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テレビ先生の隠れ家
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プロフィール
HN:
藍河 縹
性別:
女性
自己紹介:
極北市民病院の院長がとにかく好き。
原作・ドラマ問わず、スワンを溺愛。
桜宮サーガは単行本は基本読了済。
連載・短編はかなり怪しい。
眼鏡・白衣・変人は萌えの3種の神器。
雪国在住。大型犬と炭水化物が好き。
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初クリスマスなので、苦手な季節物に挑戦!1990年の12月のカレンダーは今年と同じ週の巡りでした。3連休で、3日間ずっとベタベタしてたんだよね!でも、これが二人の最初で最後のクリスマスなんだと思うと…(涙)

拍手[6回]


がばりと後方から抱きつかれ、世良は飛び上がった。
 いきなり背後からくっつかれた驚きもそうだが、凄まじく冷たいものに貼り付かれたのが一番の原因だ。寒風吹きすさぶ12月の屋外で白衣1枚の出で立ち、というだけで寒いのに、さっきまで冷蔵庫に入っていたのではないかという温度のものを押し付けられては堪らない。
「ひあああぁぁぁ!」
 殆んど声になっていない悲鳴をあげて、咄嗟に振り払った。
 しかし、ヒットした左肘が当たったものは奇妙に柔らかい。
 振り返ると、思いっきり押し返された上司の悲しそうな顔があったのに、更に驚いた。
「天城先生、何してるんですか?」
「寒いんだ、ジュノ……」
 答える声は力ない。見れば、天城も丈の短いブレザー型の白衣1枚、下に着ているものもワイシャツのみという軽装だった。全身冷え切っていて当然だ。
「そんな格好じゃ、寒いに決まってるじゃないですか!早く戻って、暖まらないと」
 慌てて、赤煉瓦棟へ戻ろうとすると、冷たい手に引き戻された。
「暖房の調子が悪いようで、全然暖まらないんだ。ジュノを探しに来たんだが、医局に居なかったから」
 高階の指示で図書館へ資料を取りに行っていたので、行き違ってしまったのだろう。
「じゃあ、事務室に修理の依頼をして来ます。天城先生は早く戻って、厚着してください」
「ただ寒さを凌ぐだけの厚着は、余り好みではないんだが……」
「そんなこと言ってる場合ですか!風邪ひきますよ」
 生憎と、世良も今は防寒具を持っていない。
 何となく、白衣のポケットに手を入れたら、ちょうど良いものがあった。
「あ、良かったら、これ使ってください」
「これは……、手袋?」
「まあ、無理にとは言いませんけど……」
 世良も、いつもはポケットに手を入れて小走りすることで寒さを誤魔化してしまうのだが、先日、屋外での作業があったので、スーパーの棚で目についた手袋を買っていたことを思い出したのだった。もっとも、この程度で暖まるとは到底思えなかったので、単なる気休めのつもりだったのだが――
「温かい」
 抵抗なく手にはめた天城に嬉しそうに言われ、思わず、動きを止めてしまった。
「良いのか、ジュノ?これを貰っても」
「ええ、まあ……」
 近所のスーパーでワンコインで買ったものをそんなに喜ばれると、寧ろ困ってしまう。
「ジュノもなかなか気が利くじゃないか。確かに、日本の冬には不可欠だな」
 普段、ありえないレベルの賛辞まで受け、世良は、先程までの死にそうな様子が嘘のようにご機嫌で戻っていく天城を茫然と見送った。
 そういえば、もうすぐクリスマスだな、とふと思った――
 
