忍者ブログ
テレビ先生の隠れ家
カレンダー
08 2025/09 10
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30
プロフィール
HN:
藍河 縹
性別:
女性
自己紹介:
極北市民病院の院長がとにかく好き。
原作・ドラマ問わず、スワンを溺愛。
桜宮サーガは単行本は基本読了済。
連載・短編はかなり怪しい。
眼鏡・白衣・変人は萌えの3種の神器。
雪国在住。大型犬と炭水化物が好き。
カウンター
バーコード
ブログ内検索
P R
忍者アナライズ
[237]  [236]  [235]  [234]  [233]  [232]  [231]  [230]  [229]  [228]  [227
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

若干、何かの過程をすっ飛ばしてる気もするけど、取り合えず、くっ付け!という勢いで。今世良で連載してきたシリーズ。極ラプ終了後。

拍手[6回]


 玄関を開けたら、上司が居た。
 まあ、いつものことだ。今中は、これから始まることを薄っすらと思い浮かべ、微かな興奮と多大な後ろめたさを覚える。
 しかし、世良は、意外にも、するりと今中の脇をすり抜け、部屋の中へと足を踏み入れていく。世良と身体の関係を持って、半年以上。にも関わらず、世良が今中の部屋に入ったのはこれが初めてだった。
「食べ終わったカップ麺を放置だなんて、だらしないなぁ。部屋中、とんこつ臭いし」
 言って、勝手に窓を開け始める。
「うわ、寒っ!」
「寒いに決まってるじゃないですか!今、外、-10度ですよ!」
「ねえ、冬の極北だとバナナで釘が打てるって、ホント?」
「もうちょっと下がらないと無理って聞いたことがありますけど……」
「試したいなぁ」
 世良は、普段では絶対に有り得ない甘えた声を出した。ちょっと、可愛いとか思ってしまった自分を今中は必死に戒める。
 それにしても、まるで何かが吹っ切れたかのようだ。
『僕は極北に根を張ることにする。もう、どこにも逃げない』
 先日、真っ青な空の下、真っ直ぐに今中に向けて言った言葉が蘇る。
 それが今中にとって何を意味するかは未だ棚上げされたままだが、少なくとも、『病院を潰す』だの、『この街を離れる』だのという、何処かしら暗い影を落とすような思惑がなくなったのは確かなようだ。
「バナナ買ってきてよ、今中先生」
「は?……今、何時だと……」
「まだ、閉店間際に駆け込める時間だよ。極北号の使用許可出しとくから」
「それって、職権濫用……」
 溜め息を吐いたら、世良が随分間近い位置まで距離を詰めていた。思わず、どきりとする。此処で会うときはいつも、部屋に入るなり、行為が始まっていたから、乱れた世良しか見たことがない。いつも通りの世良を見て、行為中の顔を思い浮かべてしまう自分の頭を、今中は殴りつけたくなる。
「あと、おなかもすいちゃった」
 言いながら、今度は冷蔵庫を開ける。家主すらカップ麺を食べているのだ、まともな食材などあるはずもない。
「使えないなぁ。とりあえず、材料もよろしくね」
「材料って……、何作るんですか?」
「それは、今中先生が考えて」
 意味不明な指示に困る今中に、世良はにっと笑った。
「今中先生の得意料理で良いよ。安心して、男の料理レベルでも文句言わないから。大体、今中先生にそんな特技、期待してないし」
 ――何だ、この言い草は……?
 夜分遅くに、他人の部屋を訪ねて好き放題始めたばかりか、材料を買ってきて食事を作れ、とそう仰るのか、この院長サマは……。しかも、腕には大して期待してないとか、何でそんなことまで言われなきゃならないんだ……。
「世良先生……」
「んー?」
「先生にとって、私は一体何なんですか?」
