テレビ先生の隠れ家
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プロフィール
HN:
藍河 縹
性別:
女性
自己紹介:
極北市民病院の院長がとにかく好き。
原作・ドラマ問わず、スワンを溺愛。
桜宮サーガは単行本は基本読了済。
連載・短編はかなり怪しい。
眼鏡・白衣・変人は萌えの3種の神器。
雪国在住。大型犬と炭水化物が好き。
原作・ドラマ問わず、スワンを溺愛。
桜宮サーガは単行本は基本読了済。
連載・短編はかなり怪しい。
眼鏡・白衣・変人は萌えの3種の神器。
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「世良、国際学会のメンバーが発表されたんだが」
「これ……?!何かの間違いじゃ……」
垣谷に渡された表を見た世良は、血の気が引くのを感じた。
「俺もそう思ったさ。けど、どうやらこれが最終決定らしい」
「だって、そんな……」
「仕方ない。上層部の決定ならそれに従わないと……、って、あっ、世良!何処に行くんだ。ちょっと待て!」
――すみません、垣谷先生!
垣谷の言うことも、理屈も分かる。けれど、これは――此処に見える明確な意思を汲み取っておきながら無視を決め込めるほど、世良は達観など出来ない。
この胸の中には、あの日誓った想いがあるのだから――
世良は、現在の自分の運命の行く末を握る上司と対峙していた。かつて、この世界に自分を踏み留まらせてくれたあのときから、ずっと尊敬してきた、はずだった。
「どうしたんだい、世良君?そんな怖い顔をして」
「……理由なんて、分かっているでしょう?」
組織の中での在り方、患者との向かい合い方――その一つ一つを、世良は真っ直ぐに見つめながら自らの礎にしてきた。
「どうして、天城先生のチームを解体したんですか?」
あのメンバーは天城自身が選び、困難な手術を成功させてきた最高の布陣だった。それを邪魔することは即ち、手術の成功を妨害することを意味する。それを望み、かつ実際に影響を及ぼすことが出来る者など、一人しか存在しない。
けれど、これは、ただの会議で相手を言い負かすような問題とは違う。
「それは、患者の命を危険に曝すってことでしょう?!」
高階は初めて顔を上げて、厳しい視線を向けた。
「危険になど曝さない。私が居るんだから」
世良は、その言葉を発した高階を強く見据える。
はっとしたような表情に、僅かな動揺が走った。
「……カマをかけてくるとは……。何時の間にか、随分強かになったものだ」
貴方のお陰ですよ、と世良は心の中で頷く。尊敬していたから、彼のようになりたいと思ったから、何時だってその背を追いかけてきた、のに――
「そんなことより、高階先生。手術のメンバーを変えてください!」
世良は一歩踏み出し、訴えた。
「無理だ。賽は投げられた。もう、後戻りは出来ない」
「それなら、俺だけでも……、連れて行ってください!」
高階はそんな世良へと、冷たい視線を微かに上向けた。
「佐伯外科としては、東城大に医局長以上の立場の人間を残す必要があるからね。世良君を行かせるなら、私が残らなければならない」
「そん、な……。それくらい、高階先生ならどうとでも出来るでしょう!」
縋る世良を、高階は容赦なく切り捨てた。
「甘えるな。方法はある。ただ、それに見合う実力が君にないだけだ。天城先生の公開手術の前立ちを務めることも出来ないという立場をきちんと弁えて、口を慎みなさい――それとも、その大役、君がやるとでも?」
世良は拳を握り締める。出来る訳がない。それを分かっていて、この男はそう問うて来る。
「……卑怯です。俺の知ってる高階先生は、そんなことを言う人じゃなかった」
上司命令と力不足――
それらを突きつけられながらも、世良は何とか覆せないかと食い下がる。
「私が変わったと言うなら、君も変わった。昔の君なら、こんな無謀な賭けにでも勝負を挑んできたはずだ。何が君を変えたんだ?」
さらりと返され、世良は言葉に詰まる。けれど、そんな挑発に乗る訳にはいかなかった。
「……俺があの人の足を引っ張る訳にはいきません……」
「すっかり、牙を抜かれてしまったという訳か」
