テレビ先生の隠れ家
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プロフィール
HN:
藍河 縹
性別:
女性
自己紹介:
極北市民病院の院長がとにかく好き。
原作・ドラマ問わず、スワンを溺愛。
桜宮サーガは単行本は基本読了済。
連載・短編はかなり怪しい。
眼鏡・白衣・変人は萌えの3種の神器。
雪国在住。大型犬と炭水化物が好き。
原作・ドラマ問わず、スワンを溺愛。
桜宮サーガは単行本は基本読了済。
連載・短編はかなり怪しい。
眼鏡・白衣・変人は萌えの3種の神器。
雪国在住。大型犬と炭水化物が好き。
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『極北市民病院、診療拒否で患者死亡』というテロップを見ながら、高階は大きく息を吐いた。
マスコミの攻勢は更に増している。ワイドショーでは固定されたトップニュース扱いで、チャンネルをザッピングしても似たような単語が飛び交うばかりだ。動画配信でのみ記者会見を流すという斬新な方法で弁明を試みたほどに用心深い世良の裏づけが取れず、市民病院に不満を持つ住人やらかつての部下やらにまで証言を求めて、確定しない情報を無責任に垂れ流す。全くの出鱈目ではないが、激しく偏った情報の取捨選択を行った上での総評によると、再建請負人・世良雅志は、医療の世界に経済原理を持ち込んだ、あるまじき医者の姿なのだそうだ。
「全く……、時代錯誤も甚だしい……」
20年前であれば、この日本中の医療人の誰もが頷いたであろうそのレッテルが、最早間違い以外の何物でもないと世論すら薄々気づき始めているというのに――
「けれど、私にはそれを非難する資格もないのでしょうね……」
20年前だった、誰もそんなこと考えはしなかった――ただ批判しただけなのであれば、そんな言い訳も可能だろう。
だが、高階のしたことはそこには留まらなかった。
このマスコミたちと大差ない言葉で、方法で、策略で、この国の医療原理を根底から変えようとした男を批判し、邪魔し、追い出した。
そして、彼を受け入れなかった大学病院を捨て、たった一人で彼を追った研修医が今、あの男と同じ言葉で非難されている。正に、時代は巡り、繰り返すということなのかも知れない。
しかし、状況は確実に悪化している。
かつて、あの男は遠い未来の懸念を予見した。
彼の言葉は悉く当たり、今や、日本の医療は風前の灯。世良の赴任した極北市に至っては、病院の経営悪化が行政のお荷物となり、財政破綻にまで陥ってしまった。
最早瀕死の医療に従来のクオリティなど望むべくもないのに、市民たちは無知をばらまき、権利ばかりを主張して、絞れる限りに毟り取っていく。
それを忌避することなく、真っ向から立ち向かって医療改革を行っている世良は、正に恰好の餌食だった。マスコミはこの機会に、市民の過剰な依存を許容しない厳しい医師を血祭りに上げようと躍起になっている。
それがこのアレルギーの如くの過剰報道、という訳だ。
『世良院長が来ました!』
カメラが出勤途中らしいノーネクタイのラフな出立ちの男を急速にズームアップしていく。
長めの前髪と丸眼鏡に遮られて、表情ははっきりとは見えない。
世良だと言われれば、そう見える気もするし、全くの別人になり変わってしまったようにも感じられる。
高階は記憶の中の世良を呼び起こした。出会ったばかりの頃の彼は、外科の技術を少しでも早く身につけたいと焦れる、勢いに溢れる若者だった。
医局でも、荒っぽい口調で同期と軽口を叩き合う、気の強い面をよく見せていた。
今でこそ、穏やかで知的な雰囲気を漂わせて、滑らかな口調で流言を操っているが、冷徹さの中に見え隠れする頑固な部分はきっと変わってはいない。
――俺は、高階先生のことが今でも好きです。
挑むような目で見据え、言い放たれた台詞が唐突に蘇り、高階は絶句した。
最早、18年も前の話だというのに、思い出すときはいつも色鮮やかに蘇る。
けれど、それを彩る想いは随分と変わった。
少なくとも、世良の言葉を信じられるようになった。
あの時代、世良は高階を裏切ったりなどはしていなかった。天城の手技に驚嘆し、その言葉に酔わされたのは世良だけではない。
余程明確にあの男を敵視して、立ち位置を表明していた者以外の人間は悉く、世良と同じ反応をした。
それ程に、天城雪彦という男は、強烈で圧倒的な吸引力を持っていた。
だから、世良の反応も無理はない、寧ろ、あの男の隣りにいながら、変わらず高階を慕っていたことに驚くくらいだ。
外科医の腕などあの男に遠く及ばない、異国の地からこの国の問題点を見据えるような先見の目など持ち合わせても居ない自分。
そう高階は思っていたし、世良も同じように評価していると思っていた。
だからこそ、そこに固執し、意固地になって世良の行動を強制しようとすらした。
弱い犬ほどよく吠える――高階が行っていたのは正にそれだったに違いない。
そんなことをしなくても、世良はずっと一途に高階を思っていた。
初めて思いを交わした、あの瞬間から何一つ変わらずに。
もしも、高階が世良を信じて、世良に『命令』するようなことをしなければ――
自分たちの関係はどうなっていただろう?
