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テレビ先生の隠れ家
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プロフィール
HN:
藍河 縹
性別:
女性
自己紹介:
極北市民病院の院長がとにかく好き。
原作・ドラマ問わず、スワンを溺愛。
桜宮サーガは単行本は基本読了済。
連載・短編はかなり怪しい。
眼鏡・白衣・変人は萌えの3種の神器。
雪国在住。大型犬と炭水化物が好き。
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高世良、今回は世良ちゃん視点で。少しだけ天ジュノ・今世良要素も有りで。

拍手[3回]


『東城大Aiセンター創設』という見出しを目で追った世良は、机の上に週刊誌を置いた。
「Aiセンターねぇ……」
 死因究明に関しては素人なので、その重要性はよく分からない。
 まあ、あの彦根が提唱した概念らしいから、何処かの役人が既得権益のために作ったシステムより多少はマシなのだろうが。
 捨て去った母校が、次々に新たな試みを行っていたことは知っていた。
 そして、それを行ったのが、かつて自分の指導医であった高階権太その人であることも――
 憧れて慕って恋して、想いが通じて愛し合った。
 けれど、運命は残酷だった。
 気持ちを確かめ合った翌日から、世良は外部研修に出向いて会うことも儘ならなくなり、いよいよ期間が終了して大学病院に戻れるとなった直前、まるで彗星のようにあの男は現れた。
 ――医療再生のために来たれ、スリジエ・ハートセンターへ。
 その人は、紛れもない天才で、嫌味なほどに綺麗で、規格外に飛び抜けており、意外なほどの繊細さを併せ持っていた。
 モンテカルロのカジノという異空間で出会い、命を載せるルーレット、一流ホテルのスイート、世界唯一の術式を体験した世良は、気づいたときには雁字搦めに囚われていた。
 何より、彼の語る理想の医療の姿に魅せられた。
 それは、そのときの世良の立ち位置と無関係ではなかったかも知れない。
 当時の世良は、医局に入ったものの、奇妙な孤立感を常に持っていた。
 しかも、その後も、腹部外科に入ろうとすれば、病院長命令で心臓外科に所属させられておりながら当の責任者には拒絶され、かと思えば、スリジエにレンタル移籍させられながら腹部外科に戻らせられるという有様だった。
 お世辞にも居心地が良いとは言えない大学病院の中で、悠々と活動する天城は強力な吸引力で世良の考えを変えていった。
 ――スリジエならば……。
 そこに、ささやかなエゴがあったことは認めなければいけないと思っている。
 ――この人の作るシステムの下になら、自分のような人間であっても居場所を持てるかも知れない。
 そんな微かな期待を抱えて、けれど、その願いが潰えたとき、自分がどれほどにその夢に支えられていたのかを思い知らされることになった。
 増して、その夢を潰したのが、常に胸を焦がすように思い続けていた人だった、などという現実とどう向き合えと言うのだろう。
 何かから逃げた人間は、その行く手の先で再び同じ困難に巡り合う。しかも、その難易度は以前よりも高くなる――そんな言葉を聞いたことがある。
 その言葉通り、世良は次々に居場所を追われ、やがてこの北の地へ辿り着いた。
 けれど、だったら、あのとき、どうすれば良かったと言うのだろう。
 一度居場所を夢見た心は、もう戻らなかった。
 失われたものだけが心を占め、奪い去った人への憎しみが湧き上がる。
 東城大に居る限り、それを思い知らされ、大好きな人を見ながら、痛む胸を抱えて、どうすることも出来なかった。
 だから、決めたのだ。
 天城を追おう、と。
 自分は、高階を裏切ることは出来なかった。
 その所為で桜の木は永遠に失われたのに、どうして自分が此処に居続けることが出来るだろう。
 そう言えば、まだ天城が東城大に居た頃、たった一度だけ彼に触れられたことがあった。
 天城の居室、赤煉瓦棟の旧教授室。
 初対面の翌日には彼の部屋でグラスを重ねて寝入ってしまった過去の所為か、呼び出しておきながら一向に動こうとしない天城に手を焼いているうちに自分も堕落したのか、医局業務に忙殺された後などは、天城の寝そべるソファに向かい合って、意識を飛ばすこともごく稀にあった。
 そのときも、とにかく疲れ果てて居て、眠くて仕方なく、上質なソファに身体を沈め、肘掛けに頭を凭せ掛けていたとき、何時の間にか、覆いかぶさるように天城の身体が蛍光灯の明かりを遮り、不意に唇が重なった。
「冗談はやめてください」
 眠気が勝っていた世良は、そんな言葉で答えた。
「相手がクイーンでもそんなことを言うのか?」
