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テレビ先生の隠れ家
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プロフィール
HN:
藍河 縹
性別:
女性
自己紹介:
極北市民病院の院長がとにかく好き。
原作・ドラマ問わず、スワンを溺愛。
桜宮サーガは単行本は基本読了済。
連載・短編はかなり怪しい。
眼鏡・白衣・変人は萌えの3種の神器。
雪国在住。大型犬と炭水化物が好き。
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うちの天城→高階は「犬好きの、物凄く懐いてる犬を飼ってる知人に対する気持ち」って言ったら、なおさんがウケてくれたのでSS化してみた。高世良描写有り(師弟愛か、プラトニックな恋愛感情程度)

拍手[2回]



 長閑だなぁ、ジュノ。
 にこにこと満足げに笑う天城に対して、世良は随分とご機嫌斜めだ。
「先生、今日は隣町のバラ園に行くって言いましたよね?」
 世良の言葉に、天城は鷹揚に頷く。
「ああ、言った」
「なのに、何で」
「此処の紫陽花が美しかったからだな」
「選りにも選って……」
 世良ははぁぁっと溜め息を吐いた。
「バラ園は所詮欧米の真似事だが、紫陽花は向こうでは見ることはなかったからな」
 うっとりと目の前に広がる花を見つめる天城にも、世良の心は晴れないようだ。
「男二人でバラ園ってのもどうかと思いましたけど、別にそれには反対しませんでしたよね」
 口を尖らせ、異論を唱える。
「それが何でこんなところで花見になってるんですか?!」
「満開の紫陽花だ、何の不満がある?」
「だって、此処、桜宮の駅前じゃないですか……!!!」
 世良は嘆くように訴えた。
「こんなところ、誰かに見られたらどうするんですか?!」
 ベンチに座る二人の男、しかも、片方は常人離れした美貌の持ち主だ。
「何を心配してるんだ?私達が花見をしていたというだけだろう」
 「明日の予定は空けておけ」と、昨日突然告げられたくらいは良しとしよう。気紛れな男がローカルニュースで見たバラ園に興味津々だったりするのも別に今に始まったことではない。
 久し振りの梅雨の晴れ間、上機嫌な天城が軽やかにヴェルデ・モトを発進させたところまでは順調だった。
 だが、天城の愛車が目的地へ着くことはなかった。
「……大体、紫陽花で花見って……」
 確かに、駅前ということで一休み出来るベンチはあるが、公園のように長らくゆっくりしてくださいという雰囲気ではない。
 何より、決してごった返している訳ではないが、目まぐるしく行き来する人々が投げ掛ける視線が痛い。
「詰まらないことを気にするな。私達が何をしていようが彼らには関わりないことだろう」
 天城は何処吹く風でその言葉を受け流す。
「関係はないですけど、病院のスタッフにでも見られたら……」
 こんな目と鼻の先で花見をしていた、などということがバレたら、明日の午後には職場中に噂が広まっている。大学病院とはそういうところだ。
「何を気にしているんだ?悪いことをしている訳ではないだろう」
「それはそうかも知れませんけど……」
 全く納得をしていない顔で世良は言葉を返したが、天城は敢えてそれを流し、本来の目的へと視線を戻した。
 天城には世良の外聞を気にする想いなど、全く理解出来ない。法律を犯しているなどというなら別だが、駅前でドライブの途中にたまたま見かけた花に魅入ることの何が悪いのか、という話は考えることも馬鹿馬鹿しいレベルだった。全く、何故、日本人はこの程度のことを気にするのだろう。
 紫陽花が美しかった――それだけで、天城が此処に足を止めるのには十分な理由がある。
 花の盛りは儚い。
 刻々と変化し、様々な姿を見せる植物を天城は愛していた。葉を繁らせ、花を付ける刹那輝き、実を結ぶ――その姿は逞しく、美しい……。
「ジュノも余計なことばかり考えてないで、もっとちゃんと花を見れば良いんだ」
 澄ました顔で言った天城を、世良は反抗的な目で見た。
 俺と先生は違うんです、とでも言いたげな視線もあっさり黙殺された世良は溜め息混じりに立ち上がった。
「飲み物、買って来ます。何が良いですか?」
 あんなに文句を言っていた癖に、今だって不満で仕方ないのに、次に天城が言うだろうことは、ある程度予測して身体が動いている。まあ、一時的にでも、この場を離れたかっただけかも知れないが。
「向こうにジェラートの店があったな。味はピスタチオが良い」
 世良は呆気に取られた表情で固まる。
「ジェラート……?」
「セ・ビアン。知らないのか、最近店が出来て話題になっている」
「知ってますけど……、此処からじゃ1キロはありますよ」
「ジュノが走れば大した時間はかからないだろう」
 あからさまに、我が儘なんですから、という表情を顔に出しつつも、世良は律儀に走って行った。
「少し日差しも強くなってきたしな」
 世良はその辺りの自動販売機でお茶でも買うつもりだったのだろうが、何となく、もう少し手のかかることをさせたくなったのだ。
