テレビ先生の隠れ家
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プロフィール
HN:
藍河 縹
性別:
女性
自己紹介:
極北市民病院の院長がとにかく好き。
原作・ドラマ問わず、スワンを溺愛。
桜宮サーガは単行本は基本読了済。
連載・短編はかなり怪しい。
眼鏡・白衣・変人は萌えの3種の神器。
雪国在住。大型犬と炭水化物が好き。
原作・ドラマ問わず、スワンを溺愛。
桜宮サーガは単行本は基本読了済。
連載・短編はかなり怪しい。
眼鏡・白衣・変人は萌えの3種の神器。
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去年祝えなかった無念も含めて書いてみました。
二人でぎゅってするハグネタとか、運命的展開に繋がる流れとか考えてたのに、何か硬い話になってしまった…。
オリキャラが出張ってますので、苦手な方はお気をつけてくださいませ。あと、世良ちゃんの過去捏造っぽい話になってますので、こちらも嫌な方はご注意を。
二人でぎゅってするハグネタとか、運命的展開に繋がる流れとか考えてたのに、何か硬い話になってしまった…。
オリキャラが出張ってますので、苦手な方はお気をつけてくださいませ。あと、世良ちゃんの過去捏造っぽい話になってますので、こちらも嫌な方はご注意を。
極北市が財政再建団体に指定されたというお昼のニュースを、世良は自宅でぼんやりと見ていた。
ボードには、『赤字五ツ星』と表題が付けられ、その下に内容が箇条書きされていた。
『極北市民病院』と書かれた脇には、『3億円/年』と赤字の額が示されている。
「幾ら何でも、これは酷過ぎだ。まともな病院経営コンサルタントなら、再建しようとも思わない。こんな無茶苦茶なところに行く医者は、僕ぐらいしか居ないだろうな」
興味本位で、ブラウザを立ち上げ、極北市の基本情報を検索し始めていたとき。
携帯が鳴った。
世良はその呼び出し音に耳を傾ける。
吉か、凶か――これは取るべき電話だ。
一瞬で判断し、世良は通話ボタンを押す。
「お久し振りです、世良先生。病院経営アドバイザーの伊月です」
「ああ、伊月さん。ご無沙汰してます」
以前、あるシンポジウムで色々と有意義な情報を交わしたことを思い出し、世良は突然の電話に愛想よく返した。
「加賀県の病院を出られたと聞きました。お元気ですか?」
「さすが、耳が早い」
「折角、地域医療が浸透してきたところだったのに、残念です……」
溜め息混じりの伊月に、世良は、仕方ないです、と至って明るく言葉を返した。
件の病院を後にしたのは、1週間前のことだった。
いや、正確には、あれは、追い出された、というのだろう。
極北市と同様、赤字で町の財政を圧迫していたその病院に、世良は再建請負人として招聘され、地域の健康を守りながらも経営が成り立つ医療を実現させるべく立ち回った。
懸命に土壌を整え、たっぷりと根元を潤し、少しずつ、行政のバックアップと市民の理解を得ながら、おぼろげに目指す形が見えてきた矢先、町長が交代した。
新しい町長は、幾ら世良が説得しても、「立派な病院を作れば、市民も喜ぶし、医者も集まる」の一点張りだった。
事ある毎に、新町長と衝突してきた世良は、とうとう院長を解任された。
様々な施策が枝葉を伸ばし、根気良く続けた説得が根を張り巡らし、確かに、そこにささやかではあるけれど、理想の医療が蕾をつけ始めていた、そんな折の通達だった。
だが、世良は誰を恨むこともなく、淡々とそれを受け入れ、撤退した。内心にあったのは諦念だった。こうやって居場所を追われるのは何度目だろう?
何時だって、こんな風に終わってしまう予感が付き纏ってきた。それが現実になっただけだ。きっと、自分は咲き誇る花を見ることは許されないのだと――
「それより、忙しい伊月さんが、解任された院長と世間話をするためだけに電話をしてくる訳がないですよね?」
素早く話題を切り替えた世良に、伊月は、鋭いですねぇ、と苦笑した。
「その通りですよ、世良先生。今日は、お願いがあってお電話しました」
「そんな風に言われると、何事かと思うじゃないですか」
世良は軽く茶化したが、伊月は改まった口調のまま続けた。
「いいえ、本当に真面目な話です。極北市が財政再建団体に指定されたニュースはご覧になりましたか?」
世良の中に、ふとある予感が広がった。
――こんな無茶苦茶なところに行く医者は、僕ぐらいしか……居ない……?
