマ問わず、スワンを溺愛。
桜宮サーガは単行本は基本読了済。
連載・短編はかなり怪しい。
眼鏡・白衣・変人は萌えの3種の神器。
雪国在住。大型犬と炭水化物が好き。
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「お、世良。久し振りだな」
廊下を歩いていたら、同期の北島に会った。
「こっちで見かけるなんて、珍しいな」
「ああ、ちょっと青木に用があってさ」
気安い同期の存在に、つい、口が緩んで愚痴が漏れる。
「俺さぁ、今からモナコなんだけど……」
「良いじゃねーか。羨ましい」
あっさり言われて、むっとする。
「普通の出張ならな!天城先生の呼び出しだぞ。手術頼んだら、説得に来いとか言うんだぞ!連れて帰れなかったら、旅費自腹なんだぞ!」
ここまで言えば、自分の不幸を理解してもらえるだろうとまくし立てたが、北島は苦笑しただけだった。
「本当に気に入られてるよなぁ」なんて、不本意な感想つきで。
「結局、お前が一番の勝ち組だよな」
そんな風に、しみじみと言う。
「でも、天城先生は帰国しちゃったから、本当の一番は、ハートセンターが転がり込んできた黒崎教授のところじゃないか」
「確かに、あれは、見事な漁夫の利だったよなぁ」
「そっちは……大変なのか?」
北島が所属する腹部外科は、今では、権力闘争どころの状態ではない。
「まあ、高階さんが抜けちゃってからはなぁ。代わりに入った先生じゃ、あの人みたいにはいかないようだし。俺は、高階さんが一番の出世頭だって踏んでたんだけどなぁ」
「北島……」
何も言えない世良に、北島は笑う。
「そんな顔すんなよ。それ言ったら、お前の方が大博打だったじゃねーか。モナコから来た訳分からない先生と、心臓手術専門病院作るなんて、とんでもないミッションやらせられてさ」
「……本当に、今、ここに居るのが不思議だよ」
誇張でも何もなく、それが世良の本心だった。
「そんな苦労を一緒にしたお前の頼みだろ。無碍に断る訳ないんじゃねーか」
一瞬、何を言われたのか、分からなかった。それが、北島からの励ましと分かり、胸が熱くなる。
「ありがとな、北島」
思わず、素直に飛び出した礼を聞いて、「土産、忘れんなよ」と北島が呟いた。
ざわざわした喧騒の流れが一瞬にして変わる。世界を変える力を持った人――
世良はゆっくりと目を開けると、カジノの座り心地抜群のソファから体を起こし、真っ直ぐにこっちに向かってくる人を見る。
「ジュノ!」
世良に歩み寄った天城は、立ち上がりかけていたところを抱きしめ、頬にキスをする。
モナコでは挨拶の範疇なのだろうが、気が気ではない世良は必死で天城の身体を押し返した。
「ちょっと、天城先生!皆が見てます!ただでさえ、目立つんですから!」
カジノの顔役であり、ほぼ毎夜豪遊する天城を、ここで知らない者など居ない。その天城に熱烈な歓迎を受けていることで、好奇の目に曝され、世良はとても居た堪れない気分で小さくなる。
「どうしたって目立つんだ。ならば、こそこそするより堂々としていた方がいい」
さえずるようにそう言い放つ天城は、それを体現するかのように、まるで動じていない。もっとも、そうでなくては、こんなところで有名人などやっていられないだろうが。
「……それはそうかも知れないですけど」
そう返しながら、ちらりとその顔を観察する。……機嫌は悪くない。
――そんな苦労を一緒にしたお前の頼みだろ。無碍に断る訳ないんじゃねーか。
北島の言葉が蘇る。
「大体、ジュノが悪いんだ。ジュノの居場所くらい、モナコに簡単に作れるというのに……」
ぶつぶつと漏れた小言に、思わず頬が緩む。
自分に関心をなくしていたらどうしようという不安が弾け飛び、こんなところまで呼び出された怒りが消える。だから、駄目なんだと思うけど、こればっかりは仕方ない。
「それじゃあ、俺は一生、天城先生のオマケじゃないですか。俺はちゃんと、自分の力で天城先生の隣にいたいんです」
さすがに、真っ直ぐに目を見ては言えないが、それでも、懸命に伝えると、天城の声が柔らかくなった。
「ダイレクト・アナストモーシスを誰でも出来る手術にする、か」
それが、世良の現在の研究テーマだった。
「確かに、天城先生の技術は凄いですよ。でも、世界で一人しか出来る人が居ないんじゃ、先生に何かあったときに困るでしょう。それに、俺は凡人ですから。凡人なりに出来ることを考えたんです」
