テレビ先生の隠れ家
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プロフィール
HN:
藍河 縹
性別:
女性
自己紹介:
極北市民病院の院長がとにかく好き。
原作・ドラマ問わず、スワンを溺愛。
桜宮サーガは単行本は基本読了済。
連載・短編はかなり怪しい。
眼鏡・白衣・変人は萌えの3種の神器。
雪国在住。大型犬と炭水化物が好き。
原作・ドラマ問わず、スワンを溺愛。
桜宮サーガは単行本は基本読了済。
連載・短編はかなり怪しい。
眼鏡・白衣・変人は萌えの3種の神器。
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「美和ちゃん」
降るように舞い落ちる花弁を見回していた小柄な背がゆっくりと振り返った。
「はい」
いつも結い上げている髪が、今日はふわりと下りている。
その柔らかい流れを掬い、少しずつ暖かくなってきた春風が柔らかく吹き過ぎていく。
「美和ちゃんに相談があるんだ」
「どうしたんですか、改まって?」
「実はね、中国地方の病院から誘いがあったんだ。酷い赤字続きで経営が立ち行かない、けれど、辞めてしまえば、その辺りは完全に無医村になってしまうって」
「それで、雅志さんは?」
「……行こうと思うんだ」
小さく息を飲んだ美和を真っ直ぐ見つめて、世良は言葉を選ぶように口にする。美和は黙ったまま、それに耳を傾けた。
「美和ちゃんと再会したあの島で、僕はもう逃げないって決めた。けれど、それは松明の火をこのまま消すこととは違う」
寒風吹き荒ぶ北の大地に、雲の切れ間から見えた一条の光。
その暖かさに気づいたとき、世良は自分がこれまでにも自分を包んでいた沢山のものを知った。
あれから5年。この地に骨を埋めるつもりで、世帯を持ち、家を建て、ゆっくりと思いを浸透させ、そして、気づいた。
「花は咲いた。頼りないお人好しだけど、僕の姿から一度も目を逸らさなかった医師も居る。この地で生まれて、この地で育って、僕よりずっと前からこの病院に居て、決して此処を見捨てなかった男だ」
「ええ。今中先生なら、きっと此処を守ってくれます」
微かに美和が口元を緩め、笑った。頬が少しだけ染まっているのは寒さの所為だろうか。
「じゃあ、美和ちゃんも……」
ほっとしたように息を吐いた世良に、美和は静かに首を振ってみせた。
「私は此処に残ります」
「美和ちゃん、それは……」
「雅志さん」
美和は花が綻ぶように微笑んでみせた。
「私、この極北が好きです。此処は雅志さんが花を咲かせた場所だから。だから、私も此処を守りたい」
「でも……」
「世界中が敵だらけで、傷ついて、ぼろぼろになったときには、何時でも来てください。貴方の帰る場所は此処にちゃんとあります、貴方の咲かせた花はしっかりと咲き誇っています。それを貴方が何時だって見られるようにしておきますから」
世良は目を見開く。
「美和ちゃん……」
思わずその背に腕を回した世良に、美和は小さな声を上げたが構わず囁く。
「君と一緒になれて、良かった」
そして、耳まで真っ赤になった彼女に満面の笑顔を向けた。
視線が絡み合う。世良は吸い寄せられるように、彼女の色付く一点に自らのそれを重ねる――
「わ、わわ……!わ――!!!」
美和の可憐な声とは程遠い、色気の欠片もない男の悲鳴に、世良はぱちりと目を開けた。
「あれ、今中先生……?」
「ね、寝惚けないで下さいよ……」
太い指を世良の胸に押し当て、精一杯腕で身体を引き離している男の顔を世良はまじまじと見つめた。
見回せば、桜も妻の姿もない。久し振りに戻った自宅のベッドで、世良はたった今まで眠っていたようだ。
「仕方ないじゃない。何で、僕の愛しい奥さんが消えて、今中先生が此処に居る訳?」
酷い言い方だが、一応は正論だ。此処は世良と美和の家で寝室であり、幾ら部下といえど、無許可で立ち入る場所ではない。
「美和さんに頼まれたんですよ。自分の代わりに世良先生の朝の世話を宜しくって」
成程、美和が入れた訳か。そうすると、彼女は出かけたのか。まさか、こんな日に仕事なのだろうか?
