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テレビ先生の隠れ家
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プロフィール
HN:
藍河 縹
性別:
女性
自己紹介:
極北市民病院の院長がとにかく好き。
原作・ドラマ問わず、スワンを溺愛。
桜宮サーガは単行本は基本読了済。
連載・短編はかなり怪しい。
眼鏡・白衣・変人は萌えの3種の神器。
雪国在住。大型犬と炭水化物が好き。
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少々遅刻の七夕ネタで、今世良+速水。うちの速水の主役になれなさは尋常じゃない…。

拍手[2回]



「ねえ、酷いと思わない?」
「当然の反応だと思います」
「ちょっと、まだ僕、何も話してないんだけど」
 何時の間に入り込んだのか、ICUのソファに深々と凭れ、片手を上げて自分を迎えた丸眼鏡の男に、速水は深々と溜め息を吐いた――何で居るんだ。そして、何で、他に誰も居ないんだ……。
 そんな速水の内心の声など気づいていないのか、はたまた、知らぬ振りなのか、かつての先輩は、速水の特等席で悠々と寛いでいる。いや、顔がにこやかに笑っているだけで、かなり不機嫌に見えるような気もするが。
「聞きたくありません」
 にべもなく断じると、世良はがばりと身体を起こした。
「ちょっとくらい、聞いてくれても良いじゃない。今中先生がさー」
 ――やっぱりか……。
 どうせ、そんなことだろうと思った。
 世良が『極北市の救急医療の底上げを図るため』送り込んできた、たった一人の部下は、そのまま救急センターにおいても良いと思える程度には真面目で熱意のある医師だった。だが、彼の本質はやはり世良の部下だったのだ。窮地に立たされる院長を放ってはおけず、最終的には市民病院へと戻って行った。
 別に、彼がそうすることを選んだならそれで良い。元通りになるだけだ、と思っていたのに、妙な縁が出来てしまった。
 まあ、世良とは元々ちょっとした繋がりがあったりした訳だが、その院長がふらりと顔を見せるようになったのは、今中が市民病院に戻った少し後くらいからだ。しかも、聞いてもいないのに、べらべらと近況を話してくるのには完全に閉口した。
 その話によると、驚いたことに、今では、世良と今中は付き合っているらしい。
 もっとも、世良の人生で最も重大な過去のある期間を知る速水は、その僅かな接点の時期に、世良がある男とただならぬ関係にあったことを偶然に知っていたので、その趣向自体には驚かなかった。ただ、今中は完全にノーマルだと思っていたから、そこは意外だった。こんな厄介な男に目を付けられて気の毒に、とすら感じたくらいだ。
「明日は病院休みだから、お酒と摘みでも買って今中先生の家で飲もうかって話になったんだよね」
 速水の拒否など物ともしない。強引に話が始まった。
 言われて思い出したが、今日は土曜日だった。
 成程、週末にどちらかの家で睦まじく過ごす程度には上手くやっている訳か。
 速水は改めて世良を見る。
 今の世良には、どこかしら付き纏う不安定さがある。それはどんなに穏やかな環境でも消えることはなく、見ているだけで落ち着かなくさせられる。
 今中のような、頼みごとを断れないタイプのお人好しは存外、こういう人間に弱い。
 近くにいるだけで庇護欲を刺激されてしまうのだろう。
 ゆらゆらふらふら――揺れてよろける姿に向かって思わず手を伸ばしたら、あっさり取って食われたなどという辺りが真相なのではないかなどという考えが頭を過ぎる。
「で、極北号――うちの訪問介護専用車なんだけどさ、それで買い物に行こうとしたら上手くエンジンがかからなくて。まあ、古い車だからね、たまにあるんだよ」
 破綻した町の病院の備品だ、買い替えなど思い通りにはいかないのだろう。
「で、今中先生が『ずっとこんなじゃ困りますね』って言ったから、『でも、今中先生だって、いつまで此処に居るか分からないでしょ。それは僕も同じだし』って返したら、『そういうこと言わないで下さい!』だよ」
 本当のことじゃない、だとしても嫌なんです、どうでも良いでしょ、良くありません――挙句、『何で、貴方はいつもそうなんですか……!』と今中が怒り出したらしい。
「あ――……」
 速水は眩暈を感じた。
 世良は完全に天然で言っているようだ。この人って、昔からこんなに空気読めなかったっけ?――ふと、20年近く前の研修医時代に意識を飛ばしたのは現実逃避だったのかも知れない。
