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テレビ先生の隠れ家
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プロフィール
HN:
藍河 縹
性別:
女性
自己紹介:
極北市民病院の院長がとにかく好き。
原作・ドラマ問わず、スワンを溺愛。
桜宮サーガは単行本は基本読了済。
連載・短編はかなり怪しい。
眼鏡・白衣・変人は萌えの3種の神器。
雪国在住。大型犬と炭水化物が好き。
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いや、実はこれも元ネタはフォロワーさんが呟いていたものなんですが…。
雑貨屋は桜の入浴剤で一棚できてて、これ、一人暮らしのときだったら、片端から試してたかもなぁ、なんて。
当時はなかったと思うのですが、ま、そこは大目に見ていただければ、と。

拍手[5回]


「よしっ!」
 世良は、湯船にお湯が十分に溜まったのを確認して、蛇口を閉めた。
 ポケットから小さな袋を取り出し、天城の様子を確認する。
 ――こっちのことは気にしていない。今のうちに……。
 いまいち落ち着かないままリビングに戻ると、ソファで寛ぐ天城が目に入った。昨夜からこの部屋に居るが、この人、此処から殆んど動いていないんじゃないだろうか?自分が居ないときは一体どうしているんだろうか?
「天城先生、お風呂沸きました」
「いつもシャワーで済ませるジュノが自分から張り切って掃除をするなんて、どういう風の吹き回しだ?」
 身体を起こして、興味津々で尋ねられると何だか恥ずかしい。
 そこまで張り切っていた覚えはないんだけど。
 大体、この人だってシャワー派の癖に。
「何か、楽しい趣向でもある訳か?」
 ――周囲に無頓着かと思えば、なかなかに目敏い。
 全く、この人には敵わない。
 ハードルが上がってなきゃ良いけど、と思いながら頷いた。


「桜だ!桜だ、ジュノ」
 はしゃいだ声に、期待に添えたという安心が半分、照れ臭さが半分。感情を隠すため、世良はわざと声を張り上げる。
「ただの入浴剤です。そんな大袈裟に騒ぐほどのものじゃありません!」
 まあ、世良だって、こんなものがあることは昨日まで知らなかったのだが。
 天城が事ある毎に桜のことを口にするようになったのは2月も下旬の頃からだった。
 好きだ好きだとは言っていたが、まさか、そんなに開花を心待ちにしているとは思わなくて、世良は内心驚いていた。よくよく聞いてみると、海外生活が長過ぎて、もう何年も桜を見ていないのだと分かり、それでもいまいち解せないながらも、まだまだ1月近くもあることに、世良まで少し残念な気持ちになっていたときだった。
 いっそ、造花でも置いたらどうかなんて思って、控え室で一緒になったときに花房にちらりと相談したら、「じゃあ、こういうのはどうですか?」と彼女が教えてくれたのがこの入浴剤だった。
 桜の香り、らしいが世良にはいまいちぴんと来ない。
 しかし、色と形は見間違えようもない。
 桜の花弁を模したそれは、落ちたばかりの花が水面に広がっているようでなかなかによく出来ている。
「とても美しい」
 うっとりと花弁を見る天城の満足そうな表情に、世良まで何だか幸せな気分になってきた。
「とにかく、冷めないうちに入ってくださいね」
 放っておいたら何時までも水面を見つめていそうな天城に促すと、不意にその長い指がそっと花弁を掬う仕草にどきりとして、慌ててリビングへと踵を返した。
 ――な、何で俺が赤くなってるんだ……。
 時々、さり気無い仕草に妙に色気を漂わせていて、一人でどきどきしている自分が嫌だ。こんな風に考えてるなんて、絶対に知られる訳には……。
「ジュノ!!」
「はい!」
 バスルームから呼ぶ声に、世良は飛び上がる。懸命に呼吸を整え、何とか表情を取り繕った。
「な、何ですか、大声出して……」
 動揺を押し殺しながら顔を出すと、そこには茫然とする天城が居た。
 先ほどの姿勢のまま、指先だけをお湯につけて、服を脱ごうとした様子すらない。
「まだ、そのままで……」
「ジュノ……」
 先ほどとは打って変わった力ない声に、世良は目を瞬かせる。
 天城の長身が少し縮んだようにすら見えた。
「桜が……、溶けてしまった……」
 言われて、バスタブを覗いた世良は納得する。
「そりゃ、そうでしょう、入浴剤なんですから」
 花弁が消えたお湯は仄かなピンク色になり、桜かどうかは分からないが、微かな良い香りが浴室を満たしている。
「私は、花弁の浮かぶ風呂に入れると思ったんだ」
「そんなこと言っても、溶けなかったら、排水溝が詰まるじゃないですか」
「流す前に掬えば良い」
「それやるの、俺じゃないですか!嫌ですよ!」
 そもそも、この入浴剤はこういう仕様なのだから仕方ない。
 遣り取り自体が不毛なのでは、と思い始めた頃、不意に天城が立ち上がった。
「決めた、溶けない桜を見に行くぞ、ジュノ!」
「え?!」
 足早に浴室を出ようとした天城の足が止まる。
 今度は何だと思っていたら、振り返ったその顔に無邪気な笑みが浮かんでいて、世良は完全に動けなくなった。
「と思ったが、その前にジュノの咲かせてくれた桜風呂に入らないとな」
「……!!」
 咄嗟に切り返すことも出来ずに、口をぱくぱくさせる。
 ――何だよ、この不意打ち……?!
「どうした、ジュノ?顔が赤いぞ。湯気にでも当てられたか?」
 ――当てられたのは、あんたにですよ……!
 などと言えるはずもなく。
「……そんなことより、冷める前にさっさと入ってください」
 どうにか、それだけ言えた自分に及第点をやりたいと、世良は一瞬だけ、自分の手で開花前線の北上を狂わせてしまった湯船を睨み付けた。


で、『溶けない桜』を探しに行く二人に続く。
うちの世良ちゃんは天城先生に弱過ぎる。あ、公式か…。


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