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テレビ先生の隠れ家
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プロフィール
HN:
藍河 縹
性別:
女性
自己紹介:
極北市民病院の院長がとにかく好き。
原作・ドラマ問わず、スワンを溺愛。
桜宮サーガは単行本は基本読了済。
連載・短編はかなり怪しい。
眼鏡・白衣・変人は萌えの3種の神器。
雪国在住。大型犬と炭水化物が好き。
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スリジエに彦根が出てたので、彦世良の可能性を模索した結果。
しかし、40代で彦→世→天になってしまう辺りが、何ともうちらしい。
大したことはないけど、スリジエネタバレ有りです。

拍手[5回]



 世良は、東京モノレールを降りると、電光掲示板を見上げた。
 新千歳空港行きは20分後の出発予定。
 既に、搭乗手続きは始まっている。
 このまま直ぐに移動して、問題ないだろう。
 手荷物はバッグ一つ。
 大物は業者に頼んであるから、至って身軽な旅路だ。
 そろそろ寒風が吹き始める北の地に備えて、上着だけは、多少厚めのミリタリージャケットにしておいたが。
 ――極北か……。確か、渡海先生の故郷だったよな。
 ふと頭を過ぎったのは、研修医時代にオペ室に巣食っていた悪魔の、涼しげな顔。
 あの人も、今頃、何処で何をしているのやら……。
「極北市民病院・病院長就任おめでとうございます、世良先輩」
 搭乗ゲートへ向かう世良の前に、真っ直ぐに向かってきた、銀縁眼鏡の男が、満面の笑みを浮かべて言い、世良はその顔をまじまじと見つめた。
「彦根?何で、お前が……」
 大学時代の後輩にして、スカラムーシュの異名を持つ男は含みのある笑顔を見せた。
「実は、世良先輩にお願いがありまして。極北監察医務院はご存知ですよね?そこを先輩に解体していただきたいなぁ、なんて」
 さらりと言われたが、その内容はとんでもない依頼だった。
 しかし、逆に、彼がこんなところに現れた理由の方は納得した。
 彼はその行動の物騒さから、ある種の人間達にきっちりマークされている。
 悪巧みはアナログな方法が一番安全だというのはセオリーだ。
「……そんな話を世間話みたいなノリでするお前が分からないんだけど」
 だからといって、はい分かりましたと引き受ける訳にはいかない。
 恐らく、大学時代の先輩が極北に行くことになったから、渡りに船と利用するつもりなのだろうが、世良だって遊びに行く訳ではないのだ。
 しかし、彦根は全く怯む様子はない。
「世良先輩なら、それくらい、ちょちょいのちょいでしょう。ほら、ちゃんとお礼も用意しました」
 そう言うと、ポケットから封筒を取り出し、ひらひらと振る。
 金一封及びお食事券なんかでないことだけは確かだ。
「お礼ねぇ……」
 こいつのことだ、お礼なんて名ばかりの恐喝の材料でも出てきそうだ。
 まあ、揺さぶられて困るほどの、地位も名誉もないんだけど。
 そんな世良の気持ちを知ってか知らずにか、彦根はにやりと笑った。
「これから先輩の部下になる今中先生のプロフィールです。折角ですから、良く当たると評判の占いソフトで、先輩との相性占いも付けておきました」
 余りにも想定外の内容に、世良は危うく、つんのめりそうになった。
 しかし、彦根の方は何やら自信満々で、世良が喜ぶと確信しているかのようだ。
「要らないよ」
 拍子抜け半分、まだ何か出て来るのかと警戒半分。
 とりあえず、あっさり切り捨てて良い部類の交換条件であることは確かだ。
「そんなこと言わないで下さいよ。部下のことを知っておくのは、人心掌握の基本ですよ」