 速水が佐伯外科の一員になったとき、世良は医局長だった。後で聞いたのだが、入局4年目で医局長というのは相当に異例の人事であったらしい。
 しかも、それだけではなく、この世良雅志という男はあの教室の中では何処までも特異点だった。
 その理由は、天城雪彦――世良がお目付け役を言い遣っていた、これまた、大学病院どころか、浮世からすら乖離したような男の存在である。
 彼こそが世良の当時の相手だったらしいのだが――そんな男に連れまわされ右往左往していた姿は、本気で今中に見せてやりたいとすら思う。
 もっとも、速水に対しては、問題児に対峙する医局長の立場で、口うるさく説教してくることが常だったが。
「腹が立ったから、今日の約束はなしって言って、ハーレーすっ飛ばして、此処へ来たって訳。折角来たんだから、キスくらいしてよ」
「冗談は止めてください。俺はノーマルです」
「固いなぁ。僕が他の男に慰められたって知ったら、今中先生が自分から謝ってくるかも知れないでしょ。ちょっとは協力してよ」
 何が哀しくて、好きでもないばかりか、こうも面倒くさい男とキスなんてしなきゃいけないのか……。
「さっさと帰って謝って、キスでも何でもしてください」
 ぞんざいに言うと、世良はむっとしたように黙る。彼を包む空気に、いつもの、他人を飲み込むような得体の知れない勢いがないのに、おや、と思い、速水は世良を観察した。心なしか、意気消沈しているように見える。
「だってさ、本当のことじゃない。極北市が解雇を決めれば、僕はこの地を去らなくちゃいけない。それは、今中先生だって同じだよ。そもそも、市民病院は行政単位の産物だし、地政学的に施設を整理していけば不必要になる可能性も高い」
 世良はぼそぼそと言い訳するように漏らした。
 記者会見の場で言えば、その革新的な考えに聞き手を驚かせることが出来るレベルの持論なのかも知れないが、速水にはどうでも良い話だった。
 きっと、明日この救急センターがなくなるとしても、自分はただ目の前に居る患者を救うだけなのだ。
 ただ、この傍若無人な院長に意外と部下の言葉が堪えていることだけは理解した。
「確かに」
 世良の言葉が途切れた隙に、速水は端的な言葉を滑り込ませた。
 まさか返事があるとは思わなかったのだろう世良が一瞬の間の後、ほっとしたような顔をしたのを強引に遮る。
「でも、そんな『不必要な病院』を、彼は『私たちの病院』と言って、与えられた職務を放棄してまでそこに戻った――呼びますよ」
 え、と世良の顔が茫然とこちらを見た頃には、速水は受話器を取り、短縮ボタンを押していた。
 『彼』の携帯の番号は、赴任初日に登録されており、忙しさにかまけて今日に至るまでそのままになっている。
『はい……』
 受話器の向こうから聞こえる戸惑ったような声に、容赦なく言葉を投げつける。
「あんたのところの院長を救急センターで預かってる。さっさと回収に来てくれ」
『え……?あれ、速水先生?!』
 疑問符だらけの声だが、それが分かったなら大丈夫だろう。
 速水は容赦なく電話を切った。
「『回収』って……、酷いなぁ」
 そう言いながらも、止めようとしなかった世良はきっとこの展開を望んでいたのだろう。
 本当に、面倒くさい男だ。痴話喧嘩の仲直りに、隣町で仕事中の後輩を巻き込むなんて、いい加減にして欲しい。速水は世良の隣に、身体をねじ込むように座る。
「仮眠取りますんで」
 きっぱり言った速水に、世良は少しばかりずれて場所を開けた。肘掛けに腕を乗せ、眠りに入ろうとする速水の脇で世良が小さく息を吐くのが聞こえた。
 笑ったのかも知れない、と思いながら、速水はさっさと意識を闇に飛ばした。


「あの……、世良先生」
 身体を揺さぶる気配に、速水の頭が覚醒する。うとうとしていたら、待ち人が到着したようだ。と、同時に、肩の重さを実感する。
 見ると、世良が速水の肩に寄りかかって、すやすやと眠っている。
 一気に眠気が醒めた。
「いや、これは……」
 先ほどの世良の『他の男に慰められた』発言が頭を掠めて、柄にもなく慌てた。
 しかし、今中はそんなことは思いもかけないのか、小さく頭を下げ、済まなそうに笑ってみせただけだった。
「世良先生、迎えに来ました。起きてください」
 声をかける様子は手馴れていて、いつもこんなことをしているのかと思わせた。世良の目蓋が小さく震える。ぼんやりとした視線が焦点を結んで、今中を捉える。
「あ、今中先生……」
「あの、さっきは……」
「会いたかった……」
「え……。んうぅ?!」
 今中の言葉は続かなかった。
 世良が自分の唇で今中のそれを塞いだからだ。
 速水は思わず周囲を見て、付近に人影がないことを確認した。珍しく静かな夜だ。
