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テレビ先生の隠れ家
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プロフィール
HN:
藍河 縹
性別:
女性
自己紹介:
極北市民病院の院長がとにかく好き。
原作・ドラマ問わず、スワンを溺愛。
桜宮サーガは単行本は基本読了済。
連載・短編はかなり怪しい。
眼鏡・白衣・変人は萌えの3種の神器。
雪国在住。大型犬と炭水化物が好き。
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桜も3つの話で構成しようと思ってたんだけど、たった3つなのに、全然カラーが変わるのは何でなんだ…?!
入浴剤的なイメージで読むと、えええ?!ってなりそうなので、あの話は忘れて読んでください。不親切ですみません。

拍手[1回]


ヴェルデ・モトは西に向かっている、らしい。
 最初こそ道順を追っていた地図も最早世良の手の中で無用の長物と化している。
「大体、全国地図でどうしろっていうんだよ……」
 高速ならともかく、山道に入った時点で、方角すら覚束なくなった。
「だから、ちゃんと地図買って、道順調べてから行こうって提案しましたよね!」
「我々がそこを見つけるべき運命なら、必ず道は開けるものさ」
「それ、2時間前から言ってませんか?」
 山道はより細くなっている気がするし、心なしか、日も落ちて暗くなってきた気がする。この状況で確かなことが、此処は中部地方の山奥だということしかないなんて、絶望的としか言い様がない。
 このまま、遭難する危惧すら出てきた。世良はちらりとガソリン残量に目をやる。
「麓に下りられる道を探した方がよくないですか?」
「目的地は山の中なんだろう」
 ――だから、何処の山かも特定できてないんでしょうが……!
 世良が買ってきた入浴剤に端を発した『溶けない桜を見に行く』宣言は、現在目下進行中である。
 進行しているのか、後退しているのかは謎だが。
 結局、何だかんだと二人で風呂に浸かり、昨日はそのまま休んで、昼に近い時間に起き出してぼんやりテレビを見ていたら、まるで前日の一件を思い出させるかのように、花見露天風呂特集なんてものが始まり、取るものも取り合えず、出発するに至ってしまった。
 全く、天城の強運さには驚くばかりだ。
 しかし、余りにも出たとこ勝負なのも事実で、世良の手の中のメモには「M県、弱アルカリ性温泉、昭和初期風老舗宿」などというアバウトにも程がある記述しかない。
 詳細な住所も電話番号もないのだ。
 凡その見当で愛車を走らせ、目的の宿を見つけ出そうというなんて無謀に決まっている。
 更に、あらゆる逆風を跳ね返して辿り着けたとしても、このオンシーズンに予約すら入れていないという極めつけ。
 慎重にしようという世良の意見は悉く、天城の楽天的な言葉に覆され、今に至る。
 最初こそ、「ま、運転するのは天城先生だし」などと思っていたが、時間が経つにつれ、これはどうやら、「見つけるべき運命」にはないのではないか、という結論に傾いてきた。
「……野宿は嫌ですよ」
 辺りを見回しながら『提案』する世良を、天城はちらりと見る。
「ふむ」
 この状況でも、天城の声は明るく、ハンドル捌きは軽い。
 こっちの気も知らないで、と思う世良の前で天城は呆気なく言った。
「ガス欠を起こす前に引くとしようか」
 次の瞬間、ドア側に強い重力がかかり、ヴェルデ・モトが無理矢理な方向転換を強いられたのが分かった。
「引き返すんですか?!」
「どうも、流れが悪い」
 その天城の返答を聞いた途端、世良は硬い口調で言い返していた。
「『流れ』って何ですか……」
「天運や、星の導き、時の勢いとも言うべきものだ。急にどうした、ジュノ?」
 アクセルの踏み込みが弱いのは、世良のことを気にしているからだろう。世良は、込み上げる思いを吐き出すように言う。
「俺には分かりません!」
「ジュノ……?」
 嫌だという言葉だけが頭を埋め尽くして止まらない。
「天城先生は、そういうのが分かる人なんでしょう!でも……、ちゃんと資料を集めて、調べて探せば……!」
「そんなことをしても、せいぜい、『予約で一杯です』という返答を貰うのがオチだ。流れに乗らなくては、無茶は通せない」
「でも……っ!」
 世良は唇を噛む。
 天城の言葉は、世良が此処へ来るまで幾度も考えた、常人ならば誰でも考える至って常識的な意見だ。平然と無茶を通しながら、天城も同じ結論に辿り着いていたことに世良は言葉を失った。
「大体、ジュノはこの行軍に反対だったんじゃないのか?」
 そう言われれば、さっきまで、ずっと諦めようと言っていたのは他でもない自分で――
「でも、俺は嫌なんです……」
「嫌?」
 ――天城先生が何かを諦めるのを見るなんて……。
 不意に、浮かんだ言葉に世良は絶句した。
 慌ててそれを隠すべく、別なことを言おうとしたが、そう上手くいくはずもなく、開きかけた口をまた閉じるということを繰り返す。
 幸い、運転中の天城がその一部始終を見ることはなかったようだ。
「諦めてなどいないさ」
「でも……」
「我々がそこを見つけるべき運命なら、必ず道は開ける――」
 メロディを口ずさむように言う天城に返す言葉もなく、溜め息を吐いた世良は、返す言葉を失い、闇に溶け始めたウィンドゥに目を遣る。
 見るともなく見ているうちに、世良の意識もまた、宵闇に混ざって粉々に散らばった。


