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テレビ先生の隠れ家
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プロフィール
HN:
藍河 縹
性別:
女性
自己紹介:
極北市民病院の院長がとにかく好き。
原作・ドラマ問わず、スワンを溺愛。
桜宮サーガは単行本は基本読了済。
連載・短編はかなり怪しい。
眼鏡・白衣・変人は萌えの3種の神器。
雪国在住。大型犬と炭水化物が好き。
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今回は、ベタな流れでラブコメ展開。今世良推しの天城先生が嫌って方は見ない方が良いです。

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「全く、いつまで待たせるつもりだ?!」
 医局の脇に置かれているくたびれたソファに長い足を投げ出して座る幽霊サマはご機嫌斜めだ。
 因みに、ソファには座れるんですかと指摘したら、本人も意識していなかったらしく驚いていた。まあ、少なくとも、床を通り抜けて階下に落ちたりはしない訳だから、その辺はご都合主義に出来ているんだろう。この、上司との旧知の仲を主張する幽霊が姿を現してから3日が経つ。彼は、姿を消しているときは、極北観光をしたり、世良に付いて回ったりしているらしい。
 そして、相変わらず今中以外には見えないようだ。
「私はジュノに伝えたいことがあるんだ。なのに、君は一向に水を向けようともしない」
 この幽霊が世良に対して深い思い入れを持っているのは間違いないし、疑いようもない。しかし、如何せん、物事には順序やタイミングというものがある。そもそも、起こっていることが、余りにも非現実的過ぎるのだ。世良が素直に認めたら、その方が余程吃驚する。下手したら、極北大の精神科に紹介状でも書かれかねない。
「仕方ないでしょう。この間は、貴方の名前を出しただけで激怒されたんですから」
「あれは、どう考えても君の切り出し方が悪い。あんなに突然、ジュノの古傷に触れてどうする」
 今中は数回瞬いた。
 確かに、余り上手い話し出しだとは思ってないが、そもそも、全く知らない人間をどう上手く紹介しろと言うのだ。
 しかも、古傷だなど、全く聞いていない。
「それ、どういう意味ですか?」
「話しても良いが、ジュノに断りなく、ジュノの過去に触れることになるぞ」
「……そうなんですよね……」
 世良の力になりたい気持ちはあるが、それが興味本位でないとは言い切れない。
「でも、今のままじゃ、世良先生にさり気無く貴方の存在を教えることなんて出来ませんよ」
 今中は溜め息を吐く。全身から発していた拒絶が蘇る。あんな世良は初めて見た。
「幽霊なんですから、存在を主張したり出来ないんですか。ポルターガイスト起こすとか」
 いっそ、幽霊の存在そのものを認識してもらった方が早いのではないだろうか?
 しかし、天城はきっぱりと言い放った。
「そんなことが出来れば、とっくにやっている」
 要するに、この人は単独では何も出来ない、ということらしい。
「威張って言うことじゃないでしょう」
「だから、私は君の働きに期待しているんだ」
「一つ、聞いても良いですか?」
 世良の過去を聞き出すつもりはない。けれど、はっきりさせておきたいことはある。
「世良先生は、貴方に会って喜びますか?」
「……」
 今中としても真剣な質問だったが、天城の顔を見て尋ねたことを後悔した。いや、この飄々とした幽霊のことだから、「当り前だ。ジュノが私に会って、喜ばない訳がないだろう」と自信たっぷりに答えるのを無意識に想像していた。
 しかし、天城は直ぐには答えなかった。無表情のまま、今中を凝視していた。
 そして、今中が質問を取り下げようとしたとき、寂しそうに笑った。
「だと、良いんだがな……」
「すみません!無神経なことを聞きました!!」
 今中は、世良の怒り顔がいつまでも目に焼きついていて、つい聞いてしまったのだが、天城が既に亡くなっていることを考えると、そんなに軽い話ではなかったと気づく。
 余りにも悠々と過ごしているから忘れそうになるが、彼は、心底話したい相手と言葉を交わすことも出来ないのだ。
 それは、どれほどにもどかしく辛い時間だろう――
「本当に、ヌヌルス君は人が良いな」
 天城は落ち込む今中を元気づけるように笑った。
「強引に懐に入り込んで、説得するというのはどうだ?ジュノはああ見えて、かなり押しに弱いぞ」
 言われたことの意味が分からず、今中はぽかんとした。
「懐に、って……?」
「押し倒せ、という意味だ」
「押し倒……、って、つまり、あの……」
「何で、此処まで言っても分からないんだ。そういう関係になってしまえと言っている」
 今中は唖然とする。しかし、不意に脳内に浮かんだ今中を見上げる世良は、思いの外艶っぽかった。
