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テレビ先生の隠れ家
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プロフィール
HN:
藍河 縹
性別:
女性
自己紹介:
極北市民病院の院長がとにかく好き。
原作・ドラマ問わず、スワンを溺愛。
桜宮サーガは単行本は基本読了済。
連載・短編はかなり怪しい。
眼鏡・白衣・変人は萌えの3種の神器。
雪国在住。大型犬と炭水化物が好き。
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クワガタPの「インタビュア」のイメージで天ジュノと今世良。
天ジュノは付き合ってなくて、今世良は両片思いって感じですかね。
スラムンネタバレあるんでご注意ください。

拍手[8回]



 叩き付けるようにキーボードを打っていた世良は、ふとその手を止めた。
 顔を上げると、すっかり部屋の中が暗くなっていたのに気付き、立ち上がって明かりを点ける。
 集中力が切れたのか、作業に戻る気になれず、一つ伸びをして、応接用のソファに凭れ掛かった。
 古いスプリングが奥の奥で、囁きかけるような微音を立てて軋んだのが酷く耳障りだった。
「大切な……持ち駒、か」
 昼間、自分が言い放った悪意が、相手の心を裂いた後、自らに返って来たようだ。
 世良は身体を起こし、ローテーブルの上に、見えないチェス盤を睥睨しようとしたが、それは無駄な試みに終わった。
 ――あの人なら……。
 陣の真ん中に、アメジストの騎士を置くだろう。
 一見、怠けてだらだらと時間を浪費しているだけのようだが、その実、彼は盤上の全て、いや、盤の外側の世界までも見据え、必要とあらば、天すら翔ける。
 そして、あらゆる駒を自在に操ってみせるのだ。
「全く……、持ち駒が聞いて呆れる……」
 あれから、18年。
 彼の退場したチェス盤を、世良は相変わらず、操ることなど出来てはいない。
 一歩、また一歩。
 愚かに、惨めに進む歩兵のままだ。
 騎士ならば、他に居る。
 彼は、その跳躍力で患者を救い続けることを選び、あの人に勝るとも劣らない奇跡を起こし続けている。
 しかも、歩兵は動きの制約から逃れることは出来ない。けれど、それを物ともしない存在もまた、何処かに居るのだろう。
 実を虚に、虚を実に――流言を操り、人々の信じるものを巧みに入れ換えながら、盤上のルールすら無効化する存在が。
 世良は再び背を反らせ、指先を天井の電灯に翳した。この手の中には、革命の火種とも言うべきものが託されている。けれど、これまで一度も世良はそれを使うことは出来なかった。
 盤の全てを見通すことなど出来ない愚図な歩兵にも見えるものはある。
 この道を果てまで歩いても、あの人の為そうとしたものには辿り着けない、ということだ。
 一体、何時、何処で、間違えたのだろう?いや、もしかしたら、世良の辿って来た道は呆気ない一本道で、最初から何処にも行くことなど出来なかったのかも知れない。
 くたりと、力ない手が傍らに落ちた。
 ――結局、僕は何にもなれはしないんだ……。
 その癖、不良債権病院再建請負人なんて、ご大層な肩書きを振り翳して、まるで何かを成し遂げたような顔をして。
 一体、僕は何をしているんだろう……?
「……先生……」
 その名を呼ぼうと息を吸い込んで、結局、音にすることすら出来ずに唇を噛み締めた。