「俺は……!」
「戻りなさい。これ以上話しても無駄だろう」
「高階先生!」
世良は、真っ向から恩師と向き合った。
「もし……、もし、患者が亡くなるようなことがあったら、誰が許しても、俺は絶対に貴方を許しません」
「勇ましいことだ。そのときは、君の覚悟を見せて貰うよ」
背を向ける高階の背が、思いの外大きく見え、世良は唇を歪めた。
世良は、木切れで穴を掘っていた。
冷たい海風が時折、向きを変えて、世良にぶつかってくる。
この状況を説明して欲しいと天城を見るが、言葉は発されず、世良は仕方なく彼を手伝う。
何時だって、そうだった。
全てを見せて欲しいと思っているのに――
「天城……先生……」
呼ばれた天城が一瞬だけ顔を上げる。
物憂げな力ない視線、なのに、それは世良の身体から全ての力を奪っていく。
思いは、鼓動と同じ速さで、飛び出しそうに暴れているというのに。
――今なら……。
何があったかは分からないが、この無防備な状態なら。その手を取って、力の限り思いをぶつけたなら。
――……駄目だ……。
喉が張り付いたように、声が出ない。
「先生、俺は……」
振り絞った震える響きが空気を伝う。
――ずっとずっと、好きでした……。
俺が本当に守りたいのは、スリジエじゃなくて――
「アデュウ、ジュノ」
たった一度だけ触れた唇が、永遠の別れの言葉を紡いで、世良の視界は暗転した。
『何で、何で……!何で……!!!どうして、こんなことになるんだ?!俺は、あの人の傍に居るためにずっとやってきたのに……』
目が覚めた。寝泊りさせてもらっている宿直室のベッドは固く、寝返りを打つとぎしりと耳障りな音を立てた。
「……」
耳の奥に、叫んだ自分の声がまだ残っている。もしかしたら、本当に叫んでいたのかも知れない。また、陰口を叩かれるかも知れないが、そんなことはどうでも良かった。
限界まで引いたカーテンは、微妙に長さが足りなくて、端から僅かに傾きかけた光を零している。
――言えなかった……。
幾度同じことを考えたかも、もう思い出せない。
あの人に迷惑がかかる、と言い訳し続けてきた癖に、全ての関係が断ち切られ、そんな気遣いすら無用になっても、世良は伝えることが出来なかった。
「結局……、俺に勇気がなかっただけだ……」
あの人に拒絶されるのが怖くて、何やかやと理由を付けて。
最後まで、本当の思いを隠し続けた。
「天城先生……」
口に上らせるだけで切なさで身を切られそうになる名を、それでも、世良は呼んだ。「どうした、ジュノ?」と応える声があるということは、それだけで何千倍も幸せなことだったのだと思い返す。
「もう一度……。もう一度だけ……」
呼んで欲しい。
傍に居て欲しい。
笑いかけて欲しい。
「いや、違う。今度は……」
想いを知って欲しい。
こっちを見て欲しい。
――迷惑だと言われても、嫌がられても、逃げられても。
それでも、永遠の別れを告げられ、遥か異国に姿を消された今より辛い結果など有りはしない。
世良は起き上がり、机に向かう。
広げっ放しになっていた、書き掛けの手紙の続きにペンを走らせる。
とにかく、彼を連れ戻さなければ――
「先生。先生、戻って来てください……」
もう二度と、スリジエセンターを理由に誤魔化したりなどはしない。
「貴方が好きです」
何時からかなんて、思い出せもしない。もしかしたら、彼を連れて帰ると決めたときには既にそうだったのかも知れない。今思えば、空の星に手を伸ばすような無謀な賭けだった。
だから、もう一度、手を伸ばす。貴方に会いたいですと叫ぶ。
「貴方が創ったものだから、俺はそれを守りたいんです」
そして、そのときこそ伝えよう。
その木の下で一生、花守をするのだと――
後編が気持ちふわっとしてるのは、スリジエを布教のために友達に貸してるからです。他のは、文庫を貸したんだけど、スリジエだけはまだなので。っていうか、スリジエ発売からそろそろ2年ですね。来年アタマくらいに文庫出てもいいんじゃない?そしたら、小規模ブーム来るって信じてるからー!後でちょこちょこ編集してたらすみません…。
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