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テレビ先生の隠れ家
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プロフィール
HN:
藍河 縹
性別:
女性
自己紹介:
極北市民病院の院長がとにかく好き。
原作・ドラマ問わず、スワンを溺愛。
桜宮サーガは単行本は基本読了済。
連載・短編はかなり怪しい。
眼鏡・白衣・変人は萌えの3種の神器。
雪国在住。大型犬と炭水化物が好き。
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お久し振りです。9月中に1回くらいは更新しようと思って浮上してきました。1月振りですかね。もっと時間経ってる感じがしてた。
前回のインタビュアSSだと、「一生花守をする」って言葉が使えない展開だったので、逆に、その言葉を使う世良ちゃんを書いてみようと思って。

拍手[2回]



「天城先生、失礼します」
 世良は、ノックをしても返事のない旧教授室に身体を滑り込ませた。
 この部屋の主が我が物顔に私物化しているので何だか罪悪感が湧くが、本来此処は職場なのだから、自分が忘れ物を取りに出入りしたことで責められることではないと、行動を正当化してみる。まあ、そんなことをいちいち考えてしまう時点で、天城雪彦という男に呑まれてしまっているのだが……。
室内は、様々なものが乱雑に置かれているにも関わらず、一つ一つの品の良さと鮮やかな色彩の所為か、それらが感覚を煩く刺激してくることはない。
 不思議と居心地の良い空間に纏まっていた。
 などと思って居られるのは、此処の主が留守にしている今だけなのだが。
 ――確か、ローテーブルの端に置いたっけ。
 そんなに細かい性格ではないので、大概のものはなくても済ませられるが、流石に財布が行方不明のまま放置してはおけない。気付いて、医局から慌てて戻って来たところだった。
 応接用のローテーブルの上に、草臥れた皮の財布を目に留め、ほっとして近付いた世良は、そのとき初めて他人の気配に気付いてぎょっとした。
 恐る恐る振り向くと、ソファで寝息を立てる天城が視界に入って飛び上がりかけた。
 全身を受け止めるように心地よく沈み込むソファで寛ぐ天城を見るのは珍しいことではないが、無防備に意識を飛ばしているのを見るのは初めてで、世良は思わず目を逸らした。
 暫くそのまま立ち尽くしていたが、規則正しい寝息が続いているのにほっとすると同時に、好奇心が頭を擡げてきた。
 びくびくしながら顔を上げて、まずはソファ全体に目を遣る。
 かなり大型のソファだったが、天城の長身を全て収めるのは無理だったようで、長い足がはみ出していた。
 ほんの少しだけ背けられた顔は、何一つ取り繕っていないにも関わらず、相変わらず整っていて非の打ち所もない。
 唇がほんの少し開いているのも、寧ろ、御愛嬌と言えた。
 ――く、口……?!
 しまった。
 選りにも選って、そんなところに注目してしまった。
 もっと近くで見たくなる。
 頭の中で止めろ止めろと自制心がサイレンのように鳴り響いているのに、身体はふらふらと引き寄せられるように天城に近付いて、真下にある彼の顔を覗き込む。
 ――この人、動いてなくても綺麗なんだな……。
 浮かんだことまでくだらなくて、世良は自分の思考に呆れ返った。
 けれど、確かに、行動する彼には確固たる自信に基づくオーラともいうべきものが纏われているが、今の天城にはそれがない。
 初めて気付いたその事実を、世良は宝物のようにそっと胸に仕舞った。
 この時間を終わらせることを無性に勿体無く感じる。
 もう一度、けれど、さっきよりは幾分不躾にその顔へと視線を落とす。すると、髪が一房頬にかかっているのに気付いた。
 意識してしまうと、何だかむずむずする。
 そっと、その毛を爪の先で払ってみた。
 余程深く眠りに就いているのか、天城は身動ぎ一つしない。
 先程まで、その姿を視界に入れるのさえ躊躇っていたのが嘘のように、世良はその頬に指先を触れさせてみた。
 体温を宿した皮膚がその圧力で軽く沈む。
 それを見た瞬間、世良の中で何かが弾けた。
 気が付くと、世良は、先刻から一番意識に止まっていた部分に触れていた。流石に、それを自覚した途端、後先も考えず部屋から飛び出していた。
 ――何やってるんだ、俺……?!
 眠っている上司に触れた。
 頬をつつくくらいなら、欧米仕込の上司のスキンシップを考えれば、まあ、影響を受けたと言えなくもない。
 だが、唇にキスしたなんて、絶対に言い逃れは出来ない。
「はぁ……っ。はあ、はあ……」
 階段を駆け下り、外に飛び出して闇雲に走り、隣の棟の外壁に片手を付いて荒い息を吐く。
 ――……好き、だ……。
 ずっと前から、疼くような気持ちには気付いていた。けれど、適当に誤魔化して有耶無耶にしてきた。
 ずっと、好きになったのは女性ばかりだった。
