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テレビ先生の隠れ家
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プロフィール
HN:
藍河 縹
性別:
女性
自己紹介:
極北市民病院の院長がとにかく好き。
原作・ドラマ問わず、スワンを溺愛。
桜宮サーガは単行本は基本読了済。
連載・短編はかなり怪しい。
眼鏡・白衣・変人は萌えの3種の神器。
雪国在住。大型犬と炭水化物が好き。
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お誕生日おめでとうございます。なおさんへハピバSS。

拍手[8回]



「ったく、何でこんなこと……。俺はもう、忙しい研修医なんだぞ」
 ワゴン車のドアから顰めた顔を覗かせ、世良は不満を外の後輩へと投げた。
 しかし、現在の東城大サッカー部の部長である広田は、全く悪びれる様子もなく言葉を返す。
「別セクションで割と暇してるから助っ人なら世良先輩が良いって、垣谷先輩が言ってましたよ」
 痛いところを突かれて、世良は一瞬言葉を失ったが、それでもどうにか反論はしておく。
「そうは言っても、それなりに苦労があるんだよ。遊んでる暇なんかないってのに……」
 遊び、と言われて、広田は少々気色ばんだ。
「そんな言い方ないじゃないですか。今日の東城祭のミニゲームの盛り上がりが、うちの部の来年度の予算から新入部員数まで左右するってこと、世良先輩だって知ってるでしょう」
 広田は、気は良いのだが、かなり責任感が強くて真面目だ。
 その剣幕に、彼が全力を注いでいるイベントを軽く言ってしまったことを、後悔する。
「いや、それはそうだけどさ、だからって俺がこんな……」
 何とか穏便に話を誤魔化そうとした世良の足元に、ぴとりと濡れた感触があって、反射的に振り向いた。
 ぴすぴす。
 能天気な音を立てながら、くるくると耳を動かし、世良の脹脛に鼻先を押し付けているそれは――
「コタロウ、出て来ちゃ駄目だろ」
 人懐っこく、頻りに世良の足にじゃれ付いているのは、日本家屋と相性の良い茶色の柴犬だった。しかし、今はその胴体は青い布に包まれている。
 それを見た世良は、少々忌々しく自分の姿に目を落とした。
「何で、今更こんな格好しなきゃいけないんだよー」
 世良もまた、コタロウと同じ青い衣装に身を包んでいた。
 足元に至っては、足の付け根まで見えそうなほどの短さだ。
 所謂、サッカー部のユニフォームである。
「ジュノじゃないか。何をしているんだ、こんなところで?」
 しかも、突然、祝日には絶対にこの敷地内に居ないはずの男の声までして、世良は呆然とした。
 思わず悲鳴を上げて、ワゴン車の中に引っ込んでしまう。
「誰ですか、この人?」
 突然現れた黒服の長身に、広田は訝しそうな視線を向けた。
「馬鹿!俺の上司だよ!」
 仕方なく、世良は顔だけ出して警告する。愛すべき後輩は「じゃあ、この人が噂の……」と言ったきり、もごもごと黙り込んだ。
「ほう。ジュノは私のことを何て言っているんだ?」
 言葉に詰まった広田は口をぱくぱくさせながら、目線で世良に助けを求めた。どう考えても観念するしかない事態に、世良は仕方なく姿を現した。
「天城先生。今日は、病院は休みなのにどうしたんですか?」
 此処は駐車場なので、天城が通りかかるのは不自然ではない。しかし、休日どころか、出勤日すら平気で欠席する彼がまさか居るとは思いもしなかった。
「忘れ物だ。折角の休日が台無しになってしまったと思ったが、ジュノのそんな姿を見られた訳だから、やはりルーレットは玉が落ちるまでは分からないな」
 ちらりと視線を投げられ、世良の頬に朱が差す。かつてはしょっちゅう着ていたユニフォームだったが、こうして久し振りに腕を通すと、酷く頼りなく気恥ずかしいものに感じられた。
「これは……、後輩に頼まれて……。文化祭のミニゲームの応援団が足りないって無理矢理駆り出されただけで……」
 しどろもどろで答えていると、天城が不意にその場にしゃがみ込んだ。
 見れば、コタロウが今度は、天城の、ちらりと見ただけで高級品と一目で分かるスーツに身体を摺り寄せていた。
「ああ、お前もジュノとお揃いなのか」
 天城は嫌な顔一つせずに、犬を見て笑う。
「良い子だ」
 奇跡のようにメスを煌めかせる細く長い指先が、滑らかに犬の毛並みの上を滑っていく。コタロウも気持ち良さそうに目を細めた。
 長い睫毛が伏せられ、口元が微かに弧を描き、楽しげに犬を構っているところを見ていたら、無性に落ち着かない気分になってきた。
「先生、そろそろ時間なので」
 世良が言うと、言うに言えずに居たのだろう広田がほっとしたように吐息を漏らした。
「何かあるのか?」
 天城の目線がコタロウから外れ、自分を捉えたことにほっとする。
 同時に、何だか疚しいことをしてしまったような気分が入り混じった。
「サ、サッカー部のミニゲームです。もう行かないと、なので……」
 つい焦りが声に出てしまい、しどろもどろになるのがもどかしい。
「そうか。それなら行こうか」
 思いがけない言葉に、世良はぽかんと天城を見返した。土埃に塗れ、満足なパーソナルスペースも確保できないグラウンドという場所は、この男には最も縁遠いところだと思っていた。一瞬、聞き違いかとすら思ってしまう。
「ど、何処へ……?」
 分かってはいたが、思考が上手く繋がらず、咄嗟に質問が口から飛び出す。その察しの悪さに、天城は多少なりとも気分を害したようだった。
「そのゲームを観るに決まっているだろう」
「え?でも、先生はサッカーのことよく知らないって言ってませんでしたっけ……?!」
 ちらりと広田を見ると、良いから早く、と口パクで伝えてきた。
「サッカーに興味はないが、ジュノが青春を捧げたスポーツには興味があるからな」
 そんなとんでもない台詞を笑んだ口元で転がされ、世良の頬に赤みが差す。
 覚束ない指先で、コタロウのリードを解いた。
「そ、それじゃあ、行きますね」
 結局、天城も来ることになってしまったが、こうなれば自棄だ。
 久し振りに空気に触れる脚に擽ったさを覚えながら、世良は天城を伴い、ワゴン車を降りた。


