テレビ先生の隠れ家
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プロフィール
HN:
藍河 縹
性別:
女性
自己紹介:
極北市民病院の院長がとにかく好き。
原作・ドラマ問わず、スワンを溺愛。
桜宮サーガは単行本は基本読了済。
連載・短編はかなり怪しい。
眼鏡・白衣・変人は萌えの3種の神器。
雪国在住。大型犬と炭水化物が好き。
原作・ドラマ問わず、スワンを溺愛。
桜宮サーガは単行本は基本読了済。
連載・短編はかなり怪しい。
眼鏡・白衣・変人は萌えの3種の神器。
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「え……?!」
短い間ではあったが、世良を呼び、先に立って歩いていく姿のことは今も忘れはしない。その後ろ姿を駅の雑踏の中に認めた気がして、世良は足を止めた。
暫く辺りを見回していたが、突然立ち止まった世良を迷惑そうに避けていく人に押されるように再び歩き出すしかない。
――天城先生?そんな馬鹿な……?!
彼は今も、モンテカルロに居るはずだ。
――今更、そんなことを思い出して、今の生活に不満があるとでも言うつもりか?
やり直そう、と言った高階の言葉に偽りはなく、彼は、何の拘りもなく世良と結婚してくれた。
それから、1年――
名実共に高階の妻となった日々は穏やかで優しく、世良は幸せというものがこういうものであるということを実感していた。
天城のことは、心の奥にしまった大切な宝物で二度と取り出さずに居ようと思う。
「ねえ、ちょっと」
気を取り直して歩き始めると、東城大の前に差し掛かる頃にはそんなことがあったのも頭のどこかに消えていた。
「君がセラ?」
振り返ると、そこには、映画の中から出て来たような美青年が立っていた。
日帰り出張が遅くなった所為で、沈みかけた夕陽の光を受けた金髪がきらきら光っている。
「はい……」
正確には『世良』ではないのだが、高階との区別のために職場の関係者は今でも『世良』と呼ぶので、咄嗟に否定したものか戸惑って曖昧に頷くと、彼は天使のように愛らしい笑みを見せた。
「ユキヒコ、セラに会えたよ」
呼ばれて現れた、その姿を見た世良は、心臓がぐらりと揺れたような感覚に陥った。
二度と会えない、会わないと決めた人――
それ以上近付いてはいけないと警告を発する心が、それを上回る強さで痛みを訴える。
こんなに激しい想いが、まだ自分の中にあるのかと驚いた。
だが、硬直する世良を見ても天城は無反応だった。
まるで知り合いの友人にするように軽く会釈してみせただけだった。それに失望した自分と、そんな自分の浅ましさに切なさを覚えた。
「気を悪くしないでね。ユキヒコは事故に遭って記憶を失くしてるんだ。この辺りのことも好きだったって聞いていたから、治療にならないかと思って来てみたんだよ」
その言葉に世良は打ちのめされた。
天城もまた、自分と同じように、あの時間を宝物のように想っていてくれる――それは、世良の中の最後の希望だった。
だが、彼は既にそれを忘れている。
今、こうして自分を目にしても、全く反応がないことがそれを裏付けていた。
「あの……、貴方は……?」
恐る恐る尋ねると、彼ははにかむように笑った。
人懐っこい笑顔だった。
「僕はマリツィア。去年、ユキヒコと結婚したんだよ」
頭がぐらりとした。
理性では、何を考えているんだと思う。
高階と別れることは出来ないと、天城の誘いを断ったのは世良自身だ。
そして、そんな自分だって既に他の男のものになっているというのに。
「もしかして、君もユキヒコに口説かれた?」
マリツィアがくすりと笑った。先程までの天使のような笑顔とは裏腹の、何処かしら悪意を混ぜ込んだ笑みだった。
