08 | 2025/09 | 10 |
S | M | T | W | T | F | S |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | |
7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 | 13 |
14 | 15 | 16 | 17 | 18 | 19 | 20 |
21 | 22 | 23 | 24 | 25 | 26 | 27 |
28 | 29 | 30 |
原作・ドラマ問わず、スワンを溺愛。
桜宮サーガは単行本は基本読了済。
連載・短編はかなり怪しい。
眼鏡・白衣・変人は萌えの3種の神器。
雪国在住。大型犬と炭水化物が好き。
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
「天城先生、これは一体、どういうことですか?!」
連日、何やかやと天城先生に連れまわされている俺だけど、決して望んでそうなっている訳ではない。今日なんかは、病院内で天城先生と顔を合わせることはなく、平穏無事に日常業務を終え、実に凪いだ気持ちで帰途についた、はずだったのだ――
「どうした。騒がしいぞ、ジュノ」
だらしなく寝そべったソファからの声。俺が来たのが分かっても、立ち上がりもしない。
チャイムを押してもまず出て来てくれないので、俺はいつも合鍵で入る羽目になる。
出来ることなら、合鍵なんて返却したいと常々思っているのに……。
「先生、一つ質問があります」
「他でもないジュノの望みなら、拒否する理由はないな」
長い足を組み、形の良い指を絡ませながら澄まして答える様子は、いちいち様になっている。堂々と、答えてやる宣言。ぼやぼやしていると、あっという間に彼のペースに飲まれてしまう。
「このお金は何ですか?」
言いながら、さっき記帳してきたばかりの通帳を、悠々とソファに背を凭せ掛ける天城先生の鼻先に突き付ける。
「先月の報酬のつもりだったんだが、何か不満でもあるのか?」
奇跡の手術を行う細く長い指が通帳を受け取り、一瞥する。
「これでは安過ぎか。では、倍に……」
「違います!」
――ああ、やっぱり天然か……。
本当に、この、常人離れした金銭感覚、どうにかならないだろうか……。
「俺、数日おきに、ちょこっと家事をやっただけですよ!それで、月収の倍額の報酬って有り得ないでしょう!」
「私は、ジュノにはそのくらいの感謝をしても良いと思っているのだが。何なら、ずっとここで家事をしていても良い。生活は保障しよう」
「……いや、俺は一応、外科医ですから……」
天城先生のお目付け役を言い付かって以来、医療関係以外の業務に時間を割かれることが多くなったけど、転職する気は毛頭ない。
大体、ここへ通ってるのだって、天城先生が「ジュノに二人きりになりたいと言われて、出入りの業者を全て断ったんだから、当然、家政夫になってくれるんだろう」って言われたから、仕方なく来ているだけで……。
「それに、ジュノには、もう一つ、大切な仕事があるだろう」
言うなり、先生が俺の手を強く引く。
突然、強い力で引き寄せられ、バランスを崩した俺は、先生に覆いかぶさるように倒れ込んだ。
肘掛けに強かに足をぶつけながらも、何とか、持ち前の運動神経で、先生に直撃しないように踏ん張ったのだが、先生ときたら、それが当然だとでも言うように、近づいた顔にキスをしてくる。
「ジュノは私のペットだろう」
とあっさり言われると、何だか脱力してしまうのは、俺が悪いんだろうか……。
そういえば、ここへ来る度、何時もそういう流れになっていたような――
「……チワワだって、噛まれればそれなりに痛いんですよ」
せめて、何か言い返したいと思って、そう口にしてみたけど。
「何だ、ジュノは自分のことをチワワだなんて思っているのか?」
先生は、俺の顔を見て、微かに笑う。
――貴方がそう言ったんですよ……!
