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テレビ先生の隠れ家
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プロフィール
HN:
藍河 縹
性別:
女性
自己紹介:
極北市民病院の院長がとにかく好き。
原作・ドラマ問わず、スワンを溺愛。
桜宮サーガは単行本は基本読了済。
連載・短編はかなり怪しい。
眼鏡・白衣・変人は萌えの3種の神器。
雪国在住。大型犬と炭水化物が好き。
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後編です。最後の部分はオマケというか、趣味と言うか(笑)


 

拍手[5回]


 高階は世良を見る。
 そうじゃなくて、ゆっくりしていけば良いと言いたかっただけで、などと必死に弁解する部下をからかう世良は、本当に寛いだ表情をしている。
 病院を再建するなどと簡単に言うが、その苦労は並大抵ではないだろう。
 健全な経営を行っている病院の赤字を建て直す三船事務長すら、現場に恨まれ、あそこまで四苦八苦しているのだ。
 中央の省庁は勿論、市役所の役人、切り捨てた職員、場合によっては、善良な医師、果ては、市民――患者すら敵に回さなければならないこともあるだろう。
 支払いの滞っていた患者の診療を拒否して死亡させたとマスコミの袋叩きに遭っていたのも、そこまで前のことではない。
 ――もっと、苦しそうな顔をしていると思っていました……。
 高階は、屈託なく笑う世良に向かって、心の中で呟く。
「そんな顔しないで下さい、高階先生」
 ふと、こちらを見た世良が穏やかに笑った。
「色々ありましたけど、ここを出て行ったからこそ、僕は今、貴方を助けることが出来るんです。結局、全部、必然だったんでしょう」
 高階は目を見張る。
 あのとき、全てを捨てて失踪することしか出来なかった世良の口から出た言葉とは思えなかった。
 ――それも、彼のお陰ですか……?
 そんなことを思ってしまう自分に呆れる。
 全く、おこがましい。
「じゃあ、高階先生、細かい打ち合わせは僕が直接事務長としますから、連絡だけ入れておいてもらえますか?」
 世良の頭は既に、病院を倒産させ再建させるという秘策の方に向かっているようだ。
「解りました」
「あ、そうだ。ついでに、手の空いている内科医一人とストレッチャーもつけてくれませんか。事務長に突然こんな話して、倒れられても困りますから」
 更に、冗談か本気か解らないことを言った世良は、ドアへと歩き去っていく。
 高階は、二人の道がもう交わることがないことに微かな痛みを伴いながら、それを見つめた。
「今中先生」
 慌てて世良についていこうとする今中を、呼び止める。
「世良君をお願いします」
 面くらいながらも、生真面目に頷く今中を見ていたら、ふと悪戯心が湧いた。
「そうだ、今中先生。世良君が手に負えないようなら、『ジュノ』と言ってみてください」
「ジュノ?何ですか、それは?」
 高階はにまりと笑う。
「世良君を大人しくさせる魔法の呪文です」
 澄まして言った高階に、今中は困りながらも、先に行った世良が気になるのか、一つお辞儀をして病院長室を出て行った。
 高階は急に静かになった室内を見渡し、真顔に戻る。
「さて、と……」
 やることなら山のようにある。
 まずは、マスコミの前で涙の一つでも流してみせようか。
 そんなことを考えながら、高階は、世良の指示に従うべく、受話器を手に取った。


「今中先生、まだ出来ないの?僕の方は、総務省に提出する書類一式終わっちゃったよ」
 世良の呆れたような声に、今中は半ば乾いてきた目を瞬かせながら、残りの山を恨めしく見る。
「そんなに急ぐなら、キーパンチャーでも雇ってください。私にはこれが限界です……」
 そうでなくても、見慣れない帳簿に四苦八苦しているのだ。
 7つの――いや、極北市民病院を入れれば8つか――病院を再建した人間と一緒にされても困る。
「今中先生が暇だ暇だっていうから、仕事あげたのに。ちゃんとやったら、感謝されるよー、東城大の医者にも患者にもさ」
 しれっと言うが、今中がやりたい仕事は外科医としての本分だということをこの人は理解しているのだろうか。
 ――まあ、大したものとは思うけど……。
 こんな作業をしていると、世良がどれほど経済や法律に精通しているかということがわかる。
 何年かは外科医をやったというが、これらは独学だったのだろうか。
「ちょっと、仮眠取らせてください。もう、目が限界……」
「情けないなぁ。時間がないってことわかってる?」
 ――そんなこと言われたって、大体、これ、貴方が引き受けた仕事でしょうが!
 自分は、極北市民病院の中では部下ではあるが、病院再建請負人の方には無関係だ。
 反論しようとした今中の頭にふと、東城大の病院長の言葉が蘇った。
『世良君を大人しくさせる魔法の呪文です』
 むっとした勢いで、言葉が口をついた。
「少しくらい、いいじゃないですか――『ジュノ』」
 バサバサと落下する音に、今中の方が驚いた。見れば、真っ赤な顔の世良が腕に抱えていたバインダーを腕から取り落としていた。
「……にっ、2時間だけだからね!その後は、僕もやるから!のっ、喉渇いたから、何か飲んでくる!」
 効果覿面とはこのことだろう。
 今中はぽかんと、病院長室を飛び出していくその背を見送った。
 ――何なんだ、『ジュノ』って……?
 ジューンじゃないし、ジュノンじゃないし、と悩み始めた今中は、結局一睡も出来ずに2時間後を迎えることになった。


高階さんが天城先生を思い出させるようなことを言うかなぁ、とも思ったのですが、「ジュノ」って単語に動揺する世良ちゃんを書きたかったので、それを天然で言えるのは今中先生しかいないよなぁ、という発想。
うちの今世良は両片思いなので(笑)、亀裂を作ってやりたかったんですよ、高階さんは、きっと。
ベロス発売まで、あと20日。しらぐちシリーズの新刊待つのは初めてです。楽しみ過ぎて、たまに吐きそうになる。いや、本当に(笑)

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