 それにしても、謝れとは言ったが、そのままベッドに雪崩れ込む勢いで有耶無耶にしろと言った覚えはない。今中は振りほどこうともがいているが、がっちりと背中に腕を回した世良は離そうとしない。あからさまに口付けも深くなっていき、舌を絡める水音まで聞こえてくるにあたって、速水は聞こえよがしの咳払いをした。
 ぷはっと色気のない音を立てて、漸く解放された今中が真っ赤な顔で世良を押し遣る。羞恥の余り、速水の方を見ることも出来ないようだ。
「い、いきなり、何するんですか……?!」
 泡を食って抗議する今中とは対照的に、世良は邪魔をした速水を詰まらなそうに見た。
「大丈夫、こいつは僕達のこと知ってるから」
「えええ?!知って……?!」
「知ってたって、見たいとは思いませんが」
 今中の人の良さは分かっているが、その真っ正直な反応にいちいち付き合っているとキリがないので、早いところツッコむ。ですよね、と今中が巨体を縮めた。
「分かってるよ。帰ろうか、今中先生」
 世良が立ち上がり、甘えた声を出す。
「は、はい」
「帰る途中で、妙なことしてスキャンダルってパターンだけは気をつけた方が良いですよ」
 どうやら、強引に有耶無耶にすることに成功してしまったらしい。
 まあ、話を戻されたところで世良のことだ、適当に押したり引いたりして、軽く手玉に取ってしまうのだろう。
「心配してくれて、ありがとう。でも、極北号は今中先生には狭すぎてね、あんまり具合が良くないんだよねー」
 試し済みか、と速水は溜め息を吐く。
 大体、こっちは嫌味で言ったのであって、そんな回答待ってもいないし、想像すらしたくもない。
「世良先生、もう……!」
 消え入りそうになりながら、世良の肩を叩く今中の方が余程まともな神経の持ち主だ。
「大体、僕はハーレーで帰らなきゃだし。じゃあね、速水。世話になったね」
「本当に、ありがとうございました!」
 深々と頭を下げた今中は、既にエレベーターの方へと歩きかけている世良を慌てて追う。何だかんだと掛け合うような会話が遠ざかって行き、速水は漸く一息吐いた。結局元鞘に収まるなら、最初から自分達で解決すれば良いものを。相変わらず、厄介な先輩だ。
 ――でも、意外と……。
 事情を話していた世良が、やたらと言い訳がましく持論を口にしていたことを思い出す。
「……すみません」
 呼ばれて顔を上げると、ドアから今中が覗いていた。世良は先に帰ったようだ。
「さっき、車のキーを落としたみたいで」
 床を見ると、ソファの脇に光るものがあった。
「あの人の相手も大変だろう」
 キーを拾い、手渡すと今中は苦笑した。
「あのとき、世良先生を独りにしないと決めたんです。世良先生はなかなか信じてくれないみたいですけど」
 そういえば、病院に何時まで居るか分からないなどという話から喧嘩になったのだと世良が言っていたか。
 まあ、今中の気持ちも分かる。相当な覚悟をして市民病院に戻ったのに、肝心の本人がふらりと出て行きそうな素振りばかりではやりきれなくなることもあるだろう。
「そうか?さっきまで、ぐだぐだと自分の発言の言い訳をしていたような気がしたが」
「まさか……」
 今中が到底信じられないといった顔になる。
「理由ならある。今中先生は世良先生の傍にいることを選んだ――それは、あの人が過去に出来なかったことだ。だから、今中先生のことは認めざるを得ないんだ」
「はあ……」
 やはり半信半疑だ。
 まあ、こちらも長々と昔話をする気などないのだが。
「だから、今中先生はたまに怒って困らせてやると良い」
「でも、そうすると、また速水先生に迷惑をかけてしまいますし……」
 傍迷惑な先輩に一糸報いるチャンスかと思ったのだが、意外な副作用を指摘され、速水は言葉を失った。今中は大きく頷く。
「ちょっと信じがたいですが、速水先生がわざわざ話してくれたんですから本当なんでしょうね。だったら、嬉しいです」
 そして、改めて頭を下げた。熱心さは伝わるが、彼くらいの腕の医者なら吐いて捨てるほど居る。だが、あの状況で、躊躇い無く市民病院に戻ることを決断できる人間が果たしてどれくらい居るだろうか――
 今度こそ、ICUに背を向けた今中を目で追いながら、速水は、世良が彼に出会えた幸運に思いを巡らせた。


速水の扱いも酷いが、きっと美和ちゃんも市民病院に来ないんだろうなぁ、な展開。すみません、腐ってるので…。何となく、速水の対応がデジャヴュだな、と思ったら、この流れは「僕の助手がさー」とか言うドラマの役人さんで何度もやってたわ…。相変わらず、役人と院長を書き分けられない問題。
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