「私も世良先生も男ですよ!」
「それは問題ない。ジュノは大丈夫だ」
「え……?えええ?!」
 自信を持ってそう言えるということはつまり、この男が世良とそういう……。
「初めて会ったとき、ジュノはまだ研修医だった。可愛かったぞ。ジュノが上司から預かった手紙を無視したら、きゃんきゃん噛み付いて来て、勝負をしろと言い出したんだ」
 天城はうっとりと目を細めて笑う。そこは聞いてはいけない部分なのではないかと思ったが、彼が余りにも楽しそうなので付き合うことにした。先ほどの質問の負い目もある。若い頃の世良の話なんて、正直興味津々だ。
 それにしても、『きゃんきゃん噛み付く』なんて、まるで犬だな、と今中はほくそ笑む。
「成り行きで部屋に誘ったら、説得すると息巻いて付いて来て、そのまま酔って寝てしまう始末だ。その寝顔を見ていたら、笑いが込み上げて来たんだ。この青年はきっと、私を夢に導くために現れる定めだったのだろう。私は行かなくてはならないのだな、と」
「初対面の人の部屋で、酔って寝たって……、無用心にも程が……」
 天城は今中の反応に満足そうに笑った。
「全くだ。美味しくいただいたよ」
「え?!」
 とんでもないカミングアウトに今中は硬直する。世良の過去の顛末以上に、聞いてはいけないことを聞いているのではないだろうか……。
「どちらにしても、ジュノは私の手の中に落ちてくる運命だったんだ。ならば、少しばかり先に味見しても構わないさ」
 そして、天城は真顔に戻り言う。
「私と出会った頃のジュノは、男とのことは全く知らない身体だった。だが、毎日、根気良く口説いていたら、あっさり落ちた。ジュノは強引なアプローチに弱いんだ」
「それは違いますよ」
「え?」
「貴方だからだと思います。天城先生だったから、好きになったから、許したんだと思います」
 天城は驚いたように今中を見た後、とても柔らかい笑顔で微笑んだ。
「メルシ、ヌヌルス君。だが、ジュノは君のこともちゃんと好きだ」
「……そうでしょうか……?」
 天城は大きく頷いてみせた。
「見ていれば分かる。君がジュノをとても心配していることも、ジュノがそんな君を大切に思っていることも」
「だったら、良いですが……」
「それならば、押し倒して一気に……」
 うっかり乗せられそうになった今中は慌てて首を振る。
「何で、そうなるんですか?!」
 あの院長をそんな目で、なんて……。
「大体、貴方は世良先生の恋人だったんでしょう?!他の人とそんな仲になるのを見て平気なんですか?」
 そんな犬でも貰うような調子で話せるような関係だったのかと今中は少しむっとして言う。
「縛れるものなら、縛りたいさ。だが、私はもうジュノの傍には居られない。だったら、ジュノが幸せになる手助けをしてやりたいだけだ」
「天城先生……」
「私はかつて、ジュノの手を離してしまった。後で分かったよ。どんなに失望し、打ちのめされても、それだけはしてはいけなかったんだ。その結果が今だ。私達は、二度と会うことすら叶わなかった……」
 今中は唇を噛んだ。
 今日は失言が多い。そんなことを聞きたかった訳ではないのだ。
「出来るだけのことはしたいです……。世良先生のためにも、貴方のためにも」
 心の底から呟く今中に、天城は笑った。
「ジュノのラブコールかな?」
 その言葉の意味は、院内放送のスイッチの入る音ではっきりした。
「今中先生、院長室まで」
 世良の呼び出しが、そんな色っぽい話でないことだけは間違いない。
「じゃあ、行って来ます」
「私に遠慮せず、その気になったら、いつでもジュノを口説いて構わないぞ。君なしで居られなくなったところで、耳元で私の名前を囁いてくれれば良い」
「……そんなミッション、100年かけても出来る気がしません」
 とんでもないことを言い出す天城をおいて、今中は医局を出た。全く、簡単に言ってくれる。そんな仲になれたとして、あの人を今中が御せる訳がない。
 ――って、認めるのも悔しいけど……。
 年からして一回り以上、相当な修羅場を潜ってきているだろう再建請負人の立ち振る舞いを考えるだけで、溜め息が深くなる。
「でも、天城先生の力にはなりたいかもなぁ」
 ――私はもうジュノの傍には居られない。だったら、ジュノが幸せになる手助けをしてやりたいだけだ。
 あの透明な気持ちのためにも……。


「あ、今中先生。午後から市役所に呼ばれてるんだけど、一緒に来る?」
「ああ、はい」
 ノックをして院長室に入ると、世良は、プリントアウトした数字の並んだ資料をぽんと机の上に置いた。
「じゃあ、早めに行って、向こうの食堂でお昼にしようか」
 世良が立ち上がって、小さく伸びをする。
 改めて見ると、本当に随分と痩身だ。肩も華奢だし、腰も細い。
 腕の中にすっぽりと入りそうだ。などと思って、はっと我に返った。
 ――そういう関係になってしまえと言っている。
 ――ジュノはああ見えて、かなり押しに弱いぞ。
 天城の声が蘇る。