 今だって、小さくて可愛くて柔らかい女の子の方がずっと良いと思っている。なのに、視線を奪われる。気付けば、彼のことばかり考えている。時々無性に苦しくて、此方を見て欲しくて堪らなくなる。
 どう考えても恋だった。
 しかも、踏み出すに踏み出せないことが、更に思いに拍車をかけていた。
 押し込めた気持ちが外に出たいと暴れるのを押さえるために、呼ばれるだけで、傍に居られるだけで、ジュノだけだと言われるだけで嬉しくて堪らない気持ちを隠すために、殊更、面倒くさそうな顔を作ってみせ、仕方ないと溜め息を吐きながらその背に付いて歩く。
 その現状がとても満ち足りたものであると同時に、何時だって、苛立ちを抱えていた。
 ――あんなことして、これからどんな顔して天城先生と仕事をすれば良いんだ……。
 それでも、天城と離れるなど、考えるだけで嫌で堪らない。
 ――今更、先生を日本に連れて来た俺が手を引いたりしたら、先生に迷惑がかかるし……。
 そんな言い訳を内心で繰り返し、またも、自分の思考を肯定する。
「天城、先生……」
 小さく名前を呼んだだけで胸の中に甘い気持ちが広がって、自分でも嫌になる。
 深々と溜め息を吐いたとき、「こんなところに居たのか、世良」と、聞き慣れた声に呼ばれた。
 同期の北島の姿を目に留めた世良は、これまでの思考を蘇らせて赤面した。
 人目に止まるところで、そんなことを考えていた自分が恥ずかしい。
 頭の中が表情や態度に漏れていなかったのかも、悩み事に夢中になり過ぎていて良く思い出せない。
「天城先生が呼んでたぞ。サボるんなら、見つけ易い場所にしろよな」
 たまたま通りかかって、世良を探す羽目になったのだろう北島は不機嫌だった。
 忙しいところに余計な仕事を申し付けられたことは申し訳ないと思うので、悪い、と世良は素直に謝罪した。
 北島と別れ、赤煉瓦棟に向かってわざとゆっくり歩きながら、世良はどうしたものかと考えたが、答えが出るはずもない。
 部下である限り、天城に呼ばれれば行かなくてはならないし、お供を言い付けられれば傍に居なければならない。どんなに辛くても――
 世良は懸命に顔を引き締め、無関心を装い、そのドアを開いた。
「来たか、ジュノ」
 天城の起きている旧教授室は、先程までとはがらりと雰囲気が変わっていた。
 何時なんどき何が飛び出すか分からない、この天才にハラハラさせられながらも、室内は相変わらず光の粉をばら撒いたようにキラキラして眩しく、ただドキドキする心を隠すだけで手一杯になる。
「コマンタレ・ヴ、ジュノ?」
「はあ、まあ……、先生次第、です」
 とてもではないが、目も合わせられない。
 世良は努めて神妙な表情を取り繕って言う。
 ちらちらと天城を窺ってみたが、いつもと全く変わらないようにも、いつも以上に不可解なようにも見えて、詮索を諦めた。
「ならば、上機嫌ということだな」
 何処からそんな自信が湧くのか、天城はあっさりと断言した。
「ジュノ、来週からは私の下についてもらうぞ。スリジエ創設に向けて、最後の仕上げだ」
 あっさりと通告され、世良はやはり少しも気付いていないのだな、と安心すると同時に寂しい気持ちになった。
「浮かない顔だな。だが、心配ない。私を信じて付いて来たジュノに後悔はさせないさ」
 そんな世良の表情をどう勘違いしたのか、天城が自信たっぷりに言う。ほんの少しだけ、胸が熱くなった。
 天城がちゃんと、世良が彼を選んでいるのを分かってくれていること、それは報われると言ってくれたこと。
 勿論、この思いに応えてくれるという意味ではないということくらいは百も承知だ。
 ――……忘れよう。
 天城が気付かず、世良が忘れれば、先程のキスはなかったことになる。
 そして、世良の思いもまた同じだ。
 同性である世良に恋心を打ち明けられても、天城が困るだけだろう。
 大して役に立っているとも思えないが、確かに世良は、天城の持ち駒に違いない。
 こんなことで天城の足を引っ張る訳にはいかない。
 ――でも、これだけは……。
 世良は、楽しそうに鮮やかな柄のネクタイを選んでいる天城をじっと見つめた。
 ――この思いは絶対に明かしませんから、せめて、このまま傍に居させてください。スリジエは俺が必ず、一生守りますから……。
「ジュノ?」
 視線に気付いたのか、天城が顔を上げて此方を見る。
「……」
 改めて、自分の想いを言葉にしてみるととても恥ずかしかった。
「今日は13時から会議ですからね。ちゃんと準備をしておいてくださいね」
「13時?だったら、14時過ぎてから迎えに来てくれ。そのくらいで丁度良いはずだ」
「良い訳ないでしょう!」
 いつもの遣り取りを繰り返しながら、世良はそっと自分の想いに別れを告げた。


両片思いは良く書いてるんですが、ガチ片思いは意外と書いたことがなくて、かなり苦戦しました。おかげで、別な作品のプロット組んだり、某ジャンルの動画見まくったり出来ました。…駄目じゃん。
一応続きますが、最後結構切ない展開するので、シンドいの嫌な方はお気をつけてください。後編は早めに上げます。
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