寄りにもよって、佐伯病院長の前で自分を指して、「チワワみたいな愛玩犬」と言ったのだ、この人は。冗談にしても、性質が悪過ぎる。
「大体、ジュノの本当の飼い主は誰なんだか」
不意に、こちらを見つめる瞳に不安の色が浮かぶ。
「天城先生……」
この人は、ずるい。孤独の色を浮かべて、儚く目を逸らされたら、俺には拒否する権利など残されない。
「ペットなら、最後まで面倒みてください」
こんなこと言いたくないのに、引き出させられる。逆らえない。
「ジュノ……」
先生は俺の頬にそっと手を触れ、口付けた。
「では、2年後、一緒にモナコに帰ってくれるか?」
モナコ――グラン・カジノ、オテル・エルミタージュ、そして、モンテカルロ・ハートセンター。セレモニー、光の洪水、シャンパングラス、銀の鳥、咲き誇る薔薇、煌くメス。今、思い返しても、夢の中のような世界。その世界の中心に居た人は、今、この桜宮に、自分の腕の中にいる。何で連れ帰れたのか、未だに分からない。
「また、冗談言って。俺まで居なくなったら、スリジエ・ハートセンターはどうなるんですか」
そのためにこの人に振り回されながら、連日、苦労しているというのに。自分がそこの責任者になることは有り得ないだろうけど、せめてスタッフとして残って働きたいと思う。この人が植えた木が育って、やがて咲かせるだろう花を守るために――
「まあ……、その方が良いのか。ジュノはモナコでも、『無駄遣いするな』とか『ちゃんと仕事をしろ』とか言いそうだからな」
「……大人として当り前のことなんですけど」
別に言いたくて言ってる訳ではない。自分の隣に居る人の行動が余りに常軌を逸しているから。大体、言ったところで聞く耳なんて持ってもくれないくせに。
「まるで口うるさい奥さんだな」
「なっ……」
家政夫やペットよりは格上だけど、凄く嫌なのは何故だろう。
「では、今日は奥さん扱いしてやろう」
「遠慮します……っ」
咄嗟に起きようとした身体を抱き寄せられる。首から顎にかけて這って来る舌に、思わず、ぶるっと身体が震える。
「愛しい愛しいジュノ」
「だっ、だから……っ」
何とか話を変えようとする俺の髪を、そっと指で掬って、天城先生が口付ける。
その優雅な仕草に、不覚にも見蕩れてしまったら、視線が絡み合った。
至近距離にあるその表情は、じっと愛おしむように俺を見ていて――
胸がどきりと鼓動する。
小さな動き一つ取っても、この人は育ちの良い、貴族という肩書きに恥じない人間なのだと納得させられてしまう。そして、そんな人に誠意を持って大切にされているのだと気づかせられ、急激に恥ずかしくなって、ぎゅっと目蓋を閉じ、為すがままに彼を受け入れた。
とはいえ、いつも絶対服従を強いてくる相手に優しくされ過ぎるのも結構な拷問だということを身を持って知ることになってしまったのだけど。
「うーん」
俺は通帳を見ながら、頭を抱えていた。
「こないだ、天城先生の部屋用に掃除機買っちゃったしなぁ。さすがに、あの人にもやしと豆腐で2週間生き延びようなんて言える訳ないし……」
スリジエ・ハートセンター勤務になって、多少給料は上がったものの、それでも、人間一人がどうにか生きていける程度の給料で、二人分の食生活を支えようというのがそもそも無理のある話なのだ。
因みに、通帳内に残金ならある。ただ、それを使うのはどうにも気が咎める。こんな大金、もらう筋合いなんてないのだから。
かなり一方的に家政夫にさせられたことには納得はしていないが、だからといって、謝礼を受け取るほどのことは出来ていないし。
「あの……、天城先生。経費分だけ使わせてもらってもいいですか?」
情けない話だが、見栄を張りたくても、こちらの懐は本当に寂しい。
勝手に使うのだけは嫌だったので、先生に伺いを立てることにした。
「ビアン・シュール。必要な分だけ自由に使えばいい。使い方はジュノに任せよう」
渋られることはないと思っていたが、そう言われて安心した。
――まあ、でも、こんなには要らないよな。節約できるところは節約して……。
考え始めたところではっとする。これじゃ、まるで生活費を預けられているみたいじゃないか。だったら、報酬としてもらっておいた方がマシなんじゃ……。
ちらりと天城先生を見ると、相も変わらず、ソファの上で腑抜けている。
今、気づいてしまったことは、自分の胸の中だけにしまっておこうと思いながらも、早くも今夜の献立を考え始めた自分の思考に溜め息が漏れた。
何気に、プロポーズされてたり。
世良ちゃんがどの段階で「助手変更ウエルカム」から「一生、花守をしていくんだと信じてた」になったのか、興味津々(笑)
でも、世良ちゃん置いてモナコに帰る天城先生は全く想像出来ません。佐伯病院長と裏取り引きして、かっさらっていくんでしょ!
因みに、インテのお供は、極ラプでした。ブレイズもいいけど、とことん世良→天城な極ラプも堪らん!つーか、世良ちゃん、会話をする時間がある度に、天城先生の話するの止めようよ…!どんだけだよ!