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テレビ先生の隠れ家
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プロフィール
HN:
藍河 縹
性別:
女性
自己紹介:
極北市民病院の院長がとにかく好き。
原作・ドラマ問わず、スワンを溺愛。
桜宮サーガは単行本は基本読了済。
連載・短編はかなり怪しい。
眼鏡・白衣・変人は萌えの3種の神器。
雪国在住。大型犬と炭水化物が好き。
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スラムン絡みで別アプローチの話を考えていたら、こっちの方が先に纏まったので書いてみました。久世先生視点で、世良ちゃんはこうして再建請負人になりました、みたいなお話。

拍手[3回]



「世良君……」
「うう……」
 微かな呻き声を上げて魘されていた青年を揺り起こし、安心させるように髪を撫でた。
 彼は時折、こうして出口のない悪夢の中を彷徨っている。はっきりとは聞き取れないが、誰かの名を呼んで探し続けていた。
 声の形を成さない音に耳を澄まし、その訴えを聞いてやろうとする。それで少しでも、彼の持つ重荷を肩代わりできれば、と、そんな風に願って。
「……優しくしないで、下さい……」
 震える声が意味を持ったとき、届いた言葉に愕然とした。
「世良君……」
「貴方は神様なんでしょう?!だったら、俺を罰して下さい!俺の罪に見合うだけの苦しみを下さい……!」
 ぱたぱたとその両頬を涙が落ちた。
 そこにあったのは、目覚めた安堵ではなく、まだその身が現実にあるという絶望だった――


