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テレビ先生の隠れ家
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プロフィール
HN:
藍河 縹
性別:
女性
自己紹介:
極北市民病院の院長がとにかく好き。
原作・ドラマ問わず、スワンを溺愛。
桜宮サーガは単行本は基本読了済。
連載・短編はかなり怪しい。
眼鏡・白衣・変人は萌えの3種の神器。
雪国在住。大型犬と炭水化物が好き。
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今日も今日とて、今世良・その2。
極ラプ冒頭の記者会見後の二人の会話より。
世良ちゃん、天城先生のこと喋り過ぎだろ、どんだけだよ?!と天ジュノ的に萌えつつも、天城先生との過去の断片を初めて話したのが今中先生だとしてもオイシイかも、と。
まあ、このくらいなら、スリジエネタバレにはならないかな。読んだ人だけに分かる描写有り、くらいで。

拍手[6回]



 病院長室に入るなり、世良はソファに身体を投げ出した。
 銀色のキーホルダーを白衣のポケットから取り出し、じっと見つめる。
 年月が過ぎ、表面が酸化したそれは、鈍く光っていた。その輝きは、いつか、オテル・エルミタージュから見た夜の海の色に似ていた。
 ――あのときは、隣にあの人が居た。
 ここ暫くは、思い出すこともなかったのに……。
 どうして、あんなことを言ってしまったのだろう?
 後悔が微かな頭痛を生み、世良は痛み止めを水なしで飲み下す。
 先程の会話がぐるぐると頭を巡っていた。
 
 
 取材を終えた世良を迎えたのは、今中の心配そうな顔だった。
「あんな挑発的なことを言って、大丈夫ですか?」
 何時からだろう、彼の自分を気遣う顔を見ていると、酷く落ち着かない気持ちになる。反射的に避けたくなるのだ。だから、先日、彼のパソコンで見た記事が頭を掠め、気がつくと言っていた。
「僕は頼まれたからここに来ただけで、ここに愛着はない。必要とされなくなったらどこかへ流れていくさ」
 今中は一瞬、不快そうな表情になった。いつもなら、そのまま反論を飲み込む彼が、けれど、そのときだけは、そのまま口を開いた。
「追い出されるたびに逃げ出していたら、どこにも居場所がなくなってしまいますよ」
 思い浮かんだのは、東城大から消えた、世良がいつもその背を追っていた天才外科医だった。彼だって、居なくなった。あんなに必死に止めたのに――
 心が震えて、世良は感傷的な思いのまま、空を見上げた。
「日本を追い出される?そしたらヴィル・ド・ソレイユ、快晴の街モンテカルロのグランカジノで、毎日ピンク・シャンパンを飲んだくれるさ」
 するりと口が滑っていた。
 ワイドショーの取材で散々言いたい放題言った後、というのもあったかも知れない。けれど、既に18年も昔のことになってしまった、それでも、未だに鈍い痛みを引きずり出す過去を、誰かに語ることなどなかったのに。止めようと思うのに、世良の口は滑らかに動き、心にもないことを言う。かつて、あの人が言ったように――
「アデュウ、日本。かつてスリジエの豊穣な花を立ち枯れさせてしまった、貧しい国よ」
 言葉にすると、自分の中で、燻る恨みは何一つ消えていないことに気づく。
 あの人を追い出した国。あの人を憎んだ人々。あの人を受け入れなかった組織――本当に愚かだ。あのとき、スリジエが根付いていれば、今の医療崩壊すら免れていたに違いないのに。
「ま、要はここを追い出されても、僕には行くあてがあるってことさ」
 挑発的に自分を見た世良に対し、今中は間の抜けた調子で返してきた。
「行くあて?モンテカルロが秘密の隠れ家なんですか?」
 ピント外れの、投げつけた爆弾をぽとりと腕の中に受け止めたような反応だったが、意外にも彼の言葉は真実を言い当てていた。『隠れ家』の名を持つあの瀟洒な建物こそが、最後の最後に世良を待つ、敗北の証だったからだ。
 自分もまた、この国を追い出され、そこに戻ることになれば、その先に待つのは、毎日、ピンク・シャンパンを飲んだくれ、果てしない潮騒に責めさいなまれる地獄だ。もう、そこには、じわじわと首を絞められるような圧倒的な時間しかない。結局、進もうが、逃げようが、追われようが、世良を待つのは地獄しかない。
 ならば、何処に居たって同じことだ。
「ま、譬え話さ」
 そんな言葉で、話を打ち切った。
 
 
 東城大も、モンテカルロも、立て直してきた病院のいずれも、極北も、全て同じ――皆、等しい地獄。
 自分は、そこを渡り歩く。
 若い桜の苗木を持って。小さなスコップでどうにか植え、その前に立つ。その木を抜こうとするあらゆる人間からそれを守る為に。いずれ、その花が咲き誇る夢を見ながら。
 けれど、花が咲くその前に、その為に払った犠牲の咎で、自分はそこを追い出される。
 その繰り返し。
 桜は見えない。その気配さえも掴めない。何処か、遠くで咲いてはいるのだと思いはするけれど。――いつしか、見ようとすることさえ諦めた。
 例え、その花弁を手の中に受け止めることが出来たとしても。
 きっと、また、指の間から零れていくのだ。
 世良が、これまで掛け替えのないものとして思ってきた幾つかと同じように――
「だったら、最初から要らないよ……」
 呟いて、キーホルダーを握り締める。ふと浮かんだのは、何時まで経っても、救急車が通る度に、そわそわと腰を上げる不器用な外科医の顔だった。
 世良がこの地を悪し様に言う度に、傷ついたような表情をする彼。
 そして、今――
『追い出されるたびに逃げ出していたら、どこにも居場所がなくなってしまいますよ』
「違うよ、今中先生」
 世良は微かに笑って、言う。
「僕は、最初から居場所なんて求めていないんだよ」


極ラプのあの場面、好きなんです。今中先生の言葉も、世良ちゃんの切ない思いも。世良ちゃんは物凄く大事なものを失ってるから、また何かを大事に思うのを無意識に拒絶してる気がする。今中先生はそれを無意識に見抜いて忠告してる感じ。常に世良ちゃんを救済したい世良院長厨が通りますよ。
でも、予定よりちょっと暗くなってしまったので、以前に書いた「僕は今中先生のことなんて何とも思ってないんだからね!」を地で行くような、はっちゃけた話が次の目標(笑)
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