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テレビ先生の隠れ家
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プロフィール
HN:
藍河 縹
性別:
女性
自己紹介:
極北市民病院の院長がとにかく好き。
原作・ドラマ問わず、スワンを溺愛。
桜宮サーガは単行本は基本読了済。
連載・短編はかなり怪しい。
眼鏡・白衣・変人は萌えの3種の神器。
雪国在住。大型犬と炭水化物が好き。
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院長、東城大の桜なんて見たら、絶対泣いちゃうよね、って思ったので、何とかしてそのシチュを書いてみようと試みた。
院長と天馬君。時期は2010年春。螺鈿・輝天ネタバレ。

拍手[5回]



 グループで写真を撮ったり、バラバラとこの後の約束を交わす年下の同期たちの間を抜け、脇道に入る。
 このまま帰りたいところだったが、謝恩会のために徴収された会費が勿体無いので、飲み食いだけはしようと決めていた。
 それまでの空き時間は2時間。親しい友人が同学年に居ない身には長過ぎる上に、別な集団と合流するには短過ぎる長さ。
 どうしたものかと思案しながら歩いていたら、地面に蹲る男性が目に入った。スーツの膝をアスファルトについて、どう見ても尋常な様子ではない。
「大丈夫ですか?!」
 まだ医師免許も持ってはいないが、具合が悪そうな人間を見過ごすことは出来ない。肩に触れながら、声をかける。
「……ああ……」
 夢から醒めたような顔で、その男は顔を上げた。とても大丈夫には見えなかったが、自分の早とちりだったことは良く分かった。彼は、泣いていたのだ。
 かけていた眼鏡を外すと、手の甲で乱暴に頬を拭って、鼻を啜り立ち上がる。
 何だか、申し訳ないところを見てしまったような気がした。
「すみませんでした。もう行きます」
「いや、こっちこそ。序でに一つ教えて欲しいんだけど、今、病院長室は何処にあるのかな?」
 病院長室、という言葉に背筋が引き締まる。
 町を歩いていて、交番の場所を聞かれたときと似ているかも知れない。
 疚しいことなどないし、向こうは此方を歯牙にもかけていないのだろうが、何だか特別な指名を受けたような気がしてしまう。
「ご案内しましょうか?」
「いや、それには及ばない。此処の建物のことは良く知っているからね。場所さえ教えてもらえれば……」
 平常心を取り戻したらしい男は、良く見ると、かなり仕立ての良いスーツを着ていた。
 靴や時計もそこそこのブランド品だし、少し長めの髪は綺麗にセットしてあって、今から病院長に会うという言葉が俄かに現実味を帯びる。
「実は、ついさっきまで勘違いしててね、僕は東洋大へ行くつもりだったんだ。それが、手配した業者の案内状の誤植で、東城大、しかも、こんな季節に来させられるなんて、そもそも最初にこんな依頼をした病院長に一言いわないと気が済まない」
 滑らかに話しかける口調は穏やかで、おまけに、引き込まれそうな笑顔まで浮かべているのに、内容は何処からツッコむか検討してしまうレベルの代物だった。
 ――病院長室の場所、教えて良いんだろうか……?
 思わず躊躇しかけたとき、「すみませーん」という声が割り込んだ。
 同時に、足元にころころと白と黒の特徴的な模様のボールが転がってきた。
 サッカー部か、サークルの集まりだろう。
 本当に最後の練習をしていたのか、ウケを狙ってのことなのかは分からないが、着慣れない感じのスーツを着て花束を持った人達の間に、ユニフォーム姿が混ざっていた。
 その一人が、拝むようなジェスチャーをしてみせた。
 こっちに返してください、ということだろう。
 拾おうとしたら、すっと割り込んだ足がボールの上に載せられた。
 それが余りに自然だったので、臆病者の常で咄嗟に身を引いてしまう。
 その病院長室へ向かう予定らしい男は、軽く片足を引いた。大袈裟なモーションではなかった。なのに、ボールは目に追えない程の勢いと回転で吹っ飛んでいく。しかも、コントロールも正確だった。
 この、文科系っぽい風貌の細い男から、まさか、そんな蹴りが来ると思わなかったのだろう。
 相手は、身体の真ん中に飛んできたボールに手を伸ばして受け止めたは良いが、勢いを殺しきれずに尻餅をついてしまった。
「よし。まだ、病院長室の灰皿くらいは割れるかな」
 非常に物騒なことを満足そうに呟く。
 ――……やっぱり、この人、何かヤバい……。
 さっさと道を教えて、離れた方が良い気がする。
「病院長室は本館の4階です」
