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テレビ先生の隠れ家
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プロフィール
HN:
藍河 縹
性別:
女性
自己紹介:
極北市民病院の院長がとにかく好き。
原作・ドラマ問わず、スワンを溺愛。
桜宮サーガは単行本は基本読了済。
連載・短編はかなり怪しい。
眼鏡・白衣・変人は萌えの3種の神器。
雪国在住。大型犬と炭水化物が好き。
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またまた間が開いてしまいました、スラムン前提院長過去話シリーズ。相変わらず、萌え要素希薄な上に完全なる捏造なので、ずっと頭の奥にはありつつも形にしてはこなかったのですが、初めて視覚化してみました。信州時代の世良ちゃんのお話。オリキャラが出張ってます。

拍手[2回]



「困ります。帰ってください」
 すっかり日も暮れかけた病院の裏口で何やら押し問答する声を聞いて、若田は足を止めた。
 信州の山奥で地域に根ざした医療という看板を掲げて運営してきた病院は、一つ一つ問題を乗り越え、最近ようやく住民に受け入れられるようになってきていた。
 滑り出しこそ色々な問題はあったが、最近では方針に理解を示してくれる人の方が多い。しかし、トラブルがあったとなれば、責任者として放っておく訳にはいかない。
 若田は、当初向かっていた職員専用口ではなく、声の聞こえる見舞い客用の出入り口へと出張帰りの疲れた身体を向けた。
「院長の若田ですが、何か問題でもありましたか?」
 穏やかに声をかけると、目深に帽子をかぶった暗い色の衣服の男がはっとしたように振り返った。
「いえ、たいしたことでは……。それでは、今日はこれで」
 そそくさと退散していく姿を確認し、小さく息をついた白衣を振り返ると、そこにいたのは意外な人物だった。
「世良君だったのか」
「はい。お騒がせしました……」
 硬い声と表情で謝罪があったものの、彼の口から事態の説明は出てこなかった。
 少々風変わりな一面もあったが、基本的には勤務態度はまじめで勉強熱心、浮いた話やよからぬ噂はほとんど聞かない青年だったので、一瞬クレームでも付けられたのかと思ったのだが、この感じではそうでもなさそうだ。
「何か、事情があるのかな?」
 わずかに踏み込んだ若田の質問にも、世良は困ったように視線をさまよわせただけだった。若田は小さくうなずいて、浮かない表情に笑いかける。
「明日以降は、世良君は退職した、どこへ行ったかは知らない、でいいかな?」
 世良は驚いて、若田の顔を見つめた。
「そんな……、だって……」
「事情は話したくないんだろう?まあ、ほかの職員から漏れる可能性もあるから、どこまで徹底できるかはわからないけどね」
 世良は本日付けで退職し、若田が懇意にしている隣町の診療所に移ることになっていた。彼がこの病院へきて5年、若田の提唱する地方医療のシステムを学ぶ医師たちは何人かいたが、診療所から増員のための人員要請があったとき、一番に浮かんだのはこの青年だった。
「世良君。よかったら、これから一杯つきあってもらえないかな。君とは一度ゆっくりと話がしたいと思っていたんだ」
 世良の顔に浮かぶ困惑を読み取って、慌てて付け加える。
「話したくないことは無理強いはしないよ。ただ、5年前、君がどうしてここを訪ねてきたのか、なんてことをちゃんと話してみたくなったんだ」