ちらりと天城を見ると、こちらを見ている二つの瞳とぶつかってしまい、慌てて視線を外す。その微かに緩んだ頬が視界から消えたというのに、脳内をちらついて、妙にどきどきする。
「それがクイーンの教え、か」
聞こえた呼称に、更に大きく心臓が跳ね上がる。
クイーン――高階は世良の指導医だったこともある、世良にとって、本当に多くのことを教えてくれた人だ。だが、彼はもう、母校・東城大には居ない。天城と世良、二人が選び、進んだ結果が、彼の居場所を奪い去った。後悔がないといえば嘘になる。
けれど、だからこそ、世良は高階から受け取ったものを、何時までも大切にしたいと思う。それが、自分に出来るただ一つのことだから――
「では、ジュノ。セレモニーだ」
陽気な声に、やっぱりか、と思いながら、世良は仕方なく頷く。天城に何かを要求するなら、避けては通れない道。それがこのシャンス・サンプル、二者択一の賭けだ。
「黒が勝ったら、ジュノは何でも私の言うことを聞く。赤が勝ったら、私はジュノの要請に従おう」
「は?!それじゃ、俺が不利じゃないですか!」
「『ネージュ・ノワール』のジンクスなど、あっさりと破ってこそのジュノだろう」
天城は上機嫌で笑う。ネージュ・ノワール――『黒い雪』とは天城雪彦自身を表す呼称。天城が関わる賭けでは黒が圧倒的に強くなることから、そのように呼ばれているらしい。因みに、こういうときの天城の意見を変えさせるのは、明らかに、世良に可能な物事の範疇を越えている。
「分かりました!但し、俺が勝ったら、日本に戻った後は、朝からきちんと出勤して、ちゃんとカンファレンスにも出席して、いきなりどこかに連れ出したりしないで、無駄遣いも控えて……」
こういうときはイメージを高めるに限る。強く、具体的に、望む未来を思い浮かべる。内容がいまいちみみっちいのは、この際仕方ない。
「コム・ヴ・ヴレ(仰せのままに)」
窘めるように、天城がそんな言葉で遮る。
――日本で、また、あの天城先生の素晴らしい手術を必ず見る!
強烈に焼き付けるように願って、世良は天城を見上げた。
「準備を、ジュノ」
「はい」
世良は財布から1枚のモナコ硬貨を取り出す。サル・プリヴェのテーブルにつく資格もないと、無情にも追い返されそうになったときに、二人を繋いだ硬貨。それをテーブルの中央に置き、世良は背筋を伸ばしてルーレットの席につく。
腕を通しているのは、あのときより少しだけ上質のスーツ。モンテカルロのエトワールからしたら、数段格の劣る安物だろうが、世良が給料の2ヶ月分を貯めて、絶壁から飛び降りる覚悟で買ったものだ。
5年前にシニア研修から始めた心臓外科医の道にがむしゃらに食らい付き、どうにか執刀医として手術が出来るくらいにはなった。
昨年は、アメリカ・サンディエゴの心臓血管学会で発表し、どうにか形にはした。
数社の新聞と、海外のものも含めた10社ほどの医学雑誌に目を通し、学会で知り合った医師たちとチャットして、政治や経済、特に医療関係の情報を取り入れる。
すべては、この人が植えた1本の桜を、何処までも続く桜並木にするために――
「お願いします」
世良の言葉を合図に、ブールールがルーレットに赤い玉を投げ込む。
その行く末を、二人はじっと見つめた。
いつも言ってますが、スリジエはまだちゃんと読んでませんので、辻褄合わなかったら、すみません。
天城先生はモナコに帰国してて、でも、たまに帰ってきたりもして、世良ちゃんはスリジエに残って、天城先生のために頑張ってて、高階さんは居なくなったけど、その教えは世良ちゃんの中にちゃんと残ってて、事務長とか北島くんは理解者って感じ。
でも、世良ちゃんは一生スリジエに居るつもりだったっぽいので、天城先生が連れて帰るつもりで帰国のことを切り出したら、「天城先生の創ったスリジエは、俺が一生守りますから、心配しないで下さいね!」とか、健気で可愛いことを言うから、つい、置いてきた、などという事情があったの超希望。そして、時々我が儘言って、モナコに呼び寄せるvvv
どっちが勝っても、イチャつくばかっぷる。グラン・カジノだって、最低レート20万円のテーブルについて、モナコ硬貨1枚で、こんなことされたら堪らないと思うんですが…。(笑)
ここまで書いておいて何だけど、微妙にむなしくなった…。だって、絶対、ありえない未来なんだもんなぁ。