 直ぐに飽きるかと思ったが、天城は結局、ゲーム終了までベンチに居た。
「ちゃんとサッカーを観たのは初めてだったが、退屈はしなかったな」
 観客はそう多くはなく、コタロウが女子学生に大モテだった以外は、天城の唯我独尊感を圧してまで近づいてくる人間も居らず、ゆったりとゲームを観戦できたのは幸いだった。サッカー部にとって、良かったのかはともかく、だが。
「初めて観た試合が乱打戦なんてラッキーですよ」
「そんなものか?」
 旧教授室に向かいながら、世良は弾んだ声で答えた。
「一概には言えませんけど、両方が守りに入ってしまってボールが行き来するだけのスコアレス・ドロー戦は、知識のない人には退屈なことが多いですから」
 その点、今日の試合はハラハラする局面も多く、最後まで拮抗を保ちながらも、広田側のチームにロスタイムに綺麗に得点が入るという申し分のない試合だった。
 応援していた世良としては、後輩達と存分に盛り上がることが出来たし、今でも胸が弾むような感覚が残っている。
 しかも、初観戦の天城の口から自分の好きなものを褒める言葉が出てきたのだ。
 これは上機嫌になるなという方が無理だ。
 いつになく口数が多くなり、先程の試合の見所を次々に上げる。
 逆に何時もより無口で、忘れ物を取りに戻るから付き合えとだけ言った天城の要求にも二つ返事で応じた。
「先生の部屋で着替えても良いですか?」
 コタロウの世話からも解放され、狭苦しいワゴン車でこそこそ身支度をするなら、勝手知ったる旧教授室の方が断然楽だ。
「失礼します」
 目的地に着いた世良は、休日とはいえ、これで周囲に気を配る必要もなくなったとほっとしながら、肩にかけたスポーツバッグをソファに下ろした。
 そこから一気に着替えを引っ張り出す。今日はオフなので、ラフなTシャツとジーンズだった。
 腕に何かが触れた、と思ったのが最初だった。
『腕橈骨筋』
 聞き慣れた艶やかな語感とは違う、歯切れの良い響きにはっとする。
 大学に入学して直ぐの必修の専門科目で覚えさせられたドイツ語の筋肉の名称だった。
『大腿二頭筋』
 再び、指が位置を変え、今度は太腿の上部をつい、と撫でる。
 ぞわりと、全身の産毛が逆立った。
「せん……せっ……」
『広背筋』
 何時の間にか、裾から入り込んだ指先が背中を軽く押さえた。
 それだけ、なのに――
 世良の全身は熱を持ち、膝が微かに震えた。
「その姿は新鮮だな」
「あ……」
 耳元で響く心地良い低音。
 ふと、コタロウを撫でていたときの綺麗な指先を思い出す。
 ――あの指が、俺に……。
 そんなことを考えたら、ますます堪らない気持ちになってきた。
 天城とこういうことをするのは初めてではない。けれど、いつもポーンだの忠犬だの青二才だの言われている世良には、天城の本心がいまいち読めずにいた。
『良い子だ』
 ペットを愛でるような他愛もない気安さ。
 ――どうせ、俺のことなんて、そんな風にしか思ってないんだろ……。
 撫でられてる犬にすら嫉妬してしまうなんて、馬鹿じゃないだろうか、と自分でも思う。それでも。
「……まぎ、せんせ……」
 世良は天城を振り返った。引き寄せられるように、その肩口に顔を埋める。
「どうした、ジュノ?さっきの子みたいじゃないか」
 言いながらも、指先はマッサージでもするように世良の髪の中に滑り込んでいく。
 とても心地良い。
 ――でも、俺は……。
 天城の頬に触れ、顔を近づける。
「あいつへのものとは違う気持ちで触れて欲しいんです……」
 口の中で小さく動かした舌は、あっという間に腫れるほどに吸い上げられた。


