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テレビ先生の隠れ家
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プロフィール
HN:
藍河 縹
性別:
女性
自己紹介:
極北市民病院の院長がとにかく好き。
原作・ドラマ問わず、スワンを溺愛。
桜宮サーガは単行本は基本読了済。
連載・短編はかなり怪しい。
眼鏡・白衣・変人は萌えの3種の神器。
雪国在住。大型犬と炭水化物が好き。
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書きあがってるので、さくさく上げていきますよっと。オリキャラ注意でございます。

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『そんな凄い術式があるのか?』
 得意気ににまりと笑って話すヒロ・ハマダに対して、今中は予想外の回答に戸惑っていた。
 てっきり、ケアロボットの導入関係の依頼なのかと思っていたので、まさか、世良の方が、この世界的な研究者が注目するような理由を持っていたとは思わなかった。
『直接吻合法っていうんだけど、聞いたことない?』
『私の専門は腹部の方だから、心臓外科は余り詳しくないんだ』
 より門外漢であるはずのロボット工学者から教えてもらうのも情けないが、事実なのだから仕方ない。
 実際、腹部外科に進んでからは、心臓手術に関しては全く触れてもいない。
 当然、そんな術式、聞いたこともなかった。
 ヒロ・ハマダも、今中の知識に大して期待もしていなかったのか、あっさりうなずいた。
『ふうん。それにしてもさ、ホント、取り付く島もないって、貴方のボスみたいな人を言うんだろうね。どうせ、既得権益とか、前例がないとか、そういうつまらない理由なんだろうけど』
『ちょっと待ってくれ。既得権益?前例がない?――そんなことを世良先生が?』
 ため息混じりの愚痴は独り言に近い呟きだったが、聞き捨てならないことを聞いた気がして、思わず今中は口を挟んだ。
『理由ははっきりとは聞いてないよ。資料があるっていう病院に交渉したら、それにアクセスするにはドクター・セラの許可が必要だって言われて、まずはメールで依頼したんだ。でも、あっさり断られた。それで仕方なく、日本まで出向いてきたって訳』
 何故、そこで世良の名前が出るのかというのも気になったが、それ以上に、ヒロと世良との交渉の顛末が知りたかった。
『院長室に入ってから、ほとんど時間が経ってなかったけど……』
『まともに話を切り出す前に、資料を提供するつもりはないからってばっさりだよ』
 ヒロは『お手上げ』とでも言うように、大げさに両手を広げて肩をすくめてみせた。
『でも、世良先生が――』
『何?』
 思わず、勢い込んで、そんなことを言うはずはないと言いかけてから、この話相手はその根拠となる情報を全く知らないのだと思い直す。
 落ち着くように一息吐いて、ゆっくりと順を追って話すことにした。
『この町は、去年、財政破綻した――要するに、潰れたんだ』
『まあ、EUの国が潰れるかもって時代だしね。でも、それが?』
 すっと大人びた表情になったヒロ・ハマダは、少しでも情報を得ようというかのように、今中の話に耳を傾けた。
『破綻したとき、この町の借金は10億とも言われてた。ずっと前から、町の住人も、市役所の職員も、この病院のスタッフもみんな、このままじゃいけないことは感じてた。でも、気づかない振りをしてやり過ごしてきた――10億って借金は、その怠惰のツケだよ』
『そうなんだ』
 今中は自嘲をこめて、在りし日を語る。
『世良先生はそんな町に来て、その問題点を指摘して変えていった。今まで誰もしなかったことだ。あの人に限って、既得権益だの、前例のあるなしで判断するなんて有り得ない』
 ヒロ・ハマダは、今中の言葉を聞いてじっと考え込んだ。
 自分の発言の信憑性を計っているのかも知れないと思う。
『じゃあ、ドクター・イマナカはほかにどんな理由があるって考えてるの?』
『え?それは……』
