テレビ先生の隠れ家
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プロフィール
HN:
藍河 縹
性別:
女性
自己紹介:
極北市民病院の院長がとにかく好き。
原作・ドラマ問わず、スワンを溺愛。
桜宮サーガは単行本は基本読了済。
連載・短編はかなり怪しい。
眼鏡・白衣・変人は萌えの3種の神器。
雪国在住。大型犬と炭水化物が好き。
原作・ドラマ問わず、スワンを溺愛。
桜宮サーガは単行本は基本読了済。
連載・短編はかなり怪しい。
眼鏡・白衣・変人は萌えの3種の神器。
雪国在住。大型犬と炭水化物が好き。
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宣戦布告。
似合わない、そんなことまでしてしまうほどに、自分はあの男が嫌いだった。ポリシーを憎み、立ち位置を恨み、彼の持つもの全てを嫌った。
『スリジエ・ハートセンター』――決して、咲かせてはならない花。それは、医療の世界に経済原理を取り込み、既存システムの秩序を滅茶苦茶にしてしまう危険を孕んでいた。幾ら言葉を尽くしても高階の主張は天城に一蹴され、彼の言い分は自分には理解不能だった。決して、容認できないモンスターがそこに居た。
そして――
『行くぞ、ジュノ』
数歩前方から、当り前のように呼ばれる渾名。佐伯の前ですら堂々と呼ぶので、最早、その呼び方に疑問を持つ者は居ない。
――自分の所有物だとでも言うつもりか……。
天城が実際にどう思って、世良をそう呼んでいたのかは知らない。
だが、高階にはそうとしか感じられなかった。
天城が、年度が改まっても一向にやる気を見せる様子もなく、たった一度の公開手術以降、目立った業績を上げないのを理由に、佐伯に直談判して世良を手元に呼び戻すまでの1年、自分達の関係はどう贔屓目に見ても良好とは言えなかった。天城はプライバシーには首を突っ込まない主義らしく、世良と会う時間はそれなりに確保出来たものの、全くと言って良いほど話は弾まない。他愛ない医局の話をしようにも、世良の業務は天城との時間に占められ、その話題を高階が望まないことを知る世良の口は自然と重くなる。
結局、数杯のグラスを空けた後、酔いに任せて身体を重ねるばかりになると、会いたいと思いながらも、誘うのが躊躇われ、次第に逢瀬の機会は遠のいた。
初めて思いを通わせたときの、あの満足感は何処に行ったのかと思うほどに、互いの思いは色褪せていった。
いや、色褪せた訳ではない。
彼を求める気持ちは今でも、胸の奥に燻っている。
それは醜い色をした、激しい炎の形をしている。
押し込めようとしても、時々顔を出し、高階の意志を超えて暴れまわる。直視するのも嫌気が差すような、醜い嫉妬の色。天城は、何時だって高階の手の届かない場所に居る。そして、世良が彼に魅せられてしまっているのはもう明らかだった。天城の手技に憧れ、天城の思想に賛同し、天城の夢に同調している――
それは高階には止められないし、引き剥がすことも出来ない。
だからこそ、高階はその道を選んだ。
自らの手を汚し、利ある者に恨まれようとも。
日本の医療のために、スリジエセンター創設を阻む道を選び取ったのだ――
「わかったか、ジュノ。私のダイレクト・アナストモーシスなら支障はないだろう?」
膠着したカンファレンスを救ったのは、天城の癇に障る笑い声だった。
「この手術を引き受けて下さるということは、天城先生は方針転換されたんですね」
思わず口を挟んだ高階に、天城が説明を求める。
患者に資産がないことを伝えたが、天城は屁理屈のような発言を返してきた。
それは、無料で手術をするという意味に等しく、高階は完全に絶句してしまう。
まさか、彼がそんなことを自分から言い出すとは思わなかった。
高階を黙らせた天城は、佐伯に対して『お願い』事を述べ始めた。
「まず手術当日まで、世良医師をスリジエ直属に戻していただきたい」
その申し出は高階にはとても不思議だった。所属こそ高階の腹部外科グループに戻ったはずの世良だが、業務はスリジエセンター創設のための手伝いという位置付けだ。