 世良は違和感を覚える腰をどうにか引きずりながら、冷蔵庫からボトルを取り出した。半分以上をグラスに注いで、残りを一気に飲み干す。壜を置いて口元を拭うと、ひんやりとした水滴が心地良かった。
「もう、それは着ないのか?」
 グラスを持っていくと、ソファに埋もれた天城が笑みを堪えたような声で尋ねて来た。
「……先生が汚したんでしょうが……」
 口に出すのも恥ずかしくて、慌てて丸めてバッグに放り込む。ついさっき、脱ぎ捨てたばかりのユニフォームだった。
 あろうことか、行為の間中、世良はそれを着ていたのだ。
 いや、途中から幾度も脱ごうとしたのだが、悉く阻まれた。
 行為に酔う前に自分だけ剥かれてしまうのも苦手だが、着衣のままでのあれこれもとんでもなく恥ずかしいものなのだと思い知った。
「それは悪かった。あんなに早いと思わなかったんだ」
 その意地の悪い言い方に、世良は絶句して口をぱくぱくと動かす。
 ――絶対、わざとだ……。
 そうは思いながらも、羞恥が消える訳もなく、世良が着替えを身に付け始めた。もう、今日はさっさと帰ってしまおう、と思う。
「ジュノ、サッカーというのはいつもあんなことをしているのか?」
「え?」
 周囲をシャットアウトしているつもりでも、天城の言葉はきちんと聞いてしまうのが恨めしい。世良はTシャツに腕を通しかけた状態で、動きを止めて声の主を注視した。
 ちょうどグラスを手にしていた天城の置き方はいつになく乱暴だった。見れば、形の良い口元も面白くなさそうに曲がっている。
「どうかしたんですか?」
 世良は、天城の機嫌が悪いことに漸く気づいたのだった。そういえば、先程の行為も何時になく乱暴だった。一体、何時からだ、とはっとする。
「随分、馴れ馴れしいスポーツだな、と言っているんだ」
「馴れ馴れしい……?」
「得点する度に抱き合ったり、絡まって地面を転がったり――何なんだ、あれは?」
「って、言われても……」
 試合中に抱き付いて喜び合うなんて、日常茶飯事だから気にしたこともなかった。
「そんなの、いつもの……」
 言いかけた世良は、剣呑な空気を漂わせる天城にはっとした。
 ――これって……?いや、でも、まさか……、そんな……。
 天城が嫉妬している――
 有り得ないという気持ちと、そうだったら嬉しいかも知れないという想いが綯い交ぜになり、混乱した挙句、世良は深く考えることもなく、咄嗟に思い付いたことを口走った。
「せっ、先生だって、コタロウのこと撫で回してたじゃないですか!!」
 天城が目を瞬いた。
 そして、世良は自分がまたも余計なことを言ってしまったことに気付いて後悔した。
「何だ、ジュノも同じようにして欲しいのか?」
 一気に機嫌が反転し、くすくすと漏れ出す愉悦。
 そして、上向けた手の平が呼ぶ。
 まるで、犬のように――
「違います!俺は……」
「さっきも、ジュノの望み通りにしてあげただろう。ほら、おいで」
 その指先の強烈な吸引力に魅せられるように、世良は思わず一歩踏み出した。


なおさんと仲良くさせていただくきっかけになったサッカーSSをいつか形にしたいなってずっと思っていたのですが、私のお誕生日に頂いた世良&わんこのユニ姿でこれだってなりました。
これまでなおさんとしてきたやりとりだらけで既出感満載ですが、自分なりに纏められて満足です。
お仕事など色々大変だと思いますが、無理はしないで、これからも素敵なお話を描いていってください。大好きです(告)
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