忍者ブログ
テレビ先生の隠れ家
カレンダー
08 2025/09 10
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30
プロフィール
HN:
藍河 縹
性別:
女性
自己紹介:
極北市民病院の院長がとにかく好き。
原作・ドラマ問わず、スワンを溺愛。
桜宮サーガは単行本は基本読了済。
連載・短編はかなり怪しい。
眼鏡・白衣・変人は萌えの3種の神器。
雪国在住。大型犬と炭水化物が好き。
カウンター
バーコード
ブログ内検索
P R
忍者アナライズ
[300]  [299]  [298]  [297]  [296]  [295]  [294]  [293]  [292]  [291]  [290
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

高世良再会話最終話です。
思ったより動きのない話になっちゃいましたが…。
一応、これが私なりの完結編ということで。

拍手[10回]


「俺が研修医1年目の秋が大分深くなった頃、季節外れの台風が桜宮に来ましたよね。あの日、俺と島津と田口は病院の駐車場で先生と会った」
 唐突に始まった昔語りに、けれど、高階はその瞬間を鮮やかに思い出していた。
「手伝ってください、とあの時、高階さんは言った」
 風雨が吹き付ける駐車場。
 トランクに、ブルーシート、スコップ、添え木――思いつく限りのものを押し込んで。
「血相を変えている貴方が何処に行くのか、俺は興味深々で、渋る島津と田口を無理矢理乗せて、桜宮岬であれを見た」
「桜宮岬……」
「昔のことです。もう、20年も前のことだ」
 はっとしたような表情になる世良に、高階は慌てて言った。まさか、速水があれと世良を繋げているとは思わなかった。その勘の鋭さには驚くばかりだ。高階とて、確信があった訳ではない。
 彼らがよく桜宮岬に行っていると知ったのは、本当に偶然だった。
 桜宮医師会に所用があって出かけた際、派手なエメラルドグリーンの車を目にして、あの中に世良がいるに違いないと思い、灼けるような気持ちでその後を付けてしまい。
 そこでスリジエ・ハートセンターを語る天城と、その姿を誇らしげに見る世良を見た。
 スリジエ――その花を咲かせてはいけない。
 その気持ちの中に一片も嫉妬の気持ちがなかったなどと言えるだろうか?
 天城を見る世良は、何時だって、その言葉に惹き込まれ、同じ夢を見る悦びに満ちていた。
 あの尊敬に満ちた瞳を向けられないことがどれほど辛く、苦しかっただろう。
 輝く表情を惜しげもなく与えられる天城が憎かった――
「そこにあったのは、今にも倒れそうなちっぽけな苗木だった。それを高階さんは……」
「天城先生の植えた桜……。でも、あの木はもう……」
「やっぱり、そうだったのか」
 速水が頷く。『スリジエ』がフランス語で『桜』を意味することは、調べれば直ぐに分かることだ。
「高階さんは添え木を立てて、風除けを作って、何とか、あの木を守ろうとした。俺達は何でそんなことをするのか分からずに、指示されるままに動きながら茫然としていた。俺がその理由を知ったのは、それから何年も経った後、病院長室で折れた枝を見た時だった。直感したんですよ、これはあの時の木だって」
 世良が目を見開いた。二人の瞳が高階に向けられる。高階はその視線を受け止めた。
「だから、どうしたと言うんです。あの人を葬ったのは私だ。消えた敗残兵の弔いをしただけです」
「そんなこと、あのときの先生を見ていた俺に言っても無駄です。高階さん、貴方はスリジエを抜いたことが本当に正しかったか、迷っていた――そうでしょう?」
「高階……先生……」
 世良が掠れた声で呟く。
「だとしても、あの人を東城大から追い出したのは私です。私は自らの信念の下、スリジエが呼び込む医療を否定した」
 速水が言葉を重ねる。
「そして、今じゃ、それが間違ってたと思ってるんでしょう?」
 高階がちらりと速水を見た。
「……田口先生ですか」
 そういえば、彼らは同期の間柄だった。
「生憎、情報源は明かせないんですよ」
 速水はしゃあしゃあと言う。
「全く……。患者のプライバシーの秘匿は医師の義務です。この件は、病院長として見過ごす訳にはいきません」
「患者?あの件に関しては、診療費は発生してないと聞いてますけど。診療報酬を払わない人間は患者じゃないですよね、世良先生?」
 不意に水を向けられた世良は、戸惑ったように曖昧に頷く。
「と言う訳です」
 高階は額に手を当て、深々と溜め息を吐いた。
「どういうこじ付けですか……」
 心なしか、頭痛を感じる。今更、こんな話をして、どうなると言うのだろう。
「まだ、答えを聞いてませんよ。高階先生は、スリジエを抜いたことを悔いているんでしょう?」
「そんなこと、今の医療が証明しているじゃないですか。全てはあの人の予言通りになった。今現在、スリジエがあれば、速水君だってあんなことをする必要などなかったことでしょう。けれど、それをどう思おうと、私の罪は……、過ちは消せません。桜の木は枯れ、現在の医療崩壊へと辿り着いた」
「高階先生……」
 唐突に世良が呟き、速水にだけ意識を向けていた高階は凍りついた。
「世良君だって、こんな話は聞きたくないでしょう」
 世良の目が高階を見据える。
「あの桜は、高階先生のところにあるんですか……?」
 世良の震える声に、高階は驚く。幾ら、天城所縁のものとはいえ、桜宮という場所は世良にとって、憎むべき場所でしかないと思っていた。
「ありますよ。あの枝を見る度、私は自らの罪と向き合っています。桜宮に現れかけた理想の医療を壊したこと、天城雪彦という人間を日本から永遠に失わせたこと、そして、一人の研修医の将来を奪い去ったこと――」
 世良はゆっくりと目を閉じた。
「……僕も、忘れたことなんて、ありませんでした……」
「世良、君……」
 高階は耳を疑った。世良の声は穏やかで、責める響きは何処にもない。
「酷いことを……、言いました。俺を東城大に留まらせる人は誰も居ない、なんて、僕は貴方がどれほど傷つくか、分かっていて、言ったんです……」
 俯き、声を震わせる世良を前に、高階は息を飲んだ。
「自分だけが留まるなんて、出来なかった……。僕は、あの人を守りきれなかった。なのに、自分だけがのうのうと以前のままの生活に戻るなんて……」
「結局、貴方たちはあの男に引っ掻き回されてただけなんですよ」
「速水!!」
 桃倉が速水の首根っこを掴む。
 尋常ではない雰囲気の、東城大付属病院病院長と極北市民病院院長に更に口を挟もうとする速水に青くなっていた。そのまま引きずって応接室を出て行く。
「貴方たちはずっと同じ桜に魅せられてるんじゃないか!」
「速水、君……」
 高階が、今正に、部屋から消えようとする速水を振り返ったとき。
「そう、かも知れません……」
 世良が小さく呟いた。その目が真っ直ぐに高階を射る。かつて、幾度も見た、高階を惹き付けて止まない強い眼差しだった。
「貴方もずっと、あの人を想っていたんですね」
「……今、私の手の中にあるのは、貴方たちの夢と引き換えに手に入れた力、そして、それがゆっくりと崩壊に向かう未来だけです。そこにはもう、彼も貴方も居ない……」
 世良が一歩、足を進めた。
「そこでずっと戦っていた――本当は、知っていたんです」
 高階先生、と世良が小さく呟いた。高階が胸を付かれたように顔を上げる。
「酷いことを言って……、本当にごめんなさい……」
「あれは、目の前のことしか見えなかった私の咎です」
「会いたかった、です」
 次の瞬間、世良の額が肩に押し付けられていた。
「世良、君……」
「高階先生」
 信じられない思いで、高階は世良を見る。
 彼らが描いた希望を打ち砕いた自分を、世良が受け入れるなど有り得ないと思っていた。だが、世良はその背に腕を回す。強い熱が伝わる。彼の想いがはっきりと分かる。
「お疲れ、様です……」
「世良君も」
「はい……」
 そっとその身体を抱くと、世良の肩が震えた。
 遠い昔、初めて彼に触れた夜を思い出す。
「同じ、桜ですか……」
 目を閉じれば、軽やかに東城大の歴史を横切った男の姿が浮かぶ。
 そして、夢中でその背を追う子犬のような研修医の姿も。
「鮮やかで華麗で、そして、憎たらしい花でした……」
「儚くて綺麗で、とても、愛おしい人でした」
 指し示すものは同じ。
「辿り着けるでしょうか?」
 高階は虚空に向かい、問いかける。
「勿論です!」
 答える愛しい声を、高階は強く強く抱き締めた。