裏に何か思惑があるのかも知れないと警戒する高階に、天城はあっさりと言った。
「ボスがふたりいると部下が混乱しますので」
その意味を掴みかねた高階は、世良に返事を求めることで了承した。
それ以上、深く考えることもしなかった。だが、それは過ちだった。
世良の心中を正確に把握していたのは天城の方だった。
考えてみれば、この1年、天城の方が世良と共に居た時間は長いし、それ以上に、敵だらけの地で孤軍奮闘する革命児だからこそ見えたのかも知れない。世良という、たった一人の味方を欲する気持ちは天城の方が遥かに強く持っていたのだろう。
「第二に、来週水曜予定のこの手術は、四月末の日曜に延期していただきたい」
突然、世良があっと叫ぶ。高階も僅かに遅れて、その結論に行き着いた。
「ジュノ、わかったか?これが天命、というものさ」
得意そうに笑う天城に、世良が大きく頷く。
茫然としてはいるが、その頬は紅潮し、目は輝いていた。その表情を見た高階は、自分の気持ちにどす黒いものが広がるのを感じる。
「以上で症例カンファレンスは終了する。解散」
言うや否や、黒崎が苛立った足取りで教室を出て行った。高階は引き寄せられるように世良の隣へと移動した。
「天城先生は世良君にご執心のようだ。仕方ないからゴールデンウィークまで天城先生に仕え、その後は気持ちをきっぱり入れ替えなさい。そうしないと世良君は、日本の医療には戻れなくなってしまうよ」
幾ばくかの嫌味が混じっていたのが自分でも分かった。
世良の所為ではないと知りながら――いや、逃げ道を作っても、安易にそこから逃れようとしない彼を詰りたかったのかも知れない。
「高階先生、男の嫉妬は見苦しいですな」
脈絡のない天城の言葉は、紛れもない真実を言い当てていた。
しかし、だからこそ尚更、高階はそれを認められなかった。
天城に対しては愚か、自らに対しても、頷くことは出来なかったのだ。
満員の大講堂は、興奮と熱狂が支配していた。
高階は脇に設えられた関係者用の席から一部始終を眺めていた。
一度は、公開手術を諦めるしかない事態にまで追い込み、桜宮医師会を敵に回して、スリジエ創設を阻むという目論みは磐石に見えた。
なのに、あっという間に、全ての舞台は整い、そこで天城雪彦は完璧に踊ってみせた。気づけば、そこにスリジエセンターへの道すら見えそうな気がする。
――何故だ……。
経済原理を元にした医療など有り得ない。
あんな人間が創るものがこの国に光明をもたらすはずがない。
「神さまみたいな先生だな、あんた」
公開手術などという茶番に母親を差し出した梶谷孝利が、最後に天城に向けていった言葉。そこに浮かんでいたものは、医師であれば誰でも望む、家族を救われた喜びに満ちていた。
「スリジエセンター創設の件に関し、桜宮市医師会はこれまで反対姿勢で臨んでおりました。しかし本日、天城先生の素晴らしい技量、患者第一に考えておられる高邁な精神に直接触れ、いたく感銘を受けました」
桜宮市医師会の真行寺会長を表舞台に引っ張り出し、スリジエセンターを肯定させる。
まるで、仕組まれたシナリオをなぞっているかのような出来過ぎな物語。一度は、絶望的な状態に追い込んだことを知る高階だからこそ、その起死回生の華麗さに愕然とせずには居られない。カンファレンスの席で、『天命』と天城は口にした。思わず、それを呑み込みそうになって踏みとどまる。
「第一ラウンド、私の仕掛けはことごとく無効化されてしまいました。だがこれは小手調べ。ここからが本番ですから、お覚悟を」
高階は舞台に残る二人に背を向けた。天城の隣りに立つ世良はいつも、その突拍子もない行動に振り回され困り果てながらも、彼の起こす奇跡に憧憬を隠さずに傍に居る。
今もきっと、誇らしげな顔で天城を見つめているに違いない。
そう切り捨てた高階は、だから、知らなかった。
背を向ける高階を世良が切なそうに見た視線。
そして、それを見た天城が小さく溜め息を吐いたのも。