そして、一切の邪心を持たずに、医療の未来を見据えた判断をしていたら――
彼の植えようとした『さくら』はどうなっていただろうか?
高階は、そっと机の引き出しを開けた。
引き出しの奥から、シルクに包まれた細長い塊を取り出す。
そっと布を開くと、そこから木の枝が現れた。
細い、桜の枝だ。枝の片側は折られたように不自然な合わせ目を描いている。
「これが今の桜宮の医療なんでしょう」
朽ちた桜。一人善がりな人間達が潰した未来。
「だからこそ、私は……」
この東城大を守らなくてはならない、と微かに呟き、かつて歌うように未来を語った男を思い、再びテレビ画面へと視線を戻した。
そこにはもう世良の姿はなく、彼を非難する人々の声だけが反響していた。
密かに持っている朽ちた桜――ドララプにやられてしまいましたが、一応、再会話考えたときからそっと仕込んでました(と主張だけはしてみる/笑)
私の中では、枯れた桜の枝を持っているのは高階さんの方が合う気がします。世良ちゃんは、枯れた桜は桜宮に残して、モンテカルロの満開の桜に胸を焦がしながら生きてる感じ。
この連載内では、天城先生の桜は枯れた設定で行きますが、ひっそりと根付いてて欲しいなぁ。そして、そこで世良ちゃんと高階さんが再会すればいいのに…(なら、何故その設定にしなかった?)
マスコミの攻勢は更に増している。ワイドショーでは固定されたトップニュース扱いで、チャンネルをザッピングしても似たような単語が飛び交うばかりだ。動画配信でのみ記者会見を流すという斬新な方法で弁明を試みたほどに用心深い世良の裏づけが取れず、市民病院に不満を持つ住人やらかつての部下やらにまで証言を求めて、確定しない情報を無責任に垂れ流す。全くの出鱈目ではないが、激しく偏った情報の取捨選択を行った上での総評によると、再建請負人・世良雅志は、医療の世界に経済原理を持ち込んだ、あるまじき医者の姿なのだそうだ。
「全く……、時代錯誤も甚だしい……」
20年前であれば、この日本中の医療人の誰もが頷いたであろうそのレッテルが、最早間違い以外の何物でもないと世論すら薄々気づき始めているというのに――
「けれど、私にはそれを非難する資格もないのでしょうね……」
20年前だった、誰もそんなこと考えはしなかった――ただ批判しただけなのであれば、そんな言い訳も可能だろう。
だが、高階のしたことはそこには留まらなかった。
このマスコミたちと大差ない言葉で、方法で、策略で、この国の医療原理を根底から変えようとした男を批判し、邪魔し、追い出した。
そして、彼を受け入れなかった大学病院を捨て、たった一人で彼を追った研修医が今、あの男と同じ言葉で非難されている。正に、時代は巡り、繰り返すということなのかも知れない。
しかし、状況は確実に悪化している。
かつて、あの男は遠い未来の懸念を予見した。
彼の言葉は悉く当たり、今や、日本の医療は風前の灯。世良の赴任した極北市に至っては、病院の経営悪化が行政のお荷物となり、財政破綻にまで陥ってしまった。
最早瀕死の医療に従来のクオリティなど望むべくもないのに、市民たちは無知をばらまき、権利ばかりを主張して、絞れる限りに毟り取っていく。
それを忌避することなく、真っ向から立ち向かって医療改革を行っている世良は、正に恰好の餌食だった。マスコミはこの機会に、市民の過剰な依存を許容しない厳しい医師を血祭りに上げようと躍起になっている。
それがこのアレルギーの如くの過剰報道、という訳だ。
『世良院長が来ました!』
カメラが出勤途中らしいノーネクタイのラフな出立ちの男を急速にズームアップしていく。