 優しく髪を撫でられる気配に、世良は目を開けた。
「天城せん……せっ……、うわっ!」
 思いの外近く――というか、数センチ先の、焦点が合わないほどの間近にある天城の気配に飛び上がりそうになる。
 寝起きにこの刺激は強過ぎる。
 しかも、世良の髪を掬って、形の良い鼻筋に近づけているとなれば――
「やめてください!何してるんですか?!」
「ジュノの髪から、昨日の桜の匂いがするんだ」
「天城先生だって同じ匂いですよ!同じ風呂に入ってるんですから!!!」
「そうか?」
 やっとのことでそう指摘すると、天城の身体が自分のシートに戻り、自分の手を鼻に近づけたりしている。世良は小さく息を吐いた。入浴してから1日近くが経過している。汗も結構かいた気もする。こんなことなら、もう少し念入りに洗うんだったと後悔して、何を考えてるんだと自分に呆れる。
 そんな一人百面相を展開しながらも、漸く周りを見渡す余裕が出てきた。
 車は止まって、エンジンも切られている。
 まあ、だからこそ、天城がハンドルから手を離して自由にしている訳だが。
 既に深夜なのか、窓の外は暗かったが、目を凝らすと大きな影が見えた。
 何気なく目を遣った世良は息を飲む。
 満開の巨大な枝垂れ桜だった。
「これ……?」
 茫然と天城を振り返ると、その口元がにまりと笑った。
「桜宮まで後一歩の辺りだ。ちゃんと道は開けただろう」
 言いながら、ドアを開け、大木へと歩み寄っていく。
「は、反則じゃないですか?!」
 慌てて、世良も後を追った。
「ちゃんと『溶けない桜』だ。間違いじゃない」
「桜って言ったら、普通はソメイヨシノ……」
「それに……」
 天城が枝垂れ桜の根元で、軽やかにターンして振り返る。
「こんなに美しいんだ」
 ――ああ、はいはい。俺の負けですよ……っ!
 嬉しそうに枝垂れ桜を見上げる天城を見た瞬間、世良は白旗を上げた。
 天城先生が何かを諦めるのを見るなんて、嫌だ――
 そして。
「貴方が望みを叶えて、無邪気に笑っていてくれれば、俺はそれだけで……」
「これが天運なんだよ、ジュノ」
 にこにこ笑う天城へと、世良は足を踏み出す。
「だったら、最初から真っ直ぐ、此処へ導いて欲しかったですけどね」
 ――本当は、そこにあるものなんて、何だって構わないんだ……。
「ジュノ?」
 そんな思いに押されるように、世良は天城の身体に手を回し、その背に額を強く当てた。


SSの前にも書きましたが、もう1つ続きがあります。今回しっくり来ない部分はそこへ続く。次は現代時間軸!


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