「あのときはびっくりしたよ。いきなり、『若田先生の記事を読みました。先生の下で勉強させてください』だもんね」
「確かに、無謀でしたね」
 病院の裏手に、若田の行きつけのその店はあった。
 こだわりの地酒と料理を出してくれる、こじんまりとした店で、一人で飲むとき、そして、親しい部下とゆっくり話したいときに足を運ぶ。世良をここにつれてくるのは初めてだった。
「あれから5年か。世良君なら、私の考案したシステムを実践していけると思っているよ。がんばってくれ」
 徳利を傾けると、世良は遠慮なくそれを受けた。
「そのことなんですが、どうして今回若田先生は僕を選んだんですか?ほかにも先輩たちはいたのに」
 聞きにくいことをストレートに切り込んでくるのは、若者の強みだなと頼もしい気持ちになって、若田は上機嫌で答える。
「それが世良君の望みだったんだろう?」
「それは……、そうですけど……」
「うちの病院の中で、一番世の中に出たい気持ちが強いのが世良君だと思ったから抜擢したんだけど、間違いだったかな?」
 疑問の形をとってはいたが、若田の中には確信があった。世良は本当に勉強熱心な弟子だった。そして、おとなしくこの病院で勤務を続けることを望んではいないのだろうと若田は思っていた。
「……多分、その通りだと思います」
「こっちも聞いていいかな?世良君はどうして、こんな分野で独立したいなんて思うんだい?」
「おかしいですか?」
 もちろん、若田は自分のやっていることはいずれはこの国に必要とされると思っている。だが、それが浸透するにはまだまだ長い時間がかかるし、どちらかといえば反発も多い。
 世良のような年頃の若者なら、大学病院で最先端の技術を学んで華々しく脚光を浴びることの方に興味を惹かれる方が自然だ。
「必要なのはきっと、反発なんです」
 そう、世良はぼそりと口にした。
「僕には最先端の技術で脚光を浴びるような実力はありません。だから、反発されるようなことをして、注目を浴びるしかないんです」
 不思議な青年だ、と改めて若田は思った。
 若田のところにくるような医師は多かれ少なかれ変わり者だったり、医局ではじかれた者だったりするが、だいたいは地元の大学病院から紹介を受けてくる。
 しかし、世良は雑誌の記事を頼りに単身赴いて、ここで働きたいと頭を下げてきた。
 聞けば、東海地方の大学病院で数年の研修後にそこを辞め、その後は桜宮湖のほとりや極北の離島といった小さな診療所で手伝いをしていたという。
 普通に考えればあまり気乗りしない話だったが、その熱意と、断ったら彼が路頭に迷うに違いないという状況にほだされ、見習いという条件で採用を決めた。結果的には、その判断は間違いではなかった。世良は本当に熱心で、勤務時間中はもちろん、業務が終わった後も連日医局に残って雑事をこなし、若田のやり方を学んでいった。冬場は厳しい極寒にさらされるこの信州の山奥で、派手で高価なハーレーで通勤するという謎の一面はあったが、そんな変わった趣味を持っている程度のことなど些細なことだった。数ヶ月で正規勤務に格上げになり、若田の提唱する地方医療のシステムはもちろん、それに関係して法律や経済に至るまで学習していく姿勢は、安穏とこの病院で日課をこなしていくだけの勤務医の姿勢には到底見えなかった。彼の目には明らかに、自分が病院の経営そのものを動かしていくならばという前提が映っているのではないかと思えた。だから、隣町の診療所から「若田先生のシステムを実践できる医師が欲しい」と言われたとき、世良以外にはいないと直感したのだ。
「世良君の目的は有名になることだったのか」
 茶化すように言うと、世良は大きくうなずいた。
「有名に、なりたいです。この国の医者の誰からも知られるくらいに」
 その言葉はとても意外だった。
 名声、なんてものに執着するタイプではないと思っていた。
「でも、こんな地味な分野では難しいかも知れないなぁ。地方でお年寄りを相手に予防医療を勧めていくのがせいぜいだからね」
「そんなこと、ないですよ」
 世良はきっぱりと言った。
「そう遠くない未来、日本の医療制度は崩壊します。医師の減少、身勝手な患者達、削減される医療費――そして、何より、それを回避する唯一の希望をこの国は失ってしまったんですから」
 若田は目を見張る。もちろん、自分もそれに近いことは考えたことがあった。けれど、世良の言葉は完全な断定に聞こえた。
「若田先生の方法は意識改革です。時間もかかるし、特効薬にはなり得ない。けれど、もう、僕たちにはこれくらいしか残された道はありません」
「つまり、世良君は、来たるべき未来を回避するために、私のところにきて学んだということかい?」
 若田は、不気味なものでも見るように恐る恐る世良を見た。
「いいえ。僕にできることなんて、せいぜい目の前の病院の経営を立て直すことくらいだと思います。でも、それだけで十分です」
 若田は小さく息を吐く。
 彼が否定してくれたおかげで、飲まれていた空気が戻ってきた。
 けれど、相変わらず、世良の真意は読めない。
 何か、事情があるのかも知れない。
 彼の言葉は確信に満ちていながら、どこかしら切羽詰まった響きがあった。思えば、ろくな自由時間すら持とうとはせず、職場の仲間たちとも馴れ合わずに、毎日机に向かっていた姿には、自らを犠牲にするような不安定さが感じられていた。医者になるような人間には、多かれ少なかれ他人のためになりたいという信念のようなものがあるものだが、それにしても、途方もないことをしようとしているものだという感覚の方が強い。
「世良君がやろうとしていることは、とても大変なことだ。おそらく、一筋縄ではいかないだろう」
 そんなこと、ここまで考えている彼がわかっていないはずもないが。
 そう、忠告せずにいられなかった若田に、世良はどこか遠くを見るような目で答えた。
「そんなの、たいしたことじゃないです。本当の地獄なんて、もう見てます、から……」
 不意に、若田の思考の中に、先ほどの男の姿が過ぎった。じごく、という言葉に触発されるように、何か暗いものにじわじわと身体を蝕まれていく感覚が忍び寄る。
「世良君、何か困ってることがあるなら、いつでも相談してくれ。詮索はしないとは言ったけど、話なら聞くし、できることがあれば力になりたいと思ってるんだからね」
「大丈夫ですよ、若田先生」
 そして、世良は薄く笑って見せた。
「あんなの、ただの、蜜に引き寄せられてきた銀蝿です。本当に、僕から全てを奪う人間は、いつか――」
 語尾を濁し、世良は猪口に残った酒を飲み干した。
「ご馳走様でした。先生に教えてもらったご恩を、いつか必ず返せるようにがんばります」
 頭を下げて店を辞す世良にそれ以上かける言葉が見つからず、若田は、じっとどこかを見据えて歩き去るその背を、黙って見送った。


信州では5年くらい学んでいたって設定にしてます。18年で7つの病院を再建して、そのどこにも半年から2年くらいしかいなかったってことは、再建に失敗した病院がいくつかあったとしても、このくらいの時間は勉強してないと計算が合わない気がするし、全く畑違いのことを一から学んだんだから、どれだけ猛勉強したとしても、最低このくらいはかかったんじゃないかなって。
出発点が信州だったのは、村上先生が長野の病院で地方医療を勉強したからだろうと勝手に思ってて、近くに恩師がいて、独り立ちとか色々力を貸してくれたんじゃないかな、とか(年上誑し込みスキルは健在)長くいれば、つながりとかもできそうなものだけど、そういうの一切持たずに、変わり者感漂わせてひたすら勉強してたんじゃないのかな、とか。
冒頭に絡んできてる不審者は、天城先生の遺産の話を聞きつけて寄ってきたよからぬ人間っていうマイ設定です。彦根が知ってるくらいだから、世良ちゃんが天城先生の遺産の後継者って話は結構知れ渡ってて、投資みたいな話を持ちかけてくる人間もいたんじゃないかって。そういう人とかもかわさないといけなくて、より頑なになってた時期だったのかな、とか考えつつ、次辺りから極北パートに入りたいです。
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