 なんとなく、世良をかばってはみたものの、逆に聞き返されると困ってしまう。
『もう少し詳しく、世良先生とのやり取りを教えてくれないかな』
 乗りかかった船とばかりに、今中は彼の相談に付き合うことにした。
『うーん……。さっきも言ったけど、ほとんど話なんてしてないんだよ。部屋に入るなり、「せっかくきてもらったけど、資料を渡すつもりはないから」って断言されて追い出されかけたから、「絶対にあの手術はよみがえらせるべきだ」って言い返したんだよ。そしたら、「あの手術をロボットなんかにやらせるなんて冗談じゃない」とか言われて、腹が立ってつい、「貴方たち医者が、ちゃんと技術を受け継いでいれば、ロボットなんかに出し抜かれることもなかっただろうね、ご愁傷様」って感じで返したんだっけな?』
 お世辞にも大人の交渉とは思えないやり取りに、今中はあきれた。
『世良先生の対応も確かに酷いけど、子供のけんかじゃないんだから……』
『わかってるよ!でも、「ロボットなんか」なんて言われたくない!僕たちロボット工学者は本気で、誰かの役に立つことを願って毎日研究してるんだ。その想いを侮るような言い方は許せないよ』
 子供のように口を尖らせるヒロの純粋な想いを聞いて、今中は、自分の中にもあったロボットを見くびるような気持ちを反省した。
『そうか。それは、申し訳なかったな』
 今中が謝ると、ヒロ・ハマダはあっけに取られたような表情を見せた。
 上司がすみません、くらいの気持ちで言ったのだが、米国の習慣ではこういうことは余りないのかも知れない。日本人は謝りすぎだと何かで読んだのを思い出す。
『……貴方は良い人だね』
『そんなことないよ。それに、それだけじゃ、やっぱり、世良先生が断る理由がわからないな。……ロボットが嫌い、なんてことはないと思うし』
 むしろ、現在の人間だけでは不可能な技術が世に出るなら積極的に使っていくべきだ、と頭の固い反対派に吹っかける方がはるかに、今中の知る世良らしい。
『直接吻合法って言ったっけ?――それって、どんな手術なんだ?』
『今でも、当時、そのオペを見た人にとっては、伝説級の手技だって言われてるみたいだよ。とにかく、速くて正確だったんだって。詰まった血管を切除して、新しい動脈と交換する。バイパス手術みたいに迂回路を作らないから、シンプルだけどリスクは格段に高くなる――その話を聞いたとき、速さと正確さはロボットの得意分野だから、ベイマックスと僕なら上手くやれるんじゃないかって思ったんだ』
 手術自体にとんでもないリスクがあるんじゃないかと思って聞いてみたが、この話だけでは成否の判断は難しそうだ。
『それにしても、そんな凄い術者と世良先生が知り合いだったなんて意外だな』
『そのドクターは日本人だから、接点くらいどこかにあるんじゃない』
『さっきも言ったように、心臓外科と腹部外科は全くの畑違いなんだ。世良先生は腹部外科だろう』
『それは、同じ大学病院にいたとしても?』
 ヒロ・ハマダの何気ない質問が、今中の中に一つのアイディアを閃かせた。
『その大学病院って、もしかして……?』
『サクラノミヤって町にある、トージョー・ユニバーシティってところらしいけど』
『やっぱりか……』
 桜宮、東城大付属病院――世良が来てから、幾度となく耳にした病院の名前だ。
『知ってるの?』
『その病院自体は知らないけど、そこに世良先生と同じ時代に在籍していた人と面識がある』
『良いね!何か知ってるかも!』
『ただ……、まず捕まるかがわからないし、知ってても教えてくれる保障もないけど……』
『構わないよ。貴重な手がかりだ。その人と連絡を取って――あ、参考までに、どんな人?』
『この間まで、ものすごく世話になってたんだ。二つ名は将軍――まさに、名前通りの人だよ』


「サイドカーの乗り心地はどうだった?」
 ハーレーを駐車しながら、ふと思いついてからかい混じりに尋ねてみる。
「運ばれ方に好みはありません。ロボットですから」
 サイドカーから、その短い足を少し時間をかけて抜いたケアロボットはいつもの淡々とした口調で答えた。最初は少しイライラした生真面目な返答も、繰り返しているうちに、何だか苦笑を誘うようになってきていた。