「ありがとう」
 そちらの建物を見上げた彼は、そのまま行くのかと思いきや、不意に声を投げかけてきた。
「君は卒業生だよね?春からはどうするの?」
「国試に受かってればですけど――暫くは、此処で研修を希望してます。その後は、地方医療をやりたいな、と……」
「地方?それはまた、前途洋洋たる若者の言葉とも思えないな」
 彼は呆れたように笑って言った。
 そりゃ、そうだろう。
 大学病院に居られなくなったならともかく、好きこのんで赴任先に地方病院を希望する医大生なんて余程の変わり者扱いされても仕方ない。
 正直を言えば、自分の中の物ぐさな部分は、そんな面倒なことは止めろと命じている。
 けれど――
 燃え落ちる螺鈿のでんでん虫。真夏の幻影のような数多の命の終末と、それに寄り添っていた銀獅子の言葉。不純物を削ぎ落とし続けて巨大な怪物と化した大学病院のエゴと、そこから取り零された患者たちの嘆き。
 あの闇に目を背け、光の中を歩くことはもう自分には出来ない。
 拙くても、この手の中に、あの医学のチカラがあるのなら――
「そうか、良い先生に出会ったんだね」
 彼は独白のように呟き、顔を上げた。その目線の先に、ふわりと蕾を綻ばせた桜の木があることに今更気づいた。不意に、男は花から寂しそうに目を逸らした。
「卒業おめでとう。それじゃ、頑張って」
 今度こそ、彼が歩き去ろうとしたときだった。
「天馬せんぱーい!」
 桜模様の羽織袴姿の美少女が、大きく手を振りながら走ってくる。
 ――馬鹿。止めろ、冷泉……。
 凄まじく目立ってるじゃないか。何だ、あのバカップルって視線が痛い……。
 しかも、カップルでも何でもないのに。お前なら、一緒に時間潰す相手くらい幾らでも居るだろうが。
「先輩、急に居なくなっちゃうから探したんですよ。一緒に写真撮りましょう」
 嬉しそうにデジカメが差し出される。こんな見合い写真も撮れそうなくらい着飾った美少女と並べって言うのか?!背景の松くらいにしか見える気がしない。
「あれ、こちらは……」
 漸く気づいたのか、隣に立つ男を見る。
「お邪魔なようだから、僕はもう行くよ」
「再建請負人の世良雅志先生」
 冷泉は、黒目がちな瞳をくるんと大きく見開いた。
「確か、今日の14時から特別講義をされるんですよね」
 今日辺り、特別講義なんか企画したって誰が聴くっていうんだ。卒業生は謝恩会のことで頭が一杯だし、在校生は春休みで浮かれている。
「是非、聴講させてもらいます」
 居たよ、こんなところに……。
「その晴れ姿で来てもらえるのか。華やいだ雰囲気になりそうだね」
「先生がいらっしゃるって知ってから、東京の講演会の動画も拝見しました」
 げぇっ、そんなものまで見てるのかよ。
「それは、有り難いな」
「かっこよかったです」
 とびきりの笑顔までつけて言い切った。
 全く、相変わらずの親父好きっぷりだ。
 知的で温和ではあるけど、格好良いって感じじゃないだろう。
 そんなことを思いながら、男――世良先生の方を見たら、ぽかんとした顔をしていた。
「……それは、どうも。そうか……、参ったな」
 くしゃくしゃと髪を掻く。
 まあ、確かに、冷泉にこんなこと言われたら、照れるし、悪い気はしないよなぁ。
「その言葉で褒めてもらえたなら、とてもじゃないけど無様な姿なんて見せられないな」
 彼は一人語ちると、スーツの内ポケットから名刺入れを取り出す。
 渡されて、思わず受け取ってしまった。「極北市民病院院長」という文字が見えて、極北って確か、と頭を巡らせ始めたところで彼は唐突に言う。
「もし、君が赴任した病院が潰れたら、アドバイスくらいはしてあげるから。何時でも連絡して。その代わり、さっきのことは黙っててよね」
 唇に人差し指を当て、片目を瞑ってみせる。
 そんな芝居掛かった仕草が妙にハマって、冷泉の評価は強ち的外れじゃない気もした。
「そういえば、天馬先輩の志望を考えたら、世良先生は第一人者じゃないですか。凄い!」
「……っていうか、就職先が潰れたら、とか縁起でもないんですけど」
 何で、こんなこと言われなきゃならないんだ。
「それじゃ、僕は病院長室に行くからまた後で」
「あ、ご案内します!」
 卒なく言う冷泉に、世良先生は振り返った。
 「お言葉に甘えて」とか言うのかなー、僕が言ったときは断った癖に、とか思っていたら、彼はゆっくりと首を振った。
「大丈夫。この新病院と赤煉瓦棟の間は、何度も何度も、何百回も通った道だから」
 その視線がまたも桜へと注がれる。
 そうか、この人、此処の卒業生なのか。
 ――でも、何だろう?
 桜を見るこの人の目。
 そういえば、さっき、泣いて――いたんだよな……?
