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テレビ先生の隠れ家
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プロフィール
HN:
藍河 縹
性別:
女性
自己紹介:
極北市民病院の院長がとにかく好き。
原作・ドラマ問わず、スワンを溺愛。
桜宮サーガは単行本は基本読了済。
連載・短編はかなり怪しい。
眼鏡・白衣・変人は萌えの3種の神器。
雪国在住。大型犬と炭水化物が好き。
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ちょっと間が空きましたが、完結編です。ジェネラルは出ません。

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『世良先生はまだみたいだな』
 タクシーの中から市民病院の駐車場を見回して、今中が呟く。
『早く戻って来ないかなぁ』
 ヒロ・ハマダは、ちらりと見た今中がぎょっとするような厚みの、くしゃくしゃにした日本銀行券の最高額の束をポケットから無造作に引っ張り出して、雪見市の救急救命センターへの往復で大幅に5桁を越えたメーターの額を支払った。
 割り勘を申し出た今中の言葉も断り、領収書も貰うつもりはないらしい。
『でも、本当に上手くいくのかな……』
 病院前のロータリーを歩きながら、今中は解せない様子で呟いた。
『どうして?ドクター・ハヤミのアドバイスがあるじゃない』
 反対に、ヒロは随分と楽観しているようだ。
『だって、あんな言葉で……』
『あのドクターの救命措置は凄かったなぁ。ベイマックスがあそこまでできれば最高なんだけどな』
 ヒロはすっかり速水の手技に魅了されたようだ。
 無理もない、とは思う。今日も、将軍の指示は鮮やかで、次々と運び込まれる患者を瞬時に捌いて、その命を拾い上げていた。
 だが、今中の心配はそこではなかった。
 救命措置の合間にヒロの話を聞いた速水は状況を理解したらしく、呆れたように笑った後、助言をくれた。
 しかし、それは、今中達には全く意味不明な内容であり、どうにも納得しがたい言葉だったのだ。ヒロはそれをそのままぶつける気でいるようだが、今中にはそれで上手くいくとはどうしても思えなかった。
 そんな今中の不安は解消されることのないまま、市民病院の駐車場に一陣の風が吹き抜けた。
『ベイマックス!』
 ハーレーのサイドカーに収まったふわふわのボディを見て、ヒロが歓声を上げる。それは、遊園地の出し物のようで、車体の硬質なイメージすら吹き飛ぶような愉快さだった。すでに端末のGPSか何かでロボットの接近を予想していたらしいヒロは、躊躇いもなく駆け寄っていく。
「君は……」
 近づいてくるヒロとその後ろに立つ今中を見て、ヘルメットを取った世良は戸惑ったように視線を彷徨わせた。今中も居た堪れない気持ちで、不安そうにヒロの姿を目で追う。そんな二人の注目を受けながら、ヒロは真っ直ぐに世良の前に立ち、挑むように背筋を伸ばして、はっきりと日本語で言った。
「あんたがあの人から貰ったのは、出来もしない手術のやり方だけなんですか?」
 世良が目を剥いた。ほら、だから、言わんこっちゃない、と今中は片手で顔を覆う。
 けれど、そんな今中の意に反して、世良は強張った表情を緩めてゆっくりと破顔した。
「成程、速水か……」
 そして、後方でサイドカーから足を抜こうとしているケアロボットを振り返った。
「答えは、ノーだ。それは、このベイマックスが教えてくれたよ」
 そして、ヒロに向かって右手を差し出した。
『若きジーニアス、僕の方からもお願いするよ。君の手で、天城雪彦の手術を――直接吻合法をもう一度、蘇らせてくれないか?』
『本当に?!』
 ヒロは目を輝かせて、飛び跳ねんばかりに世良の腕を取った。
『ああ、あのロボットを造った君になら任せられるよ』
 その言葉に、ヒロの表情が曇った。
『言わないのはフェアじゃないから、一応、はっきりさせておくよ。ベイマックスを造ったのは僕の兄さんで、僕じゃないんだ』
 それは、世良も初耳だったようで少々驚いた表情になった。
『でも……、全くプロジェクトに関わってないって訳じゃないんだろう?!あれだけのA.I.を開発できる人が止めるなんて……』
 しかし、ヒロは、初めて見せる大人びた表情で世良の言葉を受けた。
『止めた訳じゃないよ。もし、可能だったなら、兄さんは今も最前線でベイマックスの開発をしていたと思う――生きていれば、ね……』
『もしかして、君のお兄さんは……。ごめん』
 複雑な表情で言葉を搾り出した世良に、ヒロは再び奔放な笑顔を見せた。
『気にしないで、もう落ち込むだけの時間は過ぎたから。兄さんは、沢山の人を助けたいって望んでベイマックスを造ったんだ。僕はその想いを継いでいきたい。そのために、こうしてベイマックスの改良を続けてるんだ』
 そして、漸く隣へと並んだベイマックスと拳を合わせて、『バララララー』と奇妙な声を掛け合う。
『そうだったのか……。最初からそれを知っていたら、あんな言い方しなかったよ。すまなかった……』
『良いって。同情で認めてもらっても嬉しくないし。むしろ、凄いロボットだって納得した上で協力してもらえるのが一番だよ』
 珍しくしおらしく謝る世良に、ヒロの方が戸惑ったように答えた。
『別に、同情って訳じゃなくて……。いや、良いんだ」
 世良は何かを吹っ切るように頷くと、そっとハーレーの車体を撫でた。そして、ベイマックスに向かって語りかける。
『僕の不安と苦しみによく似た症状を見たことがあるって言ったね。それはもしかして……』
『はい、かつてのヒロです』
 言いよどみながら尋ねた世良の気持ちなどお構いなしに、ベイマックスはあっさりと答えた。
 全く、気遣いも情緒も欠片もない。けれど、それもこのロボットらしいと世良は笑った。
『すぐに、モンテカルロ・ハートセンターにメールするよ。ハマダ教授には、天城雪彦の全ての手術の資料にアクセス権限を与える、ってね』
 その前にお茶でもどう、と尋ねた世良に、ヒロは勢いよく首を振った。
『それは、また今度にするよ。早く資料を見たいし、新しいプログラムも考えないと』
『でも、電車の時間が……。極北は電車の本数が少ないから』
 申し訳なさそうに言った今中に、ヒロは悪戯っ子のような笑みを浮かべた。
『実は、院長室に置きっぱなしのスーツケースがあるんだけどさ。その中に――』