「訪問介護の患者さんに難しい方が居まして。美和さんか角田さん以外は部屋にも入れてくれない有様で……。角田さんは今日は私用で出られないってことで、美和さんが……」
世良の不満気な視線を受けて、今中が先回りして言う。
「久し振りに旦那が帰って来て夫婦水入らずだってのに、勤務を入れるなんて信じられない。こんな体たらくじゃ、所長として失格だね」
ぽんぽん言う世良に、今中は申し訳なさそうに巨体を縮めた。
「私もそう言ったんですけど、美和さんが『二人きりで積もる話もあるでしょう』って……」
「美和ちゃんが……」
世良は微かに肩を震わせた。
「全く、美和ちゃんには敵わないなぁ」
病院での遣り取りも、懇親会の間も、病院のスタッフたちが常に世良の周りに付いているため、今回の訪問で二人だけで話す機会はなかった。
世良が此処に居た頃は、院長室に呼び出せば何時でも二人で顔を突き合わせて。あれをしろ、これを手伝えと秘書のように扱い。何処に行くにも連れ歩いて。自分の在り方を見せ続けてきた――
「……もう、随分前のことみたいだな」
世良はもう此処の人間ではないし、今中は世良の部下ではない。
「世良先生?」
今中はそんな世良を見て、不思議そうに首を傾げている。
しかし、感傷的になっている暇はないと、世良は布団を跳ね除け、起き上がった。
「うわ……!ちょっと、何で裸なんですか?!」
その世良の姿を見た今中は慌てて目を逸らす。
それで、世良も自分の状態に気づいたが、直ぐに可笑しそうに口の端を歪めた。
「何で、ってそんな野暮なこと聞くんだ?」
「い、良いですから、早く何か着てください……!!」
部屋を見回した今中は、スツールの上に綺麗に畳んでおいてある服を掴んで抛る。
「こういうときに、気の利いた言い回しの一つも出来ないと出世しないよ」
「もう過ぎるぐらいの出世をしましたから、十分です!」
「あんな小さな診療所の長で満足してる訳?」
隠すでもなく、受け止めた服に身体を通しながら、世良は軽口を叩く。
「大任ですよ。世良先生の後ですよ。先生が変えたものを守らなきゃいけないんですからね」
むきになって返す今中の声を聞きながら、世良は彼には見えないように微かに微笑んだ。
「守る、ねぇ……。保健師の増員が叶わなかったのを、仕方ないって認めたとか……」
「え……、それは、その……」
笠原が尽力してくれたのは世良も分かっている。だが、譲れないポイントというものはある。
「自分だけ良い人ぶって、僕だけ悪者にして、これで守ってるとか図々しい」
ぐっと今中が言葉に詰まる。世良はその様を見て、思わず笑い声を漏らした。
「せ、世良先生、からかったんですか?!」
「本当のことだよ。言うべきことくらいはきちんと言ってくれってこと」
ぴしゃりと言ってから、衣服を身につけた世良は、やはりスツールの脇にきちんと置かれたバッグの中から書類を取り出した。
「でも、この企画は面白い。本土の花粉症の人を対象にした医療ツアーなんて、よく思いついたね。観光客も呼び込めるし、医療に興味を持ってもらうチャンスにもなる」
杉の木のない北海道に深刻な症状に悩む人を一時的に避難させるというのは、ワイドショーの花粉症特集を見て今中が思いついた。
「地元の観光会社に掛け合ってくれたのは笠原君でしたが。あ、そうだ。世良先生、ツアーの中で講演会を開きたいんですが、先生の人脈で誰か呼んでもらえないでしょうか?」
今中の要望を世良は快諾する。
「但し……」
「な、何ですか?」
世良はにっと笑った。
「今度、浪速で医療検討会があるんだ。そこに顔を出してよ」
今中は渋い顔になる。どうも、そういう公の場は苦手だ。しかし、世良はやたらとそういう場に今中を連れ出そうとする。
「別に、世良先生が居れば……」
自分などより、世良の方が遥かにこの極北を知っているではないかと溜め息混じりに言う。
「駄目駄目。何たって、今中先生は、極北モデルの責任者なんだから。今中先生が居ない医療検討会なんて意味ないんだよ」
「そう言いながら、実際仕切ってるのは世良先生じゃないですか!」
「それはほんのアフターサービスさ」
