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テレビ先生の隠れ家
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プロフィール
HN:
藍河 縹
性別:
女性
自己紹介:
極北市民病院の院長がとにかく好き。
原作・ドラマ問わず、スワンを溺愛。
桜宮サーガは単行本は基本読了済。
連載・短編はかなり怪しい。
眼鏡・白衣・変人は萌えの3種の神器。
雪国在住。大型犬と炭水化物が好き。
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クワガタチョップパロです。
元歌をご存知の方は予測つくと思いますが、相当シンドいです。
スリジエラスト、未だに直視できません、みたいな方は本気で回避をお勧めします。
私は1つの話を集中して書くタイプなので、毎週ドラマ見る度に別なSSを書きながらだともう桜ネタに入った方がいいなって判断したんだけど、1日5行しか書けないとかいう状態を経てやっと浮上したら、バレンタイン直前じゃん。空気読んでないにも程があるよ…。しかも、数日前まで日本列島大寒波に襲われてて、桜ってまだまだ先じゃん的な(汗)
だが、上げる…!

拍手[5回]



 真っ青な空の色。
 太陽の光を全て吸い込んだような、紺碧に輝く海と白い石造りの建物。
 呑気に肩を這うクワガタの姿が視界の端に見えた。
 ――此処は、何処だ……?
 世良は茫然と立ち尽くしていた。


 外科研修医1年目の業務はハードだ。
 点滴、採血。オペの準備、鉤引き、外回り。カンファレンスのプレゼンに患者へのムンテラ。指導医に教えを乞い、空いた時間には糸結びの自首トレ。不規則な勤務と、次々に言いつけられる雑用。
 一日中、病院内を這いずり回り、くたくたになった身体を引きずっていたとき、ふと中庭の涼しげな木陰に惹き付けられてしまったのは自然な成り行きだった。このまま医局に戻れば、机の上に山積みになったレセプトの処理が待っている。
 ――5分だけだ。5分経ったら戻る……。
 自分に言い聞かせながら、ちょうど木の影になっている中庭のベンチに腰を下ろした世良は、大きく息を吐いた。
 重い身体を伸ばし、背凭れに寄りかかる。不意に、白衣の胸にクワガタが止まった。
 ――もう、そんな時期か……。
 仕事に忙殺されているうちに、季節は春から夏へと変わっていたようだ。
「お前は呑気で良いなぁ」
 そんなことを呟きながら、小指の背の辺りで軽くクワガタを弾く。
 その指に、昆虫の羽根の感触が掠めた瞬間――
 世界が一変していた。
 視界に広がる風景は、紛れもない異世界、どう少なく見積もっても、日本国内とは思えなかった。
「戻れ……!戻れ!」
 一通り回想を終えた世良は、半ばパニック状態でクワガタの背を何度も叩いていた。
『そこの君!』
 そのとき、背後から声をかけられた。
 英語だったが、尋常じゃない様子に驚いての問いかけであろうことは大体分かる。
「クワガタにチョップしてるだけです!」
 果敢に日本語で言い返した。
 こっちには元の生活に戻れるかがかかっているのだ。何も知らない、赤の他人の良識なんて知ったことじゃない。
 しかし、相手は怯まなかった。
『君は、確か……』
 耳に入った言葉に、世良は初めてまともに声の主を見た。ゆっくりとした英語は、世良の耳にもどうにか届いた。彼は世良を見て、驚愕の表情を浮かべていた。
『ドクター・セラなのか?!』
 問われて、世良も驚く。異世界、或いは、異国に知り合いなど居ない。しかも、相手は、日本人の血など一滴も入っているとは思えない、典型的な欧米人の風貌の男だ。年の頃は、40代後半というところか。まだまだ研修医1年目の世良には、学会や留学などで個人的に親しい海外の医者など皆無だ。
「そう、ですけど……、何で、俺のこと……?」
『神はまだ、我らを見捨ててはいなかった!』
 彼は天を仰ぎ、十字を切った。
『君が来るのは1週間後とアマギから聞いていた。トージョー・ユニバーシティに連絡を取ったのだが、君の居場所は分からないと言われてしまった……。君を待っていたんだ』
 トージョー・ユニバーシティというのは東城大のことだろう。だが、後は何を言っているのか、さっぱりだ。人違いだろうか?
「何を仰ってるのか、分かりません」
 きっぱり言い切った世良を男はまじまじと見た。そして、少しばかり寂しそうな表情になる。
『そうか。私のことを覚えていないのか。会ったのは2度だけだったしなぁ。私はオックスフォード大学のガブリエルだ。君がニースの国際学会のシンポジウムにアマギを探しに来たときに会っただろう。その後、東京での胸部外科学会でも会って話した――思い出したか?』
 残念そうに説明する彼には悪かったが、やはり誰かと間違えている可能性が濃厚だ。
『申し訳ないですけど、俺は今年研修医になったばかりで学会なんて一度も行ったことはありません。まして、海外なんて……』
『今年、研修医になった……?君は、アマギに会いにモンテカルロに来た訳じゃないのか?』
 ガブリエルは到底信じられないという顔になっていた。
『アマギって、誰ですか?!大学病院の中庭で一休みしてたら、いきなり此処に居て、何でこんなことになっているのか聞きたいのは俺の方ですよ……!』
 しかし、訳が分からないのは世良も同じだ。半ば喚くように、彼に向かって訴えた。
『つまり、君は、私のこともアマギのことも知らない、此処が何処かも分からない、アマギに起こっていることも知らないということか……』
 流石は年の功で、冷静になったのはガブリエルの方が早かった。
『そう、です……』
 余りに彼の言葉がはっきりしているので、自分がおかしいような気になってくるのだが、どう考えても彼とは初対面だ。
『ならば尚更、これは神の導きなのかも知れないな……』
 ガブリエルは口の中で小さく呟いた。
『君の居た世界は西暦何年だった?』
 何かに化かされているような気分だった。
 けれど、こんな妙な世界に居るという事実がある以上、拒否しても仕方ない。
『1988年です』
 むしろ、こんなけったいな話を半信半疑ながらも理解しようとしてくれていることに感謝すべきなのかも知れない。
 ガブリエルはきっぱりと言い切った。
『今は1992年春、此処はモナコ公国の首都・モンテカルロだ』
 それは到底信じがたい情報だった。場所はともかく、時間まで違うなど想像できる範疇を超えている。
 茫然とする世良に構わず、ガブリエルは独白のように呟いた。
『92年の君は恐らく間に合わない。だから、君なのかも知れない。”彼”に会えば多分帰る方法が分かるだろう』


