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テレビ先生の隠れ家
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プロフィール
HN:
藍河 縹
性別:
女性
自己紹介:
極北市民病院の院長がとにかく好き。
原作・ドラマ問わず、スワンを溺愛。
桜宮サーガは単行本は基本読了済。
連載・短編はかなり怪しい。
眼鏡・白衣・変人は萌えの3種の神器。
雪国在住。大型犬と炭水化物が好き。
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スラムンネタバレ。七夕後だから今世良未満。堂々の1時間クオリティ。

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「世良先生?」
 午後の診療時間だと几帳面に注意するには、自分の遅刻回数も嵩張り過ぎていたが。
 あの海鳴りのようなハーレーのエンジン音が空気を切り裂いたのはもう30分以上も前のことだ。
 まさか、倒れているなんてことはないだろうが、と駐車場に下りた今中が見たのは、ハーレーに寄りかかって、アスファルトにぺたんと座った世良の姿だった。
「せ、世良先生、大丈夫ですか?!返事をしてください」
「あ、大丈夫。ちょっと疲れただけだから」
 咄嗟に屈みこみ、頬を軽く叩いた今中に、世良は力ない笑みを浮かべた。しかし、こんなところで動けないなんて尋常な状態とは思えない。
 ただでさえ、だだっ広い駐車場だ、軽い傷を付けただけでも弁償代が数十万単位で来そうなハーレーに近づけて止めるチャレンジャーは居なかったが、万一轢かれでもしたら笑い話にもならない。
「立てますか?中に入りましょう」
 脇の下に身体を通して支えようとすると、その肩に世良が体重をかけてきた。
 思わず固まった今中の耳元で、世良が大きく長い息を吐いた。弱々しい声がそれに続く。
「荷物をね、下ろしたんだ……」
 焦点の合わない瞳は何処を見ているのだろう。
「重い、重い荷物――俺には、本当に重かった……」
 世良の言葉が何を指すかは今中には分からない。分からないときは、変に口を挟まない方が良い。今中は、辛抱強く耳を傾ける。
「使わなかったんじゃない、使えなかったんだ。あんなとんでもないもの、俺にはどうすることも出来なかった……。なのに、あいつは……」
 『あいつ』――今日、世良は北海道庁の会議に呼ばれていたはずだが、そこで会った誰かだろうか?
 そういえば、ハーレーにサイドカーがついている。
 そこに乗せるとなると、少なくとも旧知の人間に違いない。
「あいつは最初からそうだった……。俺たちみたいな能天気な奴らは、手術の腕を磨いて早く一流の外科医になって、とか言ってるのに、医療行政だって……、医学生の癖に……」
 今中は目を疑った。
 世良の睫毛から、水滴が丸みを帯びぽとりと落ちたのだ。
「俺だって、ずっとやってきたんだ……。なのに、やっぱり、俺には無理だ。革命の火はもう……」
 世良は太腿に手のひらを叩き付けた。
 そして、堪えもせずに嗚咽を吐き出す。
「悔しい……。悔しい!この国に呼んだのも、一番傍に居たのも、話を聞いたのも、全部俺なのに、何であいつなんかに……っ!」
 こんなに感情を露わにする世良は初めて見た。
 まるで、自分の無力さに歯噛みする若い研修医のようだ。けれど、何故だろう、これもまた、世良の隠された一面のような気がして。今中は黙って、その背を支え続けた。


「ごめん。何でもない……」
 まだ荒い息を吐きながら、世良は不意に立ち上がった。
 唐突に泣き声は止み、辺りは今中が来たときと同じ静寂に戻っていた。
「本当に、大丈夫なんですか?」
「さっきも言った通り、ちょっと疲れただけだよ」
 慌てて自分も立ち上がった今中に、冷たい声が拒絶する。
「知事やら市長やら、面倒くさいしがらみの多い会議でね」
 いつも通りの口調が殊更他人行儀に響いた。
 会議なんかで物怖じするような人でもあるまいに。
 この人をあんなにも動揺させるものがその過去にはあって。
 きっと、今中には触れることも許されない――
「まあ、でも」
 微かにそのトーンが上がった。
「何も言わずに聞いてくれて、ありがとう。確かに、居ないよりは居た方が良いかもね」
 驚いて見ると、世良はさっさと病院へ向かって行く。
 ――本当に、私は必要ないんですか?
 ほんの1月ばかり前。
 患者の搬送の為に、レンタル移籍された救命救急センターからこの市民病院に戻った今中が世良に問いかけた言葉。
 世良は明確には答えず。けれど、十分過ぎるほどに弱っていた世良を見たときから、既にその答えは出ていた気がする。
 今中が来なければ、あの人はこの熱いアスファルトの上で何時間も座り込んでいたのだろうか?取り繕ったような空元気。でも、それすら見せられないほど弱っていたのだとしたら――
 知らなくても、触れられなくても、自分に出来ることはあるだろうか?
「ひとりぽっちにしてはいけなかったんだ……」
 今中は口の中で小さく呟く。そして、大きく息を吐く。
「世良先生、札幌土産とかないんですか?」
「は?!何で、札幌如きで土産なんて買わないといけない訳?」
「角田師長がお茶請け菓子がないって困ってましたよ」
 追いついた今中を面倒そうに払う世良が、微かに目蓋を腫らしているのを今中はあえて見ないように陽気な言葉を投げ続けた。


世良ちゃんがあんなにも辛い台詞を平然と言うから、泣かせてあげたくなった。七夕後じゃ、まだこの程度しか救えない。早く神威島へ行けよー。救われろよー(涙)
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