テレビ先生の隠れ家
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プロフィール
HN:
藍河 縹
性別:
女性
自己紹介:
極北市民病院の院長がとにかく好き。
原作・ドラマ問わず、スワンを溺愛。
桜宮サーガは単行本は基本読了済。
連載・短編はかなり怪しい。
眼鏡・白衣・変人は萌えの3種の神器。
雪国在住。大型犬と炭水化物が好き。
原作・ドラマ問わず、スワンを溺愛。
桜宮サーガは単行本は基本読了済。
連載・短編はかなり怪しい。
眼鏡・白衣・変人は萌えの3種の神器。
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せとかちゃんが読みたいって言ってたから、書いてみた。
極ラプ文庫発売日ネタっぽくなって、自分的には満足。
私はどうも、布団の中でべたべたしながら、ツン台詞にさりげなくプロポーズ紛いの言葉を混ぜてくる院長が好きなようだな。
極ラプ文庫発売日ネタっぽくなって、自分的には満足。
私はどうも、布団の中でべたべたしながら、ツン台詞にさりげなくプロポーズ紛いの言葉を混ぜてくる院長が好きなようだな。
世良は闇の中で目を開けた。酷く喉が渇いて熱い。身体は重くてだるかった。
勝手知ったる他人の部屋、ころりと半回転すると、腕の力で上半身を持ち上げ、ふらふらと流し台へと向かう。
蛇口を捻って、コップに並々と注ぎ、一気に飲み干す。大きな息を吐いて、そのままコップを置いた。
背後から規則正しい寝息が聞こえる。
少しばかり闇に慣れてきた目には、流し台に下げられた缶ビールと、摘みにしていた惣菜のトレーが見えた。世良が寝た後、今中が片付けたのだろう。
「世良先生と速水先生って、同じ大学の出身なんですよね?」
何でそんな話になったのだろう。今中がそんな話題を出したから、酔い始めていた頭は饒舌に昔話を切り出した。
「そうそう、本当に厄介な後輩でね。何しろ、ロシアン・マフィアの手引きで当時のソビエト連邦に密入国して強制送還されたとかしゃあしゃあと言うんだから、僕が困ったのも分かるだろう?」
「え……?!密入国って、冗談でしょう?!」
「いや、あれは嘘じゃないと思うよ。まあ、とにかく、本人は大真面目に、何やっても型破りなんだ。でも、確かに、外科技術の習得に関しては、天才的だった……」
世良は、堂々と胃動脈結紮をやってのけた研修医時代の彼を思い出す。同じことをしようとした世良は、外科を続けるか止めるかという瀬戸際に立たされたというのに。
「何か、羨ましいですね」
楽しそうに話を聞いていた今中がふと目を細めた。そんなにハイペースで飲む訳ではないが、今中は確実に世良より酒に強い。
その彼のプルタブを起こす動きが少しばかり覚束ないのが、妙に目についた。今中は、開けたばかりのビールを、いつもより大きく煽る。
「若い頃から知っていて、今も信頼し合いながら、その地の医療を支えてるなんて、凄いじゃないですか」
何だか、むず痒くなるような言い方だ。
「そんなんじゃないよ」
「いえ、そうですって」
「今中先生、もしかして、妬いてるの?」
ストレートな褒め言葉は、どうも性に合わない。世良はわざと茶化した。
「そう……かも、知れません……」
しかし、今中が大真面目に答えるから、世良は次の言葉に詰まってしまった。こんな告白みたいな状況で、どう答えろと言うのか――
「別に、そこまで言うほど、頻繁に会ってる訳でもないし……」
適当に誤魔化すと、世良は飲みかけの缶の中身を一気に飲み干した。
ビールをもう1本飲みたいから冷蔵庫から取ってきてとねだったりしていたような気もするが、さっきから何度思い出そうとしても、そこから先の記憶が全く辿れない。
「今中先生が、あんなこと言うから……」
胸が詰まる、と言えば良いのだろうか。
勿論、速水との間にやましいことなど一つもない。
世良が東城大に辞表を出して以降は、この20年で会ったことすら数えるほどだ。