 意外にも、彦根は哀れっぽい声を出してきた。もっとも、あくまで『っぽい』だけだろうが。
「掌握する必要なんてないよ。どうせ、再建が終われば、僕はそこを去るだけだからね」
 ――そう。ずっと、そうしてきた。これからだって、それが続くだけだ……。
「そうでしょうか?」
 彦根がぽつりと呟く。
「え?」
 その、らしくない様子に、思わず疑問符を浮かべてしまう。しかし、彦根はそこには触れず、一瞬見えた思いの断片のようなものは、へらりとした笑いの下に消えていた。
「いえいえ。それにしても、こういうときの先輩って、ホント、良い顔しますよねぇ。本当に欲しいものは何処にもない、何処まで行っても満たされない、なのに、進むことも止められない――」
 世良は顔を顰める。
 一応、学生時代から面識はあるが、何時からか、こういう思わせ振りな言い方をしてくるようになった彦根の、何処まで本気だか分からない態度は、正直苦手だった。
「話が済んだなら、さっさと帰ったら。ついでに、もう連絡して来ないでくれるとありがたい」
 冷たく言い切ってみたが、そんなことで引き下がってくれる彦根ではない。
「つれないですねぇ。でも、無理ですよ。先輩は、望む望まないとに関わらず、東城大の血脈を継ぐ者なんですから。先代病院長・佐伯清剛率いる総合外科学教室に所属し、そこの異端児・渡海征司郎の薫陶を受け、帝華大からの刺客にして現病院長となった風雲児・高階権太に教えを乞い、モンテカルロから連れ帰った革命児・天城雪彦と共にハートセンター創設に関わって、その失墜の一部始終に居合わせた。言わば、東城大学医学部付属病院近代史の目撃者です」
 虚飾と比喩に満ちた大袈裟な物言いだが、彦根の言葉には奇妙な説得力がある。
 それが、彼がスカラムーシュと呼ばれる所以なのだが。
「はいはい。ひねくれ彦根の大ボラは聞き飽きたよ」
 巻き込まれない方法はただ一つ――耳を貸さないことだ。
「全部、本当のことでしょう」
「搭乗時間が迫ってるから行くよ」
 幸いと言うべきか、いつまでも話し込んでいられない時間になってきた。
 彦根も、それはさすがに心得ているのか、それ以上は絡んで来なかった。
「行ってらっしゃい、先輩。ちゃんとメール送ったら、返事くださいね」
「彼女みたいな言い方するなー!」
 耳を塞ぐつもりだったのに、聞き捨てならない言い方をするから、つい突っ込んでしまう。
「だって、先輩、嫌な予感がするとメール開かないで削除するって前に言ってたじゃないですか」
「お前からのメールに至っては、100パーセント嫌な予感しかしないけどね」
 嫌味というより本音だったが、彦根は不満気な表情になった。
「こんなに思ってるのに、本当に冷たいですよね」
 一瞬言い過ぎたかと反省したが、こんな何処まで本当だか分からない恨み言を浴びさせられたら、溜め息しか出ない。
「スカラムーシュの話をまともに聞いた僕が馬鹿だったよ……」
「可愛い後輩に酷い言い種ですねぇ」
「お前が一番可愛くない」
「えー?!島津先輩よりは可愛いでしょう!」
「見た目の話じゃないよ!」
 結局、ぎゃんぎゃんと軽口を叩き合ってしまう。
 彦根とはいつもこうだ。やたらと思わせ振りなことを言う癖に、確信に迫りそうになると、のらりくらりとかわされる。そして、結局、厄介ごとを引き受けさせられてしまうのだ。
 そうこうしているうちに、搭乗時間ギリギリを案内するアナウンスが聞こえ、世良は今度こそ、歩き始めた。
「ま、気が向いたら、メールチェックくらいはするよ。じゃあね」
 そんな言葉を投げると、彦根の返事は待たずに、搭乗ゲートに身体を滑り込ませた。


世良ちゃんが極北に行く直前に、彦根から監察医務院潰しを依頼されるシチュで、二人の会話を書きたかっただけっていう。
この後は、彦根視点に続きます。
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