 
 感謝の気持ちを――まあ、世話を焼いているのはどちらかと言うと自分の方なんだけど、出会えた記念に――なんて程、高価なものでもないし、使って欲しくて――何だ、この追っかけの子みたいな言い方……。
 ぐるぐるぐるぐる。
 幸い、旧教授室前で、逡巡する世良の百面相を見た通りがかりは居なかった。
 真っ先に浮かんだ理由ははっきりしているのだが、それを口に出すのに凄まじい抵抗があった。
 ――だって、何か、凄い張り切ってるみたいじゃないか……。
 今日は、12月21日。明日から3連休だ。街中に出れば、人目も憚らずにベタベタくっついて、一緒に買い物をするカップルなど山ほど居る。
 自分達がそれを出来るような関係でないことなど分かっているし、天城がそれを望むかも分からない。
 ――ああ、やっぱり、こんなの、用意しなきゃ良かった……。
 明らかに、気苦労が数倍に増幅されている。なのに、もしかしたら、またあんな風に喜んでくれるかも、なんて思ったら、つい買ってしまった自分の迂闊さを罵りたい。
 ――でも、もう買った以上、渡さなきゃもったいないし……。
 デパートで買って、きちんと箱にまで入れてもらったそれは、薄給の研修医からしたら、有り得ない買い物だ。大声では言えないが、想像を超える奇跡を起こす天城の長い指を想像しながら選ぶのは、実はとても胸が躍る時間だったのも本当だ。
 気を取り直して、手元の小さな箱を後ろ手に持ち、ドアをノックする。
 返事を聞き、室内に入ると、天城が荷解きをしていた。嫌な予感がする。手元を覗き込むと、予想通り酒瓶だった。
「天城先生、職場に酒を持ち込まないで下さい!高階先生にバレたら、何て言われるか……!」
 天城は事も無げに返す。
「マリツィアが送ってきたんだ。不可抗力だろう」
 職場に酒を送るか、と憮然としながら、改めて見ると、このために設えたような木箱に、加工されているのだろう白い薔薇が散りばめられ、フランス語でメッセージの書かれた豪奢なクリスマスカードと、いつも見るものより一回り大きいサイズの瓶が3本並んでいる。
 銘柄はお約束のピンドンだ。
 ふと好奇心が口を継いで出た。
「これ、幾らくらいのものなんですか?」
 やはり、というか、天城は気分を害されたようだった。
「贈り物に無粋なことを聞くな。……だが、まあ、ジュノにとっては、それも学習か――そうだな、ドンペリニョンのマグナムだからなぁ。100万くらいじゃないのか」
「ひゃ……」
 ――商品の原価がそれだとしても、この花とか、箱とか、送料も温度管理費込みだろうし、場合によっては、家来が直接運んできたとかいったら、渡航費と人件費……。
 無粋と言われようと、世良の頭の中では、どうしても電卓が叩かれてしまう。
 思わず、拳を握り締めてしまい、手の平の中でふにゅっとなったものにはっとした。
 ――わ、渡せない……。
 こんなプレゼントを見せられた後に、研修医にギリギリ手が届くレベルのプレゼントなんて渡せる訳がない。ちょっと箱をヘコませてしまったが、結果オーライだ。仕方ない、今年の冬はこれをはめて過ごそう。きっと温かい。温かいだろう、温まって欲しいって思いながら探したんだから――
「聞いてるか、ジュノ?」
「あ、えと……、何でしたっけ?」
 天城が頻りに話しかけていたらしい。慌てて答える。
「だから、ジュノのプレゼントはないのか、と聞いたんだ」
「えええ?!」
 ――バ、バレてる……?!
 思わず、見えないはずのプレゼントを、更に背中の真ん中に来るように微調整してしまう。
「な、ないですよ。貧乏研修医にそんなもの、期待しないでもらえますか」
 口に出すと酷く惨めだった。そう、貧乏研修医だ。恋人に見合うプレゼントすら渡せない程度の……。
「そうなのか……」
 天城の失望したような声が痛い。
 この状態を引きずった会話をするのが嫌で、仕事のことを言い訳に辞そうかとしたとき、天城が明らかに声のトーンを変えて言った。
「残念だ。だが、ジュノにはもう、貰っているから贅沢は言えないな」
「え?」
「ほら、忘れたのか?」
 天城は歴代教授が使用してきたのであろう頑丈そうな机の引き出しから、両手で丁寧に何かを取り出した。それを見た世良は固まる。
「まだ持ってたんですか?!」
 それは、寒がる天城に、世良が使い捨てれば良いと思って渡した手袋だった。
「何だ、その言い方は。毎日使っているぞ。温かくて、とても良い」
 ――それ、その小包の千分の一くらいの値段なんですけど……。
 そんなこと、恥ずかしくてとても口に出せないし、それをモンテカルロの貴族サマが使っていると思うだけで居た堪れない。
「天城先生なら、もっと良いものを幾らでも買えるでしょう!そんな安物、さっさと捨ててください!」
 世良の剣幕に気圧されたらしい天城は幾度か瞬きをしたが、直ぐにむっとしたように言い返してきた。
「私が何を使うかは私が決める。安物だろうが何だろうが、ジュノから貰ったものを私は使うんだ!」
 その言葉に一瞬浮かんだ喜びと、でも、それは困るという感情と――ぐちゃぐちゃになって混乱した世良は、咄嗟に背中に持っていたものを差し出した。
「じゃ、じゃあ、これ使ってください!俺があげたものなら、良いんでしょう!」
 天城は心底驚いて言葉を失っていたが、やがてペースを取り戻して言った。
 世良にとって、真っ先に浮かんでいながら何とか忌避しようとした、もっとも恥ずかしいその単語――「ジュノが私のために選んでくれたクリスマスプレゼントか?」と。
「……っ……!」
 真っ赤になって動けない世良の目の前で、天城は箱を手に取り、優雅な手つきで包装を解いていく。自分のプレゼントを相手が目にする様を一部始終見せられるなんて、何の罰なんだ、と世良は羞恥に堪えながら考える。やがて、そこから出てきた100均よりは少しはマシなそれを天城は手にはめ、ぱっと破顔した。
「温かい。前のも良かったが、これも良い。メルシ、ジュノ。大事にするよ」
 ――あああ、だから、嫌だったんだ……。
 真正面から、無邪気に、心のままに喜ぶ人。
 こんな風に言われたら、自分は嬉しくて幸せで、自惚れてしまう――
「ジュノ……」
 手が伸びてくる。逆らえない。
 固まったまま、目を瞑ってそれを受けた世良の頬に、ふわっと唇が触れた。感謝のキス。
 しかし、優しいキスに反して、目を開けたらまだそこにあった綺麗な顔に、世良は相変わらず動けない。
「お返しは今夜あげよう。楽しみにしてると良い」
 硬直した思考は、とにかく早く離れて欲しくて、その為の最短ルート、赤べこの如くひたすら頷く、という選択肢を取った。
「仕事が終わったら、私の部屋においで」
 ご機嫌でソファに戻る天城に、軽率な返事をしてしまったことを悔いたが、もう遅い。どうやら3連休は天城の部屋で始まってしまうらしい、と世良は溜め息を吐いた。


今年は、この続きと、極北のクリスマスも書きたいなぁ、と思ってます。

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