高階の思いは、天城というヒールに収束していく。あの男の企みを阻止しなくては。そうすれば、全ては元通りになる。天城雪彦の巻き起こした波紋をなかったことに出来る――そう信じて、次の一手へと思いを巡らせた。
相変わらず、原作から台詞引っ張り出してくるのはいまいち恥ずかしいんですが…。裏ではこんな思惑が交差してたんだよって好き勝手解釈でございます。
似合わない、そんなことまでしてしまうほどに、自分はあの男が嫌いだった。ポリシーを憎み、立ち位置を恨み、彼の持つもの全てを嫌った。
『スリジエ・ハートセンター』――決して、咲かせてはならない花。それは、医療の世界に経済原理を取り込み、既存システムの秩序を滅茶苦茶にしてしまう危険を孕んでいた。幾ら言葉を尽くしても高階の主張は天城に一蹴され、彼の言い分は自分には理解不能だった。決して、容認できないモンスターがそこに居た。
そして――
『行くぞ、ジュノ』
数歩前方から、当り前のように呼ばれる渾名。佐伯の前ですら堂々と呼ぶので、最早、その呼び方に疑問を持つ者は居ない。
――自分の所有物だとでも言うつもりか……。
天城が実際にどう思って、世良をそう呼んでいたのかは知らない。
だが、高階にはそうとしか感じられなかった。
天城が、年度が改まっても一向にやる気を見せる様子もなく、たった一度の公開手術以降、目立った業績を上げないのを理由に、佐伯に直談判して世良を手元に呼び戻すまでの1年、自分達の関係はどう贔屓目に見ても良好とは言えなかった。天城はプライバシーには首を突っ込まない主義らしく、世良と会う時間はそれなりに確保出来たものの、全くと言って良いほど話は弾まない。他愛ない医局の話をしようにも、世良の業務は天城との時間に占められ、その話題を高階が望まないことを知る世良の口は自然と重くなる。
結局、数杯のグラスを空けた後、酔いに任せて身体を重ねるばかりになると、会いたいと思いながらも、誘うのが躊躇われ、次第に逢瀬の機会は遠のいた。
初めて思いを通わせたときの、あの満足感は何処に行ったのかと思うほどに、互いの思いは色褪せていった。
いや、色褪せた訳ではない。
彼を求める気持ちは今でも、胸の奥に燻っている。
それは醜い色をした、激しい炎の形をしている。
押し込めようとしても、時々顔を出し、高階の意志を超えて暴れまわる。直視するのも嫌気が差すような、醜い嫉妬の色。天城は、何時だって高階の手の届かない場所に居る。そして、世良が彼に魅せられてしまっているのはもう明らかだった。天城の手技に憧れ、天城の思想に賛同し、天城の夢に同調している――
それは高階には止められないし、引き剥がすことも出来ない。
だからこそ、高階はその道を選んだ。
自らの手を汚し、利ある者に恨まれようとも。
日本の医療のために、スリジエセンター創設を阻む道を選び取ったのだ――
「わかったか、ジュノ。私のダイレクト・アナストモーシスなら支障はないだろう?」
膠着したカンファレンスを救ったのは、天城の癇に障る笑い声だった。
「この手術を引き受けて下さるということは、天城先生は方針転換されたんですね」
思わず口を挟んだ高階に、天城が説明を求める。
患者に資産がないことを伝えたが、天城は屁理屈のような発言を返してきた。
それは、無料で手術をするという意味に等しく、高階は完全に絶句してしまう。
まさか、彼がそんなことを自分から言い出すとは思わなかった。
高階を黙らせた天城は、佐伯に対して『お願い』事を述べ始めた。
「まず手術当日まで、世良医師をスリジエ直属に戻していただきたい」
その申し出は高階にはとても不思議だった。所属こそ高階の腹部外科グループに戻ったはずの世良だが、業務はスリジエセンター創設のための手伝いという位置付けだ。
裏に何か思惑があるのかも知れないと警戒する高階に、天城はあっさりと言った。
「ボスがふたりいると部下が混乱しますので」
その意味を掴みかねた高階は、世良に返事を求めることで了承した。
それ以上、深く考えることもしなかった。だが、それは過ちだった。
世良の心中を正確に把握していたのは天城の方だった。
