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テレビ先生の隠れ家
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プロフィール
HN:
藍河 縹
性別:
女性
自己紹介:
極北市民病院の院長がとにかく好き。
原作・ドラマ問わず、スワンを溺愛。
桜宮サーガは単行本は基本読了済。
連載・短編はかなり怪しい。
眼鏡・白衣・変人は萌えの3種の神器。
雪国在住。大型犬と炭水化物が好き。
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両思い天ジュノを書いたら、今世良でも書きたくなったので。
今中先生は無自覚、院長はお互いの気持ちに気付いてるけど見ない振り、って感じです。そういえば、初期の今世良ってこんなんだったなって。
微エロ描写有り。割とベタな感じで。
そして、結構しっかりスラムンネタバレがあるので、小さなバレも嫌って方は止めといてください。

拍手[4回]



 息が、苦しい。
 口が蓋をされているようで、上手く空気が吸えない。
 両腕は縫い付けられたように動かず、床のひんやりとした感触が伝わってくる。
 逆に、押さえつけているものは酷く熱い。
 さっきから、首の辺りに長めの毛がやたらと滑って触れる。
 断片的な実況は幾らでも出来る。しかし、一言でいおうとすると、違う可能性を模索せずにはいられない。
 例えば、この状況で咄嗟に連想してしまうものと、何か違う意味が存在するのではないか、とか。
 そうでなければ絶対におかしい。
 こんな状況、有り得る訳がない。
 上司が自分を組み敷いて、唇を重ねているなんて、額面通りの意味がある訳ない――


「今中先生。今日、うちで飲まない?」
 世良の唐突な誘いが、全ての発端だった。
 救命センターから戻って、不安定ながらもかつての日常を取り戻し始めたばかりの今中は純粋に嬉しかった。
「良いんですか?」
 だから、二つ返事で了承した。いきなり上司の家に行くことになった緊張はあったが、世良のプライベートを見ることが出来るという好奇心が勝った。いつも一定の距離を保っていた彼が近づいてくれたこの機会を逃してはなるものか、とも思った。
 世良は、そんな今中に向かって、意味ありげな笑みを形作って見せた。それを眼前にした今中は思わず身を引いた。
 けれど、今更断るなど出来る訳がない。第一、不穏な空気を感じ取っただけで何があったという訳でもない。そう自分に言い聞かせて、今中は何も見なかったことにした。
 後にして思えば、その予感は正しかったのだけれども――