「驚いたなぁ……」
 市民病院の駐車場から飛び立つロボットの背を見送って、世良は呆然と呟いた。
「天才って、ああいう子のことを言うんでしょうね」
 しみじみと答えた今中の言葉に、珍しく世良もストレートに同意した。
 僅か14歳で、兄の遺したケアロボットを改造して、ヒーローとして人助けも出来る戦闘能力をつけてしまったなど、実物を目にしなければ到底信じられなかった。
 地元・サンフランソウキョウでは正体を隠し、謎のヒーローとして活動していることを、『秘密だよ』とはにかむように笑って付け足したヒロは、身軽にその背に飛び乗った。
 空港まで、ベイマックスのウィングで飛んで行くらしい。
「それにしても、今中先生は随分と彼に親切にしてあげてたみたいだね。速水のところまで連れて行くなんてさ」
「そ、それは……、成り行きで……」
 恨みがましく言っているが、どこかしら人懐っこい雰囲気のある、かのジーニアスに相談されれば、面倒見の良い彼が突っぱねることなど出来ないことくらい当然わかっている。
「まあ、仕方ないか。今中先生、あのケアロボットにそっくりだもんね」
「え……?どこがですか?!」
「ほら、シルエットとか、大きさとか、ぼよんとした感じとか」
 決して鋭い訳ではないのに他人の助けを求める気持ちに敏感で、ほんわかと包んでくれるような空気を持ってるところ、などという言葉は心の中でだけ呟いておく。
「そこまで酷いですか……」
 情けなく、少々突き出し気味のおなかに目を落とした部下に、世良は声を上げて笑った。
 『兄さんの願いを叶えるための最高の相棒なんだ!』と、その背中から振り返って晴れ晴れとした笑顔を見せてくれた青年に、『僕にとっても、だよ』と内心で答えて、世良は今中の肩を叩く。
「さて、僕達は僕達で、この町の治療を続けるとしようか」
 ――あの人から貰ったものを遺していくために。


楽しく書かせていただきました。好きなもの×好きなものっていいよね!
大人気ない喧嘩を繰り広げる院長とヒロとか、ヒロに振り回される今中先生とか、ベイにアマギ・イズ・ヒアされる院長とか。その他にも、好きな要素をたっぷり詰め込みました。
直接吻合法が伝説みたいに語られてたら素敵だし、それをベイにつけたらクールだよね、でベイを改造しちゃうヒロとか。ベイってどこまで医療行為できるのかわからないけど、オリジナルは軽い気持ちで色々付けられてると思う。
あと、21歳ヒロが教授になってるとか、ベイがクレイテックで量産されるとかは、あったらいいな的IF。
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