明らかにその程度の干渉じゃないだろうと今中は言いたいのだろうが、世良は敢えてしれっと言い切った。けれど、ある意味では本音でもある。
「今中先生も含めて、極北市民は何時だって自立して良いんだ。というより、それこそが僕の目指すところだしね」
「世良先生……」
助けが必要だと言うなら、手は貸す。
けれど、そこから先はその地の人々が作っていかなくてはならない。
「これでも、今中先生には期待してるんだからね。ちゃんと守ってよね、僕の作ったものを」
「分かってます!」
「という訳で、医療検討会の後の懇親会も宜しく」
意気込んで頷いた今中に、世良はにまりと笑う。
「そういう場は苦手だって、知ってる癖に……」
「考え方を変えてさ、人脈広げて彼女を探すとかも良いんじゃない。この辺はお婆ちゃんばっかりなんだから。いやー、結婚は良いよー。愛する妻が待っててくれるってだけで、何でも出来る気がするからねー」
「世良先生だって、ついこの間まで独身だったじゃないですか……」
世良はけたけた笑っていたが、ふと真顔になって呟いた。
「ホント、帰る場所があるって良いよね」
故郷の地は、世良にはもう、余りにも重くて、苦過ぎる場所になってしまった。
「世良先生」
顔を上げると、真っ直ぐに此方を見る今中の顔があった。
「今更ですけど……、お帰りなさい」
一瞬、驚きに変わった世良の表情が柔らかく緩む。
「ホント、今更だねぇ」
混ぜっ返しながらも、気持ちが満たされて温かくなっているのが分かる。こういう言葉を衒いもなく言えるこの男は、本当に得がたい存在だ。
そのとき、玄関の開く音がした。
「すみません、雅志さん。今、戻りました。今中先生も、ありがとうございます」
ぱたぱたという足音と共に、可憐な声音がドアから覗く。
「美和ちゃん!起きたら居ないから、どうしたのかと思ったよ」
「ごめんなさい。どうしても行かなきゃいけない患者さんが居て」
今中が言ったのと同じ話をしながら、美和が看護師の凛とした表情を愛らしい笑顔に戻す。
「じゃあ、私はこれで」
それを契機に辞そうとした今中に、美和が慌てて言う。
「今中先生、お茶でも飲んでいってください」
「でも、お邪魔ですし」
遠慮する今中の脇で、世良が口を挟む。
「よく分かってるじゃない」
しかし、美和は呆れたように微笑んだ。
「また、そんなこと言って。今中先生に会うの、楽しみにしてた癖に」
歯切れ良く言って、世良の反論を塞いでキッチンに消えた妻の姿に苦笑する。
「……ホント、敵わない」
この無敵の再建請負人に、一つくらい弱点があっても良いだろうと今中も笑う。
「これはこれで良いんじゃないですか」
「何、その知ったような言い方?寂しい独り身の癖に」
今中に笑われたのが悔しいのか、世良が今中を軽く睨んだ。
「その話はもう、やめませんか……」
他愛もない言葉を交わしながら戯れていると、「お茶が入りましたよ」という美和の鈴の音のような声が響いてくる。
「じゃあ、いただきます」
一応、家主に許可を取ると、満更でもなさそうな表情が向けられる。世良が促すようにドアを開けた。
「心して飲んでよね。僕の奥さんのお茶は世界一なんだから」
「分かってます」
いい加減うんざりしたような様子でノブに手をかける今中を見ながら、世良は口の中で小さく呟いた。
「ただいま」
原作は極北って場所がポイントっぽい書かれ方をしていたので、この先も世良ちゃんが極北でやることはあるような気がする、と私には読み取れましたが(いや、まあ、私の予想なんて、常に前のめり過ぎてて余り当てになんないんですが)
美和ちゃんの台詞がドラマの梢ちゃんみたいになって、あれ、何か、ドラマ肯定派みたいじゃんって地味に悔しい(笑)
世良ちゃんが革命の火を受け継いで、それを今中先生に、って前提なので、極北に咲かせた大樹を預けて信頼してる一方で、相変わらずな感じも有りの二人って良いな、っていう。
まあ、こんな未来もあったって良いじゃない。
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