天城先生を想うとき、高階さんは枯れた桜の木を思い浮かべて、世良ちゃんは満開の桜並木を思い出す。阻もうとした者の目に映る現実と、守り切れなかった者の心に沈む理想の世界――
どこまでも、天城先生を挟んで立っている二人のイメージで書いてみました。根が天ジュノなので、どうしても切れ離せない…。
ラスト、大分前に書いた「極北恋愛事情」の高世良と似た感じになってしまって、何とか変えようとしましたが、どうにもなりませんでした。20年って長いよね。何か語ろうとしても言葉にならないし、何かをしようとしても簡単には動けない。結局、お互いの過ぎた時間を確認し合うしかないのかなって。

いつも言ってるので、重ねて言うまでもないのですが、腐視点はおいておくとしても、世良ちゃんが高階さんや東城大への気持ちに整理をつける部分をきちんとやってから、桜宮サーガを閉じて欲しいなと思う訳です。一応、主人公な訳だし。
しかし、ちょっとでも繋がりがあればクロスオーバーねじ込むたけるん先生が、徹底的に他作品で世良ちゃんと高階さんの関係を書かないのは何なんでしょうね?
ペアンは渡海先生ばかり注目されるけど、高階さんが世良ちゃんに与えた影響ってかなりあると思うし、ブレイズでもずっと尊敬してるから天城先生に「二股忠犬」なんて言われてしまう訳だし。
でも、本当に誰も言わないよなぁ。もしかして、皆には見えてないのかな?(真顔)
そもそも、輝天のキャラ属性(桜宮家言うところの光と闇みたいなアレ)では、世良ちゃんが東城大括りになってるけど、それも納得できないんですよね。彼ほど桜宮と断絶している人間は居ないと思う。極ラプ後の世良ちゃんは極北の人だよ。むしろ、天城先生より世良ちゃんの方がよっぽど怨念背負ってると思うんだけど(天城先生にも無念さとか悔しさがなかったとは言わないけど、恨みとか憎しみとかをいつまでも抱くような人ではないと思うし)

まあ、そんな訳で、ここまで読んでくださった人いらっしゃいましたら、ありがとうございます。
次はほのぼのっとした連載考えてます(笑)
PR
忍者ブログ [PR]