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テレビ先生の隠れ家
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プロフィール
HN:
藍河 縹
性別:
女性
自己紹介:
極北市民病院の院長がとにかく好き。
原作・ドラマ問わず、スワンを溺愛。
桜宮サーガは単行本は基本読了済。
連載・短編はかなり怪しい。
眼鏡・白衣・変人は萌えの3種の神器。
雪国在住。大型犬と炭水化物が好き。
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可愛い「冬の今世良」を下さった玲さんのリクです。リクとかまず貰ったことないので、物凄い張り切って書いてしまって、まさかの8000字!!(爆笑)どんだけ寂しいヤツなの…。変なif設定はよく書きますが、世界観まで違う完全なパラレルものは初めてで、とっても楽しかったです。普段、絶対言えない台詞とか言わせられるのが面白い。
リクとしては、「明治ぐらいのイメージで、病弱華族な天城先生と、貧乏学生な世良先生で、幸せそうな感じの天ジュノ」でした。一応、細かい設定はこちらです。
明治ってことは「八重の桜」?って辺りから可笑しなことになり、呼び方は変えたくない派なので、天城先生は教師。「幸せそう」なら、不治の病とか、叶わない恋系ではないね。と纏めた結果が、ブレイズ序盤を明治の学校風にした、このドタバタ話になりました…。

拍手[1回]



「いらっしゃいませ、世良様」
 玄関先を掃いていたグレーの髪の初老の男に恭しく一礼され、灰色の羽織袴の学生が照れたような笑いを浮かべながら、両手に抱えた紙包みを持ち直す。
「セバスチャンさん、お邪魔しますね。天城先生の具合はどうですか?」
 有能な執事はすっとドアを開け、世良を招き入れた。
「午後からは熱も下がったようです。世良様も大変だったでしょう」
「まあ、いつものことですし。それより、花瓶ありますか?」
「ありますよ。どのくらいの大きさが宜しいですか?」
 唐突な依頼にも、戸惑い一つ見せない。
 世良は、腕の中の紙包みの端を少し開けて見せた。これは、と微笑む執事に、世良も悪戯を企むような顔で笑った。


 天城が執事と二人で暮らす洋館はこじんまりとしてはいるが、調度も家具もさり気無く豪奢で凝った作りになっている。
 最初は気後れして、出されたお茶に手も付けられなかった世良だが、足繁く通うようになって1月、すっかり慣れて、最早、勝手知ったる他人の家、案内なしで家主の部屋に行くくらいは朝飯前だ。
「先生、ご機嫌は如何ですか?」
 ノックをすると、「入れ」という鷹揚な声に迎えられた。
「今の私の機嫌が麗しいように見えるか?」
「そう思ったので、お土産です」
 ベッドの上に横たわる男は、物憂げな表情を浮かべていたが、彫りが深く、端正な顔立ちをしていた。余り日に当たることのない肌は真っ白で、それがより、彼を美しく見せている。
 世良は紙包みを開いた。
 あっと天城が目を見張る。
「これは……。どうしたんだ、ジュノ?」
「ちょっとした事故がありまして。酒宴の最中に、はしゃいだ子供が木に登って枝が折れてしまったんです」
 世良が手にしていたのは一振りの桜の枝だった。
 まだ、盛りには早く、半分くらいは蕾だ。
 本当なら、天城もその酒宴に招かれていたのだが、今朝唐突に熱を出し、欠席せざるを得なくなってしまった。
「せめて、気分だけでも味わってもらおうと思って。お気に召しましたか?」
「ああ、とても綺麗だ」
「喜んでいただけて嬉しいです」
 目をきらきらさせて受け取った桜を見ている天城に、思わず世良も笑顔になる。
「今、セバスチャンさんが花瓶を……」
 枝を返してもらおうとした世良の肩を天城が引き寄せた。
 唇が触れ合う。
「メルシ、ジュノ」
 世良はゆっくりと目を閉じた。少し体温の高い天城の綺麗な指先が世良の頬を撫でる。
 幾度か啄ばむように触れられ、花のような天城の香りに包まれた世良は夢見心地になる。天城がどういうつもりで自分にこういうことをするのか良く分からないのだが、この洋館の中では全てが現実離れしていて、最初から世良は違和感なくこの状況を受け入れてしまっていた。
「……具合はもう、良いんですか?」
「あれは、ただの気の病だ」
 天城は面白くなさそうに呟く。
「ムッシュ佐伯が私を引っ張り出そうと無茶をするから、桜も見に行けなくなってしまった。折角楽しみにしていたのに」
 その口を付いて出た言葉に、世良は思わず異を唱えてしまった。
「佐伯教授のお気持ちも分かります。先生は、フランス語も堪能ですし、海外暮らしの経験もある。それにとっても博学です。私たちの東城塾に先生が来てくだされば……」
「だが、知っての通り、私は一度たりとて、ムッシュの招きに応じられた試しがない。当日の朝になると、あの高熱が顔を出す。ジュノ、私がもう一度教鞭を取るなどそう簡単なことではないんだよ」
 不機嫌な顔で押し付けられた枝に、世良は「花瓶を持ってきます」と言いおいて部屋を出た。