「速水とは、ないけど……」
闇の中に紛らすような世良の呟きの合間にぐうぐう寝息を混ぜてくるこの男は、そのどでんとした風貌と柔らかい表情から鈍そうな印象を受けるが、決してそんなことはない。
実際、世良だって、言い返されたり、命令に背かれたりということを幾度もされた。
けれど、そこには常に、相手を思いやる一本の芯がある。
それは、厳しさでもある。
自暴自棄な逃げを許さない言葉、楽な道へと安易に流されない行動、誹謗中傷を正面から受け止め思考し判断する意志。
厳しい自然の中でじっと耐えながら、いつか訪れる春を待つ北の住人の強さを持つ人間だと思う。無闇に誇示される訳ではないのに、近くに居ると、その強さが世良の中に自然と流れ込み、確かにそこに存在しているのが分かる。
「ごめん、ね……」
世良は流し台に凭れ掛かり、膨れ上がった布団を見下ろす。彼なら、気づいていない訳がない。速水に対して妬かれるようなことなどない。けれど、もしも責められたら、決して否定できない思いが今でも自分の中に息衝いていることを世良は知っている。
それは、自分が今生きている意味。
何と引き換えにしても、叶えたい願い。
どんな困難があっても、消すことの出来ない思い。
それらは、どうしたってあの人への思慕と一続きで、だから、彼への気持ちは最早、世良の人生そのものなのだ。
「……別れちゃおうか……」
世良はぼそりと呟いた。
今中は、世良と関わることがなければ、至ってノーマルな人生を歩んでいたはずだ。
モテるルックスという訳ではないが、その実直で思いやりのある性格を好む女性は必ず居るに違いない。
彼が真っ当な幸せを犠牲にして、世良の傍に居てくれたところで、自分は彼に心を全てあげることすら出来ない。
――もう良いよ。ありがとう……。
内心でそっと吐き出すと、世良は心の中に小さな棘を落とした。
世良は、一人海岸を歩いていた。
潮風が冷たく世良の頬にぶつかっていく。
波音はざわざわとその胸を掻き毟る。
弄られるようにそれらを受け続けた世良は、遂に膝をついた。
「は……ぁっ……」
動かない身体に焦れて、腕を伸ばす。
届かない――などと、思いたくない。全てを捨てれば、願い続ければ、恨みを受け続ければ……、必ず、必ず、掴めると……。なのに、指先は虚しく宙を掻く。
――駄目……なのか……っ……?!
声にならない叫びを上げる。その全身を再び風が切り裂いた、とき――
「世良先生」
もがき続ける指先とは逆の手を、誰かが掴んだ。途端に、潮騒が止む。
「今中……先生……」
「大丈夫ですか?」
布団の中に居た自分に気づき、世良は空を切り続ける拳を握り締めた。
「うん……」
掴まれた指を強く絡める。
「……こっちも、握って……」
もう片手を差し出したら、今中は困ったように小さな息を吐いた。闇の中でも分かるように首を振る。
「止めときます」
「何で?」
「……何となく、ですけど」
少し寂しそうな、その声に、ああ、彼は知ってるんだ、と思う。
この指が掴もうとしているのは、自分ではないということを――
「……ごめん」
「何で、謝るんですか?」
尋ねる今中に、世良は額を押し付ける。
辛い思いをさせるくらいなら離れてしまおうと思ったのに、結局、こうして彼に甘えている。
夢如きで揺らぐなんて、本当に情けない。
「ずっと、思っている人が居る。僕の心は、決してあの人を忘れない」
謝ることだって、ただのエゴイズムだというのに……。
「そんなの、誰にでも居るんじゃないですか」
困るか、黙るか、慰めるか――今中はそのどれもしなかった。むしろ、あっけらかんと答えられ、世良はその顔をまじまじと見た。薄闇の中、けれど、彼が落ち着いているのはよく分かった。
「昔の恋人でも、恩師でも、友達でも、誰かと付き合ったからって、他の人を思う気持ちが無くなる訳じゃないでしょう?」
「僕が言っているのは、そんな程度のじゃなくて……」
――そんな程度ってのは、どの程度……?