 顔見知りの漁師がやつれ果てた青年を診療所に連れて来たのは、この北の地にも漸く春の日差しが顔を出し始めた頃だった。
 一日中浜辺に座って、何をするでもなく何処か遠くを見てる、放っておいたら死んでしまうんじゃないかと心配で、と人の良い漁師は久世に訴えた。
 浜辺の夜は冷えるから、行くところがないなら此処に居たらどうかな、と提案すると、彼は抗うでもなくこくりと頷いた。
 それから彼――世良雅志との同居生活が始まった。
 住居と併設された診療所の空き部屋に住み始めた彼は、一日の大半を、チューリップ、マリーゴールド、スイセンと日に日に彩りを増す小さな庭と、ぽつりぽつりと顔を出す患者をぼんやりと見て過ごしていた。
 そんな彼の素性を知ったのは、住み始めて1月が過ぎた頃、ささやかな横着がきっかけだった。こんな離島の診療所では滅多に使う機会もない縫合用の糸が10年以上も使用されていないことに気付き、新しいものに買い替えた際、後で捨てようと思いながら放置してあったそれを彼が偶然見つけたらしい。
 最初は、声をかけたとき、覇気があるとは言えないまでも、必ず戻ってくる返事がなかったことに違和感を持った。
 部屋を覗くと、自分の着ているワイシャツの胸元で何か作業をしているので、取れかけたボタンでも付け直しているのかと思った。
 しかし、昼食が出来たと呼んでも、彼はそのままの姿勢で指先を動かし続けていた。
「世良君!」
 少し大きな声で注意を引くと、彼は夢から醒めたような表情でこちらを見た。
「どうしたんだい?随分と集中していたようだったけど」
 見るともなしに彼のシャツに視線を遣った久世は、そこにあった意外なものに目を見張った。
「それは……」
 余り縁はなかったが、この、ボタンから下がる独特な形は知っている――
 少し記憶を遡ると、研修医時代の同期の外科医の顔と、彼の白衣から靡く糸が思い出され、あっさりと応えは出た。
「君は、外科医なんだね……」
「……去年の秋まで、東海地方の大学病院で研修医をしていました」
 静かに結論を口にした久世に、青年も俯いた顔のまま呟くように言った。
 想像していたような激しい動揺はなかった。
「そうだったのか。だったら、もし君さえ良ければ、私が往診に出ているときに患者さんを診てくれると助かるな」
 さすがに、世良は驚いたような表情を見せた。
「そんなに簡単に信用して良いんですか?!俺がどんな理由で大学病院を辞めたのかも知らないのに……」
「理由は分からないけど、世良君のことは分かるよ。この1月ずっと、一緒に居たんだからね。世良君は患者さんを大事にする良い医者だと思うよ」
 穏やかに言った久世に、世良は黙って俯いた。
「嫌なら断っても良いし、考えたいなら返事はその後でも良い。ただ、此処に居るからって無理に言われたことをしなきゃいけないなんてことはないからね」
 そっと付け加え、昼食にしようか、と気を取り直して言うと、世良は小さく「往診に行くときは言ってください」と答えた。
 世良が医者だったという話は少なからず島民たちを驚かせたが、久世が信頼している様子を見て、直ぐに受け入れてくれた。
 周囲も、元々気にはなっていたのだろうが、きっかけがなくて話せなかったのだろう。
 診察の礼や容態の質問などから少しずつ会話は広がり、何か足りないものはないか、本土の話を聞かせてくれ、と気さくに話しかける島民たちに、世良も少しずつ打ち解けていった。
 そうしているうちに、庭にはサルスベリが咲き、キョウチクトウが満開になった。
 植物までもが短い夏を懸命に謳歌しているようなその頃。
 患者と笑顔で話し、この新薬を常備したらどうかなどという提案まで久世にするようになった世良が時折物思いに沈んでいるのを見るようになった。
「久世先生、お世話になりました」
「高橋君こそ、お疲れ様。これからも頑張ってね」
 頭を下げる若い営業にお茶を出したところで、世良が診療室の前を通りかかった。
「久世先生、患者さんですか?」
「ああ、世良君、いいところに。君が入れた方が良いって言ってた新薬を持って来てくれたんだよ」
「製薬会社の方でしたか。世良といいます」
「初めまして、世良先生。今回限りなのが、残念ですが」
「え?」
「会社の編成が変わって、この辺りは営業のルーティンのコースから外れるそうなんだ」
「本当に、申し訳ありません……」
 高橋はまた深々と頭を下げて島を去った。
 離島の診療所まで営業が来る時間と費用に対して、売れる薬の利益を考えたとき、会社の出した結論は切り捨てだった。
 月に1回程度であっても、専門の知識を持った営業が直接、新薬の紹介や使い方のアドバイスをしてくれる機会が失われるというのは、診療所の医療の質を大きく落とすことになる。
 以前から久世も考え直してもらえるように頼んではいたが、製薬会社の返事は変わらなかった。
「酷い話です」
 高橋のタクシーが見えなくなった後、診療所に戻りながら世良は憤った口調で言った。
「あそこは今、ライバル会社に押されて経営が悪化しているらしい。最近、社長が変わって、社員達も目標の達成や経費の節減とかで色々大変なんだそうだ」
「それはそうかも知れませんけど」
「変えるっていうのはそういうことなんだろうな。誰だってこれまで良かったことは今まで通りにしてもらいたいものだからね。方針を変えた人達は、恨みや反発なんかを受ける覚悟くらいとっくにしているんだろうね」
「恨みや反発……」
 その声に不穏なものを感じて、じっと世良を見ると、不意に彼が言いにくそうに口を開いた。
「久世先生、あの……」
「どうかしたかい、世良君?」
「俺……」
 世良が何か言いかけ、迷うように口を閉じる。
「世良君?」
「何でも……ありません……」
 その頑なな響きに、彼の意思を感じた。
 恐らく、質問を繰り返しても彼がその先を口にすることはないだろうという気がする。
「そうか。それじゃあ、世良君。高橋君の置いていったカタログで新薬について勉強しようか」
「え?」
「営業が来てくれないなら、こっちから知識を増やさないとね。カタログは定期的に送ってくれるみたいだよ」
「……はい」
 何処かほっとしたような世良の見ている前で、製薬会社のマークの入った電話帳のようなカタログを開く。世良は新薬についての注意書きをメモしながら、棚に薬をしまった。
 彼がその続きを口にしたのは、キンモクセイが香りを漂わせ、イチョウがその姿を一変させた後のことだった。
 盲腸の患者の手術を決意したのは世良が居たからだった。
 もう3年も、殆んど手術はしていないと彼は言ったが、実際にメスを持った手はとても誠実に動いていた。
 きっとこれまで、基本に忠実に真面目に学んできたのだろうと感じた。
 その夜、患者の術後経過を見ていた久世は、久し振りの手術に興奮したのか、或いは、それをきっかけに何かを思い出したのか、仮眠室で何時になく酷く魘されている世良に気付いた。
 そして、それを宥めようとした久世に、世良が望んだのは思いもかけない言葉だった――