『”彼”っていうのが、そのアマギって人なんですか?』
 世良は、ガブリエルの後に付いて、隣に聳える白亜の建物に足を踏み入れていた。
 自分も外科医だというこの男に拠ると、此処はモンテカルロ・ハートセンターという病院らしい。しかし、その言葉で連想される、東城大のような無機質なリノリウムの廊下は何処にもない。明るいロビーは美術館のような様相を呈していた。
『そう、私の親友であり、君とも関わりのあった人間だ』
 ガブリエルは受付の女性と軽い挨拶を交わし、エレベーターに乗り込む。
 静かで早いエレベーターは、あっという間に二人を天空へと運んでいく。エレベーターの階数ランプは、最上階の15という数字を指し示していた。
 開いた扉の外を見た世良は、思わず降りるのを躊躇した。敷かれた絨毯も飾られた絵画も置かれたソファも、1階など序の口としか思えない、正真正銘のVIP御用達レベル、何処の高級ホテルかという空間が広がっていたからだった。
『そうか、君はまだエルミタージュを見たことがないんだったな』
 ガブリエルは苦笑しながら先に降り、世良を招いた。
 世良は恐る恐る15階に降り立つ。
 毛足の長い絨毯をスニーカーの底で踏みしめた。何だか、ふわふわして地に足が着いている感じがしない。
『そのアマギって人は何者なんですか?』
 臆してしまいそうな気持ちを懸命に隠して尋ねた世良に、ガブリエルは鈍い表情になった。
『彼は此処の勤務医なんだが、実は、事故に遭ってね。もって1週間と言われて、今日でちょうど1週間になるんだ』