「ジュノはたった一人の味方だからな」
 ――そんなこと、思っても居ない癖に……。
 内心で呟いた世良に、ソファに座る天城はくすりと笑った。
「何だ、不満そうだな」
 ――不満に決まってます。そんな心にもない言葉の所為で、佐伯外科の中に居場所がなくなってしまったんですから。
 腹部外科教室の医局長でありながら、時と場合に応じてスリジエセンターにレンタルされているというのが、端的な世良の立場だ。余りにも特異点過ぎて、最早、殆んどの医局員達から明らかに距離を置かれている。
「居場所ならあるじゃないか」
 ――何処に?
 そんな世良の苦しい立場など、全く意に介さない男はあっけらかんと言う。
「此処に」
 思いがけない言葉に、世良は咄嗟に返事に窮した。
「何が不満だ?世界一の外科医の隣で、優先的にその手技も学べるし、好きなだけその思想も聞ける。誰も見たことのない病院の創設に関わって、何れはそこの役職に着くことも可能だろう。そして、下らない大学病院の雑務から開放されて、のうのうと昼寝に興じることも出来る――良いこと尽くめじゃないか」
 ――何処が、ですか……?
 今の世良の状況に不満があるはずない、と断言する天城は、どうやら本気のようだ。
「つまり、ジュノは一研修医の方が良いと思っているということかな?」
 ――それは……。
 だとしても、そんなこと口に出せる訳がない。
「まあ、良いさ。何れ、どちらかを選ぶときは来るのだろうからな」
 ――どちらか……。
 天城は上目遣いで、意味ありげに含み笑いを見せた。
「スリジエか、佐伯外科か――どちらの一員であるのかを」
 言うまでもないだろう、と世良は反目する。
 ――そんなの、とっくに選んでます。俺は、スリジエを……。
 言いかけると、天城がにこりと笑って「なら、良いんだがな」と遮った。言葉を止められた世良は、もやもやとした感情に包まれる。
「そうだ、ジュノ。昼は外食にしよう。案内してくれ」
 ひょこりと身体を起こした天城にそんな思いまで有耶無耶にさせられ、世良は溜め息を吐いた。
「何処に行きたいんですか?」
「ジュノ、私の下に着いてどれだけ経ったと思ってるんだ?そろそろ、上司の好みに合う店の一つくらい勧められるようにならないと出世しないぞ」
「天城先生が出入りするような店、俺なんかに分かる訳がないでしょう」
 唯我独尊の天城に、組織での出世論を説かれるというのは大変納得のいかない話だ。
「分からなくても、知りたければ知ろうとするものだ。現に、そうした人間は何人も居る」
 問答のような言葉に、世良は眉を顰めた。
 ――どういうことですか?
「簡単なことだよ、ジュノ。尋ねれば良いんだ――先生はどんな食べ物がお好きなんですか、とね」
 その呆気ない解答に、世良はぽかんとして天城を見返した。
「そんな簡単なことと思うか?だが、出来る人間は、自分がそうしてることにも気付かずに行えるし、出来ない人間は指摘されてすら出来ないものだ。ジュノは後者だな」
 からかわれてるのだと思った世良は、挑発に乗るように返答する。
 ――それで良いなら、聞きますよ!先生は……。
「誰が好きですか?誰を一番の部下にしたいと思っているんですか?本当に、たった一人の味方だと思ってくれているんですか?」
 口を開きかけた世良の言葉が、またもあっさり遮られ、とんでもない質問に上塗りされていくのを愕然と聞く。
「聞ける人間はどんなときでもストレートに尋ねるし、聞けない者は何時も何か言いたげな目で見ながらも決して口には出来ない」
 ――お、俺は、そんなこと考えてないし、先生がどう思ってても……!
 反射的に否定の言葉が飛び出す。聞きたくても聞けず、しかもそんな逡巡が全て相手に悟られているなんて、そんな恥ずかしい状況、絶対に有り得ないと思う。
「なら、良いんだがな」
 天城はまたもあっさりと会話を終了させた。再開させることも出来ない世良は、「医局に上着を取ってきます」と言い置いて、旧教授室を飛び出した。
 何処の店に行くか聞きそびれたのに気付いたが、北島でも捉まえて、教授御用達のランチの店でも教えてもらうことにした。
 ――どうせ、俺の名前なんて言わないんだろ……!
 そう、強く思ったら、胸の中の苦しい気持ちが少しだけ霧散したように感じられたので、更に幾度か言い聞かせるように繰り返し続ける。
 何度も。何度も――