「困ったものだよ。仕事で行く先々で、誰かしら手をつけて帰ってくるんだから。まあ、周りが放っておかないから仕方ないってのもあるんだろうけど」
言いながら、隣に立つ神妙な顔の男を肘で軽く小突く。
記憶のない時代の、身に覚えのない行為を暴かれて、彼は少し戸惑ったような表情で、それでも、大人しくマリツィアに従っていた。
『付いて来い、ジュノ』
振り返りもせずに、颯爽と数歩先を進んでいく背。今の天城にはその片鱗すらも見られない。
住み慣れた街ならともかく、何も思い出せない異国にあっては、隣の伴侶が唯一の頼りなのだろう。
そうと分かっていても、世良が愛した男が、自分のことを何一つ持たずにまるで別人のような風情で、他の人間と共にある――その事実は、世良に有無を言わせずに刃を突きつけてきた。
「俺……、上司に報告があるので失礼します!」
「ねえ、ちょっと……」
呼び止める声が後ろに響いたのは分かったが、もうこれ以上、天城のこの姿を見ていたくなかった。
そうしなければ、止め処なく立ち上る仄暗い感情を抑えることが出来そうになかったのだ。
突然鳴った呼び鈴の音に、世良は首を傾げながら玄関に出た。
宅配便の類は専用ボックスに行くし、訪問セールスはエントランスでシャットアウトされるこのマンションでは、来客以外には有り得ないが、今日はそんな予定はなかったはずだ。
高階も、午前中だけ、医局に顔を出して来ると言って出て行ったところだ。
『おはよう、セラ』
「マリツィアさん?!」
インターホンのカメラを覗いた世良は硬直した。
そこに居たのは、先日会った金髪の青年だった。
どうして此処が、と思ったが、東城大で、以前の公開手術で世話になった研修医に挨拶をしたいから家を教えてくれ、と言えば、他でもない天城に対してなら、医局もすんなり教えるだろうから、それはそんなに不思議なことではない。
疑問があるとしたら、マリツィアが再び世良に会いに来たことだった。結婚相手が浮気した対象に良い気持ちなど持っているはずがないことくらい分かる。
『今日は忙しい?この辺りを案内してくれない?』
「え、それは……」
そんな世良の考えなど思いもしないのか、マリツィアは無邪気に誘いかけた。
反射的に感じたのは抵抗だった。
仲睦まじい二人の様子を見るのは嫌だと心の奥が言う。
だからといって、このまま追い返す訳にはいかない。世良は、今迎えに出ますと応えた。
エレベーターを降りながら、外出は断って、お茶だけ出して直ぐに帰ってもらおうと決めた。
午後から用事があると言えば、納得してもらえるだろう。
実際、高階と買い物に行く約束もあった。
そうだ、高階が戻るまでには帰ってもらわないと。天城には二度と会わないと約束したのだから。
「セラ、急にごめんね。ユキヒコは君と居た時間が長かったと聞いたから。記憶が戻るきっかけになれば良いな、と思って」
素直に笑うマリツィアに、先回会ったときに透けて見えた気がした悪意はなかった。
彼は、誰よりも天城の幸せを考えているのかも知れない。それに比べて自分は……、と、またも世良は自分が情けなくなる。
「すみません。午後から用事があるんです。お構いできませんが、上がって行ってください」
「気にしないで。急に来たのはこっちなんだから。ね、ユキヒコ?」
そんな親密な遣り取りを見るのも辛く、世良は先に立ってエレベーターに乗り込んだ。
「あ、待ってよ。ねえ、セラ。ユキヒコが好きだった場所とか知らない?」
マリツィアの質問の解答は直ぐに出た。
「海、かな?」
――ジュノにもコート・ダジュールの海岸を見せたい。
一緒に逃げようと言ったときの天城の言葉を思い出して、世良は泣きたいような気分になった。
天城と二人で何度か桜宮の岬までドライブしたことも思い出した。
「海……?」
エレベーターに乗りかけた天城の動きが不意に止まった。