「あの人があんなこと言うから……」
 だからといって、ノセられてその気になるなんて単純過ぎる。
「どうかしたの、今中先生?」
 真下から聞こえた声にぎょっとして世良を探すと、想像以上の近距離で見上げられていた。
 実年齢よりずっと若く見える、掴み所のない笑顔に真っ向から見つめられて、先ほどまでの自問自答を吹っ飛ばして、脳みそが沸騰した。
「せせせせせ、世良先生……!ちょ、ちょっと、離れてください!」
「わわっ、どうしたの、今中先生?!」
「ち、近いです!!!」
「近いって言っても、これじゃ、動けな……」
 言われてみれば、何時の間にか、しっかりと世良の肩を押さえていた。その距離と、手の平から流れ込む体温に更に今中の混乱は深くなる。
「すっ、すみません……!」
「うわっ!」
 慌てて離そうとした腕は、咄嗟に、その身体を押し遣っていた。
「いったぁ……」
「あ、えと……。そんなつもりじゃ……」
「もう、何なんだよ……」
 今中は眼前に広がる光景に目を疑う。
「ったく……」
 呟く世良は、白衣の裾を広げ、ソファに倒れこんでいた。
 しどけない雰囲気を漂わせて身体が投げ出されている。表情だけは、むすっとしてこちらを見上げているが。
 呆れるくらいに隙だらけ。
 好きにしてくれ、とでも言わんばかりだ。
 いや、そう見えてしまう自分がおかしいのか……。
「世良、先生……。私は、その……」
「……」
 ――押し倒して一気に……。
 微かに開いた赤い唇に目を奪われ、惹き付けられる――
 今中が、世良に覆い被さるように身体を屈める。世良が静かに目を閉じた。今にも、唇が触れ合いそうになったそのとき。
「世良院長先生、只今、戻りました!」
 ノックと同時に聞こえた甲高い声に、今中はがばりと身を起こした。世良もぎょっとしたように目を開け、ドアの方を見る。
 その耳が真っ赤なのが、視界の端に引っかかった。
「どうぞ、角田師長。お疲れ様」
 世良は今中を振り返らず、ドアに向かって呼びかける。姿勢を正して、白衣の裾を直すのを見て、今中も数歩下がった。
 訪問介護から戻った角田師長はとても嬉しそうに、世良に午前中の結果報告をしている。
 彼女を労った後、世良はあっさり言う。
「じゃあ、角田師長。僕は午後から市役所に行ってくるから、今中先生と留守番よろしくね」
 今中は耳を疑う。
 ついさっき、一緒に行くと言ったはずだ。
「あの、世良先……」
「お任せください!」
「頼りにしてるよ。じゃあ、僕はそろそろ行くから」
「行ってらっしゃいませ」
 角田師長に見送られて、世良はばたばたと院長室を出て行った。
「逃げられてしまったな」
 背後から聞こえた声に、今中は苦い顔になる。
「……いらっしゃったんですか?」
「良い雰囲気になったら出て行こうと思っていたさ」
 でなければ、私も平常心を保てそうにないからな、と小さく呟いた声は今中には聞こえなかった。
 不思議そうに今中を見る角田師長に、医局に居ますのでと告げて、院長室を出る。
 当然、天城も付いて来た。
「だが、今回のことで分かった。ジュノは確かに、君に心を開きかけている」
 今中の少し前を歩きながら、天城は快活な声で言う。
 確かに、あのとき、世良は今中を受け入れようとした風に見えた。
「ジュノは今、目も耳も塞いで一人の世界に生きている。だが、君の思いに気づき、認めることが出来たら、きっと私の声も届くのだろう」
 天城の表現は、今中にも言い得ているように感じられた。
「だから、やはり、君は突破口なんだ。頼んだよ、ヌヌルス君」
 頷いたところで、難しいことは難しい。
 あの瞬間、自分は確かに世良をそういう相手として見ていた。だが、冷静になって考えてみると、有り得ないという言葉が真っ先に浮かんでくる。ソファに倒れこむ世良は、物凄く可愛く見えたけど。濡れた赤い唇に浮かんだ蠱惑的な色気に完全にノックアウトされかけたけど――
「いや、でも、それは……」
 ぶんぶんと頭を振る今中に、天城はくつくつと笑い声を立てた。
「早く認めた方が楽になるんじゃないのか?ジュノは可愛いからなぁ」
「あ、あの世良先生が可愛いなんて、有り得ない……」
「むっとした顔できゃんきゃん吠えてるのに、尻尾はぱたぱた動いているんだ」
 今中は頭を抱える。その表現と、あの院長がどう繋がるのか、さっぱり分からない。
 ともすれば、今中の思惑など遥か頭上を越えて振り回してくる再建請負人に、そんな仔犬のような愛らしさがあって堪るか……。
「貴方は、本当にあの人の話をしているんですか?!人違いじゃないんですか!」
「私がジュノを間違う訳ないだろう」
 その自信たっぷりの言葉と、うっかり天城のイメージと世良の隙だらけの仕草を重ねそうになった自分の脳を叩き割りたい気持ちの両方に、今中は頭を抱えた。


そこそこ遊んだので、次回、神威島!次はちゃんと真面目に書きます…!


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