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テレビ先生の隠れ家
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プロフィール
HN:
藍河 縹
性別:
女性
自己紹介:
極北市民病院の院長がとにかく好き。
原作・ドラマ問わず、スワンを溺愛。
桜宮サーガは単行本は基本読了済。
連載・短編はかなり怪しい。
眼鏡・白衣・変人は萌えの3種の神器。
雪国在住。大型犬と炭水化物が好き。
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ヤンデレに定評のある院長ですが、ツンデレでも可愛いんじゃないかって思って!(いや、いつも可愛い)七夕後。今世良がデキてるかは不明。

拍手[2回]



 院長室の古くて大きな椅子に凭れ掛かって、世良は一つ伸びをした。
 時計を見ると、既に16時を回っている。終業時間まであと少しだ。
 ――今日中に言うなら、あと数十分しかチャンスはない。
「うー……」
 小さく唸って、緩慢に椅子を回す。半回転させたところで、肘掛けに机が当たって動きが止まった。仕方ないのでのろのろと立ち上がる。くしゃりと長めの髪を一度掻き揚げ、億劫そうに院長室を出た。
 この時間なら医局でネットサーフィンをしながら業務終了まで過ごしているだろうか。それとも、事務室ですっかり手の開いた看護師達と一緒に他愛もない世間話を交わしているだろうか。
「下かな?」
 何となくだったが、そちらのような気がした。救命センターから戻って来た後、スタッフ達は何かと今中に声をかけるようになっていた。
 気持ちは分かる。彼の存在がなくなっていた2週間、それがスタッフ達にとって想像以上に堪えたのだろう。居ても居なくてもいい凡庸な医師の意外な存在価値に気付かされ、しかも、それが戻って来たという事実に、病院内の空気は一気に明るくなった。それは確かに肌で感じている。
 いや、世良だって同じ気持ちなのだ。
『あちらには大勢仲間がいます。でも、こっちは世良先生ひとり。だから、こちらの方が私を必要としているんです』
 そんな理由で、彼はこの四面楚歌の病院へと戻って来た。何一つ、得することなどないというのに――
『本当に馬鹿だな、今中先生は』
 本心だった。
 ――折角、逃がしてあげたのに……。
 お人好しで、自分の利よりも弱い立場の人間のことを考えるような男だから、自分から逃げ出すようなことはないだろうと思って、あんな回りくどい方法を取ったのに。
 けれど――
 その気持ちは本当に嬉しかったし、彼の決断には感謝している。願わくば、このまま此処で頑張って欲しい。
 その言葉を、未だに伝えられずにいる自分がいる。
 恐らく、気持ちは伝わっているだろうとは思う。だからといって、上司命令に背かれた後、有耶無耶のまま、というのも問題だ。
 既に、3日が経過している。時間が経てばその分言いづらくなるし、週が改まってからというのも何だか変だ。今日こそは、と毎日決意して未だに言えていない。でも、そろそろ限界だろう。
 ――大体、あののほほんとした熊面が悪いんだ……。
 あの顔を前にすると和んでしまって、真面目な話が出来ないのが問題なんだ、と取り合えず責任転嫁してみる。
 軽口も挑発もからかいも茶化しも日常茶飯事。
 なのに、本心を伝えるのが、こんなに難しいなんて――
「まあ、世良院長先生」
 階段を下りた先にある事務室の前では、ちょっとした作業が行われていた。今中が子供の身長ほどもある笹を支え、その飾りを角田、佐竹、蟹江の3人がせっせと取り外している。そういえば、近所の人が毎年、家の庭から取れたものを寄付してくれるらしく、受付の脇に短冊と一緒に「ご自由に願い事を書いてください」などと書かれておいてあった。
「僕も手伝おうか?」
 七夕が終わって撤去する前に、書いてもらった短冊を外すのだろう。
「いえ、もう終わります」
 『おばあちゃんが元気で長生きしますように』などという家族の願い事に頬を緩めた。
「そういえば、今中先生。ほら」
 角田が差し出した短冊には、『今中先生が救命センターで大活躍しますように』と書かれていた。この字は角田自身のものだろう。
「ど、どうも……」
「願いが叶わなくて、残念でしたわ」
「でも、活躍はしたんじゃありませんか」
 くすくすと笑われ、今中は困ったように頭を掻いた。
「ご期待に添えなくて、申し訳ないです……」
「そんなことないですよ。今中先生が戻って来て、助かってます」
「そうですよねぇ。ねえ、院長先生?」
 突然、水を向けられ、世良は焦った。
 今正に、その話をしようと思っていたのだが、こんな流れになってしまうと改めては言い辛い。
 というか、この言い方は、真面目な答えなど全く期待されてない気がする。
「本当だよ。皆で応援してたっていうのに」
「す、すみません……」
 不意に、場が静まった。
 ――あ、あれ……?
 妙な空気だ。もしかして、答え方を間違えたのか、という気がしてくる。
 何か言わないと、と思った矢先に、今中が口を開いた。
「本当に、勝手なことをして申し訳なかったです。でも、私は此処に居たいし、出来ることなら極北を変えようとしている世良先生を支えて――」
「え?え……、え?!」
 真面目な答えが期待されてないどころか、真っ向本気の言葉に、世良は完全に戸惑った。
 もしかして、彼もずっと悩んできたのだろうか?上司命令に背いて、此処に戻って来たことを――
「い、居ればいいじゃない。その方が僕も助かるし……」
 口を付いて出た言葉は、思いの外言い辛そうな声音で、傍若無人な院長らしさが全く出なかったのはとても口惜しかった――何だよ、こっちは色々考えてきたのに……。
「世良先生!」
 ぱっと今中の顔が輝く。
 女性陣達にも笑顔が戻り、顔を見合わせて頻りに頷いている。
 何だか、バツが悪くて、目を逸らす。
「ああ、良かった。これで駄目って言われたらどうしようかと……」
「そうしたら、また明日からあの真っ赤なツナギでヘリに乗るしかないですわねぇ」
 角田師長はそんなに私を救命にやりたいんですか、という悲鳴に、楽しそうな笑い声。
 世良は小さく溜め息を吐いた。
 ――全く、上司失格だな。
 部下が悩んでいるのに気付いてもやれなかったなんて。
 ごめんね、と小さく口元だけで呟いて、でも、ありがとうはまた今度ね、と小さく一人で頬を緩ませた。


今年はこれだけになりそうだなぁ、去年いっぱい書いたのになぁ、って思って、改めて見たら、7月から9月までせっせと七夕ネタ書いてました。どんだけ、七夕祝いたかったの…?!それに、良く考えたら、「両片思い今世良」も七夕後だし、「知人の犬2」も天ジュノだけど七夕キーワードなので、もう良いことにします(笑)
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