考えてみれば、この1年、天城の方が世良と共に居た時間は長いし、それ以上に、敵だらけの地で孤軍奮闘する革命児だからこそ見えたのかも知れない。世良という、たった一人の味方を欲する気持ちは天城の方が遥かに強く持っていたのだろう。
「第二に、来週水曜予定のこの手術は、四月末の日曜に延期していただきたい」
突然、世良があっと叫ぶ。高階も僅かに遅れて、その結論に行き着いた。
「ジュノ、わかったか?これが天命、というものさ」
得意そうに笑う天城に、世良が大きく頷く。
茫然としてはいるが、その頬は紅潮し、目は輝いていた。その表情を見た高階は、自分の気持ちにどす黒いものが広がるのを感じる。
「以上で症例カンファレンスは終了する。解散」
言うや否や、黒崎が苛立った足取りで教室を出て行った。高階は引き寄せられるように世良の隣へと移動した。
「天城先生は世良君にご執心のようだ。仕方ないからゴールデンウィークまで天城先生に仕え、その後は気持ちをきっぱり入れ替えなさい。そうしないと世良君は、日本の医療には戻れなくなってしまうよ」
幾ばくかの嫌味が混じっていたのが自分でも分かった。
世良の所為ではないと知りながら――いや、逃げ道を作っても、安易にそこから逃れようとしない彼を詰りたかったのかも知れない。
「高階先生、男の嫉妬は見苦しいですな」
脈絡のない天城の言葉は、紛れもない真実を言い当てていた。
しかし、だからこそ尚更、高階はそれを認められなかった。
天城に対しては愚か、自らに対しても、頷くことは出来なかったのだ。
満員の大講堂は、興奮と熱狂が支配していた。
高階は脇に設えられた関係者用の席から一部始終を眺めていた。
一度は、公開手術を諦めるしかない事態にまで追い込み、桜宮医師会を敵に回して、スリジエ創設を阻むという目論みは磐石に見えた。
なのに、あっという間に、全ての舞台は整い、そこで天城雪彦は完璧に踊ってみせた。気づけば、そこにスリジエセンターへの道すら見えそうな気がする。
――何故だ……。
経済原理を元にした医療など有り得ない。
あんな人間が創るものがこの国に光明をもたらすはずがない。
「神さまみたいな先生だな、あんた」
公開手術などという茶番に母親を差し出した梶谷孝利が、最後に天城に向けていった言葉。そこに浮かんでいたものは、医師であれば誰でも望む、家族を救われた喜びに満ちていた。
「スリジエセンター創設の件に関し、桜宮市医師会はこれまで反対姿勢で臨んでおりました。しかし本日、天城先生の素晴らしい技量、患者第一に考えておられる高邁な精神に直接触れ、いたく感銘を受けました」
桜宮市医師会の真行寺会長を表舞台に引っ張り出し、スリジエセンターを肯定させる。
まるで、仕組まれたシナリオをなぞっているかのような出来過ぎな物語。一度は、絶望的な状態に追い込んだことを知る高階だからこそ、その起死回生の華麗さに愕然とせずには居られない。カンファレンスの席で、『天命』と天城は口にした。思わず、それを呑み込みそうになって踏みとどまる。
「第一ラウンド、私の仕掛けはことごとく無効化されてしまいました。だがこれは小手調べ。ここからが本番ですから、お覚悟を」
高階は舞台に残る二人に背を向けた。天城の隣りに立つ世良はいつも、その突拍子もない行動に振り回され困り果てながらも、彼の起こす奇跡に憧憬を隠さずに傍に居る。
今もきっと、誇らしげな顔で天城を見つめているに違いない。
そう切り捨てた高階は、だから、知らなかった。
背を向ける高階を世良が切なそうに見た視線。
そして、それを見た天城が小さく溜め息を吐いたのも。
高階の思いは、天城というヒールに収束していく。あの男の企みを阻止しなくては。そうすれば、全ては元通りになる。天城雪彦の巻き起こした波紋をなかったことに出来る――そう信じて、次の一手へと思いを巡らせた。
相変わらず、原作から台詞引っ張り出してくるのはいまいち恥ずかしいんですが…。裏ではこんな思惑が交差してたんだよって好き勝手解釈でございます。
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