テレビ先生の隠れ家
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プロフィール
HN:
藍河 縹
性別:
女性
自己紹介:
極北市民病院の院長がとにかく好き。
原作・ドラマ問わず、スワンを溺愛。
桜宮サーガは単行本は基本読了済。
連載・短編はかなり怪しい。
眼鏡・白衣・変人は萌えの3種の神器。
雪国在住。大型犬と炭水化物が好き。
原作・ドラマ問わず、スワンを溺愛。
桜宮サーガは単行本は基本読了済。
連載・短編はかなり怪しい。
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「やあ、ジュノ」
両手に論文の資料を提げた世良は、駐車場の宵闇の中から明るく投げられた声に飛び上がった。
時刻は既に夜の9時を回っている。
こんな時刻の駐車場は無人に近いので、周囲に気を配ることもなく、斜め横断による正規のルートの大幅短縮を図っていた。
街灯が疎らだから、視界はそこそこ闇に慣れてはいたが、進行方向の障害物の有無を判断するのが精々。
だから、声をかけられて心臓が停止するかと思うほど驚いた。天城は愛車のボンネットに軽く腰をかけて、何だか寛いでいるように見えた。
「あ、天城先生……。今、帰りですか?」
これといった業務がある訳でもない天城がこんな時間まで残っているのは不思議だったが、まさかそのまま言う訳にもいかない。世良は質問を決まり文句に変換する。
「ああ。星を見ていたら、大分時間が経っていたようだ」
学会の準備に走り回っている世良からすると、そんな回答をするスリジエ・ハートセンター総帥サマはとんでもなく浮世離れしているようにしか見えない。
「星、ですか……?」
世良は促されるままに空を見上げる。
「少しばかり病院の明かりが邪魔だが、此処からならヴォア・ラクテが見える」
「ヴォア……?」
「天の川、だ」
「天の川……」
世良はその単語で他愛もない連想をする。
「七夕はもう過ぎちゃいましたね」
「七夕?」
7月7日の頃は国際外科学会の直前で大わらわだったから、そんな行事があったことすら思い出しもしなかった。
「そんな行事するの、小児外科の方だけでしょうけど」
娯楽の少ない子供達の為にささやかな笹飾りが配置されているのなら見た気がして言うと、天城は笑みを浮かべた。
「ジュノは、何か願い事があるのか?」
大した意味もない雑談だ。
世良は両手にずっしりと重みのかかる資料をちらりと見る。暇を持て余しているらしい天城とは違い、世良は、高階に命じられた学会用資料の纏め作業の途中だった。とはいえ、スリジエ勤務扱いになっている世良だって、日々の業務の合間にこういった作業を片付けている大半の医局員に比べれば遥かに楽なのだが。
遅くまで図書館で資料の精査をしていた甲斐あって、今から手際よく処理すれば、明日の朝一番に、なかなか手ごたえのあるプレゼン内容を提出できるだろうというところまで漕ぎ着けていた。
これは当初の予定からすると随分早いし、高階に伺いを立て、その意見を入れて手直しも出来る。
出来過ぎなくらいに好調で、世良は明日には、遅くまで頑張ったことを労って褒めて貰えるに違いないという期待で胸を一杯にして、張り切って医局へと戻るところだった。
――さっさと戻れよ。どうせ、天城先生の話なんて仕事のことじゃないんだろ。
世良の頭が命令を下す。
業務として客観的に見ても学会準備の方がずっと大事だし、自分の下心を差し引いてみても、その言葉は正しく感じた。
「天城先生、すみませんが……」
適当に理由を付けて、この場を切り抜けようとした世良に構わず、その指先が天空を差した。
「ジュノは運が良いな。ちょうど月が翳った」
まるで言葉が雲を動かしたように、途端に、彼の顔も判別し辛いほどに闇が濃くなる。
つられて再び空を見上げた世良は、空に散らばる白砂のような光に絶句した。
「凄い……」
「だろう?」
「桜宮にもまだ、こんなに星があるんですね」
「何を言っているんだ」
天城が呆れたように言う。
「星は何時だってそこにある。街灯や窓の明かりに遮られているだけだ」
「……知ってますよ」
世良だって、その程度の理科の知識はある。
ただ、見えないのなら、ないのと一緒だろうと思っただけだ。
「で、ジュノは何を願うんだ?」
だから、そういうのは小児外科だけだって言ってるのに、と溜め息を吐きながらも、世良は口を開いた。
「立派な外科医になれますように、ですかね」
『世良、立派な外科医になれよ』
もう此処には居ない男の声音が耳の奥で響き、世良の口を通して天城に伝える。
天城は目を瞬かせ、世良を見返す。
しかし、驚いていたのは世良も同じだった。
さっさと話を打ち切ろうと思っていた。
早く戻って学会の準備の続きをやって。出来の良いプレゼン内容を早く作れば、高階は世良の頑張りを認めてくれる。
こんなところで意味のない雑談をするより、ずっと重要なことのはずだ。
なのに、世良は天城の話に乗った。
それも、外科医としての自分にとって最大とも言える出来事の断片を口にして。
「で?」
「え?」
「ジュノの思う『立派な外科医』とは何だ?」
しかも、こんな謎かけのような言葉を持ちかければ、当然天城は興味津々で話に乗ってくる。分かっていたのに、何故、と思いながらも世良は考えてみる。
あの言葉を伝えた男の思いは他の医局員たちよりはずっと知っていたし、彼には本当に色んなことを教えてもらった。けれど、去って行くその後ろ姿を思い出すと、彼は、自分のようにはなるな、というメッセージを送っていたような気もする。
「それは……、一人前に手術が出来て……」
「ならば、世界で一人しか出来ないような手技を持つ外科医になりたい訳か?」
「そりゃ、なれたら凄いですけど、なりたくてなれるものじゃないですし……」
それに、何だか、それではしっくり来ないように思う。
天城は、思考に沈みそうになる世良を見て、不安定な笑みを浮かべた。
「そうだな。ジュノには明確に目指す人間が居るんだろう」
「え?」
その思いがけない指摘に、世良は目を丸くした。
「いや、その人間のようになって、本人に褒めて欲しい、の方が正確か」
呟いた天城の言葉に、世良はますます不思議そうな顔を見せる。
「成程。自覚もなしか」
「何なんですか、さっきから?」
一人で頷く天城に、世良は少し気分を害した口調になった。
「俺はただ……」
言いかけて、ぐっと言葉に詰まる。今度は、天城が不可解なものを見る目を、世良に向ける番だった。
「な、何でもないです。学会の準備があるので、失礼します!」
慌てて歩き始めたら、資料の角にしこたま太腿を打ちつけたが、努めて何でもない振りをして歩き去る。
足を運ぶ度にずきずきしたが、1秒でも早く此処から立ち去ることが最重要だった。
――貴方なら、何を目指すか聞いてみたいと思った……。
そして。
――……ほんの少しでも長く、貴方と話したかった。
『本当に、甘ったれだな』
嘲笑う声が耳元に広がって、世良は脳裏に焼き付いた星の光を消すべく街灯の明かりに目を遣った。
実は、続きは原作準拠で、世良ちゃんの犬キーワードな部分をピックアップして書き進めようと思ってたんですが、両片思い展開が思いの他楽しくて、どっちへ進めようか悩んでいる。但し、後者の場合、続きが思いつかなかったら終わります(笑)
うちの地元も街灯の少ない山里みたいなとこに行くと、それはそれは凄い天の川見られるんですが、桜宮はもうちょっと都会だよね、さすがに…。
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