 同じ質問をかつてもした。そのときは、人とすら見ていないような酷い言葉を貰った。
 あれから色々あった。今も同じ回答なら、もうこんな関係は止めよう。
 そう決意し、今中は真面目に世良に問いかける。
「僕にとって今中先生は何か?答えは簡単さ」
 世良は冷蔵庫の前から立ち上がり、今中のところまで来ると、上目遣いで彼を見上げた。
 穏やかな笑顔だった。少しばかりの、誘うような色気を感じてしまうのは、今中の邪心故だろう。
「いつも現場で僕を支えてくれる大事な部下。あと、身体のことだけは結構深く分かり合ってる恋人……、と僕は思ってるんだけど、今中先生はそれじゃ不満?」
 照れもなく言い切った世良に、また『持ち駒』などと言われる覚悟すらしていた今中は、大いに動揺した。しかし、確かに過不足はない。
「心は少しずつ知ってもらえば良いかなって。この年まで来ちゃうと色々あるんだよ。昔、身も心も捧げて失って、今でもまだ、囚われ続けている思いとか、なかなか見せられない僕の弱さとか……、まあ、色々ね」
 『身も心も捧げて失って、今でもまだ、囚われ続けている』――それがきっと、今中がずっともがきながら触れようとしてきた『世良の心の中にぽっかり空いた昏い穴』の正体なのだろう。
 まさか、世良の方から、その部分を言葉にしてくれるなんて……。
 今中の心の中に、世良への愛しさがあふれ出す。
 ――ああ、やっぱり、俺はこの人が好きなんだ。此れからも、この人の一番近くで支えていこう。そして、過去の傷も含めて全部、この人を受け入れて……。
「だからさ、今中先生」
 世良が少しだけ背伸びをして、顔を近づける。
 抱き締めようか、キスをしようか、余り直情的ではない今中が、世良の好みはどちらかと頭を巡らせ始めたとき――
「とりあえず、ご飯が食べたいんだけど」
「はあ?!」
 ――この雰囲気でそれですか?!空気読めないのはどっちですか?!
 唐突に殺到したツッコミに口をぱくぱくさせてしまう今中に、世良は屈託なく笑いかけた。
「これからは、今中先生と一緒に生きていくんだから。いつでも都合よくヤラせてもらえるという考えをまず軌道修正しないと。僕達には、食事の時間も、睡眠時間も、病めるときも、健やかなときもあるんだからね」
 明らかに屁理屈じゃないかという世良節を、彼はこんな言葉で締めくくった。
「という訳で、今中先生の作るご飯が手抜きだったら、今夜は、何もなしで、今中先生を一晩抱き枕にするってことで決定ね」
「え……?!」
 想像するだけで生殺し感満載だ。この半年ですっかり世良に溺れてしまったこの身体が、そんな仕打ちに耐えられるはずがない。
「もたもたしてるとスーパー閉まっちゃうよー。材料買い損ねても、同情の余地はないから」
「行って来ます!」
 財布とコートを引っつかんで飛び出した今中を襲ったのは、冬の極北の吹き荒れる猛吹雪だった。
 相変わらず、酷い暴君だ。
 ――でも……。
『これからは、今中先生と一緒に生きていくんだから』
 そんな言葉で詰まされてしまう自分にはきっと、反論の余地などないのだろう。
 ――抱き枕にでも、何でもすれば良い。それで、あの人が少しでもゆっくり眠れるなら……。
 まあ、願わくば、その前に、食欲と睡眠欲に並ぶ、人間の3大欲求の一つを満たさせていただくことを節に希望する訳だけど。
 その為には、まずは、拙い手料理の披露、という訳だ。
 今中は、数少ないレパートリーを思い出すべく、寒風の中で、頭を捻り始めた。


ここまで読んでくださった方いらっしゃいましたら、ありがとうございます。「何か食べ物頂戴」は、最早うちの今世良の定番オチ…。いつもながら、美和ちゃんdisっててごめんね。腐ってるから、どうにもならんのです。このシリーズは病み世良を沢山書けたのがすっごい楽しかったっていう。
PR
忍者ブログ [PR]