 ガブリエルが開いた豪奢な扉の向こうもやはり、スイートルームのような空間だった。
 だが、真ん中に置かれたベッドの周りを囲む機器と、一定のリズムで鳴り響く心電図の音が、そこが病室であることを物語っていた。
 世良はその人物に近づく。
 額に包帯を巻かれ、酸素マスクを装着して、静かに眠るその顔にはやはり見覚えはなかった。
 1週間も点滴しか受けていない所為か、少し痩せて見えたが、マスクの下でも、その顔が端正で美しいことは容易に知れた。
「ジュノ……」
 不意に、天城の口が動いて言葉らしきものを発した。
『アマギ……!』
 隣でガブリエルが叫んだ。
『奇跡だ!!』
 天城はもどかしそうに、乱暴な手つきで酸素マスクを取った。
「ジュノ」
 どうやら、自分に向けて言っているらしい。
 世良は困り果て、ガブリエルを見た。
『アマギ、彼はムッシュ・セラだが、どうやら君の知るセラとは違うようなんだ』
 ガブリエルもまさか、本当に彼の意識が戻ると思ってはいなかったようだ。
 口裏を合わせておくという発想が出なかったのを後悔するように申し訳なさそうな口調で言う。
『そのようだな』
 彼は本当に分かったのかと思うほどあっさりと言い、世良の方をじっと見た。
 綺麗な顔に見つめられ、世良は緊張で真っ赤になった。
「その、俺は……」
「何も言わなくていい。言いたいことは分かっている。今全て教えればきっと、私が死ぬ運命さえ変えられるだろう。だが、私が語るのは一つだけだ」
 世良は口を挟むのも忘れて、その言葉に聞き入っていた。彼の語り口は穏やかだったが、強く人を惹き込むものがあった。
「ジュノ。これからジュノは私と共に何度も後悔し、何度も傷ついて、何度も嘆くだろう。でも、その一つ一つは私にとって、本当に手放しがたい時間なんだ。だから、何も知らずに帰り、全て忘れてしまえばいい。心配しなくても、私はちゃんと幸せだ」
 言い切った天城に何も返せなかった世良は、その枕元に視線を彷徨わせた。
「……モンテカルロにも桜があるんですね」
 一振りの桜の枝が花瓶に刺さっているのを見て、何気なく言うと、天城は嬉しそうに笑った。
「ああ、もう少しで咲くんだな」
 その小さな蕾を沢山つけた枝に愛しそうに視線を注いでから、再び世良に向き直る。
「そうだ、桜にしよう。ジュノ、いつか、この国で桜を見たとき、私のことを思い出して欲しい」
「分かりました……」
 その言葉に込められた意味はさっぱり分からなかったが、無闇に噛み付く気にはなれなかった。
 そんな日が来ることなどあるのだろうかと思いながらも、世良は素直に頷く。
 答えを聞いた天城はぱっと微笑んだ。
 そして、笑顔のまま、じっと世良を焼き付けるように強く見据え動かない。
 胸が締め付けられるような表情だった。
「ジュノ……」
 天城が何か言おうとしたそのとき、世良の瞳からぽたりと滴が落ちた。
 自分が泣いたことに驚いた瞬間、その水滴に触れたクワガタが急に輝きだした。


「あれ?」
 じりじりと湿度を孕みながら照りつける日差しと、もくもくと空に広がる入道雲。確かに青いが何かが違う。抜けるように何処までも深い宝石のような紺碧はもう何処にもなかった。
 そこにあるのはいつもの景色。
「あ、やばっ。俺、寝てたのか?!」
 世良は背を預けていたベンチから、慌てて身体を起こした。
 夢を見ていた気がする。
 もっと深い青。淡い花の蕾と。それから、こちらをじっと見ていた誰かの――
「……って、そんなこと考えてる場合じゃないだろ!」
 レセプトの山を少しでも減らさないと、今日も何時に帰れるか分からない。
 それに、こんなところでサボっていたなんてバレたら大変なことになる。
 世良は、夢の片鱗を放り出し、夏空の下を医局に向かって走り出した。


「クワガタにチョップしてるだけです!」ってペアンの世良ちゃんは言いそうだなと思って。
…なんてことばっかり言ってるとアレなので、まあ、ちょっと真面目に話しますと、最初は40代と20代の世良ちゃんで考えたんですが、院長があの台詞を言う訳がないなぁ、と(自分の人生の苦労なんかそっちのけで、絶対、極ラプ2周年SSみたいに「あの人をモンテカルロへ帰すな!」って言うのが第一に出て来るんだろうな、と)思ったので、ペアンの世良ちゃんとスリジエの天城先生という変則パターンにしてみました。
続きます。
いや、正直、展開読めるから一気に上げたかったのですが、余りにも更新が遅いので…。
次回は更にキツいので、付いて来れる方だけよろしくお願いします。
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