反論しようとしたが、上手く言えなかった。そもそも、思いの量なんて、本人にしか分からないものだ。
世良は大きく息を吐く。何だか、悩んでいたのが馬鹿馬鹿しくなっていた。
「何だよ、それ。速水には妬く癖に」
もう一度、肩に額を載せ、ささやかな恨みを込めて言う。
さっきまでの余裕は何処へやら、今中はにわかに慌てた。
「いや、それは……、羨ましかったんですよ――病んだ社会にメスを振るおうとしている世良先生の手のひらからこぼれおちる命を拾い上げる、なんて言えるなんて」
世良は幾度か瞬きした後、数回その言葉を反芻した。どうも間違いはないらしいと判断してから尋ねる。
「速水がそんなことを……?」
「役割分担なんだ、って言ってました。良いですよね、そういうの」
しみじみ言う今中が何だかとても愛しくなった。この男はきっと、漸く巡り来た春の恩恵を、過不足なく素直に受け取れる人間なのだろう。
その首に腕を回し、キスをする。わざと近い位置で、じっと目を合わせた。
「速水とはこんなことしないよ」
「いや、だから……」
今中が気まずそうに目を逸らした。全く、さっきまでの強気は何処に行ったのだろう。
「一応、私だって医者ですから。少しは部下として、世良先生の役に立ちたいんですが……」
世良が声を立てて笑うと、今中はむくれたように黙った。
――彼になら……。
世良は、今中には悟られないように柔らかく微笑んだ。
「ねえ、だったらさ、今中先生。僕の頼みを聞いてくれない?」
「え?」
今中が口を挟む前に、世良は続けた。
「僕はこれからこの地に根を張り、花を咲かせる。そうしたら、今中先生にその花を守って欲しいんだ」
今中が小さく息を飲んだ。
「世良先生は……」
「心配しなくても、僕はもう逃げないよ。此処を放り出す気も、追われるつもりもない」
ほっとしたような今中の首の辺りに口づけを一つ落とす。
「でも、進むのを止めるつもりもない」
「世良先生……」
茫然と名を呼ぶ頬を、手の平でぎゅうぎゅうと押してやる。
そして、ぺちりと叩いて、耳元で囁いた。
「約束してくれるなら、今中先生の全部を頂戴」
言いながら、唇を強く押し付ける。
しかし、いつもなら直ぐに応えて来るはずの今中が動かない。
「今中先生?」
「えーと……」
「まさか、出来ないとか言わないよね?!」
一気に不機嫌になった世良に、今中は慌てた。
「いえ、約束はします!ただ、その……、今日はもう、無理……かな、と……」
徐々に小さくなっていく声に、世良は今中を睨み付けた。
「もしかして、今中先生、寝てる僕に……?!」
「しませんよ、そんなこと!」
即答した今中が焦ったように目を逸らす。世良の中で何かが繋がった。
「それとも、一人でヤッちゃった?」
ぐっと詰まった今中に、世良はくつくつと笑う。
「眠る僕をオカズにした訳?今中先生もオトコノコだねぇ」
「いや、それは……。だ、大体……、散々誘って、本番の直前で寝てるとか、有り得ないんですけど……!」
――そうだったのか。まあ、全然、覚えてないけど。
世良は知らぬ顔でけらけらと笑い続ける。
「じゃあ、まあ、もう一度、その気にさせてあげようか」
「え……?」
舌を絡め、吐息が縺れ合うような長い口付けをして、苦しげな今中に言い放つ。
「仕方ないよ、掴んだのは今中先生なんだから」
一度は離そうとしたのに。掴んでしまった指先は、革命の炎を燃え移らせていく。
世良は、今中の下肢へと手を伸ばす。
「約束、して」
この北の地に咲き誇る花。無作法な官僚と、無知な住人たちによって蹂躙されたこの大地にもう一度奇蹟を起こす。
そして、きっと此処は、世良の還る場所になる。
――君が此処を守ってくれるなら……。
繋がった手の平が握り返されるのを感じながら、世良はその全身を今中に重ね合わせた。
前に此処に書いたかどうか忘れちゃったんですが、村上先生が「私のような激しい性格の人間は、変革が必要な場所でこそ利用価値がある」と書いているのを見てから、これって世良ちゃんにも言えるんじゃないかってずっと思っているんですね。
勿論、「この地に根を張る」って言葉で、スリジエで、夢も未来も希望も、周りの人への信頼も、天城先生との繋がりも何もかも失った世良ちゃんの全てが再生したんだってのが私の解釈なので、それは凄く嬉しいのですが、私は彼に再建請負人を辞めて欲しくない人なので、こういう未来になると良いなって、実はSSまで考えているのです。
それが書けてちょっと嬉しかった。
あと、主題の嫉妬はこんなもんでどうかな。天城先生に嫉妬させると、世良ちゃんは絶対に別れると思うので、あえての速水ライン。本当にうちは、速水を便利に使ってばかりで申し訳ない。たまには、速世良とか書けば良いのかな(笑)
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