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テレビ先生の隠れ家
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プロフィール
HN:
藍河 縹
性別:
女性
自己紹介:
極北市民病院の院長がとにかく好き。
原作・ドラマ問わず、スワンを溺愛。
桜宮サーガは単行本は基本読了済。
連載・短編はかなり怪しい。
眼鏡・白衣・変人は萌えの3種の神器。
雪国在住。大型犬と炭水化物が好き。
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お待たせしました。誰も待ってないかと思ってたら、しょーんさんが待ってるって言ってくれたから、がんばって書いたですよ。ホント、ありがたい。
しかし、中身は、相変わらず、暗くてアレです。早く幸せなパートにたどり着きたい。

拍手[1回]



 診療所を出た世良は隣接する建物の脇をすり抜け、浜辺へと降りた。
 申し訳程度におかれた遊具の一つに背を預け、じっと目を閉じる。
「お疲れ様だったね、世良君」
 やがて頭上から控えめにかけられた声に、身体を起こして振り返り、「久世先生」と小さく口の中で呟いた。
「久し振りなのに、荷の重い手術をさせてしまったね」
「気にしないでください。あのとき、荒船さんが久世先生のところに連れて行ってくれなかったら俺は今頃どうなっていたかもわからないんです。これくらい恩返しみたいなものです」
 生きる意味も見出せず、行く当てもなく、正直、どうやってこの地までたどり着いたかも覚えてはいない。そんな世良を見返りも求めずに保護してくれたのが、この島で漁師をしていた荒船だった。
「荒船さんがやったのは当然のことだよ。けれど、世良君ががんばってくれたおかげで、本当に助かった」
 久世の穏やかな賞賛に、世良の表情は曇った。
「でも、たかだか盲腸の手術で手が震えました。こんなこと、指導医の先生に知られたら……」
 そこで、はっとしたように言葉を切る世良を、久世はじっと見つめたが追及はしなかった。世良も、話の続きに悩んだようで、二人の間にふと沈黙が落ちた。
 口火を切ったのは久世の方だった。
「世良君、何か言いたいことがあるんじゃないかな?」
「え……?」
 世良の表情が強張る。
「……俺……、こんなところにいる場合じゃないんです」
 やっと形になった言葉は聞きようによっては、酷く失礼な発言だったが、久世はあっさりと聞き流した。
 静かにうなずいて、先を促す。
「やらなきゃいけないことがあるんです。許せない、人が居るんです……」
「それはまた、穏やかじゃないね」
 子供をあやすように、丁寧に相槌を打つ久世に、世良は目を伏せる。
 しかし、直ぐに、その口内にこもった言葉は、何かに背を押されたように発された。
「俺、誰かにあの人の遺志を継がせるなんて絶対に嫌だったんです。だから、ずっとここに隠れていようと思っていました。この島に来たのは偶然だったけど、俺にとってまさに、渡りに船だったんです」
 何故、あのとき、この島行きの船に乗ったのか、世良には全く記憶はなかった。ただ、遠くへ、あの町からできるだけ離れたいと願っていたことだけは記憶している。
「でも、手術を始めた途端、忘れていたはずのことが急にあふれてきたんです。こんなのって、まるで……」
 挑戦する悪魔の笑み。手術室に飛び散った鮮血。つかみきれなかった患者の命。布団の中で、患者を殺す恐怖に震え続けた一昼夜――
「外科の神……」
 逃れたいのに、その呪縛は今も絡み付いてくる。原因を作った悪魔は姿を消し、そこから掬い上げてくれた恩師の手からは逃れたつもりだったのに。
「世良君?」
「このままじゃ駄目だ。俺はもう、あの人が言ったような立派な外科医になんてなれない。でも……」
 世良は、久世から目をそらし、小さく震えた。
「今でもあんな風に、誰かを指導したりしてるんだ。自分のしたことも忘れて……。俺、それだけは絶対に許せないんです」
 久世は、そんな世良の肩をそっと叩いた。


 翌日、世良は島を出る船に乗っていた。島の誰にも告げず、久世だけが見送りにきてくれた。
 申し訳なさはもちろんあった。世良が今あるのは、生きる気力すら失っていたときにも見守り続けてくれていた島の人たちのおかげだった。
「でも……、もう俺以外には誰も……」
 この国には、あの人がたどった末路を知る者は居ない。
 理想の医療という望みが瓦解し、舞い戻った遠い異国。そこで再び、スリジエセンターを創るという夢を抱いてくれたこと。それなのに、そこから動き出そうとしたその瞬間、運命の糸は残酷に途切れてしまった――
 彼が純粋に願ったこと、その真摯な想い。
 これから日本の医療は、彼の言葉通り崩壊の道をたどるだろう。そのとき、世良が姿を隠していたら、その思いを踏みにじった罪を誰があの男に叩きつけるというのだろう?
 温かくて優しい、島の人たちとの日々が胸を過ぎった。
 わかっている、これから足を踏み入れる先はきっと地獄だ。進まなければよかったと後悔するのも一度や二度ではないだろう。
 それでも――
 世良は、デッキで手すりを握り締めた。
「俺にはもう、このくらいしかできることなんてないんだ……」
 自分とあの恩師を隔てるものなど、本当は何もないのかも知れない。
 それでも、すがるように矜持を持ち続けるという免罪を手放すことはできそうにはなかった。


世良ちゃんが神威島を出た理由というのがずっと引っかかっていました。手がかりは、盲腸の手術の翌日に島を出た、というそれだけ。でも、盲腸の手術ってことは、やっぱり、佐伯外科に関する何かなんだろうな、とは思っていたのです。
話は変わりますが、某でずにー映画(バレバレ)のコラムで見た「死を乗り越えるプロセス」というのがありまして。大切な人を失ったとき、人は「虚無→喪失→怒り→癒し→再生」という変化を経て回復するのだそうです。
これを世良ちゃんに当てはめると、
虚無:スリジエラストのモンテカルロでの呆然状態
喪失:半分死んだような状態で神威島へ
怒り:桜の木を抜き去った連中に復讐する
癒し:再建請負人となり極北へ
再生:極ラプラスト、「僕はこの地に根を張るよ」
なのかな、と。
そうすると、今回のパートは、さしずめ「怒り」フェーズなのではないかと思ったのです。盲腸の手術でよみがえり、思い起こされる怒りの対象――つまり、高階さんですね。
でも、だとすると、世良ちゃんは、外科を辞めようとしたときに高階さんに助けられ、日本医療の表舞台から消えようとしたときにも高階さんの存在で踏みとどまったことになるのかな、などと思いました(まあ、神威島で島の人たち相手に先生をやるのだって立派な仕事だし、それはそれで幸せだったのかも知れないですけど)
今までずっと、世良ちゃんの復讐は「高階さんに自分の存在を知らしめる(お前のしたことを知る人間がここにいる的な)」ことなのだと思っていたのですが、スラムン読んでからは、「革命の松明の火の後継者に気づいてもらうこと(それにより、革命が成就されること)」なのかも知れないと思うようになりました。だから、再建請負人であることにそんなに意味はないのかな、と。ただ、自分の居場所を常に発信してなくてはいけないから、ある程度マスコミに顔を売らなくてはいけないし、そのことで反発を食う覚悟は必要だったのかな、とは思う。そして、その先にあるのは、松明の火を誰かにゆだねるという未来な訳で、何とも辛い決断だなぁというのを「地獄」と称したのかな、なんて思いながら、次回へ続きます。
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