 考えているうちに、彼の背は遠ざかって行く。何だか、夢でも見ているような気分でその姿を目で追っていた。
「あ、大吉クン。こんなところに居たのね」
 聞き覚えのある声に顔を上げると、黒のパンツスーツにショルダーバッグを肩にかけた女性が颯爽と近づいてくるところだった。
「ハコ?何してるんだよ、こんなとこで」
 当事者にとっては一大イベントではあるが、今日の卒業式に新聞記者がわざわざ顔を出すほどのニュースはなかったはずだ。
「ちょっと珍しい特別ゲストが居たから、どうしても取材したくて」
「それって、もしかして……」
 思わず、手の中の名刺に目を遣ると、つられるように覗き込んだハコの顔色が変わった。
「どうして、大吉クンが世良先生の名刺を持ってるのよ?!」
「たった今まで、此処でお話してたんです」
 割り込んだ、いつもより澄ました声音に、ハコの表情が険しくなる。
「ご卒業おめでとうございます、冷泉さん。先輩として一つアドバイスさせてもらうと、謝恩会の会場には身支度する時間も考えて、早めの移動をお勧めするわ」
「私は世良先生の特別講義を聴いてから行きますから、ご心配なく」
 表面上は至ってにこやかに、しかし、明らかに目が笑っていない会話が横を吹き過ぎていくのをじっと黙って聞く。
「で、どういうことなの、大吉クン?」
「別に、病院長室の場所を聞かれて、雑談で、僕が地方医療を志望してるって話をしただけだよ。因みに、冷泉はそこに通りかかっただけ」
「大吉クンのスケコマシスキルが男性相手にも有効だったなんて、初耳だわ」
 どういう意味だよ。
「でも、助かったわ。ちょっと付き合ってくれる」
「僕は、これから謝恩会が……」
「お願い、大吉クン!世良先生って大のマスコミ嫌いで、まだアポも取れてないのよ。マスコミからじゃ透明性の高い意見は伝わらない、情報なんて個人で配信できるっていうのが持論なの。医学生が個人的に質問したいことを取材させてもらうって形なら頼んでみる価値はあると思うのよ」
「確かに、そうですね。今、講演会の感想をお伝えしましたけど、そんな気難しい方には見えませんでした」
 口を挟んだ冷泉に、お前は、ファンですだの、素敵でしただのしか言ってないだろ、と思ったが、ハコはそれ以上に状況を正確に把握したらしい。
「冷泉さん、お時間を取らせて申し訳ないのだけれど、少し付き合っていただいても宜しいかしら?」
 まあ、ハコならそうするだろうと思った。
 何で名刺をくれたのかは分からないけど、少なくとも僕は、世良先生とやらのことは全く知らない。
 よって、彼に質問なんて出来る訳もない。
 勿論、ハコだってそんなこと百も承知だ。
 つまり、これは割に合わないミッションなのだ。
 しかし、此処で冷泉深雪という思いがけない伏兵が存在した。
 全体の流れはハコが作るとしても、冷泉が何やかやと聞けば建前も生きてくる。
「勿論です。直接、世良先生のお話を伺えるなんて願ったりです」
 冷泉の快諾に観念する。
 この二人が結託したら、僕の命運なんて風の前の塵と言っても差し支えないだろう。
「謝恩会には間に合わせてくれよ」
 悪あがきをしてはみたけど。
「心配しなくても、取材が上手くいったら、吉牛の食べ放題、ご馳走してあげるわ」
「間に合わせる気ゼロだろ?!」
「それなら、私の行き付けのフランス料理のお店でディナーなんて如何ですか?」
「お前も、謝恩会に行く努力をしろよ!」
 全く足掻けた気がしない。
「……でも、もう少し、話は聞いてみたい、かな……」
 流していた涙と、桜に注ぐ視線。
 選りにも選って、地方医療などという道を選んだ訳。
 何度も何度も、何百回も通ったこの道はどんな風景で、そこには誰が居たのか――
「何か言った、大吉クン?」
「そういえば、黙っててって何をですか?」
 かしましい両脇の声を聞きながら、この終わりと始まりの日に出会った大先輩の背を思い出した。


何となく、天馬君は極ラプの時期にちょうどペアンの世良ちゃんと同い年くらいなんだよなぁ、と思って。「医学のチカラ」の章は、世良ちゃんが外科の神に見込まれた並みのエピソードだと思ってる。それを導いたのも、図らずも東城大トップになっていく二人なんですね。
天馬君の進路とかは勝手に捏造。でも、彼が体験したことを考えたら、そんな道を選びそうな気がするんだ。いや、ドラマのテンションで書いただろ、って言われたら、反論出来ないけど。大体、進路以前に、輝天ラストの天馬君は無事だったのか、から始まりますな。
最初、今世良漫才にしようかと思ったんだけど、そうすると天馬君がドラマ並みに空気になるので止めました(むしろ、ドラマの二人と書き分けできないからだろ、とか言ったららめぇ…!)お陰で、今世良書きたくて仕方ない。次は今世良…!!!
しかし、他の方のかかれる院長が穏やかに笑ってるの見たりすると、ホント、うちのは騒がしいなと思う。少し落ち着け、五十路手前!未だに灰皿くらい割りそうなんですけど…。
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