 世良は校長室の前に立ち、口の中で呪文のように、聞き慣れたメロディを転がした。
 天城の好きなフランスの民謡なのだという。天城は機嫌が良いと、伸びやかな声でその歌を謡い、世良はそれを聞くのが大好きだった。
「入れ」
 先ほどと同じ言葉だが、世良の胸を占める気持ちは正反対だ。気まぐれで、相手をするのはとても大変なのに、天城に会えると思うだけで、世良の心はいつも高鳴っている。
「失礼します、佐伯教授」
 だが、今の気分は途轍もなく重い。
 どっしりした机の前に座る白い髭の男の前に、世良は引き出される罪人のような気分で立った。
「弁明はあるかね?」
 単刀直入の問いは、やはり罪人に向けられていると世良は思う。
 何を言っても、言い訳にしかならない。最初から命令が無謀過ぎるのだ。そもそもが、世良に出来ることの範疇ではないはずだ。
「天城卿は今も過去の事故で苦しんでいます。再び教鞭を取ろうとすると、心が拒否するのだと、先ほども仰っていました」
 それでも、世良は口にする。
 華族でありながら、教師になった彼は一風変わった存在だった。だが、彼の知識と情熱は多くの学生を導き、既に一角の人物になっている者も多い。
 その人生を狂わせたのは一つの事件だった。「あれは不幸な事故だった」と、天城と共に働いていたことのある宣教師・ガブリエルは悲しそうに口にした。
 天城のところに出入りするようになって直ぐに世良は、ガブリエルの下を訪ね、事件のことを聞いた。天城の生徒だったある学生が、元々心臓が弱かったのを隠して入学し、授業中に亡くなったということがあったらしい。
 確かに、聞く限りでは、非があるのは学生本人の方で、実際、天城を責める者は、彼の両親を含めて誰もいなかった。
 ただ一人、天城自身を除いては。
 「兆候が幾つもあったのに、気づいてやることが出来なかった」――そう言って、自らを責め続けた天城は、やがて気の病となり学校を去ったらしい。
「それを何とかするのが君の役割だろう。既に1月だ。だが、彼は一度たりとも、私の催す学生との懇親会に姿を現しはしない」
「もう少しだけ、時間を下さい。私も先生をこの学校に招きたいと思っています。けれど、先生の心はまだその準備が出来ていないんです」
 世良は懸命に頭を下げた。
『天城卿をこの学校の教師となるべく説得しろ』
 それが、1月前に世良が佐伯から命じられた内容だった。
 それから、世良は足繁く天城の下に通い、最初は会ってもくれなかった天城の部屋に足を踏み入れることを許され、親密な時間を持つことが出来るまでになった。そして、彼は「ジュノが望むなら」と言って、佐伯の主催する会合に出ようとしてくれた。
 因みに、「ジュノ」というのは、天城が異国で飼っていた犬の名前であるらしい。
 初めて会ったときから、「佐伯教授の忠犬」、「昔飼っていた犬にそっくりだ」などと言い出し、気づいたらその渾名以外では呼ばれた記憶がない。
 最初は恐縮していたので受け流していたら、最早訂正する機会も失ってしまった。
「来週、学校説明会を行う。それが最後のチャンスだ」
「ありが……。え、最後って……?!」
 重々しい通達に、礼を言おうとした世良の動きが止まった。
「それが無理なら、天城卿のことは別な人間に任せる。君の向学心を買って、学費を払えなくても下働きをすることで相殺するという計らいをしてきたが、それもこれまでだ。まあ、働き口の紹介くらいならしてやろう」
「そんな、天城先生にはもう少し、時間が……!」
 必死に縋ろうとした世良は、佐伯の強い視線に曝され、動きを止めた。
「時間か?気の病に本当に必要なのは、医者ではないのか?」
 それは、確かに正論だった。
 自分に出来ることの範疇ではない無謀過ぎる命令――世良自身が、佐伯の言い付けを最初からそう思っていた。
 天城が出て来られないのは当然で、いつか時間が解決してくれるのを待つしかない、と――
「分かりました」
 しっかりと自分を見据えて答えた世良に、佐伯は目を細めた。
「来週こそは必ず、天城先生をお連れします」
「期待している」
 頭を下げ、部屋を辞す世良の背を見ながら、佐伯は薄い笑いを浮かべた。


そんな訳で、長いので後編に続きます。
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