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テレビ先生の隠れ家
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プロフィール
HN:
藍河 縹
性別:
女性
自己紹介:
極北市民病院の院長がとにかく好き。
原作・ドラマ問わず、スワンを溺愛。
桜宮サーガは単行本は基本読了済。
連載・短編はかなり怪しい。
眼鏡・白衣・変人は萌えの3種の神器。
雪国在住。大型犬と炭水化物が好き。
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いつもの「桜が咲いたら、ミラクルが起きるよ」なご都合主義展開。前半にフラストレーション注ぎ過ぎて、後半の(エロ)盛り上がりが皆無。プロットも作らずに、書きたいものを全力で書くからこういうことになるのです…。反省。
あと、読んでたら分かる程度ですが、スラムンの設定が少しだけ入ってます。

拍手[2回]



「最近、おかしいですよ。どうしたんですか?」
 たった、それだけのことが聞けない。
 好きだの、傍に居て欲しいだのとは言ったことはないけど、休日を一緒に過ごして、時たま身体を重ねる関係は、一応恋人っていうことになるんじゃないだろうか。
 なのに、あの人は時々とても遠くて、ふらりと何処かへ消えてしまいそうな不安に襲われる。
 何処を見ていて、何を望んでいて、どうしてあげれば良いのか――
 言葉の代わりに、せめて、此処に居ると伝えたくて。
 今中はまどろんだまま、隣の布団へと腕を伸ばした。
 だが、そこに予想していた体温はなかった。
 さっと頭が冷える。
 障子の向こうから微かに漏れる光の下、無人の微かに乱れた布団が照らされている――世良が居ない。
 トイレか何かだろうか?
 夜中に目が覚めて、不快感に耐えられず、露天風呂で湯を浴びているのかも知れない。
 可能性なら、幾らでもあるのに。
 ざわざわと胸をかき乱す嫌な予感は消えない。
 今中は落ち着かずに首を巡らせた。
 すると、渡り廊下とは逆側の障子が少し開いているのが見えた。
 まだ、此方にも部屋があったのだろうかと起き上がり、開けてみて今中は硬直した。縁側になっているその先にも庭があった。
 庭といっても、先程見たような繊細な心遣いで植物や水の配置されたそれではない。
 たった1本。
 されど、1本――それは、視界を覆うほどの大樹だった。
 今を盛りと咲き誇る桜。
 その圧倒的な存在感に、今中は暫し息を飲んで見つめた。
 こんなに凄いものがあるというのに、世良も女将も全く話題に出さなかったなんて、どういうことなんだろう?
 疑問を持ちながらも、今中は首を巡らせ、世良の姿を探す。
 何となく焦れて、行き違う不安もないではなかったが、思わず庭へと下りた。
 縁側の直ぐ前に、平らな石が踏み台になるように置かれ、その上には履物も用意されていた。
 何故か、サイズはぴったりだった。
 まるで、桜に誘われるように今中は歩を進める。
 風が吹く度、はらりはらりと舞う花弁を横目に張り出された枝を潜ったところで、そこに人が居ることに気付いた。
「あ……。えっ、と……」
 一人だと思って何か変なことを口走らなかったか、服装におかしなところはないか――先程まで淫行に耽っていたという気まずさもあり、慌てて口から漏れたのはうろたえた、訳の分からない言葉だった。
「ジュノを探しているんだ。手伝ってくれないか?」
 そんな今中にもまるで動じることなく、桜の脇に立っていた黒衣の男は言った。
 宵闇に浮かび上がる荘厳な大樹の妖艶さと相俟って、美しい顔ですらりと立つ彼は一瞬、桜の精なのではないだろうかと思うほどに、現実感が薄く、目の前に居ることが信じられなかった。
 投げ掛けられた言葉も、ひどく不可思議だ。
 『ジュノ』――犬か何かだろうか?