「そうだね。ユキヒコは好きだからね、海」
そんな天城の手を取って引き寄せるマリツィアから目を逸らして、扉を閉じるボタンを押そうとした世良の手が不意に掴まれた。
覚えのある感覚に、胸が大きく跳ねる。
天城が世良の手を掴み、自分をじっと見つめていた。
「海……」
「そこのエレベーター、少し待っていただけますか」
飛び込んで来た声に、世良は固まる。
高階の声だった。
続いて、小柄な彼の身体がエレベーターに飛び込んでくる。
「どうもすみませんでした。……天城先生?……世良、君……」
高階の顔が強張った。
しかし、天城は記憶の中の何かを探るように、世良の手を離そうとはしない。マリツィアも、さっきまでの饒舌な口調が嘘のように全くフォローしようとはしなかった。
「天城先生、離してください。高階先生、これは……」
言いかけた途端、エレベーターの扉が閉まって動き出した。
「世良君、君はもう二度と天城先生に会わないと言いましたね。あれは嘘だったんですか?」
静かな声だったが、そこに深い怒りを感じて、世良は言葉に詰まった。
疚しいことなどしていない。けれど、本当にそうだろうか?天城が現れてから、心は揺れて乱れて、嫉妬して彼を望んだ。
自分は今も天城を思っている――
反論出来ない世良に、高階は自分の疑いが正しいと思ったらしい。
「君は、私を何度裏切るつもりですか?」
「ちょっと待て。そんなに一方的な言い方をしなくても良いだろう」
天城が世良を庇ったが、それは火に油を注ぐ結果にしかならなかった。
「良くそんなことを言えたものです。選りにも選って、貴方が」
「待ってください!」
自分の反応が間違いだったことに気付き、慌てて説明しようとしたその瞬間、エレベーターの上昇が止まってドアが開いた。
視界に広がったのは、桜宮湾の海原だった。
「海……」
天城がふらりとエレベーターを降りた。
額を押さえ、何だか気分が悪そうだ。
「先生!」
その覚束ない足取りに不安を感じた世良が追おうとするのを、高階が腕を掴んで止める。
「違うんです、天城先生は……!」
咄嗟に、高階の手を振り払ってしまった。
茫然とした彼の顔が視界を掠めたが、それどころではなかった。
「先生、危ないです。そっちは非常階段で……!」
追った世良を振り返った天城の視線が焦点を結ぶ。
「君は……?」
「行かせません」
高階が世良の肩を押さえていた。
「海……。一緒に、逃げよう……」
天城がふらりとよろけた。
身体が傾ぐ。
「先生!」
揉み合いながら、世良が腕を伸ばす。
彼の腕に触れる瞬間、高階が世良を後ろから抱き付いて引き寄せた。
互いの指が擦り抜ける。
「ジュノ……」
重力に従い、落下するそのとき、天城は微笑み、自分だけが使うその呼び名を口にした。
世良は茫然と、その身体が段差に打ち付けられ跳ねるのを見つめていた。
「ユキヒコ!」
マリツィアの絶叫が響き渡った。
「いつも遠くからお疲れ様です。今日は気分が良さそうです。久し振りに会われていったら如何ですか?」
人の良さそうな男の労わるような言葉に、高階は心から感謝した。
「いつも、ありがとうございます。しかし、世良君は、私には会いたくないでしょう」
しかし、彼は笑顔で首を振った。
「そんなことはないと思います。以前、高階先生が下さった貝殻はとても大切にしていますよ」
高階は施設員の「今中」という名札を見た。
そういえば、そんなささやかな土産を言付けたのも彼だった気がする。
「確かに、そうかも知れません。此処に居るのは世良君の抜け殻です。彼の心は天城先生が連れて行ってしまった……」
語る高階を、今中はじっと見つめていた。
「そういえば、先日来られた方も同じようなことを仰っていました。金髪の海外の方のようでしたが、日本語がとても堪能で……」
「マリツィアさんですか。彼がいらっしゃっていたとは……」