「そうだったな。とりあえず、収まってくれてよかったよ。まあ、うちの部下が入るから大丈夫だろうとは思ってたけど」
「こちらが訪問診療先のお宅ですか?」
「そう。本当のことを話すとややこしくなるから、君は訪問診療のテストに来たことにしてもらっても良いかな?」
 世良がハーレーを停めたのは、古い民家前の広い敷地の一角だった。
 家の前には、数本の庭木とその根元周辺に花が植えられており、大まかではあるが、雑草もきれいに刈られている。家も古いが、玄関の辺りはきちんと掃除されて、開いた窓からは日差しと風が流れこんでいた。
「あ、秋原さん、こんにちは。調子はどうですか?」
「いらっしゃい、世良先生。おお、こっちは――」
「こんにちは。私はベイマックス。あなたの健康を守ります」
 玄関に近づくと、開かれた窓際にベッドがあるのが目に入り、そこにいる老女と目が合った。女性はにっこり微笑んで、世良たちに挨拶をする。
 間をおかずに、玄関が開いて、小柄な男性が姿を現した。
「世良先生、いつもありがとうございます。ささっ、お入りください」
 世良は窓越しに女性に会釈して、案内されるままに家の中に向かう。
 外観は古いが、家の内部はリフォームされており、玄関を上がると新しい床が平らに伸びていた。
 世良は慣れた様子で、先ほどの女性のいる部屋へと入る。ベイマックスもその後に続いた。
「やっぱり、テレビで見たあのロボットだ!おお、本当にふわふわだ!」
 ベッドの上の女性は、身を乗り出すようにして、ベイマックスへと手を伸ばした。
「キヨさんなら知ってると思ったよ。今日はね、このロボットのテストのために連れてきたんだけど、協力してもらっても良いかな?」
 世良が事前に打ち合わせていた通りに切り出すと、キヨは目を輝かせて頷いた。皺だらけの顔に満面の笑みが広がる。
「おれは秋原キヨ。こっちは夫の敏夫だ。よろしくな、ロボットさん」
 ベイマックスは瞬きをするように、キュインと音を立ててアイカメラのシャッターを一度閉じた。
「はい。こんにちは、キヨ。そして、トシオ」
 男性は面食らったように小さな会釈を一つして、そのまま台所の方へ消えた。程なくして、お茶の用意をして戻ってくる。
「今日は気分が良いみたいだね」
「ああ、とっても楽しいな」
 世良はバッグから聴診器を出し、キヨに上着をまくるように促した。ベイマックスは自然にその動作を補助する。
「じゃあ、診察するよ――少し湿疹が出てるね。汗疹かな。訪問看護のときに角田さんに清拭を頼もうか」
「私がやります」
 世良が指示をカルテに書き込もうとしたとき、ベイマックスが突然そんなことを言い出した。
「でも……」
 クレイテック社のケアロボットプロジェクトの中心人物であるヒロ・ハマダ教授自らメンテナンスを行っているプロトタイプのベイマックスからすれば、清拭などお手の物だろうが、正式に契約を交わした訳でもないロボットに実務作業をさせるのもどうかと咄嗟に世良は渋った。しかし、キヨはますます喜んではしゃいだ声を上げた。
「本当か?なら、やって欲しいなぁ」
「まだテスト段階で……」
「実験でも良い。頼むよ、世良先生!」
 こうまで言われては、世良も止められない。
「本当に良いのか、ベイマックス?」
「はい。キヨも私の患者です」
 きっぱりと頷くケアロボットに、世良は観念したように許可を出した。


「気分はどう、キヨさん?」
 清拭を終えたキヨがベイマックスに車椅子で連れられて来た。敏夫とお茶を飲んで世間話をしていた世良は、その満足そうな表情を見て声をかける。一見して、車椅子への乗せ方も運び方も全く問題はなさそうだった。
「ああ、さっぱりした。すげぇロボットだな。こんな楽しい思いをさせてもらえて、良い冥土の土産が出来た」
 上機嫌なキヨは何気なく言ったのだろうが、それを聞いた敏夫と世良の表情に緊張が走った。ベイマックスだけが、マイペースを保ったまま答える。
「冥土とは天国のことですね。天国という場所に土産を持参することは難しいと思われます」
 焦ったのは世良だった。
「あのね、ベイマックス。これは、物の例えで……」