「世良君、君はどうして大学病院を辞めたんだい?」
 世良の気持ちを落ち着けるために診療室でお茶を淹れてから、初めて尋ねた久世に、世良は辛そうに溜め息を吐き、やがて覚悟を決めたように顔を上げた。
 その眼差しは、久世が一度も見たこともないほど強い光を宿していた。
 こんなにはっきりした意思を示す青年だったのかと、久世は自分がずっと彼に対して間違った印象を持っていたことに気付いた。
「話しません」
 久世は、だったら仕方ないと頷く。
「先に言いますが、話したくないんじゃなくて話さないんです」
 世良はきちんと足を揃えて椅子に座りなおすと、真正面から久世と向かい合った。
「俺も、ずっと先生を見て来ました。だから、分かります。貴方は何でも赦してくれる人です。何時からか、俺は、先生に全部話して赦して貰えたら、って思ってました。そんなこと、絶対に望んじゃいけないことなのに……」
 世良の言葉は意外ではなかった。
 むしろ、しっくりと腑に落ちた。
 彼は、過ちとも言うべき過去を抱えていて、それに苦しみ続けているのだ、と。
「私も、無闇やたらに赦してる訳じゃないんだけどね」
「久世先生には本当に感謝しています。この島に来て先生と会うことがなければ、俺は今も、自分の無力さを呪いながら何処かを彷徨っているだけだったと思います」
「君はもう、決めているんだな」
 久世が尋ねると、世良は目を見張った。
「……明日、島を出ようと思ってました。恩知らずですみません。言い訳かも知れませんが、これは俺の運命だと思うんです」
「気にすることはないよ。世良君がそうしたいならすれば良い。でも、一つだけ約束してくれるかい?」
 彼が今、赦されることを拒むのなら――
「はい……」
「君が明日、運命に従ってこの島を出るのなら――何時かまた、運命に導かれてこの島の土を踏むことがあったら、また此処に来てくれないか」
 それは儚い糸のような繋がりだった。こんな北の果ての島に行き着くような機会など、どんなに頭を捻っても思いつかない。
 だが、世良は真剣にその糸の先を握り締めた。
「約束します。そのときはまた、必ず此処に来ます」
 久世は静かに頷き、ぽんぽんと世良の肩を叩いた。
 ささやかな励ましと、短い間でも一緒に島の人々のことを考えてくれたことに感謝の気持ちを込めて。

