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テレビ先生の隠れ家
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プロフィール
HN:
藍河 縹
性別:
女性
自己紹介:
極北市民病院の院長がとにかく好き。
原作・ドラマ問わず、スワンを溺愛。
桜宮サーガは単行本は基本読了済。
連載・短編はかなり怪しい。
眼鏡・白衣・変人は萌えの3種の神器。
雪国在住。大型犬と炭水化物が好き。
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というコンセプト。
「天城先生はつかみどころがない」という言葉をよく耳にするので、こういうことかなって思って形にしてみた。
先生がかなり酷いので、駄目な方は注意してください。

拍手[15回]



 機体が大きく傾いたとき、こうなることはうすうすわかっていたのだと思った。
 不用意に触れてしまったバラの花びらの落下、やたらと酸味の強かった朝食のアップルパイ、約束の相手からの飛行機の遅延連絡――とにかく、朝からツキのない日だった。
「ドクトル・アマギ、救命胴着を……!」
 ヘリのパイロットが叫ぶ。
 ――どうやら、私はシャンス・サンプルに負けたらしい。
「ドクトル……!」
 悲鳴のような声に振り返り、微笑む。
 一瞬、絶望したように見えたものの、すぐさま職務に戻り、何とか命運をつなごうとするパイロットの姿に感謝し、天城は眼下に広がる紺碧の海を見据えた。


「お出かけは中止になさいますか?」
 朝一番に、セバスチャンがそう尋ねたのももっともだった。
 実際、天城が「朝から、色々なもののめぐりが悪い」という理由で予定をキャンセルするのは常である。
「いや、出かけるつもりだ」
 天城はそう答えると、テーブルの上のチェス版からポーンの駒をつかみ、一歩前へと進ませる。
 有能なコンシェルジュはそれ以上口を挟まず、かしこまりました、とだけ答えたのだが。
「セバスチャン、ヘリをチャーターしてくれ。空港にはヘリで向かう」
「それは……」
 さすがに、次の一言には耳を疑った。
 天城はジンクスを重視する。患者の命をルーレットに載せるシャンス・サンプルはその最たるものだが、そのほかにも、日常のこまごまとした場面で、天城は直感を優先することが多かった。
 得体の知れないイレギュラーの予感が背筋を伝った。
「1週間後にジュノが来る。覚えているな?」
 セバスチャンの困惑をよそに、天城はあっさりと話題を変えた。しかし、こんなことは日常茶飯事で、この程度で戸惑っているようではオテル・エルミタージュのコンシェルジュは勤まらない。
「ジュノが来たら、私と同等に扱え」
 セバスチャンは目を見張った。モンテカルトの名誉市民であり、莫大な資産を持つ天城雪彦と同等の扱い、というのが既に破格の待遇だ。
 しかし、あえて今、その言葉を伝えた、ということの意味に、全てを悟ったのだった。
 天城は死を覚悟し、その後のことを言い残したのだ。断じて、それは自殺願望などという類のものではない。けれど、既に彼は心を決めている。おそらくは、彼がジュノという青年とこれからなすべきことのために必要なジンクス――いわば、シャンス・サンプルなのだろう。
「かしこまりました。幸運をお祈りしております」
 その返答に、自らの意思が伝わったことを受け取った天城は超然と笑った。
 ざわつく胸を必死に抑えながら、セバスチャンはその笑みを焼き付けた。


「これでいい」
 あの町に、再びスリジエセンターを創ること。それは、途方もない賭けだった。当然、それには大きな代償が必要になる。天城は命を賭け、そして、彼は――
「ジュノの手綱は二度とクイーンの手には戻らない」
 世良雅志という男の人生の残りは、今天城の手の中にある。もう二度と、他の人間に忠誠を誓うことなどできないだろう。
「覚えているか、ジュノ――人の心は力なんかでは縛れない。けれど、もっと強力に縛り付ける方法もあるんだ」
 1週間後、ニース空港に降り立つだろう青年の姿を思い浮かべながら、ゆれる機体の中、天城は満足そうに微笑み、目を閉じた。


以前、通常ではつかみどころのない天城先生に対して、余り思い入れがないから彼を書けるのかなって語ったことがあって、それをスパークで話したのをきっかけに、「つまり、私は、天城先生を書いてるっていうよりは、先に『院長を救う人』っていう受け皿を作ってから書いているのか」って思ったので、あえてその逆をやってみた次第。
書いてみて、やはり、天城先生は水みたいな人なのだと。手が届かないくらい高貴な人、子供みたいに困った人、わがままで残酷な人、全部許してる慈愛に満ちた人――どんな風にでも書ける代わりに、一つのイメージに押し込めることができない。
まあ、私は押し込めますけどね。世良ちゃんが大好きで、全て許して救いたいと心の底から望んでる人の受け皿に。
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