長めの前髪と丸眼鏡に遮られて、表情ははっきりとは見えない。
世良だと言われれば、そう見える気もするし、全くの別人になり変わってしまったようにも感じられる。
高階は記憶の中の世良を呼び起こした。出会ったばかりの頃の彼は、外科の技術を少しでも早く身につけたいと焦れる、勢いに溢れる若者だった。
医局でも、荒っぽい口調で同期と軽口を叩き合う、気の強い面をよく見せていた。
今でこそ、穏やかで知的な雰囲気を漂わせて、滑らかな口調で流言を操っているが、冷徹さの中に見え隠れする頑固な部分はきっと変わってはいない。
――俺は、高階先生のことが今でも好きです。
挑むような目で見据え、言い放たれた台詞が唐突に蘇り、高階は絶句した。
最早、18年も前の話だというのに、思い出すときはいつも色鮮やかに蘇る。
けれど、それを彩る想いは随分と変わった。
少なくとも、世良の言葉を信じられるようになった。
あの時代、世良は高階を裏切ったりなどはしていなかった。天城の手技に驚嘆し、その言葉に酔わされたのは世良だけではない。
余程明確にあの男を敵視して、立ち位置を表明していた者以外の人間は悉く、世良と同じ反応をした。
それ程に、天城雪彦という男は、強烈で圧倒的な吸引力を持っていた。
だから、世良の反応も無理はない、寧ろ、あの男の隣りにいながら、変わらず高階を慕っていたことに驚くくらいだ。
外科医の腕などあの男に遠く及ばない、異国の地からこの国の問題点を見据えるような先見の目など持ち合わせても居ない自分。
そう高階は思っていたし、世良も同じように評価していると思っていた。
だからこそ、そこに固執し、意固地になって世良の行動を強制しようとすらした。
弱い犬ほどよく吠える――高階が行っていたのは正にそれだったに違いない。
そんなことをしなくても、世良はずっと一途に高階を思っていた。
初めて思いを交わした、あの瞬間から何一つ変わらずに。
もしも、高階が世良を信じて、世良に『命令』するようなことをしなければ――
自分たちの関係はどうなっていただろう?
そして、一切の邪心を持たずに、医療の未来を見据えた判断をしていたら――
彼の植えようとした『さくら』はどうなっていただろうか?
高階は、そっと机の引き出しを開けた。
引き出しの奥から、シルクに包まれた細長い塊を取り出す。
そっと布を開くと、そこから木の枝が現れた。
細い、桜の枝だ。枝の片側は折られたように不自然な合わせ目を描いている。
「これが今の桜宮の医療なんでしょう」
朽ちた桜。一人善がりな人間達が潰した未来。
「だからこそ、私は……」
この東城大を守らなくてはならない、と微かに呟き、かつて歌うように未来を語った男を思い、再びテレビ画面へと視線を戻した。
そこにはもう世良の姿はなく、彼を非難する人々の声だけが反響していた。
密かに持っている朽ちた桜――ドララプにやられてしまいましたが、一応、再会話考えたときからそっと仕込んでました(と主張だけはしてみる/笑)
私の中では、枯れた桜の枝を持っているのは高階さんの方が合う気がします。世良ちゃんは、枯れた桜は桜宮に残して、モンテカルロの満開の桜に胸を焦がしながら生きてる感じ。
この連載内では、天城先生の桜は枯れた設定で行きますが、ひっそりと根付いてて欲しいなぁ。そして、そこで世良ちゃんと高階さんが再会すればいいのに…(なら、何故その設定にしなかった?)
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