テレビ先生の隠れ家
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プロフィール
HN:
藍河 縹
性別:
女性
自己紹介:
極北市民病院の院長がとにかく好き。
原作・ドラマ問わず、スワンを溺愛。
桜宮サーガは単行本は基本読了済。
連載・短編はかなり怪しい。
眼鏡・白衣・変人は萌えの3種の神器。
雪国在住。大型犬と炭水化物が好き。
原作・ドラマ問わず、スワンを溺愛。
桜宮サーガは単行本は基本読了済。
連載・短編はかなり怪しい。
眼鏡・白衣・変人は萌えの3種の神器。
雪国在住。大型犬と炭水化物が好き。
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ピクシブで黒本完結記念祭という企画があると知って、取り合えず上げてみた、そのとき書いてた話。
確か、本編が切ないから、2次創作で幸せな気持ちになろうみたいな趣旨だったはずなので、空気を読まなさMAX感醸してた…。
今、思えば、この機会に極北世良ちゃんの可愛らしさを布教しても良かったかもなぁ、とか。
確か、本編が切ないから、2次創作で幸せな気持ちになろうみたいな趣旨だったはずなので、空気を読まなさMAX感醸してた…。
今、思えば、この機会に極北世良ちゃんの可愛らしさを布教しても良かったかもなぁ、とか。
さくり、さくり。砂地を踏み、前へ進む。
膝がうまく上がらず、幾度も足を取られそうになった。
降り注ぐ頭上の光。不意に、視界が白に染まる。
鼻腔をくすぐる潮の香り。あの街もこの匂いに満ちていた――
「そんなに急がなくても、花は逃げませんよ」
攻め気味のアクセルに恐れを為して、口を出すと。
「花の命は短いというだろう」
運転席の天城が上機嫌に返す。
「たかだか数分で何が変わるっていうんですか?」
「変わらないかも知れないが……」
――ああ、この流れはまずい。
「ジュノだって、早く見たいだろう?」
――そんな風に目を輝かせて言われたら……。
「……見たいです」
「ビアン」
「うわあ!でも、ホント、安全運転でお願いします!」
「分かっているさ」
絶対、分かってない、と世良はシートベルトを握り締めた。
エンジンも切らずにシートから飛び出すから、慌ててキーを抜き、追いかける。
「ほら、ジュノ!私の言った通りだったろう!」
指し示された花は確かにふわりと綻んでいる。
「ジュノは、寒いから開花はまだ先だと言ったが、こうしてちゃんと咲いている」
「桜の開花は5、6輪咲いた状態を言いますから、厳密にはまだです」
「つまらないことを言うな。花が咲いているんだから、これはもう開花だ」
「まあ、そうですけど」
答えながら、その肩に、出掛けにコンシェルジュが持たせてくれたコートをかけてやる。
天城の植えた桜が咲いていたようだという話を聞くなり、朝食(昼過ぎに寝そべりながら時たま口をつけていたカフェオレと少量の菓子を朝食と呼べば、だが)を中断し、ヴェルデ・モトを走らせてここまで来たのだ。
「ジュノ」
不意に、天城が呼ぶ。
「はい」
「この花が満開になったら、もう一度、海の見える手術室を作りに行こう」
「はい!」
今度こそ、あの国に桜の木を植えに――
不意に身体の前面に衝撃が走り、顔に砂の粒子が襲い掛かってきた。
想像に耽るうちに、砂地に足を取られてしまったようだ。
世良は、砂を払いもせず、身体を起こし座り込む。
同時に、異国の幻想は掻き消えるようになくなった。
残ったのは、鮮烈な記憶として残る満開の若い桜並木の光景だった。
あれを見たときには、ぽかんと口をあけて、さぞかし間抜けな顔をして驚いていたことだろう。
『春になったらドン・キホーテをグラン・カジノまで迎えにくるように』
それは、サプライズを仕掛けられた砂時計だった。
『どこへ行くんですか?』
『それは愚問だ』
そういうところは子供みたいな人だった。
訳も分からず連れて来られた場所を見回し、そこで起こることに呆気に取られる様を見て、悪戯な笑みを浮かべる。
そこに、溢れるような愛情と慈しみを込めていたことを分かってはいるけれど……。
「でも、天城先生。俺は……」
凍て付く高原の冬、打ち砕かれた夢の残骸に囲まれて、自らの無力さに打ちひしがれ、海原の幻影に責め苛まれ続けたあの日々に。
「俺は……、貴方の隣で花を待ちたかったですよ……」
それで運命が変わったかも知れないなんて、傲慢なことは思わないけれど。