仕事柄、見舞い客やその会話の内容を漏らすのはどうかと思ったが、至って善意で慰めを口にしてくれる彼にそれを申し立てる気にはなれなかった。第一、そういったことすら、今の高階にはどうでもいいことだった。
「夫が日本で本気で恋をしたことは知っていた。彼がもう終わりにしたのだと知ってはいても、その想いをずっと大事にしていることが悔しかった。だから、事故で彼が記憶を失くしたとき、来日したのだそうです。実は、夫の記憶はもう二度と戻らないと医者が断言していたそうです。だから、彼の中にもうお前は居ないんだと思い知らせたかった、と」
だが、天城はあのとき確かに「ジュノ」と口にした。
「そうですか……。けれど、天城先生は確かに世良君を思い出していました。辛かったことでしょう」
そして、彼らの絆を目にして、自分の無力さを思い知ったに違いない。
「馬鹿なことをした、と悔いていらっしゃいました。そんなことをしなければ、二人でモンテカルロで幸せに暮らすことも出来たのに、と」
「私も同じようなものです。妻を疑い、純粋にあの人を助けようとしただけの彼を止めてしまった。断じて、あの人を死なせようなどとは思わなかった。ただ、彼があの人のところに行くのが嫌で、咄嗟に止めてしまったんです。そして、その結果、世良君のことも失ってしまった……」
「失われてなんていませんよ。ちゃんと彼は此方を認識してくれています。諦めずに話しかけていれば、いつかきっと、心を取り戻してくれますから」
穏やかに語る彼はきっと、毎日それを信じて語りかけているのだろう。
良い担当者が付いてくれたものだと思う。
「では、久し振りに会ってみましょうか」
「そうしてあげてください」
今中は先に立って、明るい廊下を歩いて行く。
その行く先はどうも、高階の知る世良の部屋ではないようだ。
「此方に居るんですか?」
「はい、テラスがお気に入りのようです」
微かに耳に響いた音に、高階は合点した。
「そうでしょう。これだけ遠い北の地であるにも関わらず、此方にお願いすることに決めたのは、彼がこの施設のパンフレットにだけは反応したからなんですよ」
「そうだったんですか」
今中がテラスの扉を開いた。
「世良先生、高階先生がいらしてくださいましたよ」
反応はなかった。
そこには、高階が知るときより、少し髪の伸びた世良が、キラキラ光る北の海を飽くことなく見つめている姿があった。
昼ドラと言えば、政略結婚の相手が居るのに運命の恋をしてしまう、三河屋さん(配達のお兄さんに「駄目です、私には夫が…、あっ」的なヤツ)、記憶喪失、悲恋的結末と思っているのですが。違いますか、そうですか。
そして、マリがエレベーター内で空気になってることの説明が付いてないね。ごめん、どうしても今日、間に合わせたかったの…!(up時間、23時59分14秒←全くいじってない。今、この一文追加したけど)
あと、実は兄弟だった展開と、姑の虐めもありましたが、黒本には絡め辛かったので止めました。そして、黒本と言うからには、渡海先生も入れないと不味いことは分かっていましたが(それが一番せとかちゃんが喜ぶことも分かってるんだけど)、ポジ的には天城先生とダブルキャストにしか出来ない気がする。で、マリと来日では勿論なく、記憶喪失になったという話を聞いて、世良ちゃんがノルガに会いに行く、かな?そして、色々あって(ドララプ的端折り)、自分達が佐伯教授の隠し子で異母兄弟だったことを知る(笑)
せとかちゃん、いつも構ってくれてありがとう。こんなんでごめん。10月はよろしく。ピンクシャンパンでモンテカルロナイトごっこもいいけど、ビールとおでんでスラムンごっこもいいと思うよーvvv
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