 そして、一人の青年医師が翌朝、神の島を後にした――


「先生!テレビ見たかい、テレビ?!」
 数年前に腰を痛めて以来海に入ることはなくなった、顔馴染みの元漁師は大層な剣幕で喚き立て、久世を待合室に引っ張り出した。
「何かあったのかい?」
「とにかく、付けてくれ。大変なんだ」
 久世は言われるままにリモコンを手にして、診察待ちの患者のために置いてあるテレビのチャンネルを合わせた。
『再建の可能性は百パーセント。その自信がなければ依頼は受けない』
「世良……君……」
 15年振りに見る顔がそこにあった。
 誰にも平等に降り積もる年月は彼の外見にも与えられていたが、半年もの間、近しい場所で暮らしていた久世には直ぐに分かった。
『みんな医療に寄りかかるが、医療のために何かしようなどと考える市民はいない。医療に助けてもらうことだけが当然だと信じて疑わない。何と傲慢で貧しい社会であることか』
 画面の中では、世良が歯切れ良く、記者の質問に対して批判を繰り出していた。
 あの青年が――いつも何かに耐えるような表情で、思い悩んで苦しんでいた彼が、ずらりと並んだ報道陣の前で臆することなく辛辣な持論を堂々と述べている。丸眼鏡の下の眼差しは、射るように真っ直ぐカメラの先へと向けられていた。それは、この島を出て行く前日に、決意を口にしたときの強さを思い起こさせた。
「やっぱり、そうなんだな。大分変わってるけど、絶対間違いないから、直ぐに久世先生に報せろって女房が言ったからさ。なあ、世良先生はテレビに映るくらい偉くなったってことなのかい?」
 かつて世良を連れて来た張本人である彼もまた、突然島を去った彼をとても気にかけていた一人だ。
 状況すら把握する間もないほど急いで来てくれたらしい。
 その言葉で改めて、テロップの『極北市民病院に新院長就任』という文字を見た久世は愕然とした。
「あの病院に……、世良君が……」
「久世先生?」
「いや、国だって馬鹿じゃない。それなりの業績があって認められたから依頼があったはずだ。大丈夫だよ」
 自分にも言い聞かせるように答える久世の言葉に頷き合いながら、二人で記者会見の続きを見始めた。
『地域医療の再建屋として名高い世良先生は、いわば御自身を悪政に対するワクチンだ、とでもおっしゃりたいんですか』
『ワクチン?そんな生やさしいものではないですよ。私の存在は譬えれば抗癌剤です。健康体にとっては猛毒。私がこの地に招聘された幸と不幸を、極北市民はいずれ思い知るでしょう』
 その微かな皮肉の透けて見える会話で、久世の中に幾つかの情報が加わった。
 まさか、世良がそんな道を選んでいたなど思いもしなかった。
 ――変えるっていうのはそういうことなんだろうな。誰だってこれまで良かったことは今まで通りにしてもらいたいものだからね。方針を変えた人達は、恨みや反発なんかを受ける覚悟くらいとっくにしているんだろうね。
 不意に、久世の中に、遥か昔に語った言葉が蘇る。
 それを聞いた世良が、じっと考え込むような表情を見せていたのがずっと心に残っていたのだろう。
「……そうか。君は今も自らを罰し続けているんだね、その道の上で――」
「え?」
 驚いた男に、何でもないと笑って言い、久世は再び画面へと視線を戻す。
 ――ねえ、世良君。君はずっとずっと、こんな風に世界を背負って、神さまに喧嘩を売っているのかい?重かっただろう?疲れただろう?ちゃんと休めているのかい?
 現在の日本で地域医療を再生するということがどういうことかはまだ良く掴めていなかったが、記者会見で交わされた会話を聞いただけで、世良の置かれている状況は知れた。
 久世は祈るような気持ちで、15年前、この診療所で魘されて泣いていた青年と同じ顔で、記者達にひたすらペンを走らせている男にずっと胸の中にあった質問を投げ掛けた。

 ――まだ、君は赦されることは望まないのかい?


自分の中で、今すげー好きなものキーワードを直ぐにぶちこむのはあんまり褒められたことじゃないんだけど、楽しいので自重しない(分かる人は笑ってください)
久世世良はデキてても良いくらいの気持ちで書いてました(笑)
多分、世良ちゃんってかなり唐突に島を出てってる気がするんですけど、その割には、蟠りなく久世先生と再会してるので、こんな約束があっても良いんじゃないかな、と思って。でも、分からないな――あの子、そういう感覚、割かし雑だからなー。久世先生じゃなかったら、「この恩知らず!良く顔出せたな」とか言われそうなこと結構平気でしそうなとこあるしな…。
あと、再建請負人が天城先生の遺志とは別だとして、何でそれなのかを一度意味づけしたかったというのもあります。
ぶっちゃけ、此処んとこ20代と40代を変な風に充足させてきたので、30代書きたくなっただけです(まあ、この話だと28歳設定なんだけど)20代はツンデレ、40代はヤンデレ、30代はヤサグレって言ってる。全員可愛い。全員撫でてあげたい(お前、そればっか…)
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