 慌てて、いまいちうまくないフォローを入れる。
「分かってる。死んだら、終わりだもんなぁ」
 打って変わって落ち込んだキヨの声に、一同は言葉もなく黙ったのだが。
「けれど、キヨと過ごした時間は、私の中に記憶されました。キヨの表情、言葉の全てはここにあります。これからも、ずっと」
 淡々と、しかし、力強く答えたベイマックスにキヨの瞳が輝いた。
「そうか……。そうか、覚えててくれるんだな……」
「勿論です。そして、それはドクター・セラやトシオも同じです」
 キヨが二人の方を向く。
 いつも陽気なキヨの、皺に埋もれた瞳に一瞬光ったもののことを考えながら、世良も大きく頷いた。
「そうだね。僕も、そんな風ににこにことケアロボットと話すキヨさんの笑顔はどこにいても思い出せるよ」
「ありがとう、世良先生。ロボットさん……」
 無言で同意する敏夫と目を合わせたキヨはとうとう声を詰まらせた。ベイマックスはそんなキヨの背を柔らかいアームで丁寧に撫で続けた。


「ありがとう。キヨさん、本当に喜んでたよ」
 ハーレーのサイドカーにベイマックスを詰め込むのを手伝いながら、世良がぽつりと口にした。
「実は、彼女は――」
「肺癌のレベル4。このままでは余命1ヶ月ですね。すぐに延命治療をしなければいけない状態であると思われます」
 まるで明日の予定でも述べるように淡々と告げられた言葉に、世良は絶句した。彼女の前ではそんな素振りを全く見せなかったので、気づいていないと思っていたのだ。
「……さすが、クレイテック自慢のケアロボットのスキャンだね。でも、治療はしないよ。それが彼女の希望なんだ」
「そうなのですか?」
「僕はね、ずっとこうして、死に向かう患者を診とるだけの仕事をしてる。もしかしたら、もうとっくに、医者なんて呼べる存在じゃなくなってるんじゃないかと思うよ」
 世良は自嘲気味に呟いた。
 かつて、世良に立派な外科医になれと言った人がいた。しかし、遥か昔に、世良はその道を歩むことを自ら放棄した。そして最早、人を救うことすらできない存在に成り下がった今の自分に対して、どうしようもない焦燥感に囚われるときがある。
 ベイマックスはそんな世良の前で、ゆっくりとアイカメラのシャッターを動作させた。
「そうは思いません。キヨの身体は癌に蝕まれていましたが、心は健康に見えました。住み慣れた家で敏夫と過ごすことで、とても気持ちが落ち着いています。この状態は、ドクター・セラが作り出したものだと思われます」
 世良はあっけにとられて、目の前のロボットを見つめた。今の言葉は、本当にこのロボットのプログラムが導き出した回答なのかと驚いたのだ。
「何だか……、おかしなロボットだな、君は」
 やっとのことでそれだけ口にした世良に、ベイマックスは相も変わらず生真面目な口調で答えた。
「何か問題があったでしょうか?」
 発言と共に、キュインと機械音を響かせて首を傾げてみせる。人間の真似事のような律儀な仕草は、不思議と愛嬌を伴うものに感じられた。
「いや、逆だよ。そうだな……、表情、言葉の全てはここにある、ね。確かに、僕も治療を受けていたようだ」
 世良は、もう此処にない男の突拍子もない言動を思い出して微笑む。胸に到来したものは、もう痛みではなかった。
「気持ちが落ち着いたようですね。『ベイマックス、もう大丈夫だよ』と言えば終了します」
 そんな気持ちさえ見透かしたように、ケアロボットは以前にも聞いた言葉を繰り返した。
「終了、しちゃ駄目だろ。まだ、本題はここからじゃないか」
 彼と、彼の主人がこんな北の地まで足を運んだ目的はまだ達されてはいない。その鍵を握る世良は、数ヶ月ぶりの晴れ晴れとした気持ちでひらりとハーレーに跨った。


何で、モンテカルロ・ハートセンターの天城先生の手術資料のアクセス権限を院長が持ってるのかとかいう至極もっともな疑問には、時代設定を見逃すくらいの広い心で接していただきたいです。先生の手術は国宝だから!それも含めて遺産ってことで。スラムン前でよかったね。彦根に交渉とか、面倒くさすぎる。。
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