 闇の中でしつこく鳴り響く着信音で目を覚ました。
「うー……」
 院長室の来客用のソファで寝ていたから、身体中があちこち痛い。窓の外は真っ暗だから、間違いなく夜だろう。手探りでうるさい携帯を掴むと、ろくに画面を見もせずに耳に押し当てる。
「はい……」
『以前からそちらに通院していた石川ミヨさんなんですが……』
 声の記憶を辿るより先に、こんな時間に叩き起こした詫びも状況説明もなく、いきなり用件に入ったことで相手を認識した。
「速水……。今、何時だと思ってるんだよ」
『心臓に持病とかはありませんでしたか?』
「聞けよ、他人の話」
 と言っても、返事を聞くまでは、此方の事情に耳を貸す気もないだろう。いや、返事をしたところで、用は済んだとばかりに切られて終わりという気がする。この後輩との関係は、医局長と研修医だった頃と大して変わらないようだ。
「そんなことはなかった気がするけど。容態はどうなんだ?」
『話が早くて助かります』
 くっと笑い声を漏らした速水は、石川ミヨという患者が午前0時過ぎに救急センターに搬送されてきた経緯を簡潔に話す。
「一応、カルテに目を通すから、ちょっと待って」
 廊下を移動しながら言うと、流石の速水も多少は驚いたらしい。
『今、病院に居るんですか?』
「昔お世話になった先生の著書に執筆を依頼されてね。ほんの1時間ほど前に仕上げて送信して、そのまま仮眠を取ったところだったんだよ」
 今日に限らず、割としょっちゅう病院に泊り込んだりしているのだが、それは言わなかった。
 大体、速水だって似たような生活のはずだ。
『それはどうも、失礼しました』
「謝っても改めないんだろうけどな。あ、あったよ」
 序でに言えば、個人情報保護なんて言葉など、頭の隅すら掠めていないだろう。
 まあ、それに関しては、世良も余り気にしていないから、他人のことは言えないが。
「ああ。僕の来る前の健康診断結果も確認したけど、問題はなさそうだ」
『ありがとうございます。ところで……』
 電話を切らず、話を変えた速水に驚く。
「何だよ?お前が雑談なんて珍しいな。早く戻らなくて良いのか?」
『緊急措置は終わってますから。今日は結構暇なんです。まあ、いきなり切るかも知れませんが』
 搬送患者が来たら、通話終了、という訳か。
『桃倉センター長が、今中先生のお手伝いのお礼に、今度うちの五條をそっちに挨拶に行かせるって言ってたんですが、手土産は何が良いですか?』
 ボランティアだと言ったのに律儀な話だ。
『実を言うと、世良先生に、今中先生の好きなものを聞いておけって言われてたのを思い出したんですよ』
 やはり無難なものは食べ物だろうか。
 少し考えてみて、世良はあっさり断言した。
『知らないよ。今中先生の好きなものなんて』
「何かないんですか?ちょっとした雑談のネタみたいなので良いですから」
 そもそも、そういう会話を交わしたこともないから、世良は否定を繰り返した。
『本気みたいですね』
「当り前だろ。嘘を吐いてお前との電話を引き延ばしても、良いことなんて何もないからね」
 速水が電話の向こうで小さく嘆息したのが分かった。
 呆れたような反応に少しむっとし、同時に、何か落ち着かない感情が胸に広がるのを覚えた。
『世良先生?』
「とにかく……、知らないものは知らないから」
 ふと、物思いに沈んだことに気付かれ、慌てて話を打ち切る。
『それじゃ、こっちに居るときに何度か飲んでた連中にでも聞いてみることにします。夜分遅く失礼しました』
 取って付けたような挨拶が終わるか終わらないかの間に、通話は終了していた。
 前置きがあっただけマシかも知れないが、そんなことはどうでも良かった。
 世良はカルテを仕舞うことも出来ず、床に座り込んだ。おかしな会話の所為で、先程まで見ていた夢がありありと蘇っていた。
 違う、夢じゃない――
 遠い遠い昔、あの人と交わした会話だ。すっかり忘れていた。いや、忘れようとして記憶の奥に押し込めていた。
 ――簡単なことだよ、ジュノ。尋ねれば良いんだ。
 結局、世良は尋ねなかった。彼の好きな食べ物も、望んだ部下のことも。
 だから、今も知らない。
 彼が、誰を想っていたのか、一番の部下は誰だったのか、本当に世良をたった一人の味方だなんて思っていたのか。
 興味がなかった訳でも、答えを聞くのが怖かった訳でもない。
「……きっと、僕じゃない、と……思ってた……」
 ただ、強く強く頑なに――
 目の前にある、本棚の一番下の段が滲んでいく。
 胸が、痛い。
 居場所ならある、と言われる度に、世良は内心で否定した。天城が、そんなことを思っているはずはない。此処は居場所なんて呼べるようなところじゃない。
 けれど、世良が、そここそが居場所になるべきところだったと思い続けていた腹部外科教室であっても、医局長という形で戻っても自分を内包することはせず、最終的には、そこを後にすることしか出来なかったではないか。
「先生、先生……。あ、まぎ……せんせい……」
 その言葉通り尋ねてみれば、その言葉に耳を傾けてみれば、その視線と目を合わせてみれば、その発言を真っ直ぐ受け止めてみれば――
「先生は……、どんな食べ物がお好きなんですか……?」
 答えはない。
 ある訳がない。
 もう、あの人は居ないのだから。
 まだ、痛い。
 とっくに塞がったと思ってたのに。
 痛い、痛い、痛い、痛い、痛い。
 タイルの欠けた、薄汚れた床に胸を押さえるように蹲り、膝に額を押し付けた。