「実は、私は極北市民病院の経営に関して、以前から相談を受けていました。実は今、極北市は病院再生のために医者を探しています。それで、私のところに、適切な人材を推薦して欲しいとの依頼が入ったんです。私は、世良先生こそ適任だと思っています」
伊月の言葉を、世良は茫然と聞いていた。だが、その一方で、彼が口を開く前から、それを予期していたような気もした。進むべき道筋は何時だって、自然に形を整えられて目の前に口を開けるのだから――
世良はじっと頭を働かせる。
今、言うべきこと、要求すべきことは……。
「伊月さん、僕は……」
「分かっています。再建の可能性がなければ依頼は受けないんですよね。私がアドバイスのために入手した資料を開示する許可は受けています。返事はそれを見てからで結構です」
世良の言葉を封じた伊月は、いかに世良が適任かについて一通り論じて電話を切った。
――まさか、本当に依頼が来るなんて……。
日本初の財政再建団体に指定された地方自治体――恐らく、あの町の医療は酷い制限を受けることになるだろう。
それはきっと、倒産しかけた病院の比ではない。
――でも……。
世良は、自分の中に緩やかに広がっていく思いを自覚する。
――まるで、このタイミングに合わせて、前の病院を解任されたようだ。
ならば、これが自分の運命なのかも知れない。
その運命に流されるままに生きていく――実に、自分らしいじゃないかと、世良は自嘲気味に笑った。
翌日、再び伊月から電話があった。伊月は、昨日の力強い口調はどこへやら、何だか妙に恐縮しているようだった。
溜め息混じりに、昨日の続きを切り出す。
「昨日はああ言いましたが、改めて資料をひっくり返したら、つくづく無茶な依頼だと痛感しました。けれど、此処は特例です。例え、建て直せなかったとしても、世良先生が非難を受けることはないでしょう。何しろ……」
昨日送られてきて、既に一通り頭に入ってしまっている極北市民病院のデータファイルを開き、世良は伊月の言葉に耳を傾ける。そして、ぽつりと言葉を投げた。
「建て直せますよ」
「日本初の財政再建団体に指定された……ええ?!」
一拍遅れて反応した伊月に、世良は笑みを浮かべながら続けた。
「このバランスシートを見る限りなら、市民病院は本来潰れるような経営状況ではないはずなんです。ただ、そこを正常にするには相当に無茶苦茶しなくてはならないでしょうね」
市民病院に年間3億もの赤字を押し付け続ける旧弊、それを除けば――
「無茶苦茶、ですか……?」
「ええ。中央の官僚、市の職員、病院のスタッフ、そして、患者達――ありとあらゆる人間に恨まれる覚悟が必要でしょう」
世良はじっと目を瞑る。
「それなら、世良先生の得意分野じゃないですか!」
能天気な伊月の感想に、世良は大きく溜め息を吐いた。先ほどまでの感傷的な空気は綺麗さっぱり消え去ってしまっていた。
「伊月さん、僕だって、好きで恨みを買ってる訳じゃないんですけど……」
携帯を持つのと逆の手でこめかみを押しながら返す。
少し考えただけで頭痛がしてくるような事態だ。そんな世良に、伊月は済まなそうな口調になる。
「しかし、そんな朗報が聞けるとは思いませんでした。今、この日本でそんなことを言うのは世良先生くらいですよ」
伊月の言う通りなのだろう。世良が独自に調べた情報には、病院経営コンサルタントが「再建不可能」の烙印を押したという話すらあった。
だが、それは現状維持のまま改善しようとした場合だ。破綻した、ということは、壊す手間が省けたということでもある。
「まだ、お引き受けするとは言っていませんが」
世良はわざと窘めるように言う。
「いいえ、昨日とは全く声が違います。引き受けて下さるんでしょう、世良先生!」
敵わないと世良は笑った。
「こんな人間を推薦して、と中央に恨まれるのは伊月さんですよ」
さりげなく釘を差したが、伊月は構う様子もない。
