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テレビ先生の隠れ家
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プロフィール
HN:
藍河 縹
性別:
女性
自己紹介:
極北市民病院の院長がとにかく好き。
原作・ドラマ問わず、スワンを溺愛。
桜宮サーガは単行本は基本読了済。
連載・短編はかなり怪しい。
眼鏡・白衣・変人は萌えの3種の神器。
雪国在住。大型犬と炭水化物が好き。
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昨日の続き。モルフェウスの数年後くらいのつもり。ペアン、たまご、モルフェウス、ケルベロス辺りのネタを適当に突っ込んでますので、ネタバレ嫌な方はご注意を。あ、勿論、スリジエも。

拍手[15回]


「Aiセンターの運営計画については、メールで送っておいた通りで良いかな、田口センター長?」
 声を投げかけると、ぼさぼさ頭によれよれ白衣の中年医師が、苦い表情で書類から顔を上げた。
「副センター長たちからの承認は貰っていますが……、あの、世良先生、その呼び方は止めてもらえませんか」
 病院長室の向こうとこちらから聞こえたくすくす笑いに、どうやらこれは、何度も繰り返されている会話らしいと判断した世良にも、ついつい悪戯心が湧く。
「そうだねー。まさか、ベッドサイド・ラーニングのレポートに『今後はできるだけ手術室に近寄らないようにしようと決意しました』なんて書いてきた田口クンがここまで出世するなんてねぇ」
 苦り切った顔になった後輩だったが、意外な反撃が返ってきた。
「でも、その原因を作ったのは世良先生では……」
 ――ふぅん、言うじゃないか。
 そうまで言われては、こちらとしても大人しく引き下がる訳にはいかない。
「あ、そういうこと言うんだ。やっぱり、教授になるような大物は言うことが違うねぇ」
 意地悪い笑みを浮かべて、最近聞いたばかりの情報を漏らした世良に、田口が固まった。
「きょ……?!いや、それは……」
「高階先生が再来年の教授選に、もう根回しを開始してるんでしょ?読んだよ、田口先生の論文」
「ああ、佐々木アツシ君の……」
 鈍いレスポンス。だが、それだけで彼の能力を測ってはいけないことは、最早、四半世紀ほども前にあった、ある一件で世良は知っている。
「獅胆鷹目、行以女手」
 世良の言葉に、田口は目を見張る。
「それは……」
 田口の目にもまた、その言葉を口にした男の姿が見えているのだろう。
「田口先生にしか書けない着眼点だと思ったよ。さすが、愚痴外来の田口先生だね!」
 血が嫌で手術室から逃げ出した医師は、その後も、無闇に命を奪うことを嫌い、あらゆる研究に背を向けたのだと耳に挟んだ。そんな、呆れを通り越して、最早、天晴れなレベルの頑固者は、その褒め言葉に微かな笑みを見せた。
「その俗称を本人を前にして堂々と言う世良先生も凄いですけど……。まあ、その呼び方が一番マシですね。一応、論文のことも褒めていただいて、ありがとうございます」
 大いに屈折した礼だったが、一先ず纏まったので、それを契機に、世良は後輩弄りを切り上げる。
「三船事務長。表向き、直接指導は今回までってことになってますけど、バランスシートとキャッシュフローは定期的に送ってくださいね。新しい事業展開に関しても、随時審査しますから」
「宜しくお願いします」
 三船事務長は深々と頭を下げた。
「もし、中央の連中がうるさいようなら、僕の名前を出して構いませんから」
「世良君」
 世良は、自分の名を呼んだ男を振り返る。
「高階先生」
「大丈夫なんですか?余り、無理は……」
「この契約を結んだときに、そこまでのオプションサービスを付けてますから、ご心配なく」
 言い切った世良に、それ以上言っても無駄だと思ったのか、高階は小さく息を吐き、立ち上がった。
「本当にありがとうございました。君から連絡があったときには、驚きました。閉院する東城大学付属病院の再建に協力させて欲しいなど……。誰より、この東城大を、そして、私を憎んでいたはずの君が……」
 率直に思いを口にする高階の言葉が途切れたのを見計らい、世良は口を開く。
「高階先生、僕はこんな風に思うんです――23年前、東城大に辞表を出した僕は運命を憎みました。何も遺せないなら、共に居ることすら出来ないなら、僕達は何故出会ったのか、と。でも、あの人と出会うことがなければ、僕は平凡な外科医として、今もここでメスを振るっていたでしょう。そうしたら、僕はあのとき東城大と共に潰れていた。ここを出て、新たな運命の中を歩んだからこそ、僕はここを救うために舞い戻ることが出来た。全ては必然、星の導きだったんじゃないか、と」
 『星』という言葉を使ったときだけ、遠くを思うような目になった世良を、高階はじっと見つめる。
「世良君……」
 世良はにこりと笑った。
「落ち着いたら、極北に来てください。海鮮料理と釣り三昧のツアーをご用意しておきますから」
 高階は、泣き笑いのような顔になる。
「そのときは、一緒に一杯やってくれますか?」
「ええ」
 静かに頬を緩め頷いた世良に、高階は明るく声をかけた。
「では、羽田までお送りいたしますよ」
 しかし、世良は控えめに首を振った。
「いえ……、寄りたいところがあるんです」
「寄りたいところ?」
「はい……」
 言葉少なに断った世良に、高階はそれ以上の質問をしなかった。でしたら、リムジンよりタクシーの方が良いですかね、とだけ確認してくれた。
 