「ほら、今中先生。もっと飲みなよ」
 半ダースのビールは悉く空き缶と化していた。
 酒宴の主役は、地元産の焼酎へと切り替わっている。
「すみません」
 キッチンで今中のお代わりを作る世良の手の中で、ロックアイスがからからと音を立てた。
「ちゃんと寛いでる?缶詰でも開けようか?」
「もう、十分です」
 甲斐甲斐しく給仕をしてくれる世良に、今中は来て良かった、と思っていた。
 酔った世良は、滑らかな口調でこれまで居た土地の話をしてくれて、それはそれなりに面白かった。機嫌もすこぶる良かった。酒も、此処に来る前に適当に買い込んだスーパーの惣菜もそれなりに美味かった。
「それより、世良先生は本当に色んなところに行かれてるんですねー」
 記事や何かで来歴を知ってはいたが、こうして実際に話を聞くと、本当に色々な土地を転々としてきた人なのだということが分かる。
 実際、それは彼の部屋にも顕われていて、目に入る家電の類は全てマンション備え付けのもののようで、恐らく私物など服と日用品くらいなのではないのだろうか。まあ、自分も他人のことは言えないが。
「まあね。はい、お待たせ」
 水割りのグラスを置いた世良に礼を言った今中はふと違和感に気付いた。世良が隣に座っている。
 ――あれ、さっきからこっちに居たっけ?
 酔いが回り始めている所為で、頭が上手く回らない。
 とはいえ、床のカーペットの上に直座りという有様なので、まあ、広く見積もれば、席なんてあってなきが如しなのかも……。
「まあ、色々落ち着いたみたいで良かったよね」
 世良が自分のグラスに口を付けながら言う。
 彼は、ロックで飲んでいるが、ゆっくりと氷を溶かしながら味わっているようだ。
「本当に」
 今中もしみじみと頷く。
 一人の医師の市民病院への帰還と前後するくらいのタイミングで、マスコミの取材攻勢は成りを潜めた。
 丁度、ある政治家が記者へのコメントの際に女性差別と取れる発言をしたという一件があり、世間の関心がそちらに逸れたというのもあるが、心配していた証人喚問のような事態にもならず、今中は心底ほっとしていた。
「まあ、そろそろ彼らも新しい話題に乗り換える頃合いだとは思っていたけどね」
 世良は事も無げに言う。
 こんな発言を聞いていると、ドクターヘリから見た、あの儚い表情は気の所為だったのかと思ってしまう。もしかしたら、あのまま救命センターに居た方が世良の役に立ったのかも知れないなどという考えも頭を掠める。
 それ程に、今中の目に映る最近の世良は元気だった。今中は、その何とも言えない気持ちを飲み込むように、水割りを半分ほど飲み干した。
「今中先生ってさぁ、お酒強いよねぇ」
 感嘆混じりの世良の声に、それ程でも、と答えながらそちらを見た今中は、そこで言葉を切った。
 じっと世良が自分を見ていた。
 何かを訴えかけるような視線だった。
 妙に落ち着かない気持ちになった今中は慌ててグラスを掴んだが、動揺の余り、手を滑らせてしまった。
「うわっ、すみません……!」
 殆んどが氷だったが、零れた水が広がってテーブルから滴る。
 慌ててグラスを起こしたが、時既に遅し、だ。
「全く、何やってるんだよ」
 呆れたような口調に反して、世良の声は随分と優しかった。直ぐ様立ち上がって、流しから台拭きを持ってくる。
「ほら、大丈夫?」
 まろやかな声が広がって、テーブルの上を拭いていたはずの世良の手が何時の間にか、今中の太腿に乗っていた。
 布越しに伝わる熱と、拭く強さが妙に生々しく感じられて意識してしまう。
「そ、そこは……、そんなに濡れては……」
「ああ、ごめん」
 手の平の温度が退いて、ほっとする。しかし、窺うように顔を上げると、今にも膝が触れ合いそうなところに世良が座っていて、ぎょっとした。
 ちょっとでも動いたら当たってしまう、などと思ったら、酷く緊張してしまい、小さく膝が震えて、こつんとそれ同士がぶつかった。
「す、すみません……!」
 弾かれたように膝を起こした今中は、それまでの寛いでいた胡坐から、無意識に体育座りになり、大きな身体を無理矢理縮こまらせる。
 さっきまでは楽しかったのに、何でこんなことになってしまったんだろう。
「私、そろそろ……」
「ねえ、今中先生」
 また、あの顔だ――何かを伝えたそうな、願うような、欲しがるような。
 その視線に曝され、どうにか辞そうとしていた今中は動けなくなる。
「何で、帰って来たの?」
 今中は息を飲んだ。正に、核心。
「それは……」
 咄嗟に口にするのを躊躇う。余りにも青臭くて感情的な解答。本人が聞いたら鼻で笑われて終わりそうな話だと自分でも思っている。
 けれど、世良の目は本気で、適当に誤魔化して帰してくれそうな隙は見られなかった。
「……この病んだ社会を相手にメスを振るう世良先生を一人にしてはいけないと思いました」
 酔いの勢いに任せ、今中は一気に吐き出す。
「一人にしたら……」
「潰れてしまうか、何処かへ行ってしまう気がしたんです。だから、私だけでも先生の味方で居続けようって」
 何で、こんなことを言わされなければいけないんだ、と今中は真っ赤になる。他にもっともらしい理由でも考え付けば良かったのだが、今の状態ではそれも難しい。
 今中の言葉を引き出した世良は、意外にも笑ったりからかったりはせず、じっと考え込んだ。
「何処かへ、か……」
 しかも、遠い目で今中の言葉を繰り返していて、何だか不安を煽る。
「何処か、って、前に言ってたモンテカルロの秘密の隠れ家、とかですか?世良先生はやっぱり……」
 確かに、そうなのだ。
 今中が戻って来たところで、大した力になどなれない。
 世良が本当に出て行きたいと思えば、そんなこと問題になどならない。本当に辛いなら。嫌気が差したなら。そして、この町を見捨てる気になったなら――
「でも、私は、世良先生に此処に居て欲しいんです。それじゃ、駄目ですか?!」
 強制は出来ない。だから、今中は精一杯気持ちを伝えるしかない。
「居て、欲しい……?」
「世良先生?」
 虚空を見つめたまま、世良が呟いた。
 そのまま立ち上がろうとしたのを見て、今中は慌てる。
 行かせたくない。
 駄目なら駄目とはっきり教えて欲しい。せめて、それだけでも――
 今中は世良の腕を掴み、止めるつもりで強く引いた。
「うわっ」
 しかし、その世良の身体が思いっきり倒れこんできたのに驚き、声を上げてしまった。全くと言って良いほど抵抗もなく、力ない世良が脇でバランスを崩すのを見た今中は思わずそこに身体を滑り込ませる。落ちる膝を受け止めた太腿にじんじんと痛みが走った。
 涙目になりながら、暫し衝撃を堪える。
「痛たたた」
「大丈夫?」
 間近い位置から声が聞こえて、それで初めて今中は、世良が自分の足の上に乗っていることに気付いた。
「うわっ。あの、世良先生……?!」
 しかも、受け止めようとした所為で、その胴をしっかりと掴んでいた。
 世良は世良で、顔を覗き込んでくるから、有り得ないくらいの近距離で見詰め合う羽目になっている有様だ。
 退いて欲しくて声をかけたが、世良は動かない。
 立ってください、と肩を掴んで言おうとしたとき、いきなり視界に天井が広がった。