「当り前じゃないですか」
 そう返すと、天城は肩を竦めて、世良の上から退いた。
 それだけ、だった。
 高階が繰り返し疑っていたような関係など勿論なかった。
 そして、世良は、昨晩の代償を得るかのように懸命に睡眠を補充し、そのときあったことを跡形もなく忘れてしまった。
 唐突に思い出したのは、再建請負人としてスタートを切った後だった。
 その瞬間、何一つ気づいていなかった自分の鈍さに羞恥で居た堪れなくなった。
 天城はきっと知っていた。
 幾ら眠かったとはいえ、ノーマルな男性がいきなり男に口付けられれば、嫌悪感で寝るどころではないだろう。
 悪戯めかした仕草で、世良の反応を見たのだ。
 同時に、その相手が高階であることも感づいていたに違いない。
 そんなことにも気づかずに、世良はあっさり白状した。
 天城が何を思ってそんなことをしたのかは、世良には分からない。
 単なる悪ふざけだったのかも知れないし、ふとそんな気分になったのかも知れないが、今ではもう知る由もない。
 けれど、世良にとって、そのことが天城を更なる孤独に追い込んだ、となれば話が違う。
 公私共に親密な存在に背を向け、その相手が決して認められずに排除しようとする人間を選ぶなどありえない。
 天城はあのとき、既に世良が彼の味方などではないと知っていたのだ。
 それに気づいた世良は、愕然とした。
 ならば、天城が世良の制止を振り切って東城大を去ったのも頷ける。
 そして、世良が東城大を捨て、高階との関係を切ったとき初めて言葉が届いたのも……。
 何故、もっと早く決断できなかったのかと今でも思う。
 自分は二兎を追って、二人とも失ったのだ。
 まあ、あの二人は兎などという可愛いものではなかったが。
 けれど、悪鬼にすら例えられるあの二人の戦いの勝敗を握っていたのが世良ごときだったとは、何と言う皮肉なのだろう。
 結局、世良は、自らの罪深さに慄き、その後も怯えるように生きてきた。
 追い出される度に逃げ出し、それによって自らを罰することしか出来なかった。
「世良先生?」
 耳に入った部下の声に、世良は思考を中断して顔を上げた。
「どうしたんですか、ぼーっとして?」
 医局の向かいの机で、暇つぶしにネットサーフィンをしていたはずの今中が、手を止めて心配そうにこちらを見ている。
「いや……、ここのところ、色々あったからね」
 さらりと誤魔化した世良を、今中はじっと見ている。
『本当に私は必要ないんですか?』
 世良の心を見透かすように尋ねた彼のことは、少しだけ見直した。
「母校のこと、なんだ……」
 そして、少しだけ心を開いた。
 けれど、その先はまだ言えない。
 自分の未来を変えた物語、それに関わった人々のこと――
 押し遣った週刊誌を覗いた今中は、ふんふんと頷きながら記事を読み始めた。
 平々凡々たる黙読時間が流れ、世良が再び回想に沈み始めた頃。
「上手くいくと良いですね」
 不意に、今中が言った。
「え……?」
「あっ、すみません」
 唐突な発言で、世良の思考を邪魔したと思ったのか、今中が謝罪した。
「でも、上手くいくと良いなって思ったんです。日本初の試みなんでしょう?」
「あ……、うん……」
 意表をつかれ、咄嗟に頷いてしまった世良は茫然とし、それからもう一度大きく首を縦に振った。
「そうだね」
 ふと笑いが込み上げて来る。
 ――何時の間にか、こんな風に思えるようになっていたのか……。
 時は否応なしに、高階の施策を認め、評価さえ出来るように世良を変えてしまった。
 そんな世良を今中は意外なものを見るように見つめた。
「世良先生も、母校のことになると素直ですね」
 更に、思いもかけない追い討ちを受け、世良は絶句する。
 気持ちに嘘を吐けない、という意味では、確かに、世良にとってあの母校は今でも唯一無二の存在なのだろう。
「そうだねぇ、極北大を左遷された今中先生とは色々違うかなぁ」
 にっと笑って言うと、今中が「え?どうして、知って……?!」とうろたえる。
 知ってはいたが、カマをかけられたら隠せたもんじゃないなぁ、と笑いを噛み殺した。
 同時に、胸が時折ざらりとおろし金を押し付けられたように痛む。
 愚直で凡庸、心の探りあいをする必要もない部下と。
 穏やかで平和でぬるま湯のような会話を繰り返すだけの日常。
 自分はこんなところに居てはいけないのではないかという思いに苛まれ、全てを投げ出したくなる。
 ――そのとき、一体、僕は何処へ行けば……?
 遠い目で、再び深い思考へ沈んだ世良が、じっと自分を見据える今中に気づくことはなかった。


まあ、天ジュノ・今世良はほんの趣味ですが。
高世良ベースなら、院長はこんな感じでしょうか。


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