「世良先生!世良先生……!」
 ぼんやりと顔を上げる。
 間近い場所で呼んでいる部下の顔は、何だか酷く焦っていた。
「あれ、今中先生?」
 手を差し出されたので、支えられるままに立ち上がろうとしたら、全身が、ソファで寝たのとは比較にならない程に痛かった。
「どうしたんですか、こんなところで?カルテとか、携帯とか、落ちてるし……」
「ああ、そっか……。僕、あのまま……」
 窓の外はすっかり日が昇って、とんでもない場所で寝過ごしていたことが分かった。
「ああ。確認したいことがあってカルテを見に来たんだけど、携帯でメモ取ってるうちに力尽きて寝ちゃった、ってとこかな?」
「とこかな?――って、どういうことですか?!」
 生真面目に応える男に、世良は声を出して笑った。
 部屋を満たす光なのか、有り余る時間なのか、この男の持つ雰囲気なのか――
 ぱっくりと開いた傷口が、かさぶた程度ではあるとしても、確かに塞がっている気がする。
 あの、耐えられないほどの痛みが消えていた。
「……ねえ。今中先生って、何が好き?」
 緩んだ気持ちのまま、口に出してみると、ああ、こんな簡単なことだったんだ、と気付く。どうして、こんなことが決して出来なかったのだろう。
「すっ……?!」
 逆に、今中は、世良の言葉を聞くなり、真っ赤になって口をぱくぱくさせた。
 その理由も、本当は知っているのだけれど――
「食べ物の話だよ。今中先生に聞いてくれって頼まれてさ」
 そう付け加えると、今中は、ほっとしたような、がっかりしたような複雑な表情を見せた。
 本当に、素直な男だ。
「ええと……、焼肉、とかですかね」
「意外性ゼロだね。つまらない!」
 そうか、こんな風に、簡単に教えてもらえるものなのか。
「聞いておいて、駄目出しですか?!」
「それから、もう一つ」
 じゃあ、これは――
「今中先生の好きな人って、誰?」
「え?!」
 誤魔化しの一つも出来ない聞き方に、今度こそ、今中は耳まで真っ赤になった。
「ま、また、誰かに聞かれた、とかですか……?」
 ああ、そうか、今度はこちらが答える番なのか。
「ううん、僕が知りたいんだ。教えてよ」
 くすりと笑って、視線を合わせる。
 まだ、間に合う――
「……私の好きな人は……」
 今中が意を決したように、口を開く。
 世良は、そのまどろっこしい甘い時間にゆっくりと耳を傾けた。


歌詞を文章に落とし込むのって結構難しいな、と思います。でも、楽しい。
ただ、この設定にすると、「一生花守をする」は言えないだろうな、と思うので、一つのパラレル的解釈になりますね。極ラプって意外と時期の制約が厳しいんだよなぁ。

ところで、リアルとフィクション混ぜんなって言われそうですが、今日しょーんさんに、夕張の診療所の先生の、予防医療の成功した現在の夕張の記事を教えていただいたのが、余りに感動的で堪りませんでした。
リンク張りたいのですが、此処から直接飛ばれると困るので、出来ない。うう…。要するに、村上先生がやってきた意識教育が、明確にデータに現れるくらい浸透してるって話でした。
そしたら、もう、世良院長だって、そんなに遠くない未来に、極北に桜を根付かせて花を咲かせられるよねって思って…。笑いあって認められる日がきっと来るよって、ちょうどこんな話書いてたので。
個人的には、院長は、極北に根っこを残しながら飛び出して行って欲しいのですが、安穏と住み着いちゃってるようなのもそれはそれで見たいので、もう院長なら何でもいいよ(通常営業)
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