 次に、目に映ったのはこちらを見下ろす世良の顔で、もうそこから先は目を閉じてしまったから、全く分からない。
 ――うわぁぁぁ、舌入って来た……!ちょっ……、待っ……。
 最早、パニックしてしまい、口を塞がれているのに無理に抵抗の声を上げようとして、そこで更に深められてしまい、もうどうすることも出来ない。
 ――早く終わってくれ……!
 必死に願っている内に不意に唇が離れ、必死に息継ぎをしていたら、耳に柔らかいものが触れて飛び上がりかけた。
「ねえ、今中先生……」
 耳元で囁かれた声は、聞いたこともないほど艶めいた声で、今中は目を剥いた。
「今だけ、僕を抱いてくれない?」
 低い、ぞくりと背を粟立たせるような声だった。
「明日には全部忘れてる。だから、心配要らないから」
 誘う声は甘く絡みつくように。
 その慣れた様子で強請る様が思考を奪おうとする――
「……な、何言ってるんですか……?!」
「あ、僕が女役やってあげるから心配いらないよ。素人の女の子よりは良くしてあげる自信があるからさ。今中先生はそのまま横になって、気持ちよくなってくれれば……」
「だから、何言ってるんですか?!」
「何怒ってるの?」
 悪い話じゃないでしょ、と返す世良にはまるで悪びれる様子はない。
「男ってだけで、気持ち悪くて無理、ってこと?まあ、それなら仕方ないけど、一度くらい試してみるのも……」
「そんな話してません……!」
 耐えられずに今中は大声で遮った。
「何で、明日には全部忘れるんですか?!そんなことしたなら、尚更、ちゃんと話さなきゃでしょう!」
 ぽかんと自分を見つめる世良に真っ直ぐに視線を注ぐ。
「寂しいなら一緒に何かしますし、溜まってるならお店とか、その何か考えますから……。とにかく!何でこんなことをするのか聞かなきゃ納得できません!」
「あのさー、今中先生……。今中先生って、酔った勢いで、女の子に『今夜は帰りたくない』とか言われても、そういうこと言っちゃう訳?」
 言外に、だから恋人が出来ないんだよ、と言われてるような気がして、今中は目を逸らした。
「それは……。でも、私を好きかどうかは聞きたいですよ。だって、そうじゃないなら悲しいじゃないですか」
「……」
「世良先生は……、って、まさか、そんな訳ないですよ……ね……?」
 半笑いで誤魔化すように世良を見た今中は硬直した。
 こちらを見下ろす世良の顔が真っ赤になって、固まっていた。
 思わず、つられて今中も赤面する。
「え……?世良先生、それって……」
 ぴたりと密着していた体温がすっと離れた。
「気が変わった。今日はもう帰ってよ」
 世良は一度も此方を見ないまま、ドアの方を指差していた。