「私も人を探しているんです」
「だったら、一緒に探すことにしよう」
 展開の予測がつかなくなってきた。
 これはいよいよ、夢かも知れない。
 しかし、夢のような状況であっても今中の気質は変わらないらしく、言われた通り、根の間や枝の上に、世良と、彼が探しているであろう犬か何かの姿を探す。その間、男は優雅な仕草で口元に手を当てながら悠々と、たっぷりと花弁をつけた枝に目を遣っていた。
「うわっ」
 地面から大きく張り出した根っこを懸命に跨いでいたつもりだったが、不意に、その一つに足を引っ掛けた。
「どうした?」
 歩み寄ってきた彼の視線が、今中の足元で止まる。
「ジュノ……」
 そして、彼はそっとそこにしゃがみ込み、いとおしむようにそれに触れた。見下ろした今中は、それが根っこに挟まれるように横たわる世良であることに驚く。
「『ジュノ』って、世良先生のことだったんですか?!」
 まさかとは思ったが、世良の知り合いだったとは――
「大丈夫なんですか?」
 野外で倒れているなんて、何処か具合でも悪いのかと尋ねる今中の前で、男は手馴れた仕草で、世良の首筋に手を当て、続いて口元に指先を載せた。
 その動作には色気が漂っていて、こんなときだというのに、何だかどきりとしてしまう。
「脈も呼吸も問題ない。ただ眠っているだけだ」
 その診断に、彼も医者なのかと驚く今中を尻目に、男は世良を抱え上げた。
「君には悪いが、私がジュノを部屋まで運ばせてもらう」
 宣言されて、今中はただ頷く。
 知らない男と世良が密着しているのは少し複雑だったが、彼がまるで先程、桜を見ていたような表情で目を細めたのを見たら、何も言えなくなった。
「君はこの桜をどう思う?」
 唐突に、男が尋ねた。
「桜、ですか……?」
 意図を飲み込めずにオウム返しにする今中に、彼は微笑む。
「ただの雑談だ。率直に言えば良い」
「うーん……。綺麗ですけど、お花見するなら、ここまで凄くなくても良いかな。もう少し、程ほどで」
 夜目に見た所為もあるかも知れないが、飲み込まれそうな畏怖さえ感じさせる木ではどうも落ち着かない。
 そう答えると、彼は吹き出した。
 あはは、と声に出して笑う。
「それはまた、ユニークな回答だ。予想外だったよ」
 そして、こちらまで愉快になるような声を立てた後、後でジュノにそう言ってやると良い、と付け加え、世良の身体を縁側に横たえた。
「あの……、世良先生に会っていかないんですか?」
 そのまま軽く挨拶をして辞そうとした男に、今中は慌てた。いまいち状況が飲み込めなかったとはいえ、運んでくれたお礼もろくに言っていなかったことに気付く。
「会えないんだ」
 彼は寂しそうな笑みを浮かべて言った。
「それは、どういう……?」
「ジュノは厄介な荷を受け継いでいてね――私はただ、迎えに来たジュノを歓迎したかっただけなんだが、それが、全てをジュノに譲渡するという結果になってしまった。お陰で、ジュノにはいつも、良からぬ思惑を持った人間が近づいてくる。此処の女将もそうだった。私と面識があったのを良いことに、金の匂いを嗅ぎ付け、ジュノに私の名を使って手紙を出したのさ。もっとも、もう全ては受け継がれた後だったんだが」
 一体、何の話だろう?
 金がどうのということは、世良が詐欺か何かに巻き込まれかけたということだろうか。
 突然のサスペンス展開に、今中は何とか頭を追いつかせようと試みる。
「それでは、私達はどうしたら……」
「その件は、私が解決させたから問題ない。桜の魔力とジュノとの絆を媒介に、二度と姿を見るはずのない手紙の主が現れたんだ。賭けても良い、女将はほとぼりが冷めるまで表には姿を現さないだろう」
 サスペンスだと思ったら、ホラーかSFだったらしい。
 そして、その言葉が真実なら、彼はもう既に――
「ジュノの眠りが覚めるまで、その僅かな時間だけ、私はこの仮初めの姿で居られる。そして、起きたときに私は消えるんだ」
 驚きの表情を浮かべる今中に、彼は淡く微笑んだ。
「そんな……!何とかならないんですか?!」
 後から思えば、良くこんなにも荒唐無稽な話を信じたものだと思うが、そのときは、荘厳で幻想的な桜に妙にマッチする彼の美しさが、自然に今中にそれを受け入れさせた。
「大丈夫だ。この姿が消えても、私はちゃんとジュノの中に残る。それに、ジュノには君が居る」
「わっ、私なんて……」
 どんなに傍に居ることを誓っても、世良の心は何処か遠い。
 注いでも注いでも、想いは伝わらない。
 世良が真に望むのは、この人と居ることではないのか――
「冥府からの手紙に動揺し、怯えながらジュノは君を頼った。本来、私は無闇にジュノに関わるべきではない存在だ。目に余ると思って手を出したが、私の出る幕ではなかったかも知れないと思ったよ」
 彼は小さく肩を竦めて、軽やかに笑って見せた。
「え……と、つまり、それは……、世良先生が私を此処に誘ったことを言ってるんですか?」
「だから、そう言っている。思ったより飲み込みが悪いな、君は」
 楽しげに話していた彼の機嫌が急降下したので、今中はとりあえずの疑問を頭から押し退けて、慌てて言った。
「じゃ、じゃあ、あの……、もし、世良先生に伝えることがあれば……」
「君と同じだ」
