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テレビ先生の隠れ家
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藍河 縹
性別:
女性
自己紹介:
極北市民病院の院長がとにかく好き。
原作・ドラマ問わず、スワンを溺愛。
桜宮サーガは単行本は基本読了済。
連載・短編はかなり怪しい。
眼鏡・白衣・変人は萌えの3種の神器。
雪国在住。大型犬と炭水化物が好き。
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まあ、タイトルの通りです。暫くは、こんな感じで、原作シーンを辿りながら書いてく感じになると思います。
あんまり得意じゃない、というか、原作汚してる気分になる(気分どころか、してるよ)けど、この辺の高階さんの気持ちって結構掘り下げてみたい欲が…。

拍手[3回]


「新しく教室員になる先生をご紹介する。天城雪彦先生だ」
 佐伯教授の言葉は細波となって、室内を駆け抜けていく。
 端正な作りの顔立ち、飛び抜けた長身、白衣を纏った医師達の間で妙に目を引く黒い服、滑らかな口調、挑発的な言葉の応酬――黒崎と垣谷がやりこめられていくのを目にするに当たって、高階はとうとう口を開いた。
 男の目が高階を捕らえる。
「あなたは?」
「講師の高階です」
 そう名乗ると、彼は滔々とハートセンターについて語り始めた。とんでもない話なのに、この男の口を借りるとさも簡単なことのように聞こえるのが不思議だった。この自信と楽天的な思考は何処から来るのかと思うほどだ。
 しかも、彼の術式を巡って、到底考えられない雇用形態まで明らかになり、高階はますますその人となりが分からなくなる。彼の行動原理も佐伯外科に対するスタンスもいまいちつかめない。
 何だか煙に巻かれたような気持ちになる高階の目を剥かせたのは、天城が世良の名を上げたことだった。教室中の視線に曝された世良は、居た堪れない表情で下を向いている。
「世良君はそれでいいのか?」
 思わず、口調に棘が混じったのが自分でも分かった。
 ――但し、ちゃんと私のところへ戻ってくること。
 その言葉に、世良は頷いたのではなかったか……。
 初めて肌を重ねたあの日、そんな約束をして、昼も夜も近くに置いておきたい気持ちを抑えて、彼を送り出した。東京の外科学会で顔を会わせたときも、軽く目を合わせて、互いの存在を認めただけで別れた。
 それは、世良雅志という駆け出しの外科医の将来を思えばこその決断だった。
 なのに、やっと腕の中に戻ってくるはずだった彼は、また何処かへ連れ去られようとしている。それは、以前に持った感覚と似ていた――オペ室の悪魔と呼ばれていた男に、世良が急速に惹き付けられていったあのとき。
 高階が愕然としている間に、佐伯病院長の号令で場は散会した。黒崎が忌々しそうに自分と垣谷、そして、世良の名を呼んだことに少し感謝する。自分もまた、この状況の説明を欲していたのだと気づく。天城はスマートに立ち上がり去っていく。退出際、世良に向けて二本指敬礼をする様はひどく気障で、何だか無性に苛立った。
 場は黒崎の怒りが垣谷に向かう形になる。
 その遣り取りで、佐伯病院長の真意はともかく、国際学会の傍らで行われたミッションは理解できた。世良は無言で、首を動かすだけで自分の意思を示している。怒気を荒げる黒崎に直接攻撃を受ければ、一研修医としてはそうならざるを得ないだろう。自分が率先して問い詰めたい気持ちを抑える。
 垣谷を叱り付けた黒崎の矛先が高階に向く。
「私は今回の人事については、相談を受けてませんし、容認もしてません」
「ならば、認めないつもりか」
 きっぱりと断じた高階を黒崎が追及する。
 高階にはそこまでの権限はない。だが、ただ忠実に病院長の命に従っただけで、気づけば、突然招聘された医師と組まされ、それ故に、教室中から睨まれる結果になった世良は余りにも哀れだった。
「佐伯教授の指示に従うと、心臓血管グループの一員としてシニア研修を行うことになるが、それでいいのかい?」
 世良が否定すれば、話は終わる――はずだった。幾ら、佐伯病院長といえど、一人の外科医の未来を潰すことは出来ない。高階が本人の希望を盾に立ち回れば、病院長命令すら撤回できると踏んでの問いかけだった。
 世良の縋るような視線が高階に向けられる。頷きそうに開かれた口が、不意に止まった。高階の中に悪い予感が広がる。咄嗟に、どうしたのか尋ねようとした高階の前で、世良が真っ直ぐな視線を向けた。愛しい、可愛い教え子の、そして、恋人の眼差しに、言いかけた言葉が止まる。
「自分は佐伯教授のご指示に従います」
 どんな顔でその返事を聞いたか、まるで記憶にない。そんなことはまるで予想していなかった。
 黒崎が、天城と世良に対し心臓血管グループとして下した措置すら、ろくに耳に入らなかった。ただ、それを聞いた世良が明らかに怯えの表情を見せたのだけは感じ取れた。
「その気になればいつでも腹部外科グループへ戻っておいで」
 出掛けに声をかけると、彼は泣きそうな表情になった。
 高階はカンファレンスルームを出ると同時に、溜めていた息を深々と吐き出した。内心に渦巻く、疑問と不満を全て追い出せるものならと願う。
 しかし、仄暗い感情は止め処なく湧き、高階を蝕む。
 ――将来、腹部外科を専門にするにしても、血管を扱う技術は身につけておいた方がいい。
 なんだ、この物分りのいい言い回しは……。自分の使った言葉に吐き気さえした。
 戻って来い、と何故言えない?
 あんな人間に付いたら、身の破滅だと――
 答えは分かっている。
 自分の立場と都合だけで相手を思うままに扱おうとする人間を、世良は決して尊敬しないと知っているからだ。
 世良が自分に憧れているのは知っている。
 その想いが失望に変わるのを見たくないからだ。
 ――私のこんな狭量な心を知ったら、君は……。
 尊敬されるような人間でないことなど、自分が一番良く分かっている。
 世の中には、正真正銘の天才というものが存在する。
 そして、導かれるべき人間は、知らず、惹き付けられるのだ。
 例えば、かつてこの大学病院のオペ室に居た悪魔のように――
「天城雪彦……」
 その端正で上品な風貌は、似ても似つかないが。
 穏やかな物腰や、余裕溢れる態度、それらを消し去った後に残る何かに。
 同じ匂いを感じる、と言ったら考え過ぎだろうか?
 高階は目を閉じ、小さく首を振った。


あの高階さんの人間性の高さを思わせる台詞に、嫌な解釈つけてすみません…。
でも、既にこの時点で、世良ちゃんの天城先生への思いに、渡海先生の存在重ね合わせて、複雑な気分になっていたら良い。


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