「しかし、そうすると、ジュノが戻るまで退屈だな」
 自分で命じた癖に身勝手なことを述べ、天城は行きかう人々に視線を遣る。駅前なので、時間を気にして急ぐ人も多いが、待ち合わせなどで足を止めている者も居る。
 その中に、犬を連れて散歩中なのだろう20代の女性がいた。
 ショートボブにした彼女は、ジーンズに半袖のパーカーというラフな出で立ちにも関わらずなかなかの美人だったのだが、目を引いたのはその飼い犬の方だった。
 薄い茶色のふわふわした毛並みの、大事に手入れされているのだろうポメラニアンなのだが、とにかく主人との散歩が嬉しくて堪らないらしい。
 飼い主の膝くらいまでしかない小型犬だというのに、後肢のバネを精一杯使って、彼女の胸くらいの高さまで跳ね上がっている。
 それも、何度も何度も。
 そんなにジャンプしたら家に戻る前に疲れ果ててしまうのではないかと心配になるが、勿論、そんなこと微塵も考えていないだろう。
 とにかく、湧き上がる悦びを全身で表現していた。
 ――何かに似ているな……。
 思考に小さな引っ掛かりを感じて、天城は首を傾げる。
「高階先生、おはようございます!」
 しかし、唐突に耳に入った聞き慣れた声に、天城の興味は一気にそこから離れた。そちらを見れば、両手にスプーンを差したカップを持った世良が通行人の一人に向かって頭を下げていた。呼びかけられた小柄な男も、気づいて飄々とした笑みを浮かべた。
「おはよう、世良君」
「この辺りでお会いするなんて珍しいですね」
「昨晩は知人と飲んだんだが、駅の近くだったから店に車を置いてきて今から回収に行くところなんだよ」
「それなら、代行を頼めば良かったのに」
「たまには電車に乗るのも気晴らしに良いものだ。実際こうして、思いがけないところで思いがけない人に会ったりするじゃないか。それより、世良君はどうしたんだい?」
「あ……。実は、ですね……」
「ジュノ!早くしろ、ジェラートが溶けてしまう」
 深く考える前に、天城は不機嫌な声を挟んでいた。此方を見た高階の顔があからさまに曇る。
 明らかに慌てた世良に、高階は不自然に平坦な調子で言った。
「世良君、君の『上司』がお呼びのようだよ。早く行ってあげなさい。もっとも、職場の外にまで余り酷い上下関係を持ち込まれるようなら、拒否する権利もあるとは思うけれどね」
「はっ、はい!失礼します」
 一つ礼をして戻って来た世良は、天城に片方のカップを差し出した。
「遅くなって、すみませんでした」
「そっちは何味だ?」
「チョコミントですけど」
「それが食べたい」
「え?!」
 驚きながらも、世良はもう片方のカップを渡す。
「お茶も欲しい。冷たい緑茶だ」
 いい加減にしてくれ、という顔で、計らずも自分のものになったピスタチオ味を口に運びながら自動販売機に向かう世良から視線を外し、天城は再び駅の方角へと目を遣った。高階の姿は既にない。
 そういえば、あの犬も何時の間にか居なくなっていた。
「そうか……!」
 不意に、天城の中で全てが腑に落ちた。高階と話しているときの世良の表情が蘇る。
「何かと思えば、ジュノじゃないか」
 恩師を慕う研修医の姿は、千切れるほど尻尾を振って、一緒に居られる嬉しさをアピールする飼い犬にぴったりと重なった。満面の笑顔と全身から溢れる喜びは、そうするつもりはなくても漏れ出てしまっている。
「お待たせしました」
 少し息を切らした世良がペットボトルをベンチに置き、隣に自分も座る。
「ああ……」
「どうしたんですか、天城先生?」
 世良はきょとんとしたまま、全く減っていない天城のカップを伺う。
「やっぱり、そっちが良い」
「ええ?!俺、もう食べちゃいましたよ!」
 困り果てる世良に構わず、その手からカップを受け取り、逆の手を差し出した。
 そんな行為で、天城は世良の首から垂れた紐を握り直す。
「本当に、何なんですか……」
 溜め息を吐く世良は、天城の言うことなら何でも聞く忠犬そのものだ。
 天城の命令には絶対服従、元上司は嫌味を言って去って行くしかない。
 梅雨の中休みの空は晴れ渡り、紫陽花は美しく、ジェラートはひんやりと喉を通り過ぎる。
 なのに、その少し溶けかけた甘味は少々きつく喉に絡みついた。


世良ちゃんの犬っぽい描写がえらい楽しかったので、続きが浮かんだらシリーズ化しようと思います。「天城先生に犬の心を華麗にかっさらってもらいたい」って言われてるんだけど、どうしよう(笑)
私的に、ブレイズ初期の世良ちゃんの高階さんに恋してるんじゃないかって描写が結構好きなんですが、本当に誰も何もコメントしないので、あれ、私の本にしか書いてないのかなってたまに思います(笑)どうも私は、「~の犬」って単語が滅茶苦茶好きらしい。
本当はお花見にしたかったんですが、二人で桜見てると91年になっちゃうんですよね。後で、「このエピソードは90年じゃないと!」ってのが出て来るといけないから、90年6月に設定しておく。
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