「……つまり、好きだから抱いて欲しい、ってことだよなぁ……」
 とんでもなく屈折した言い方で、好きとか一言もいわれてないけど。
 しかも、襲うようなキスまで既にされている、とか。
 ――意外と、情熱的なキスする人だったなぁ……。
 淡白なイメージがあったからそういうところはあっさりしてそうだったのに、真っ直ぐな欲望を隠しもせずに求められた気がする。
 ――っていうか、読んで字の如く求められていた訳だけど……。
 うわああぁぁ、と、通りすがりの人間が他に居ないのを良いことに、一頻り顔を押さえる。
『素人の女の子よりは良くしてあげる自信があるからさ』
 躊躇いもなく、言い切っていた。一体、どれ程のものなんだろう……?
 ……じゃない!そうじゃない!!
 一番大事なのは、自分の気持ちだ。
 あの人の思いを受け取るのか、どうか――
「ホント、どうしたら……」
 同性で、上司で、世の中を正すために社会を敵に回しても闘うような人。
 心の奥に深い悲しみと、強い願いを宿している人。
「まあ、良いか……」
 今中は小さく息を吐く。同時に、ずっと強張っていた身体から力を抜いた。世良の、白衣を翻しながら後ろを振り向きもせずに歩いていく背を思い出したら、何だか凪いだ気分になってきた。今は、迷っても悩んでも仕方ない。
 ――私は、世良先生に此処に居て欲しいんです。
 少なくとも、拒絶されたのではないのなら。
 傍らで支えながら、ゆっくりと考えていけば良い。
 ――そして、いつか、貴方が此処に居ると決めてくれたなら……。
 もしかしたら、もう答えは出ているのかも知れないと思いながら、今中は、明日世良と顔を合わせる瞬間を考え、微かに笑んだ。


「『俺は、貴方に此処に居て欲しいんです。それじゃ、駄目ですか』、か……」
 一人になったリビングに世良の声が飲み込まれる。
「案外、それが唯一解だったのかも知れないな……」
 今となってはもう、確かめようもないけれど――
 自分勝手な、エゴ塗れの声。貴方さえ居てくれたら、他には何も要らないと言ったら、あの人はどんな顔をしただろう……?
 あのときには既に、全てが取り返しのつかないことになっていたと思っていたけど、形振り構わずしがみ付けば、何かを変えることは出来ただろうか。
 もっとも、こんな思考すら詮無い未練でしかないのだが……。
 『本当に馬鹿だ』と言われて、あの男は明るく笑う。
 世良のように、何もかもどうでも良いと諦めて、感じることの出来なくなった心で皮肉な笑みを見せるのではない。
 青臭い自分のように、小さな批判にも耐えられず、片腹痛い正論をかざしながら噛み付くのでもない。
 それは何と言う強さだろう。
 申し訳なさそうに、照れたような顔で、『本当にそうですね』と認めて。
 そして、きっと、その愚かな選択を決して後悔などしないのだろう。
 例え、どんな結果になったとしても――
 未練ばかり転がして、失ったものをなぞり続けていた自分が、身の程知らずにも願っている。
 ――もっと違う人生があったかも知れない。
 噛み付き跳ね付けられるばかりじゃなくて、支え合い頼られるようなそんな形。
『何処か、って、前に言ってたモンテカルロの秘密の隠れ家、とかですか?世良先生はやっぱり……』
「そんなもの、もうないよ。君の言う通り、僕にはもう、何処にも居場所なんてなくなってしまったんだよ。だからさ――」
 辛そうな今中の声に答えて、世良は机の上に置いたハーレーのキーへと目を落とす。
 キーホルダーのないそれは、妙に寂しく見えた。


院長が、もだもだするとこと潔く行く部分を完全に逆にしてますが、本人的には全力で間違ってると良い。
あと、先日語らせていただいた「居場所」を裏テーマに盛り込んでます。
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