ただ、そうしていたかった――
そっと目を閉じると、打ち寄せる波音に包まれる。
もう少し。もう少しだけ。
今は、有り得たかも知れない日々の夢を見ていたかった。
遠くで、誰かの呼ぶ声が聞こえた――
何で、「春になったら」なんだろうと連載時から思ってたのですが、単行本のラストを読んで、ああ、満開の桜を見せて吃驚させたかったんだなぁ、って分かって、天城先生のそういうところを可愛いなぁ、と思うのだけど、私は、その時間は二人で「花が咲くの楽しみですね」って言い合いながら過ごして欲しかったよ、って気持ちで、こんな話。
一応、舞台は神威島のつもりです(この後、漁師さんが来る)
膝がうまく上がらず、幾度も足を取られそうになった。
降り注ぐ頭上の光。不意に、視界が白に染まる。
鼻腔をくすぐる潮の香り。あの街もこの匂いに満ちていた――
「そんなに急がなくても、花は逃げませんよ」
攻め気味のアクセルに恐れを為して、口を出すと。
「花の命は短いというだろう」
運転席の天城が上機嫌に返す。
「たかだか数分で何が変わるっていうんですか?」
「変わらないかも知れないが……」
――ああ、この流れはまずい。
「ジュノだって、早く見たいだろう?」
――そんな風に目を輝かせて言われたら……。
「……見たいです」
「ビアン」
「うわあ!でも、ホント、安全運転でお願いします!」
「分かっているさ」
絶対、分かってない、と世良はシートベルトを握り締めた。
エンジンも切らずにシートから飛び出すから、慌ててキーを抜き、追いかける。
「ほら、ジュノ!私の言った通りだったろう!」
指し示された花は確かにふわりと綻んでいる。
「ジュノは、寒いから開花はまだ先だと言ったが、こうしてちゃんと咲いている」
「桜の開花は5、6輪咲いた状態を言いますから、厳密にはまだです」
「つまらないことを言うな。花が咲いているんだから、これはもう開花だ」
「まあ、そうですけど」
答えながら、その肩に、出掛けにコンシェルジュが持たせてくれたコートをかけてやる。
天城の植えた桜が咲いていたようだという話を聞くなり、朝食(昼過ぎに寝そべりながら時たま口をつけていたカフェオレと少量の菓子を朝食と呼べば、だが)を中断し、ヴェルデ・モトを走らせてここまで来たのだ。
「ジュノ」
不意に、天城が呼ぶ。
「はい」
「この花が満開になったら、もう一度、海の見える手術室を作りに行こう」
「はい!」
今度こそ、あの国に桜の木を植えに――
不意に身体の前面に衝撃が走り、顔に砂の粒子が襲い掛かってきた。
想像に耽るうちに、砂地に足を取られてしまったようだ。
世良は、砂を払いもせず、身体を起こし座り込む。
同時に、異国の幻想は掻き消えるようになくなった。
残ったのは、鮮烈な記憶として残る満開の若い桜並木の光景だった。
あれを見たときには、ぽかんと口をあけて、さぞかし間抜けな顔をして驚いていたことだろう。
『春になったらドン・キホーテをグラン・カジノまで迎えにくるように』
それは、サプライズを仕掛けられた砂時計だった。
『どこへ行くんですか?』
『それは愚問だ』
そういうところは子供みたいな人だった。
訳も分からず連れて来られた場所を見回し、そこで起こることに呆気に取られる様を見て、悪戯な笑みを浮かべる。
そこに、溢れるような愛情と慈しみを込めていたことを分かってはいるけれど……。
「でも、天城先生。俺は……」
凍て付く高原の冬、打ち砕かれた夢の残骸に囲まれて、自らの無力さに打ちひしがれ、海原の幻影に責め苛まれ続けたあの日々に。
「俺は……、貴方の隣で花を待ちたかったですよ……」
それで運命が変わったかも知れないなんて、傲慢なことは思わないけれど。
ただ、そうしていたかった――
そっと目を閉じると、打ち寄せる波音に包まれる。
もう少し。もう少しだけ。
今は、有り得たかも知れない日々の夢を見ていたかった。
遠くで、誰かの呼ぶ声が聞こえた――
何で、「春になったら」なんだろうと連載時から思ってたのですが、単行本のラストを読んで、ああ、満開の桜を見せて吃驚させたかったんだなぁ、って分かって、天城先生のそういうところを可愛いなぁ、と思うのだけど、私は、その時間は二人で「花が咲くの楽しみですね」って言い合いながら過ごして欲しかったよ、って気持ちで、こんな話。
一応、舞台は神威島のつもりです(この後、漁師さんが来る)
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