 
 タクシーを降りた世良は、薄手のコートを海風にはためかせながら、桜宮岬を歩く。碧翠院・桜宮病院――通称・でんでん虫は一度燃え落ち、その跡地にそのままの姿で再び蘇ったのだという。
 その工事の発注が天城雪彦名義であったということを高階が教えてくれた。
 だが、その幻影もまた、炎の中に消えた。
 この辺りを歩くのは23年振りだった。
 数年前から、出張再建請負人などと称して東城大へ出入りしてきたが、何となく、此処へは足が向かなかった。
 今回で一先ず、直接東城大へ足を運ぶのは最後になる。
 そう思って初めて、行ってみようかという気になったのだった。
 岬の突端は、世良が覚えている時代と殆んど変わっていなかった。
 ただ、遠目にもはっきり分かる、1本の桜が満開の花を咲かせて、そのシルエットを浮かび上がらせていた。
 世良は、その成長に、流れた年月を思いながら、桜へと近づく。
 ――私は桜宮にさくらを植えるのが夢だった。だからこうして植えたのさ。
 あの日のことは、昨日のことのように思い出せる。きっと桜は咲くと、あの人の思いは必ず届くと、無心に信じていた自分の心を打ち砕かれた日。
 かつて、1枚の新聞紙にすっぽり包まれていた小さな苗木は、岬の突端で、強風に弄られ、人々の目に留まることもないというのに、しっかりと根を張り、こうして花を咲かせている。
 ――いや、目に留まってないなんてことはないんだろうな……。
 この国の狭量さを呪い、人々の無知を恨み、自らの無力さに打ちひしがれ続けた、地獄のような18年の放浪の果て。
『追い出されるたびに逃げ出していたら、どこにも居場所がなくなってしまいますよ』
『あの人にはわかっていたんです。私のこころには、ずっと別の人が住んでいるということを』
『疲れたらここに帰っておいで。私は世良君を見続けてきたし、これからもずっと見続けるから』
『んまあ、世良院長先生ったらなんて素晴らしいんでしょう』
 ――敵しか居ないと思っていた世界から伸びてきた、幾つもの手。
 そして――
『ジュノ、何を悩んでいるんだ?お前は猪突猛進、無敵のサイドバックだろ?』
 ――ジュノが自分に出来ることをやっていれば、ジュノは決して独りにはならない。そして、私も、ずっとジュノの傍に居るさ。
 その言葉に嘘はなかった。
 目を上げれば、彼の遺してくれたものは、輝くようにそこにあって。
 その小さなともしびを抱き締めるだけで、何処まででも進んで行ける。
 だから、こうして、東城大に再び足を向けることも出来た。
 憎らしくて、苦しくて、ままならない世界。
 けれど、約束も絆も救いも何処かにはある。
 世良は、桜に向かって呼びかける。
「天城先生、帰りましょうか。僕の生きる場所、極北へ」
 その声に応えるように、ふわりと風が吹き、舞い落ちる花弁が一片、世良の手の中に落ちた。


まあ、極ラプラストみたいなノリですが。個人的に、世良ちゃんは一度東城大に戻って、高階さんと対峙して欲しいな、と思ってます。そこを許すところから始めないと、二人とも前に進めない気がするんだ(もっとも、世良ちゃんは極ラプで救われてるし、高階さんはベロスで何だかハッピーになっちゃってるけど)
まあ、何だかんだ言いながらも、このとってもとっても愛おしい世良ちゃんと天城先生というキャラを創ってくれたkido先生に心から感謝します。スリジエ連載、本当にお疲れ様でした、の思いを込めて、良い迷惑なSSを上げてみた次第です。
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