「後のことは後のことです。今はとにかく、誰かを推薦しないと顔が立たないんです」
「それが本音ですか」
冷ややかな世良の声に、伊月はにわかに慌てた。
「正直、頭を抱えていたんです。他に、こんな面倒なことを引き受けてくれる人の心当たりはなかったもので……」
伊月はしみじみと言う。
「それじゃ、まるで、僕が普通じゃないみたいじゃないですか」
「いえ……。本当に、世良先生に頼んで正解でした」
肩の荷を降ろしたような伊月は、話題を切り替えた。
「それでは、着任についてですが……」
世良はさらりと返す。
「飛行機のチケットさえ取れれば、明日にでも向かいますよ」
伊月が驚くのも尤もだった。だが、あの町に関して言うならば、猶予などはない。
「引越しの荷解きもまだなので、その方が都合が良いんです。それに、今頃、向こうでは、現在の勤務医たちからの辞表が出揃っている頃でしょう」
早々に動かなければ、極北市は無医状態になってしまうというのが世良の予想だった。ならば、一日も早く、向かった方が良い。
「いえ、実は……」
そんな世良に、伊月ははっきりと告げた。
「確かに、世良先生の言う通りなんですが、実は、一人だけ此処に残ると宣言した先生が居るんです」
世良は、引き出しの中から大切そうに、古びたキーを取り出した。
「久し振りに、大平原を走ってあげられそうだよ」
世良は、そのキーを、色褪せたキーホルダーごと握り締め、かつての持ち主を思い出した。
どんなに年月が経っても、あの人の姿は、満開の桜のように鮮やかに蘇る。
だが、彼が存在した実感は薄くなる一方だった。まるで、花盛りを終えた山桜のように。本当にそこにあったのか、彼と共に過ごした2年間は夢ではなかったかと思えるほどに。
それでも、自分が今、あの故郷で身を削り続ける平凡な外科医などではなく、異常事態に席巻された北の地へ向かうことになっていることこそが、紛れもない、彼が存在した証しであると世良は知っている。
『革命とはこころに灯った松明の火だ』
あの人の思いは自分が受け継いだ。
世良がその炎を燃やし続ける限り、彼の存在した事実はこの世界に残る。
「それにしても、この後に及んで、病院に残る医者が居るなんてなぁ……」
伊月の言葉は、世良が予想すらしていない展開だった。
駆け出しの研修医でもない限り、猫の手も借りたいような、現在の医療現場の状況では再就職先に困ることはないだろう。
明日どうなるかも分からない病院に残るなんて考えられない。
「本当に再就職先も見つけれられない無能者か、引き際も見極められない愚かな正義漢か、それとも……」
世良は、指先を開き、再びキーを見つめる。
『松明の炎がこころに赤々と受け継がれていく、それこそが革命の成就なんだよ、ジュノ』
あの人の言葉が蘇る。
世良は暫し、キーに目を落としていたが、何かを振り切るように立ち上がった。
「まあ、そんなことは行けば分かることだ。それより、彼には僕の邪魔にならないように最初から圧倒していかないとね」
呟きながら、マウスを操り、航空会社のチケット予約のサイトに接続する。
「さて、行くとするか」
住民が干上がらせた大地に、為す術なく根を下ろした惨めな姿の桜の木。
「枯れ木に花を咲かせてみせる為にね」
席を確保した世良は、キーに語りかけると、そっとその銀の輝きを胸に押し当てた。
またも、村上先生の本から色々ネタを引用させてもらってます。
極ラプは今中先生視点だから、世良ちゃんの行動の腑に落ちない部分がどうも気になるんですが、その6割くらいは村上先生の本で解決した気がするので、自分なりに村上ナイズしてみた次第。
まあ、大嘘!なんですけど、40代世良ちゃんって、村上先生+天城先生への思いで成り立ってると解釈してるので、こんなものなんじゃないかなーと思ってます。
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