 咄嗟に叫んだ今中に、男は落ち着いた声で端的な言葉を被せた。そして、頭の直ぐ脇に伸びている、たっぷりと花弁をつけた枝へと手を伸ばした。
「そんなに見栄を張らなくて良い。ジュノに出来ることなんて分かっている」
 柔らかく、優しい声で花弁に向かい、語りかける。
「え……?!」
 その指先が触れるか、触れないかのところで、枝は刹那輝き、光の粒へと変わって消えた。
 枝だけではない。
 今中の目の前で、桜の大樹は柔らかい光を放ち、花も幹も根も、舞い散る花弁すら輪郭をぼやけさせていく。
 さながらイリュージョンのような光景に、今中は目を見張った。
 光へと向かって、彼は歩み寄って行く。
 すると、それに呼応するように光は中心へと収束した。
 長身のその男の背丈より少し高いくらい、枝も勢い良く伸びてはいるが細く、満開の様相ではあるがまだ若く小さな木がそこに現れる。
「どうだ、この木の下でなら花見をする気になるだろう?」
「確かに、どちらかといえば、このくらいの方が……」
「これが身の丈というものだ。そして、その有りの侭の姿で良いと言ってくれる者もちゃんと居るんだ――そう、ジュノに伝えて欲しい」
「『これが身の丈』……で、ええと、あの……」
「聞こえたよ……」
 滑らかな長い伝言に驚き、慌てて復唱しようとしたとき、隣から聞き慣れた声がした。
 男がふっと相貌を崩したかと思うと、今中の見ている目の前でその姿はすうっと薄れていった。
「え……?!消えた?!」
「僕が起きたら、消える――最初からあの人はそう言ってただろう」
 起き立ての所為なのか、縁側に座った世良は押し殺したような不機嫌な声で言う。
「聞こえて……たんですか?」
「ああ。全部、ね……」
 そのまま黙ってしまった世良との間に落ちた重い空気を何とかしようと、今中は努めて明るい声を出した。
「あの人、凄く綺麗な人でしたね。まるで、桜の精みたいな……」
「桜の精、ね。短絡的だな」
 世良は鼻先で笑い飛ばすように言い、額に手の平を押し付けた。
「いや、今は本当にそうなのかも知れない。だから、僕のハッタリなんて最初から分かってた……。本当に、惨めだ……」
「あの、世良先生……」
「何?」
 まるで何かに腹を立てているように見える世良は、何故か、とても小さく見えた。
「そんなことないと思います。だって、あの人、本当に大切そうに桜を見てました。ただ、そこまで頑張る必要はないって言いたかったんだと思います……!」
 原理は良く分からないが、この木は世良自身なのだろう。
 あの男と世良には、今中には知り得ない深い繋がりがある。
 彼は世良をとてもいとおしんでいるし、今の在り方を心配している。
 彼自身も言っていた通り、今中も良く似た感情を抱いているからその気持ちは何だか分かるような気がした。
「……知ってるよ……」
 押さえた手の平が両眼を隠し、声が詰まっているのに今中ははっとする。
「例え、僕が全てを投げ出しても、『それで良い』って笑ってくれる人だってことくらい分かってる。けど、それでも、僕は、僕に出来る全力で、あの人が目指していたものを継ぎ続けたいんだ……!」
 一息に吐き出された言葉の内容と、その激しさに今中は茫然とする。
 常に底を見せない冷酷な再建請負人の仮面はもう、何処にもなかった。そして、薄っすらと見え隠れしていた真っ正直なほどにも切実な願いはこれだったのかと全てが繋がる。
「だったら……」
 その思いに触れたなら、今中の選択肢など一つしかない。
「頼ってください」
 今中の言葉に余程驚いたのか、世良は濡れた頬を隠すのも忘れたように此方を穴が開くほど見つめた。
「頼る……?」
「そうです。私でも、病院の人達でも、他の誰かでも良いですけど――そうしたからって世良先生が全力でないことにはならないし、そもそも、一人で何かを成し遂げることが出来るなんて思ってませんよね?」
 じっとその目を見つめ返すと、世良ははっとしたように目を逸らした。
「偉そうに……。僕ですら此処まで四苦八苦してるってのに、今中先生に何が出来る訳?」
「それでも、貴方を一人にしないことくらいは出来ます」
 漸く、分かった。
 世良は、自分の不甲斐無さを思い、あの男に責められることを恐れていたのだ。
 決して、そんなことをする人ではないと知りながら――
 自らを糾弾し続ける自身にかの人を投影して、ずっと怯えていた。
「大丈夫です。あの人は、『身の丈で良い』と言いました。『有りの侭の姿で良い』って」
 繰り返しながら、今中はその背を抱き締める。
 微かな震えに、彼が声を殺して泣いているのを感じながら、構わずに強く力を込めた。
 ほんの少し前、布団の中の彼にそうするつもりだったように。
「桜、綺麗です」
「こんなので褒められても困るよ……。これから、僕は桜並木を作るんだから……」
 所々詰まったような強がりを聞きながら、「いつか、その下で一緒にお花見できたら良いですね」と今中は呟いた。


天城&今中の、元カレ・今カレ邂逅が最早風物詩のこのサイト。今年は綺麗な桜を沢山見たので、SS内で活かしたいなぁ、と思いつつ、全く表現し切れてませんね。脳内じゃフルカラー再生してるのに(知らんがな)でも、今世良いっぱい書けて楽しかったです…!
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